Unfiltered ーー偽りなく 原作者Aiyumi   作:惣江 羽奈香

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第一章 一日目

九月九日 金曜日

 

今年、秀尽学院の修学旅行はハワイへ行くことになった。しかし、来栖晶は修学旅行に参加しなかった。その代わり、彼女はある起業家コースを受けることにした。晶はかなり前からこのコースを楽しみにしていた。そのため、二か月前、すなわち修学旅行の日程が公表される前から、このコースに応募した。晶は修学旅行のためにこのコースを取り消したくない。それに、秀尽はこのコースを正式の課外活動として認めているため、なおさらコースを諦める必要がなくなる。コースは金土日で行い、全部で三日となる。晶の友達は月曜日の飛行機で日本に戻るため、火曜になったら、またみんなと会える。

一日目の授業が終了した。晶は満足している。授業中ではかなり面白いテクニックを教われた。このテクニックはおそらく怪盗団のリーダーとしても使えるかもしれない、と晶は思った。

ホテルに到着した晶は、とある人物を見かけた。まさか、ここで彼に合うとは思いもしなかった。

「明智様はご予約を取りましたか?」

とホテルの受付の女性が聞く。

「いいえ、予約はとっていません。今回の旅はかなり急なものでして、さすがに前もって予約を取る時間がありませんでした。」

高校生探偵は髪の毛を整えながら答える。

「そうでしたら、申し訳ございません。予約なしでは、ご部屋を用意するのは難しいかと…」

「そうですか。」

明智は困っているような顔をして、考え始める。

「他のお客様が明智様と部屋を共有することを希望すると話は異なりますが…」

と受付の女性は言う。

「しかし、現在の明智様の人気を考えると、このような提案を受け入れてくれる方は少ないかと思います。」

晶とこの高校生探偵は面識があったくらいの関係だった。彼は常にテレビ番組で出演をしている時の仮面をつけている。そのセレブを偽っている仮面。そんなものは晶にとって何の意味のない。実際、最初晶はこの高校生探偵のことを何も思っていなかった。しかし、あの日明智がルブランに現れ、少し自分の過去を語った。彼にあのような過去があったなんて、想像すらできなかった。「人を見た目で判断してはいけない。」とはこういうことだろう。そこで、晶は初めて、明智吾郎の仮面は彼の本性とは全く関係ないと気づいた。明智は一体どんな人なのか。晶はそれに興味を持ち始めた。残念ながらあれ以来、晶は明智と会ったことがない。少なくとも、今日まではなかった。

怪盗団がメジェドを撃退した後、明智の人気は一気に下がった。受付の女性は一体本気で部屋を共有することを提案しているのか、それとも単なる明智に対する嫌味をしているのかはわからないが、晶は明智を知るこの機会を見逃すつもりはない。

「私と一緒の部屋にすることはできますか?」

晶はそうやって受付の女性に聞く。

「あ!」

明智は彼女の声でびっくりした。振り向いて晶を見えた途端、目を丸くして、驚いた表情を見せる。彼は滅多にこんな顔をしない。

「来栖さん、こんな所で会うなんて、偶然だね。」

「私もここであなたと会えるなんて思ってなかった。いつまでここで滞在するの?」

「長くても日曜日で帰ると思う。」

「へえー、同じだね!良ければ私と部屋を共有しない?と言っても、ホテル側がオッケーと言わないと無理だけど。」

晶は受付の女性に目を向く。

「見ず知らずの方が同じ部屋を共有することは規定に違反しますが、お客様はどうやら知り合いのようですね。」

この話を聞いた明智は固まった。

「本ホテルでは団体のお客様にも楽しく過ごせるため、多くの部屋に多数のベッドを用意しております。」

受付は晶の予約を確認する。

「確認できました。来栖様のお部屋には二つのベッドが用意されています。この予約を二人に変更することでよろしいでしょうか?」

「ちょっと待ってください、お二人さん、本気ですか?」

明智の顔が真っ赤になった。

晶は当然みたいにうなずく。

「つ、つまり……」

明智が照れそうに視線を下に向く。

「年頃の男女が同じ部屋に泊まると言っているのか。」

「何か問題があるの?」

晶がさりげなく言い出す。

「前も男友達と一緒の部屋で寝たことがあるし、あなたがここまで気にしているなら、私を襲うこともないと思うけど。」

「そんなことするはずないだろ!」

明智が慌てて主張する。

「じゃ、心配することないじゃない。」

その一言を明智に言い出し、晶はまた受付の女性に視線を向く。

「はい、変更をお願いします。」

 

