Unfiltered ーー偽りなく 原作者Aiyumi   作:惣江 羽奈香

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第二章 二日目

九月十日 土曜日

予定通り、明智は認知世界に向かう。今回の命令は秀尽学園の校長のシャドウを消すこと。パレスはこの辺りの彼が所有している不動産にある。しかし、明智に予想できなかったことが起こった。どうも今日の調子が悪い、基本的なミスをするし、その上、普段より何倍も待ち伏せされる、その結果パレスの警戒度は上がる一方。なぜだ?それは、昨夜晶とのでき事が頭から離れないからだ。過去や考えの違いと関係なく、普通に彼と接した。友達すらなろうとしてくれた。突拍子もない話をして、彼を混乱させるけど、同時に彼を安心させる。それと、彼女のキス。彼女の優しいキスは明智を宙に浮いている気分にさせた。

シャドウは明智の不注意に付けないわけがない。隙をつき異常状態をかけ、次々にクリティカルヒットを出し続ける。目眩、忘却、混乱、異常状態は時間の経過につれ治るが、一斉にこれだけかかると、さすが明智の気持ちも本気で悪くなってくる。頭がガンガンしている。この警戒度じゃ進むのは難しい。今日中でパレスをクリアするのは無理かもしれない。いったん帰るしかないみたい。

午後五時、明智はホテルの部屋に戻った。まだ頭痛する。シャワーを浴びて、頭をすっきりしようとするが、効果なし。

一度寝て起きるとある程度治るのではないかと思い、寝ようとするが、頭痛の影響で眠気が全然しない。

もうどうしようもできなくなり、明智はホテルに一番近いクリニックに尋ね、鎮痛剤でも貰いたいと思う。当然でありながら、お医者さんは彼の頭痛の原因を定めることができず、それがストレスによるものとしか言えなかった。結果、明智は勧められた薬をもらい、ホテルに戻った。

鎮痛剤のおかげで、頭痛はだんだん収まって来て、宿題できるくらいまで回復したと思う明智は、問題に専念する。しかし、それとほぼ同時に、眠気が襲い始め、目を開けることすら困難になり、思考もどんどん鈍くなる。

***

二日の授業が終わり、ホテルに戻った晶が見えたのは、鉛筆とノートを手にして、ベッドに座り込んだ明智である。

「ただいま。」

と晶は挨拶する。

「うん。」

明智はぼんやりと答え、背を伸ばし、疲れ切った顔で晶のほうを見る。

「明智君、大丈夫?」

何かがおかしい、そう思い、晶はどうしても気になって、聞いてみた。

「え?ああ、大丈夫だよ。先少し頭痛して、でも薬を飲んだからもう大分楽になったよ。」

「そうか。」

その薬に眠気の副作用があるに違いない。

「何してるの?」

「宿題、上位の成績を保たないと。」

「わかった、私シャワー浴びてくるから、すぐ戻るね。」

明智は頷き、宿題に専念する。

晶がシャワーから帰ってきた時、明智はまだノートと鉛筆を手にしている。しかし、頭がもうすっかりノートにつき、目が閉じていて、手も全然動いていない。

「明智君。」

そう言いながら、晶は明智の肩を軽く叩く。

「やめたほうがいいよ。」

「だめだ。」

明智は頭を挙げて答える。目を半開きして、もう一度ノートを見つめようとするが、手がまだ動いていない。

「ちょっと失礼。」

なんの抵抗もなく、晶はノートを明智の手から取る。

「君にわからないよ、これは三年生の問題だ。」

彼の声がひどく引きずっている。

そういわれているが、晶は彼のノートをチェックする。

「使ってる公式がわからなくても、ここの計算が間違ってることぐらいわかるよ。今は数学問題ができる状態じゃないと思うけど。」

「数学じゃない、物理だ。」

眠そうとは言え、自慢げに答える明智。

晶は笑いを必死に堪えようとするが、それに失敗する。

「とにかく、今の計算は明らかに間違ってる、これだといい成績を保てるとは言えないと思うけど。少し体調治したからやるほうがいいよ。

「僕は大丈夫。」

明智はあくまで言い張る、明らかに大丈夫ではないのに。

「大丈夫じゃない、休んだほうがいいよ。」

「疲れてない。」

そんな言い方じゃ、信じたほうがバカだ。

晶はため息をつく。

「探偵君って、頑固だね。」

「お互い様だろう。」

と明智は言い返す。

悪ふざけをするように、晶は舌を出す。驚くことに、明智も同じく、舌を出すことで返事をする。それを見て、晶は爆笑し始める。普段人の前で礼儀正しい明智は、通常このような顔をするはずがない。一体どのような副作用であるかははっきりしてないが、明智を深く影響していることに違いない、彼にその礼儀正しいマスクをはがせた。

