ぐだ男君と立香ちゃん   作:雷神デス

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ぐだ男君は助けない/立香ちゃんは助けたい

 

 

 誰も近づかないとされているかつて前所長が談話室として使っていた一室、ロストルーム。

 本来なら誰もいないはずのその部屋に、一人の男性が入ってくる。

 

 

「……ここならばいいだろう。姿は見えないが、いるのだろう?」

 

 

 そう言った男、レフ・ライノールの眼前に独りでに紙が浮かび上がる。異常なこの光景を前にしても、彼の表情は崩れることは無い。それどころか、笑みを深くした。

 

 

「それで対話を試みるということか。いいだろう。さて、単刀直入に言おう。()()と手を組まないか?」

 

『断る。俺はお前達などとは違う』

 

 

 一枚の紙に描かれた簡素なその文に、思わず男は嘲笑する。何を馬鹿な、と。

 

 

「いいや、同じだとも。君が彼女の体を借りている時に見せたあの目は確かに我々と同じだった。我々と同じ、『何かに失望した者の目』だった。それが世界であれ人類であれ、運命(Fate)であれ。君と我々の本質はそう違わないと思うのだがね」

 

 

 男は思う。あの目は、あの場所で出会った自分が見たあの目は。自分たちと同じであると。何かを見、何かを知り、何かに失望してしまった者のみが見せる眼であると。

 

 

「君がどのような存在で、どのようにして生まれたかにはあまり興味はない。だが、我々は君に興味を抱いているんだ。自分たち以外でその目をした何かに出会い、そして――その目をした者がなぜ、人間などと共にいるのかを」

 

 

 強い風が吹く。室内だというのに台風の真っただ中のようなその暴風に、レフ・ライノールは思わず帽子を押さえる。

 

 

「答える気はないと。いいだろう、今は何も聞かないでおこう。ああ、だがしかし―――」

 

 

 獣は笑う。自分達とは違うと嘯いているこの何かは、しかし。これから起こる何人もの人間が死ぬ行為に対し、なんら対策をしないその歪みに気づき、嗤う。

 

 

「なんとも愉快な道化だね、君は」

 

 

 男が部屋から出ていくのを、『何か』は止めなかった。

 そのことが、男にとって何よりも愉快だった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「なるほど、君が最後のマスター候補の藤丸立香ちゃんか。初めまして、僕は医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。なぜか皆からはドクターロマンと略されててね。理由は分からないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれていいよ!……ところで、これ解いてくれるかなぁ?」

 

「いやー、すいません。てっきりうら若き乙女の部屋に勝手に入り込む性犯罪者かと思いまして」

 

「やめて!?女性の部屋だとは知らなかったんだよ~!」

 

 

 現在、私の部屋を占領してた男性、ドクターロマンが簀巻きにされた状態で地面に転がっている。いやーしかしまさかの医療部トップとは驚いた。カルデア、濃い人が多いなぁ。

 偉い人を縛ったままなのも不味いので、拘束を解いてあげる。

 

 

「ふぅ、もうすぐで豚小屋にぶちこまれるところだった。あ、紅茶飲む?お菓子もあるよ」

 

「一応ここ、私の部屋なんですけどね。どっちもお願いします!」

 

「はいはーい」

 

 

 ほほう、これはなかなかお高いお菓子。しかしこの人、どことなく緩いというか、テンションがぐだ男に似ているというか。なんとなく、気分が落ち着く。

 

 

「ぐだ男、この人の親戚だったりしない?」

 

「何言ってるの、性格全然違うでしょ?」

 

 

 小声でひそひそと話し合っていると、ドクターロマンが私のテーブルにお茶を出してくれる。

 

 

「そういえば、君はなぜこの部屋に?今は所長の説明会があるはずだけど」

 

「あ、ちょっと所長を怒らせて追い出されちゃいました。いやー、やらかしましたね!」

 

「うん、すごくやらかしちゃったね~」

 

 

 ぐだ男のせいだからね?