***

 

明智は不安な顔で来栖の予定を変更している受付の人を見ている。半分の代金を出した明智は、そのあと、来栖と一緒に部屋のカギを渡された。

ホテルの部屋は少し狭い。いかに、普通なホテルって感じ。しかし、明智は別に豪華な客室を期待していない。部屋の中に二つのベッドが置かれている、それで十分。明智は一つのベッドの上に腰を下ろし、来栖はもう片方のベッドに座り込む。明智はこの少女を警戒している。普段、熱狂なファン以外、明智を歓迎する人はいなかった。彼が孤児で、隠し子と知ったらなおさらのこと。明智は前、来栖に自分の家庭状況を明かした。それに、来栖は自分が怪盗団に対し、批判な態度を持っていることもわかっている。来栖が自分の大ファンであるはずがない以上、なぜ彼女は自分と同じ部屋を共有したいと言い出しただろう。来栖は絶対何かを企んでいる、そういうことに違いない。彼女は一体何がしたい。

「来栖さんはなんでこんなことをした?」

回りくどい話をせず、明智は直接聞くことにした。

「なんのこと?部屋を共有することの話?だって、明智君は泊める部屋がないって聞いたから、寝る場所がないまま放っておけなくって。」

「それだけ?」

「他に何の理由があるって言うの?もしかして、実は、何かを期待してた?」

「いいえ、そういうわけじゃ……」

なんという無様。明智は常にファンの問題やインタビューで聞かれたことに、完璧な答えを用意している。しかしながら、来栖晶と一緒にいるとき、頭の中が真っ白になって、何も言えなくなる。この子の思考回路は普通の人間と少し異なるらしい、その言動は明智にとって理解不能なものである。

「来栖さんは僕に優し過ぎだなと思って。」

「もしかして、明智君から見ると、私ってかなり酷い人なの?それは傷つくな、探偵さん。」

「ええ?」

明智は慌てて頭を横に振る。

「ごめん、僕はそういうつもりで言ったわけじゃ……」

それを聞いた来栖はふっと笑い出す。

「謝らなくていいって、ただの冗談だよ。もう、明智君ったら、硬くなりすぎ、力を抜こう。」

明智はまた彼女の突拍子の言動に驚かされた。一体どうするつもり。もしや、昔施設や学校で彼をよくいじめていた人達のように、からかっているの。それとも、油断させようとしている?何が狙いだ。

「でも、確かに別の理由もあるよ。」

その一言で、明智はまた警戒し始める。やはり、ほかの理由があった。

明智は疑心暗鬼になりやすい人。彼はこれまで、何回も離れていたところから怪盗団を監視したことがある。離れすぎて、はっきり見えないとはいえ、来栖晶の周りに集まっている独特な友達から推測して、彼女は怪盗団の一員であると明智は疑っている。もしかして、彼女も明智のことを疑っているのか。まさか、彼女は明智の後ろに付けて、ここに現れた。

「ちょっと、明智君と話がしたくて。」

来栖はさりげなく言い出したが、明智はさらに緊張してきた。こんなことを言って、来栖は彼を追い込み、情報を聞き出そうと企んでいるに違いない。

「なんの話がしたい?」

不本意でありながら、明智はとりあえず話を聞いてみる。

「わかんない、でも、この前私と話すのは楽しいって言ってたよね。」

「それは、確かに言ったけど……」

明智は認めざるを得なかった。確かに、そんなことを言ったことがある。しかも、何回も言ったことがある。来栖との関係は今一でありながら、彼女と話をするのは確かに楽しい。

「でも、なかなか明智君と会えないから、いつになったらまた話せるかな、なんてずっと考えてた。だから、受付であなたを見かけたとき、このチャンスを逃してはならないと思った。部屋を共有することになったから、時間はたっぷりあるし、今回はいろいろお話ができる。じゃ、早速、話ししよ。」

怪しいな。事態が取り返しつかなくなる前に、話の流れを抑えないといけない、と明智は思った。できれば、来栖に口を滑らせて、怪盗団の一員であると認めてもらうことができるなら一番だ。しかし、彼女の言う通り、部屋を共有することで、来栖と付き合う時間は普段より何倍も長くなる。追い詰めすぎて、彼女の気を悪くするのもよくない。