「やめてよ。」

爆笑する晶を見て機嫌損ねたように、明智が言う。

「ごめん。」

ようやく笑いが収まった晶が言う。

「返せ。」

探偵の目は晶がノートを持っている手に向く。

「いやだ。」

と晶が断る。

明智はノートを取ろうと手を伸ばすが、ぼんやりとした状態で、反応が遅くなり、晶が簡単に彼の手を避ける。もう一度試そうとすると、今回は手に持っていた鉛筆も落とす。鉛筆は彼の手から落ち、ベッドから地面に転がる。明智はゆっくりと座ったまま鉛筆を拾おうとするが、その気力すら残っていないみたいため、あきらめる。

晶は鉛筆を拾い、明智は期待な目で彼女を見る。

「返してあげる気はないよ。ほしいなら、取りに来てね。」

晶はノートと鉛筆を自分のベッドサイドテーブルに置く。この距離だと、明智の位置から届くはずがない。

明智は不満そうにぶつぶつと言いながらあきらめる。

晶は自分のベッドサイドテーブルの隣に立つ。

「ほら、休んで、晩御飯の時間に起こすから。」

「眠くない。」

口ではそう言っているが、実際明智は目を開けることすらできない。動きが鈍いうえ、声すらまともに出ない。

「はいはい。」

晶の口調は皮肉だった。誰が見ても、明智は寝る寸前見たいな顔をしている。

「じゃ、何かしたいことがある。」

眠いとは言え、明智は晶の議論を一つ一つうまく反論してきている。それに感服しているが、ここで論破されては困る、そのため、晶は一言を加える。

「当然勉強以外のことだけど。」

明智は反論する余地が残されていないことを気付くまで少しかかる。何にも喋らずに、開けることすら困難な目で晶を見つめるしかできない、まるで、自分が眠くないと証明しようとしている。そして、彼は立ち上がり、歩き出す。

「ちょ、何をしてる。」

晶は慌てて明智のもとへ向かう。何かにつまずいて転んだら大変なことになる。

明智は彼女の後ろに回って。

「え?明智君、何を?」

振り向かおうとする晶の眼鏡は明智にとられた。

「ちょっと、返してよ。」

「い、や、だ。」

先、晶が言ったように明智は言う。

動きが鈍くなっている明智から眼鏡を取り戻すことは簡単。しかし、このままにすると彼女は決めた。これで明智を喜ばせることができるなら、別に眼鏡が取れれるくらいで、困ったりしない。相手に勝利を味わわせることも、また怪盗にふさわしい作戦である。

彼女の作戦はうまくいったようだ。明智は眼鏡をベッドサイドテーブルに置き、誇らしげに北叟笑む。

「参った。」

晶はため息をつき自分の負けを認める。

「探偵君に一本取られたね。」

これは明智を説得させたようだ。彼は誇らしそうに笑い、再び彼女に舌を出す。

自分の勝負欲を必死に抑え、晶は元々手にした勝利を手放す。同時に、ありのままの明智の可愛さに叫ばないよう注意する。元に戻ったら、明智はこの出来事を思い出せるのかな、またこのような明智を見えることができるのかな。

「もう喧嘩はやめよう。君との関係を悪くしたくないから、仲直りしよう。」

晶が提案する。

「取引しない?ノートと鉛筆を返してあげるから、眼鏡を返して。それでいい?」

少し考えて、明智は頷く。二人はそれぞれのベッドサイドテーブルからものを取り、近づく。でも、明智はものを受け取ることも、眼鏡を渡すこともしない。彼は、眼鏡を両手にして、晶の鼻にかけようとしている。

晶はたまらずに笑いだす。

「明智君、メガネが逆様になってるよ。」

ぼんやりとしている探偵は恥ずかしそうに動きを止め、眼鏡をひっくり返して、もう一度晶の鼻にかけようとする。真顔で眼鏡を晶にかけようとする明智が可愛すぎて、ほほえましい。結果、手間をかけたとはいえ、晶の眼鏡は無事に元の場所に戻った。