 

 

「なるほど、なら僕と同じだね!いやー、実は第一実験の開始までにやることが無くてね!コフィンに入ったマスターのバイタルチェックは機械がやった方が正確だし、やることなくてそわそわしてたら『ロマニが現場にいると空気が緩むのよ!』って言われて所長に追い出されちゃってね。仕方なくここで拗ねてたんだけど、立香ちゃんが来てくれて助かった!地獄に仏、ボッチにメル友とはまさにこのこと!というわけで一緒にお茶飲みながら世間話でもしよう!」

 

「そうですね。この部屋元々私のですけど」

 

「そこは気にしない方向で!」

 

「フォウフォウ」

 

 

 というわけで、ドクターロマンに私がここに来るまでの経緯とか、マシュとの出会いとかを話した。あと、ドクターロマンからはある程度ここに関することを説明してもらった。ていうかいつの間にいたんだこのへんてこな獣。マシュによればフォウ君と言うらしいが。

 

 

「なるほど、この施設は標高六千メートルの雪山に作られた地下工房と。いろいろスケール大きいなぁ」

 

「僕らから見てもすごい場所だし、一般人が驚くのも無理はない。まあ、それでこの施設が建てられた目的だけど……」

 

 

 ピピっ、という音が部屋に響く。そしてどこからか男の声が聞こえてきた。

 

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームは万全だが、Bチーム以下、慣れてない者に若干の変調が見られる。おそらくは不安から来るものだろう』

 

「なるほど、それは気の毒だな。ちょっと麻酔をかけに行くよ」

 

『ああ、急いでくれ。今医務室だろ?そこからなら二分でつくはずだ』

 

 

 そう言って、声は途切れた。……どこか聞いたことある声だった気がする。それと、ぐだ男の顔が少しだけ険しくなった。理由は分からないけど、何か嫌な予感がした。

 

 

「……しまったな。ここからじゃ急いでもあと五分はかかるぞ」

 

「さぼってた天罰が下ったんですかね?」

 

「アハハ、それは言わないでほしいなぁ。けどまあ、Aチームは大丈夫なようだし、多少遅刻しても怒られないだろう、多分!」

 

「わー、ダメな大人だぁ。まあ私も学校結構サボったりしてましたから人のこと言えないけど」

 

「学校さぼってするゲームは蜜の味だったよね~」

 

 

 中学生時代よりはましとはいえ、私も結構悪い奴になったものだ。ぐだ男がやってるゲームを眺めて茶々入れるのは結構楽しかったです。

 

 

「お喋りに付き合ってくれてありがとう、立香ちゃん。落ち着いたら医務室に来てくれ、今度は美味しいケーキをごちそうするよ」

 

「楽しみにしてますね、ドクターロマン」

 

 

 そうやって、ドクターロマンを見送ろうとした、その時だった。

 急に周囲が暗くなり、大音量の警報が響く。

 

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管理室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください』

 

「……へ?」

 

「……」

 

「今のは爆発音か!?いったい何が……モニター!管制室を映してくれ!」

 

 

 ドクターロマンが、焦りながらも迅速に対応している横で、私は何がなんだか分からず立ち尽くすしかなかった。しかし、画面に映し出された燃え上がるその部屋には見覚えがあった。

 ―――説明会を受けた場所。あの子(マシュ)がいる場所…‥!

 

 

「立香ちゃん、すぐに避難してくれ!僕は管制室に向かう。もうじき隔壁が閉鎖する、その前に君だけでも避難するんだ。いいね!」

 

 

 ドクターが部屋から出て管制室に向かう。

 ……ドクターからは、逃げろと言われたけど。

 

 

「……ぐだ男。どうすればいいかな?」

 

「ん?……そうだな」

 

 

 ぐだ男は私の眼を見る。こいつは何かと、私が何を思っているか見通すようなことをする。だからきっと、私が何をやりたいかも理解しているのだろう。なぜか、少し寂しそうに目を細めてぐだ男は言った。

 

 

「立香のやりたいことをやりな。僕もついて行ってあげるさ」

 

「フォウフォウ!」

 

「フォウ君も行けって行ってるみたいだしね!」

 

「ありがと。このまま逃げるのは、女がすたる!」

 

 

 部屋から出て、ドクターロマンの後に続く。ドクターロマンは私に気づきギョッとした顔を浮かべ、慌てて逆の方向を指さす。

 

 

「いや何をやっているんだ君は!?方向が逆だよ、第二ゲートは向こうだよ!?」

 

「人手があった方が助かるでしょ?それに、あそこには知り合った子もいるんです!」

 

「会ったときから思ってたけど、君って奔放だね!?言い合ってる時間も惜しいから手を借りるけど、隔壁が閉鎖するまでには戻るんだよ!」

 

「善処します!」

 

 

 管制室に入ると、凄まじい熱気が伝わってきた。燃える盛る部屋、落ちる瓦礫、黒い煙。それがトラウマと被り一瞬だけ躊躇するが、マシュのことを思い出し一歩踏み込み、中に入る。

 

 

「クソ、ダメだ!生存者はいない、無事なのはカルデアスだけか……!おそらくは、ここが爆発の基点。これは事故なんかじゃない、人為的な破壊工作だ!」

 

「人為的って……」

 

 