「明智君はなんでここに来たの?」

明智がなかなか話さないから、来栖が話を切り出す。

「事件を調べに来たよ。このあたりに手がかりがありそうで、そのため、何日かこっちに滞在しないといけないんだ。来栖さんはなぜここに?」

後が付かれてないといいけど。

「授業だよ。今日は一日目、とっても面白かった!」

「へえー、でも今日は学校があるはずじゃないの?うちの学校は、上位の成績を保つ代わり、学校の日に探偵仕事をするという許可をしてくれたけど。来栖さんも学校から許可してくれたの?それとも、もともと学校が主催した授業だった?」

「ううん、学校とは関係ないよ。実際うちの学校今は修学旅行中なんだ。でも、何か月前からこのコースを応募したし、今更取り消すのがもったいなくて。学校に修学旅行を欠席するとの申請を出した。」

明智は心から目の前の少女を尊敬した。

「あらかじめ授業を申請して、そのため修学旅行までやめることにしたなんて。来栖さんは偉いね。」

「自分から勉強したいと、ほかの人に勉強させられるとはだいぶ違うからね。」

明智はよく勉強に時間を分ける。しかし、それは決して何かを知りたいというわけではない。無理やりでも色々な知識を身に着けるのは主に話題づくりのため、あるいは、ほかの人に自分が博識であることをアピールするためである。

「確かに。」

明智が適当に答える。無言な時間が続き、二人はお互いを見つめることしかできなかった。そこで明智は腹をくぐって、怪盗団の話を持ち出すことにする。

「来栖さん、怪盗お願いチャンネルのランキングを見た?」

そのようなことを口にした明智は何かを思いついたような顔をして、直ぐ言い直した。

「あ、バカな質問だったね、来栖さんなら当然……」

「ランキング?」

明智の話は来栖に割り込まれた。

「ランキングって何のこと?」

「えっ、まだ見てないの?」

そんなことがあるか。もし来栖が本当に怪盗団の一員であるなら、彼女は常に怪チャンをチェックしているはずだ。

「まだだよ。最近、こっちに来るための準備と授業で忙しかったから。」

「そうなんだ。実はね、最近怪盗お願いチャンネルにだれを次のターゲットにするかの投票が挙げられた。」

明智が説明する。

「投票の結果、奥村さんが一位になった。」

「それ、誰?」

とぼけているの。とそう聞きたいけど、明智はそれを我慢した。「奥村邦和さんだよ。株式会社奥村フーズの社長。ビッグバンバーガーも奥村フーズのブランドなんだ。」

「へえー、何で奥村さんをターゲットにしたいの?」

怪盗団に奥村を狙わせなければならない。それが罠を実施するための一番大事なこと。

「彼の会社は高速に発展している、それに多数の噂話が伴っている。従業員を酷使することで人工費削るとか、競合他社が都合よく消えて、そのすきに発展したとか。」

「都合よく消えた?それってどういう意味?」

あまり説明する気になれないけど,これは説明しないと無理そうだ。

「奥村フーズの競合他社はみんな精神暴走事件に巻き込まれた。次々と営業に影響を及ぼすほどの不祥事が起来たみたい。例えば、ワイルドダックバーガー。他にも食品業界に関わる役員が廃人化により他界したとか。どう見ても奥村フーズばっかり得しているね。」

来栖は目を丸くした。

「まさか、精神暴走事件も廃人化も仕組まれていたと言いたいの?」

「そうでないと、説明がつかないよ。そこで僕は思いついたんだ。怪盗団の改心行為も仕組まれたものに違いない。それって、精神崩壊事件と改心の本質は同じものを意味していることになるんじゃないかな。」

頷く明智はこの話で来栖を煽り、彼女に口を滑らせるつもりだ。

「ええ?まさか、精神崩壊の一連の事件を引き起こしているのは怪盗団とでも言いたいの?」

「そんなこと言ってないよ。でもあり得ないことじゃない。だから、この可能性を無視しちゃいけないと思う。もし、これは本当に怪盗団の仕業だとすると、彼らは僕たちが思った以上に危険な集団になるね。」

