ぐだ男君と立香ちゃん   作:雷神デス

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思わぬキャラにアンケートが偏ってやがる……!
毎日投稿が何時途切れるかは分かりませんが、頑張って続けますぜ!


ぐだ男君と立香ちゃんはハイタッチがお好き

 森のサーヴァントから逃げ切った私たちは、屋敷のような場所で休憩を取っていた。幸いにもここは火の手を免れたらしく、休憩するにはうってつけだった。

 

 

「ったく、嬢ちゃん達随分と運が悪いな!まさかあのバーサーカーとやり合っちまうとは。ま、それで生きてるんだから実力は確かなようだが」

 

「rrrrr……」

 

「……」

 

「おいおい、警戒するのは分かるが一応助けてやったんだぜ?傷つくねぇ」

 

 

 じりじりと青い外套のサーヴァントから距離を取る所長と警戒心を露わにするランスロット。なおぐだ男は横になってくつろいでる、この野郎。

 

 

『あー、聞こえるかい皆?バーサーカーとの交戦、ご苦労様。それで、そのサーヴァント……おそらくはキャスターとの対話はどんな感じかな?』

 

「それが、所長が警戒してあまり話が進んでおらず……」

 

「警戒するなっていう方が無理じゃない!こんな状況で見ず知らずのサーヴァントに助けられたって何かの罠かと思うのが当然でしょ!?それに、あの宝具の威力を見る限り騙し討ちでもされたら……!」

 

「ま、そうさな。普通の聖杯戦争じゃそれが正しいだろうが……生憎と、今は普通じゃないんでね。信頼できなくとも、無理やり納得してもらうしかないんだが……そこのマスターはどうだい?俺のこと、信じられるか?」

 

「……」

 

 

 キャスターを見る。軽薄そうな言動だが、その言葉にはたしかな重みがあった。そして同時に、こちらが見定められているようにも思った。

『ダメそうなら切り捨てる』

 ここで選択を誤れば、おそらくこの特異点とやらの修復は困難になる……。

 チラリ、とぐだ男を見る。ぐだ男はこちらの視線に気づき、笑ってこくりと頷いた。よし。

 

 

「キャスターさん、私はあなたを信じます。私たちの戦力だけじゃこの特異点を何とかできるか分からないし、私たちを殺すつもりならあの場でバーサーカーと協力した方が良かったでしょうし」

 

「おう、そりゃよかった。お互いを信頼しなきゃ、話にもならねぇしな!さて、それじゃそこの警戒してる奴らの緊張をほぐすためにも、真名の開帳と行こうか。俺の真名はクー・フーリン。今はこんなクラスで召喚されてるが、もしあんたらが召喚するならランサーのクラスで頼むぜ?」

 

『クー・フーリン!?ケルト神話の英雄、光の御子のクー・フーリンかい!?ヘラクレスやランスロットにも引けを取らない大英雄じゃないか!』

 

「おう、褒められるのは悪くないが今は時間がねぇ、驚くのは後にしな軟弱男。ひとまずはお互いの情報交換と行こうぜ。まともそうな奴らがいたんで咄嗟に助けたが、あんたらがどういう立場なのかもいまいち分かってないんでな」

 

『な、軟弱男……!また初対面で言われちゃったな……』

 

「ロマニ、落ち込んでないで状況の説明をしなさい。現状一番こちら側の状況を持ってるのはあなたでしょう。仮にもレフの代わりを務めているのだから、そのくらいきっちりこなしなさい」

 

『了解です、所長。……えー、では。こちら側の説明を―――』

 

 

 色々と難しい話をドクターロマンが喋り出した。特異点について、カルデアについて、テロについて他色々。ちなみに私も特異点というものについてはぐだ男が横で捕捉説明をしてくれてようやく理解できた。

 特異点とは過去にあった人類のターニングポイントとなる出来事が何らかの理由で歪められ、人類の未来を滅ぼしかねないほどに大きくなった時空のことを言うらしい。

 カルデアはそれをどうにかして正しい方向に修正し、人類の未来を守るために活動しているそうだ。

 色々スケールが大きいが、どちらにせよやることは変わらない。

 私は私の日常を取り戻すために進み続ければいい。

 

 

「そうだ、それでいい。人類の運命なんて立香に背負えるわけないんだから、自分のためにと思い続けな。立香が背負う義理なんて無いしね」

 

「うん。あんまり深く考えると失敗するのは今までのことで経験済み。あ、勿論ぐだ男にも付き合ってもらうからね?こき使ってやるから覚悟してよ」

 

「うへぇ……報酬のゲームは?」

 

「できるようになったらやらせたげる」

 

 

 そうこうしている内にカルデア側の情報提供は終わったらしい。クーフーリンは顎に手を置き考え込んでいるようだ。

 

 

『―――というのが、現在のカルデアの状況です』

 

「なるほどねぇ。んじゃ、こっちの事情も話しておくか。まああんたらも薄々察しているとは思うが、この冬木では聖杯戦争が行われた。7騎のサーヴァントとマスターが覇を競い合い聖杯を求める儀式……だったはずなんだが、いつの間にかそれが変わっちまってな」