 それはつまり、こんなことをするように仕込んだ誰かが、このカルデアにいたということ。誰がやったのかは知らないが、大勢の人を殺すような行為を行った犯人に怒りが湧いてくる。

 

 

『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源の切り替えに異常あり、職員は手動で切り替えてください』

 

「僕は地下の発電所に行く。カルデアの火を止めるわけにはいかない。君は急いで、来た道を戻るんだ。いいか、絶対だよ!?」

 

「分かりましたから、ドクターロマンも早く!」

 

「絶対だからね!?君にはなぜか不安を覚えるんだよなぁ!」

 

「勘がいいねぇあの人」

 

「フォウ」

 

 

 おっとそれはどういう意味だ幽霊とへんてこ獣。

 ドクターが部屋から出た後、アナウンスが再度響き渡る。

 

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

『ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加 確保』

 

『アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください』

 

「……ぐだ男!あの子を一緒に探して!」

 

「いいのかい?このままじゃ、逃げられなくなる」

 

「そうなったらその時に一緒に考えよ!今は、あの子のことを考える!それに危なくなったら助けてくれるでしょ?」

 

「アハハ、まったく無茶をする相棒だなぁ!」

 

 

 ヒュン、と一瞬ぐだ男が消えたかと思えば、すぐに戻ってくる。

 

 

「見つけた、あそこ!」

 

「でかした!」

 

「フォウフォーウ!!」

 

 

 見つかったマシュに駆け寄る。けど、マシュの身体を見て絶句する。

 瓦礫による負傷で大量に血が出ている。人間の身体からどれだけ血が出ると死ぬかは分からないけど、この状態が絶望的だってことくらいは、素人目にもわかった。

 

 

「マシュ……!急いで助ける、ちょっと待ってて!」

 

 

 それでもと、マシュを押しつぶしていた瓦礫を必死にどける。しかし、マシュは痛みを堪え言う。

 

 

「私のことはいいです、先輩。この傷じゃ、もう助かりません。先輩は、早く、逃げないと……」

 

「死にそうな人を置いて、逃げるなんてできるかぁ!!」

 

 

 もう、あんなのは懲り懲りだ。私は変わった、勇気ができた。もう、逃げない!

 必死に瓦礫をどかしている私の耳に、再度アナウンスが聞こえてくる。

 

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来100年までにおいて、人類の痕跡は 発見 できません』

 

『人類の生存は 確認 できません』

 

『人類の未来は 保証 できません』

 

『中央隔壁 封鎖します。館内清浄開始まで あと 180秒です』

 

「煩いなぁ黙っててよ!」

 

 

 隔壁が閉鎖したって構うものか。絶対に助ける。絶対に……!

 

 

「隔壁、閉まっちゃいました……。もう、外には……」

 

「なんとかなる、なんとかする!私たちが、絶対に!だから諦めないで、マシュ!」

 

 

 鳴り響くアラートも、煩いアナウンスももうどうでもいい。

 私が今気にするのは、マシュとぐだ男と、あとフォウ君の声で充分!

 

 

「……あの、せん、ぱい」

 

「どうしたの、マシュ」

 

「手を、握ってもらっていいですか?」

 

「そんなことなら喜んで」

 

 

 ギュっ、とマシュの手を握る。……自分の恐怖が伝わっていないか心配だ。心臓の鼓動が煩い、死ぬかもしれないと何度も何度も考える。

 そんな私の手を、誰かが握る。

 

 

「ほらほら、そんな怖がらないで。なんとかなるさ。立香が言うと信用ならないけど、俺が言うと信じられるだろ?」

 

「……ほんと、もう……!」

 

 

 こういう時にこういうことをしてくるから、こいつは……!

 もう、恐怖はない。なんとかこの状況を切り抜けるために、頭が回り始める。

 

 

『ファーストオーダー開始まで、あと 3 2 1 』

 

『全工程完了(クリア)。ファーストオーダー 実証を 開始します』

 

 

 突然、光が溢れていく。

 意識が急激に暗くなり、気絶する寸前に聞こえてきたのは。

 

 

「……ずっと、ずっと一緒だとも。君が望むのであれば、ずっと」

 

 

 いつも一緒にいる迷惑な幽霊の、変に安心する声だった。

 

 

 

 




前半のなんとかさんとの会合は少しだけ時系列が前のお話。
ようやく冬木です。

ニ騎目のサーヴァント、誰がいい?

  • 佐々木小次郎(セイバー)
  • 織田信長(アーチャー)
  • マンドリカルド(ライダー)
  • 岡田以蔵(アサシン)
  • アンリマユ(アヴェンジャー)

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