来栖の頭が回っている声が聞こえるような気がする。その表情が険しくなり、いつもの冷静さも消えかけている。今度こそ、尻尾を掴んだと明智は思った。

来栖は無言なままスマホをタップしている。どんどん力を増している指先から彼女の怒りが伝わる。

「言語道断!」

と来栖は叫ぶ。明智はまた彼女の声に驚かされた。

「今怪チャンを見ているけど、バカな話ばっかり。好き放題言うし、公衆の熱意が冷める前に、さっさと次のターゲットをやっちゃえとかを言っている人もいる。これは見世物じゃないのよ!何それ、自分と関係ないことなら、別に何が起こっても楽しいわけ。わー、読むだけで、気持ちが悪くなってきた。」

そういいながら、彼女は携帯をしまう。

「公衆ってそういうものだよ。人気があるものに付いていき、簡単に立場をひっくり返す。いつも味方に付く保証なんてどこにもない。今日は応援していても、明日になって急に下げますようなことを言ってもおかしくない。僕もそうじゃないか、昔はあんなに人気だったのに、怪盗団がメジェドをやっつけたから、すっかり嫌われ者になった。ランキングを見ただろ?気づいたかな、僕の名前も載ってるよ。」

「言わせておけばいい、どのみち私達が何かできるわけじゃないし、そんなことを気にするほうが損だよ。」

「ありがとう。」

どのみち、来栖も自分のことが嫌いで、お世辞でこんなことを言っているだろうけど。

「でも、本当に怪盗団に狙われてもいいことかもしれない、面白いし、彼らの改心方法を見抜けるかもしれない。」

「明智君を狙いに来ると思う?」

「多分狙われるんじゃないかな。」

「なんでそう思うの?」

「今のところ、名を挙げられた人の中で、一番有名なのは僕なんだ。奥村がやってたように、反対勢力を消去するような真似をするのもおかしくない。精神崩壊と改心事件が本当に何等かのつながりを持っていて、それを引き起こしているのは怪盗団であるなら、僕を狙わないほうがおかしいと思う。」

どうやら、来栖はよほど精神崩壊事件を怪盗団のせいにされたくない。「私達はそんなことをしていない。」などの言葉を叫ぼうとする気持ちを必死に堪えている顔をしている。

来栖は深くため息をついて、冷静を取り戻そうとする。

「明智君、あなたの探偵としての能力を疑ってないけど。この推論が外していると思いたい。私から見ると、怪盗団は私達みたいに、腐っている大人に虐待されて、社会的不公平を受けている人の希望だよ。だから、怪盗団はそんな恐ろしいことをやっていないと信じたい。」

また誤魔化している。来栖は知らないふりをしている、それとも本当に怪盗団のことについて何もわからない。明智は一瞬自分の推測を疑った。ほんの一瞬だけ、来栖は怪盗団の一員であるはずがないと思った。

明智は無理やりに笑顔を作った。

「そうだといいけど。間違いを指摘されるのは好きじゃないけど、この推測が間違いだと言われるのは悪くないと思う。怪盗団は正義の味方、それを悪く思ったのはあくまで僕の偏見であるなら、僕もこの腐った世界に少し希望を抱くことができるだろう。」

 

***

 

明智の言葉に潜んでいる苦しさで晶の心が痛む。

「この世界に希望がないと思ってるの?それは、悪いことはあるかもしれないけど、いいこともたくさんあるよ。」

いつものセレブ仮面が消えたように、明智は嘲笑う。

「明智君?」

しかし、明智は顔を背けて、彼女の問いに答えようとしない。

「わかった。どのような経緯でこのように考えるようになったのがわからない、話したくないなら、無理に話そうとしなくてもいい。でも、話したくなったら、私いつでも聞くから。」

明智が何を言おうとしているみたいけど、結局何も言えなかった。恐らく何か痛い所突かれただろう、しかしまだその話ができるほど、明智は晶を信用していない。

「とりあえず一人にさせておくよ。私先にシャワー使うね。」

そう言って、晶は自分のベッドから立ち上がり、部屋から去る。今は明智を一人にさせてあげたほうがいいだろう。

 

***

 