 

「変わった?それはどういうことかしら?」

 

「町がいきなり炎に覆われて、人間がいなくなったのさ。残ったのはサーヴァントだけ、挙句にセイバーがそれでも聖杯戦争を続け、俺以外の他のサーヴァントを全員倒した。そうしたら黒くなって、セイバーの手下になり何かを探し始めたのさ。うじゃうじゃ湧き出た怪物どもと一緒にな」

 

「……謎ばかりね。続けて」

 

「面倒なことに、その探し物にゃ俺も含まれてるみたいでな。そりゃ残ったのがセイバーと俺だけだ、聖杯戦争を終わらせるためにも狙うのは当然だろう。ま、つーわけであんたらカルデアに提案だ。俺と組んで、セイバーを倒さないか?この状況が元に戻るかは分からねぇが、少なくとも聖杯戦争は終わるはずだ」

 

「なるほど、状況は理解したわ。……そこのボーっと話を聞いてる三流マスターも理解できたかしら?」

 

「な、なんとか……?ひとまず、聖杯戦争ってのを終わらせればいいんですよね」

 

「……ま、それが分かれば上出来かしら。それにしても、あなたほどのサーヴァントが一人じゃ倒せないセイバーは何者なの?並みの英雄じゃないのでしょうけど」

 

 

 クー・フーリンは『聞いたな?』とばかりににやり、と悪戯っぽい笑みを浮かべる。その反応に少し怖気つく所長の反応に愉快そうに笑いながら、セイバーの真名を口に出した。

 

 

「セイバーの真名はアーサー王。そこの黒騎士の主様さ」

 

 

 それを聞いた瞬間、ランスロットから発される威圧感が増す。手を握り絞め、身体中から殺気が溢れ出す。その姿はまるで憎き仇敵を見つけたかのように思えたが、同時に怒られるのを待つ子供のような、ぐだ男が私の身体を使って悪さした後のような気まずさみたいなのを感じた。

 

 

『アーサー王……!?しかし、そうか。それならば他のサーヴァントを圧倒したのにも納得がいく。かの騎士王が最優のクラスたるセイバーで召喚されたんだ、敵うサーヴァントはごく僅かだろう』

 

「そういうこった。つーわけで、あいつに勝つためにもこっちが揃えられる最大の戦力で挑みたいわけだが……俺が満足に戦うには、マスターが必要だ。土地から魔力を吸ってなんとか戦えはするが、そう何時までも持つもんじゃねぇしな」

 

「……一応聞くけど、そのマスターってのは」

 

「そりゃそこの嬢ちゃんだろ。あんた、魔術師としては一流なのになぜかマスター適正だけはねぇもんな」

 

「煩いわね!余計なお世話よ!……藤丸立香、魔力はもう回復しきってるわね?」

 

「あ、はい。……なんだか吸い上げられるのと入り込まれるのが同時に来て、あんまり落ち着かないですけど……」

 

「慣れなさい。キャスターはあなたに任せるわ。せいぜい上手く使いなさい」

 

「この町限定の仮契約って形だが、よろしく頼むぜ。これでよーやく遠慮なく戦える!俺はそこのバーサーカーと違ってあんまり魔力は喰わねぇから安心しな!全力で戦ってやれるぜ」

 

「よろしくね、キャスター」

 

「よろしくお願いします、クー・フーリンさん!」

 

「おう、盾の嬢ちゃんもよろしくな。……さて、と」

 

 

 キャスターが視線を背後に向ける。釣られて見ると、どうやらまたスケルトンが湧き出したようだ。バーサーカーは前回の指示通り後ろに下がり、マシュが前に出る。

 

 

「さーて!そんじゃ、クランの猛犬の実力!しっかりマスターに見せるとするかねぇ!」

 

 

 この後スケルトンさん達は無事火葬されました。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「アンサズ!!いやー、やっぱマスターがいると消耗をあんま気にしなくていいから楽だな!それに今回のマスターは七面倒な指示は出さないと来た。これでランサーなら言うこと無しだったんだがなぁ」

 

「……うん、ランスロットが暴れまわるより疲れないね」

 

「そりゃそうだろ。バーサーカーみてぇな魔力喰いとキャスターじゃマスターの負担も段違いだ。盾の嬢ちゃんも、まあそこそこやれるじゃねぇか」

 

「ありがとうございます。……けど、やっぱり宝具が使えないとあまり戦力にはなりませんね……」

 

「ま、そうさな。宝具が無いとあるとじゃ、サーヴァントの強さは天と地ほどの差がある。セイバーとやり合う前には、宝具を使えるようになってほしいが……。……おい、バーサーカー!最初に言っておくが……手出しは無用だぜ?」

 

「……」

 

 

 ランスロットはキャスターの声を聞き、無言で一歩下がる。何をしようと言うのだろうか?