「オー、明智君は優しいね、ありがとう。」

晶はノートを腕に持ち、手を伸ばし、明智の頭に軽くポンポンする。

「これは明智君のもの、返してあげるね。」

明智は自分のノートをベッドサイドテーブルに置き、やっと自分が勉強できる状態ではないことを認識したようだ。彼は疲れ切ってようにベッドに座り込む。

「少しくらい寝よう。」

晶は明智に言う、そんなことを聞いて、彼はまた不満そうな顔をする。

「もう、寝るたびにこんなに手間をかけると、モルガナと絶対うまくいかないね。あ、モルガナってうちの猫だよ。夜更かしするたびにうるさくて。」

明智は笑いだし、ちゃんと話を聞いていることを示す。

「明智君、とりあえず私がメールをチェックしてる間、少し休んで。終わったら起こすから、それで一緒に晩御飯を食べよう。」

機嫌悪そうであるが、明智は横になる。しかし、彼は表情を歪ませ、手で頭を押さえ、うなり声を出す。

「また頭痛?」

晶は彼のベッドの隣まで歩く。

何もなかったように装い、明智は手を下ろす。

「大丈夫。」

そのような言葉を信じるはずがない。晶は手を伸ばし、軽く明智の頭をなでる。

「やめろ。」

明智は弱弱しい声で抗議する。

「え?」

晶は自分の行為が彼の辛さを増したと心配し、手を止まる。

「自分のことをやればいいじゃない。そのため僕を寝かせるつもりだったんじゃないのか。僕が邪魔だから。」

「な!」

自分の耳を疑うほど驚いた。

「どうしてそうなるの。そんなこと言ってないでしょう。」

明智は嘲笑う。

「言わなくても、そう考えているだろ。」

「違う。私はただ、自分のことをしている間、明智君が少し休んだほうがいいといっただけで。」

明智は疑っている目で晶を見る。しかし、数秒後、彼は目を閉じ、疲れたようにため息をつく。

「僕のことを気にするな、やりたいことをやればいい。」

若い探偵の反応に困惑を持ち、晶は反省する。自分が何か彼をそう思わせることを言ったかな。彼を少し楽にさせたいだけなのに。晶は明智の抗議を無視し、彼の頭をなで続ける。今回明智は疲れ切っているようで、もう反論する気力すら残っていないみたい。それで、間もなく、明智は眠りについた。

晶は自分のベッドへ戻り、スマホを取り出す。まずは双葉とモルガナの連絡をチェックし、そのあと、ハワイにいる友達からもらったメールを目を通す。時差の影響で、SNSの代わりに、メールを使っている。これは真の提案だ。竜司の話によると、別に残念がることはなさそう、ハワイに行っても、やっていることは日本にいる頃とはそう変っていない。ごはんも一緒にビッグバンバーガーで取っている。そういえば、昨夜明智と怪チャンのランキングと奥村フーズの社長の話をしている時、確かにこの名前が出てきた。でもこの話をするには、友達がハワイから戻ってからにしよう。晶はもらったメールをいちいち返事して、スマホをしまう。

明智が寝てから15分くらいがたった、しかし、今はまだ休ませたほうがいいと思って、晶はもう少し待つことにする。ニュースをチェックして、スマホゲームを20分ほどしてから、明智を起こそうと、彼のベッドに向かう。

「明智君。」

晶は軽く明智の肩をたたく。

寝返りしながら、明智は眠そうに瞬きする。彼は晶を見つめ、笑う。いつもテレビで装っていた笑いではなく、純粋で、自然な笑顔。

晶は微笑みながら言い出す。

「大丈夫?」

明智はゆっくりと体を起こし、立ち上がる。彼は静かにうなずき、バスルームへ向かう。数分後明智は部屋に戻る。頭に冷たい水で被ったとはいえ、眠気がまだ冷ましていないようだ。