一人になった明智は考え始めた。別に怪盗団のことを嫌っているわけではない。彼らの行動によりいい結果が持ち出されているのも間違いない。しかし、彼らは精神崩壊事件のこれ以上にない身代わりである。廃人化の罪を彼らに擦り付けることで、獅童は公衆の信頼を得て、この国の頂点に立つ。それで、明智はようやく自分の復讐計画を実施することができるようになる。もし何年前に、明智があの謎の存在からペルソナの力を授かる前に、明智が獅童に接触する前に、明智が、取り返しつかない道を歩み始める前に、怪盗団が現れていたら、このようなことにはならなかったのだろう。だとすると、彼にもはまだ明るい未来が待っていたかもしれない。

しかし、そんな都合のいい話なんて存在しない。現実は残酷だ。明智の人生はもうめちゃくちゃになっている、元に戻そうとしてもできない。もう、どうしようもできない。最初いくら獅童の命令であるとはいえ、明智は殺人なんかしたくなかった。でも、反抗すると、殺されるかもしれない。そう思いながら、明智は彼の言うことを全部従うことにした。それは復讐するための唯一の方法だったから。

ここまで、明智は被害者たちが全員自業自得だと自分に言い聞かせつつ、任務を遂行してきた。彼らはこの「食わないと、食われる」というゲームのプレイヤーで、みんな腐った、力に飢えたくそ野郎だ。でも、実際明智はわかっていた、そんなの言い訳に過ぎない。彼はこれまで多数な被害を引きおこした、それは悪いことを自覚しているからこそ、そのような見苦しい言い訳を言い続けてきた。今更引き返すなんてできない。隠し子として、必要とされていない子供として生まれたから、彼に明るい未来なんかないことは定められた。獅童の命を受けた瞬間から、明智は穏やかの生活を過ごす最後の可能性を捨てた。今更もう失うことなんかない、復讐するためだけに生きてきた。復讐をするため、獅童の命令を聞くしかない。

来栖がシャワーから出た途端、明智が中に入る。シャワーをした後、二人でホテルのレストランに晩御飯を食べに行く。来栖の邪魔をしないよう、明智が念入りに彼女と距離を取っている。

 

***

 

ぱんぱんと詰めた皿を持って、晶は明智を探す。明智は離れている6席テーブルに座り、一人でご飯を食べている。明智は部屋で話した時からずっと変だった。きっと、先の話のせいだろう。どうにか謝らないと。

晶は明智のテーブルまで歩き、声をかける。

「明智君。」

「や、やあ。」

隣の晶を気付き、明智は聞く。

「何?」

「明智君、怒ってる?」

明智は困惑な顔を見せる。

「そんなことないよ。なぜそう思うの?」

「だって、ずっと私を避けてたじゃない。」

礼儀よく頭を横に振った明智は言い出す。

「まさかそう思われるとは、誤解を招いてごめん。そういうつもりじゃないんだ。少し考え事をしてただけ。それに、来栖さんの邪魔をしちゃ悪いし。部屋を共有する件ですでに迷惑をかけているから。」

晶はお箸を手にして、気にしてないことを表すみたいに手を振る。

「全然邪魔じゃないよ。そもそも迷惑だと思っているなら、部屋を共有する話を持ち出すなんかしないよ。正直に言うと、ここに来たデメリットの一つは友達と離れ離れになって、一人で過ごさないといけないこと。正真正銘の離れ離れ、向こうはハワイにいるし。ここで知り合いと偶然会ってうれしいよ。ごはんに同席してくれる人がいて、いいことじゃない?あ、一人で食事をしたいと言うなら、私これで失礼するけど。」

明智は手を挙げて説明する。

「そういうわけじゃ……僕は一人で食事を好んでいるわけじゃない。同席する人がいるのは慣れていないだけだ。仕事がらみで、晩御飯を一緒にすることはあるけど、あくまで仕事の話しかしない。同年代の人と付き合うのはあまりなくて、一緒に出掛けるのもかなりレアケースだ。来栖さんが同席したいというなら、どうぞ、座って。椅子ならいっぱいあるよ。」

そういいながら、周りの空席をさし指す。

「ありがとう。」

晶は微笑みながら明智の隣の椅子に腰を掛けた。回りくどいが嫌いな彼女のことだから、さっそく話を切り出す。

「明智君、先はごめんね。」

「先って、何のこと?」

「先の話のこと、気に障ったよね、本当ごめん。」

明智は頭を振る。

「謝る必要なんてないよ。話を持ち出したのは僕だし。」

そういって彼は目を下に向く。

「君みたいに楽観的になりたいな。」

と言い出した。晶はその後ろの言葉が気になって、黙ったまま待ってた。それで、数秒後、彼はまた口を開く。

「居候している家庭で転々としてたころ、いろいろあってね。あまりいいことはなかったよ。今の来栖さんの状況や、立ち向かっている困難はわからないけど、それもさぞ辛いことだろう。」