 

 

「嬢ちゃんは宝具を使えるようになりたいと本気で思ってるんだな?」

 

「は、はい!」

 

「……そうかい。なら、俺がちょいと特訓をつけてやる。おいマスター」

 

「ん、私?」

 

「―――嬢ちゃんを、自分のサーヴァントを信じられるか?」

 

「……」

 

 

 ―――ぐだ男の方を見ようとして、いつの間にか眼前に歩み寄っていたキャスターに頭を掴まれる。その目はまるで、こちらの心を見透かされているように鋭い。

 

 

「おい、マスター。あんたが前から何を見ているのかは知らねぇ。何を頼りにしてるのかは知らねぇ。だが、これはあんたが頼りにしてる『何か』じゃなく、『マスター』自身に聞いてるんだ。……お前は嬢ちゃんを信じられるか?自分の意思で応えな」

 

 

 一瞬、ぐだ男に相談できないことに怯んで。それでも、マシュと一緒にいた時間を思い返し、応える。

 

 

「―――信用する。私はマシュのマスターだから」

 

「よぉし!よく言ったマスター!うし、嬢ちゃん。今からお前に特訓をつけてやる」

 

「本当ですか!?ぜひ、お願いします!」

 

「おう!気合十分みてぇだな!そんじゃ!」

 

 

 ―――キャスターは、私に向けて杖を構えた

 

 

「……へ?」

 

「しっかり守り抜けよ、嬢ちゃん。じゃねぇとマスターが死ぬぜ?」

 

 

 まさかの、実戦訓練―――!?

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「そらそらどうした、俺の見込み違いだったか!?マスターに傷一つつけたく無いなら、本気で抗いな!じゃねぇと何時まで経っても宝具なんて使えねぇぞ!!」

 

「ぐぅ……!?」

 

「ちょ、ちょっと!?まさか本気で殺さないわよね!?今藤丸立香が死んだらランスロットもマシュも戦闘不能になるのよ!?」

 

「本気だとも!どっちにしろここで倒れるような奴が、あのセイバーに勝てるとは思えねぇしな!」

 

 

 本気だ。キャスターは言葉通り、本気で私を殺す気で襲い掛かってきている。マシュが必死に食らいつき私を守るが、それでもキャスターは攻撃を止めない。

 

 

「―――まどろっこしいのは無しだ。さあ、行くぜ嬢ちゃん。本気で防いで見せやがれ……!!」

 

 

 キャスターが詠唱を開始すると同時、身体からかなりの量の魔力が持っていかれる感覚。宝具を撃つつもりだろうとすぐにわかった。マシュもそれに気づいたようで、盾を構え叫ぶ。

 

 

「マスター!逃げてください!私が防ぎきれなければ、後ろにいる先輩は……!」

 

「大丈夫だ、立香」

 

 

 私の後ろで、ぐだ男が言う。肩に手を置き、勇気付けるように柄にも無く叫ぶ。

 

 

「君の相棒だろ、マシュは。なら、きっと防いでくれる!」

 

「―――大丈夫。マシュは、私のサーヴァントだ!」

 

 

 叫ぶ。相棒はこいつなので前半は間違ってるが、マシュが防いでくれるというのは同意だ。マシュは、私をマスターとして信頼してくれた。なら、私がマシュを信頼しないでどうする!

 逃げず、留まる。彼女が必ず、宝具を出せると信じる!

 

 

「先輩……!……任せて、ください!!」

 

「―――その意気だ。行くぜ、とっておきをくれてやる!焼き尽くせ木々の巨人!!そら、守りたいもんは全力で守りな!灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!!」

 

「―――先輩が信じてくれた。偽物でもいい!今だけでもいい!大切な人を、守る力を……!うおおおおおぉお!!!!

 

 

 ―――マシュの盾が青く輝く。それはまるで、マシュの想いが載せられているかのように強く、分厚く、何がなんでも守り抜くという覚悟が伝わってくる……!

 炎の巨人の拳と、マシュの盾がぶつかり合う。数秒せめぎ合った後、マシュの盾がより一層輝きを増し、炎の巨人は自身の役目を終えたかのように崩れ落ちる。

 

 

「―――合格だ。良いマスターとサーヴァントだよ、あんたらは」

 

 

 ニッ、と笑うキャスターに釣られ私も笑い、両手を挙げる。何かに成功した時にいつもぐだ男とやる祝いの儀式。マシュはいきなり手を挙げた私に少し驚いたようだったが、少し戸惑った後に私と同じように両手を挙げ。

 

 

「イエーイ!!」

 

「い、イエーイ!です!」

 

 

 一緒にハイタッチを決めたのだった。おいこらぐだ男、何傍でニコニコ笑っているんだお前もやるんだよ!

 

 

「……マスターの傍にいる奴が何なのかは分からねぇが。ま、悪い奴じゃなさそうだな。深くは突っ込まねぇことにするか」

 

 

 最後にキャスターが何か言った気がしたが、はしゃぐ私の耳には聞こえなかった。

 

 




ゲームをクリアした時や嬉しかった時はぐだ男君とハイタッチするのが恒例の立夏ちゃん。実はぐだ男君以外とハイタッチするのは初めて、コミュ力の塊かよこいつ。

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