「なんの話?」

明智は何を言っているかさっぱりわからない。

「じ、実は……」

明智は晶の耳元でささやく。

「来栖さんは、保護観察期間中だよね。ご、ごめん、君の過去を調べた、詮索見たいな真似をして。」

「そうか。」

晶はそれしか言えなかった。そういえば、明智は彼女と彼女の友達が怪盗団であると疑ってたんだっけ。調べても無理はない。彼は探偵だもの。疑ったら、個人情報を調べるのも仕方がないよね。

「傷害罪だったよね。何をした?」

明智はさらに追究する。

「何々、私の黒歴史を知りたいわけ、探偵さん?それとも、部屋を共有したことに後悔してる。」

晶は肩をすくむ。

「正直、私は傷害罪を犯すような人だと思う?」

「思わないからこそ聞きたい。僕から見ると、その事件の裁決はおかしい。」

「教えてあげても別にいいけど、信じるかどうかはあなた次第だよ。」

「聞かせて。」

励むように頷く明智を見て、晶は嫌がらせを受けていた女性を助けようとした結果、人生に破滅が迎えたことを語った。

「その女性を脅し、君に罪を擦り付けた?」

晶の予想と違い、明智は冷静に晶の話を聞き、分析を行うようなことをしなかった。彼の目に怒りの炎が燃えていて、歯を食いしばった。

「そうだよ、信じるかどうかはあなた次第だけど。」

「信じるよ。証拠はないから、君が話を誇張しているかどうかは判断できない。でも、それは決してあり得ない話じゃない。向こうは匿名だし、その人はさぞ権力者に間違いない。それはだれかわかるか。」

「わからない。」

晶は頭を横に振る。

「暗かったし、顔も覚えてない。事件のショックで、あの日のことをはっきり覚えてない。知っているのは、あの人が酔っ払っていて、私が女の子であることすら気づいてないことくらい。でも、そのほうが良かったかも、私が女の子と知ったら、何をしてくるかわからないし。」

そんな結果を考え、明智がぞっとした。少しぎこちなく肩をすくむ。

「ごめん、今笑うところだった?」

「私もわからない、でも滑稽極めの話だったのは間違いない、だから笑いたければ、笑っていいよ。」

「そんな、来栖さんの過去を笑うつもりはない。」

明智は一瞬黙り込む。

「そのあと、君はどうしたの?」

しかし、すぐにその言葉を取り消したいと思ったようだ。

「ごめん、それは個人的な問題だったね。」

「別にそんなことないよ。」

晶は全然気にしていない。

「何をするべきかわからなかった。前の学校で犯罪者として扱われて、退学になったし。本当は人生がこのまま終わるかと思った。私は、今まで必死に頑張って、勉強して、教われた理に従って生きてきた。私は何の悪いこともしてない、毎日より優れている人間になれるように努力した。でも、その夜、すべてが変わった。私の人生が悪い方向に下り、これまで築いた名声は一瞬で崩壊した。そのため、私は未来に恐怖を抱いた。何をすれば自分の身の潔白を証明できるかわからないし、証明できたとしても、また失うことになるかもしれない。両親が私のことを信じて、応援してくれるから、諦めずに頑張り続けてる。その結果、秀尽学園に受け入れられて、ここまで引っ越してきた。両親は仕事があるから一緒に来られないけど、私を応援してる気持ちは変わらない。」

明智は彼女を初めて見えたように、晶を見つめる

「来栖さん、君は尊敬に値する人だ。不公平な待遇を受けたとはいえ、君は楽観的な性格を変えていない。いつも元気な顔をしている。君を見て、あのような経歴があったなんて想像もできない、犯罪者として扱われているのも全然思いつかない。」

「それはお互い様じゃないの、セレブさん。ルブランであなたの過去の話を聞くまで、あんなことがあったなんて、思いもしなかった。」

明智は肩をすくみ、言い出す。

「正直、君にあんなことを言うつもりはなかった。僕の過去を知ったら、ほかの人と同じように僕のことを蔑むと思った。しかし、気づかないうちに、君にすべてを伝えた。」

「お互い苦労したよね。でも、その話を聞けて良かったと思ってる。明智君って、簡単に信頼を他人に託すような人じゃなさそうだから。」

「それは間違いないよ。僕はなかなか他人を信用しない。うまく言えないけど、君の前じゃ、ついいろいろ話したくなる。」

「普段の生活に戻ったら、有名人の高校生探偵も私と同じ除け者だなんて、誰も思わないでしょう。他人に素性を決めつけられるのは辛いことぐらい、私もよく知ってる。だから、話したくなったら、いつでも聞くよう。私、絶対そんなことしないから。」

「ありがとう、晶。」

「えっ……」

晶はかなり驚いた。

「今、私の名前を呼んだよね。」

明智はびくっとした、これでもう会ったからの三回目だよ。

「ご、ごめん、来栖さん。」

とすぐに正した。

「晶でいいよ。私の友達みんなそう呼ぶから、でも、まさかこんなに早くあなたの口からそれをきくとは思わなかった。」

 

***

 

なんでそんな簡単にこんなことを言えるだろう。

「いいえ、でも、僕は……」

と反論しようとする明智。

「私の友達じゃない、と言いたいの?」

晶は彼が言いそびれた話を口に出す。

その話に明智は頷く。

「今はまだ友達じゃないかもしれないけど。私の友達になりたい?」

どう答えればいいだろう。明智に友達なんかいない。誰も彼の友達になりたくなかった。本当の友情ってどんなものかはわからないけど。それは特殊なもので、誰かに強いられた、見た目だけのものではないのははっきりわかっている。

「それは、素晴らしいね。でも僕たちって、本当に友達になれるのかな?だって、友情って自然に生まれるものじゃないの?」

「確かに、意見統一できないことはあるけど、今まで私達はそれなりに仲良くやってるじゃない。これからも仲良くして、友達になれると私は信じてるよ。そう思わない?」

残念だけど、そんなに簡単な話ではない。まだ認知世界のことがある。晶に自分がやったことを知られたら、憎まれるに違いない。やはり、彼女とあまり親しくしないほうがいい。でも……

「そう思う、と言っているような顔をしているよ。」

晶が明智の腕に置いた手は彼をびっくりさせた。

「今日驚きやすいね、これで四回目だよ。」

「か、数えていたんだ。」

恥ずかしさを隠そうとし、明智は顔を下に向く。

「それはどうでもいいだろう。と、友達になれるというのは嬉しいけど、でも……」

「じゃ、試みる価値があるね。少しずつやってみよう。まずは、私を晶で呼ぶこと。そのほうで呼ばれるのが好き。堅苦しくないから。」

「じゃ……」

一瞬、彼女に自分を「吾郎」で呼んでもらうことを思った。でも、それをやめることにした。母の死後、彼を「吾郎」と呼ぶ人はいなかった。みんな、「明智吾郎」あるいは「明智」で彼を呼ぶ。今になって、逆に「吾郎」と呼ばれるのは違和感を持つ。(まだ)友達ではない人に、そう呼ばれるのは、さすがに馴れ馴れしいと思われる。

「わかった、晶。」

と明智は答えた。

「よし。」

晶は嬉しそうに彼に笑う。

「物覚えがいいね。」

「それは僕の取り柄だから。」

明智は少し自慢する。

「凄い自己顕示欲。」

そういいながら、晶は軽く明智を肘で突き、彼をもう一度驚かす。

「五回目だね、これも少しずつ慣れないと。」

「そうだね…」

 

ごはんを済ませたから明智は晶と一緒に部屋へ戻る。晶はテレビをつけたけど、あまり面白い番組が放送されていない。チャンネルを変えて、映画を少し見ようとしたんだけど、よさそうなものはない。小さくあくびをする晶を見て、退屈な映画で時間を潰すより寝るほうがいい、と二人は決意した。

「ね、明智君、お休みのキスが欲しい。」

と晶は急に言い出す。

「えっ?」

「お休みのキスが欲しい。」

と彼女はもう一度言う。

「それは聞いたけど。」

「だから、明智君に……」

「ぼ、僕!」

明智が目を丸くする。

「どうして、僕に……」

「ほかに誰もいないじゃない。」

当たり前のように彼女は言う。

「で、でも、さすがにそれはだめだろう。」

「頬での軽いお休みのキスだよ。それだけ。何の不思議でもないし、何も悪くない。」

「そう言われても……」

「お願い。」

と言い張る晶。

「っ……」

その願いを無視しようとしているけど、どうやら晶はあきらめる気がない。

「本当、お願い。」

明智は頑張って、そのお願いと書いているかわいらしい顔に負けないように言う。

「晶、ごめん、でも……」

「明智君、これから私と友達になるよね、だから、私のやり方に慣れてこないと。これもそのためだから。」

明智は黙りこんだ。しかし晶はまだ彼を見ている。期待に溢れている目、そんな彼女を悲しませたくない。彼女は常に笑っている、悲しい顔なんて、彼女に似合わない。それに、これは彼女の提案だ。キスをしても、責められるようなことはないだろう。

「わかった。」

深くため息をつき、明智は立ち上がり、ゆっくり晶のベッドに歩きだす。深呼吸をし、躊躇いながら二人の間の距離を詰める。自分の唇で晶の華奢な頬に恐れ多く触れる。そのあと彼は何か間違ったことをしたように、すぐに離れ、自分のベッドに戻ろうとする。

その恥ずかしさが足りていないように、晶は爆笑する。

「まさか、本当にやるなんて!」

「えっ。」

そこで、明智は気づいた。さっきのことは晶の冗談に過ぎないということ。もういっそどっかに自分を埋めたい気分。

「あー、もう、やるべきじゃなかったな、僕をからかっているよね。」

晶の笑いは少し収まった。

「からかうより、試しかな。正直やると思わなかったよ。でも、お休みのキスしてくれたし、本当、かわいかったからね。でも、これだとすると不公平になるよね。」

晶がそう言いながら立ち上がる。

「大丈夫、一人で恥ずかしい目に合わせないから。」

それで、彼女は明智のベッドに向かい歩き出す。

明智は恐怖で目を丸くする。

「晶、ちょっと待って。」

でも、彼女は聞く耳を持たなかった。明智のすぐ隣まで来て、逃げようとした明智より早いスビードで、軽く彼の頬にキスする。それに含まれているいとしさとやさしさは明智にとって身に余っているものだった。明智はその場で固まり、心臓が急速に跳ね上がる。

「これで、貸し借りなし。」

何か言おうとする明智は声すら出なかった。

「お休み。」

晶は優しく笑いながら、自分のベッドに戻る。眼鏡をベッドサイドテーブルに置き、電気を消す。

ようやく動きを取り戻した明智はベッドに戻る。

「晶。」

「何?」

「先ので、僕が小さいころ、母がよくしてくれたことを思い出させてくれた。」

「へえ。」

「外国の映画でお休みのキスを見て、母に頼んで、やってもらった。」

晶は笑いだす。

「ああ、絶対かわいかっただろうな。でも、温かい記憶でしょう。」

「そうだ、温かい記憶だ。」

子供の頃の記憶、その時の彼は純粋な心を持ち、何の過ちも犯していなかった。母のお休みのキスは、彼を早く寝かせる方法の一つであり、遊びをやめ、おとなしく戻って寝る。母のキスは優しくて、懐かしかった。晶のキスも優しい、でもどこかが違っている。なぜかわからないけど、それは彼をドキドキさせる。実は、今になっても、ドキドキが止まらない。

「恥ずかしいことをさせて、ごめんね。」

晶はそう謝る。

「でもいい記憶を思い出させたなら、良かった。」

「いいえ、大丈夫だよ。ありがとう。」

明智はそれ以上何を言うべきかわからなかった。さきのキスは少し恥ずかしいものではあったが、なぜか明智は一瞬こう思った。もう一度お休みのキスをされてもいいと。

 




作者より

私が考えている晶の見た目は暁とそうなに変っていません(女性であるという点を除くけど。)。P3Pのハム子とキタローの見た目は正反対なものとは違っています。ここの晶と暁の性格の違いが大きいです。晶は楽観的で、外交的で、おしゃべりな子、でも暁は静かで、ちょっとよそよそしい所があります。
PS 明智をからかって、混乱させるのはマジで楽しかったです、( ´∀` )。本当の甘さは次章になります。

訳者より

思った以上に訳に時間をかかりました、恐らくP5の五分の一をやる時間に近いです。でも正直、和訳は楽しかったです。いつになると次の章を完成させるのはわからないけど、頑張ります。
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