晶は心配そうに聞く。

「まだ頭痛するの?」

「もう大丈夫。」

明智は弱弱しい声で答える。

明智の目を見つめ、晶は聞く。

「本当?嘘言ってないようね。」

明智は彼女を見つめ、頷く。

「ならいい。」

今度こそ正直に答えているらしい、晶は微笑みながら聞く。

「一緒に晩御飯を食べに行かない?」

少し間を空いて明智は答える。

「い、行く。」

彼の声はまだひどく引きずっている。

晶は心配している、明智は確かに少し前より状態がよくなっているとはいえ、その薬の副作用はまだ完全に消えていないみたい。

「本当?ごはんを部屋まで持って帰ることもできるよ。」

「行くよ。」

と彼は繰り返して言う。このような方法で意思を主張するつもりらしい。

「明智君がそういうなら、わかったよ。」

晶は明智の隣まで行き、彼の腕に手を置く。

「心配しないで、付いていくから。」

部屋を出た二人はエレベーターに向かい、そこで待つ。しかし、数分がたち、エレベーターが来る気配はしない。明智は立ったまま、眠りにつきそう。

「少しかかりそうだね。」

明智を眠らせないよう、晶は彼に声をかける。

「階段で行く?」

明智は聞く。

「だめ!」

それを聞き、晶は断固に反対する。

「転んだらどうするの?」

「転んだりしない。」

そう言い張っているとはいえ、こんな眠そうな顔をしているから、全く説得力がない。

「その可能性は否定できないじゃない。」

「なら、一人で階段で行く。」

なんて頑固な人。

「だめ、あなたは私と一緒にエレベーターを乗る。」

一人で階段で行かせるものか。

「一人でも大丈夫。ずっと一人だから、大丈夫だよ。」

目をそらし、明智は小さな声で言う。

いつもの礼儀正しい探偵ではなく、手を焼かせる子供みたいな明智はかわいい。しかし、彼は晶の手助けを頑固に断っている。絶対何かがある、しかし晶は彼の心を開く方法を知らない。

そのやり取りは開いていくエレベーターの扉より止められる。

「エレベーターが来たよ、これで問題解決だね。行こう。」

明智の腕をつかみ、晶はエレベーターに乗る。

エレベーターの中はかなり混んでいる。二人の少年少女の間はわずかな隙間しかない。短いのりとはいえ、明智は無意識的に体重を晶にあずかり、眠りに落ちそうにしている。

レストランで晶は二人分の食事をとり、明智のためにフォークを取る。さすがに、今の明智がお箸を使えるとは思えない。今日も、昨日と同じように、二人は同じテーブルで食事をとる。明智は眠そうな顔で晩御飯を食べ始める、若干遅く進んでいる以外、何の問題もなさそう。晶は自分の晩御飯を先に終わらせ、少し明智を待つことにする。

明智を付き添って部屋まで戻り、交代でバスルームで歯を磨く。

晶がバスルームから戻る時、明智は惨めな顔をして、俯いて自分のベッドに座っている。

「明智君、どうしたの?」

沈黙、やがて彼は口を開く。

「いつもそう。」

彼の声が低すぎて、聞き取るため晶は彼の隣まで歩くしかない。その話は晶にしているというより、独り言に近い。

「居候している時もそうだった。何をしても、どんなにいい子であっても、その家族の生活にとっては邪魔者で過ぎない。彼らの時間、金を無駄に消費する重荷で過ぎない。」

深くため息をつき、明智は続ける。

「部屋を共有するべきじゃなかった。今になって僕は君の生活も邪魔している。」

孤児や隠し子はよくつらい目にあう、そんなことくらい晶も知っている。しかし、明智が転々としていた生活を想像したことなんてなかった。今までの話により、どこに行っても歓迎されず、重荷として扱われているみたい。だから彼はいつも礼儀正しく人と接しているのか。人に自分がいい子であると認識させるにはそうするしかなかったのかな。

「そんな、邪魔なわけないよ。実は今部屋を共有してよかったと思ってる。私がいなかったら、誰があなたの看病をするの?」

明智は一瞬に黙り込んだ。

「晶、何でそんな必死に僕を助けようとするの?」

「それに何か問題でもあるの。」

「実は単なるお世辞だったよね。」

「え?」

晶は明智に問いかかる。

「お世辞?お世辞だけで部屋を共有するなんて言い出す人がいる!助けたいから言ったに決まってるでしょう。」

その一瞬、明智の顔は希望に照らされる。

「それって、君は僕のことを心配していると思っていい?」

「当たり前じゃない。」

「ほ、本当?」

明智の声が震えている。

「でも、ありえない、誰も僕の心配なんって……」

晶はやっとわかった、今の明智が子どもぽい理由を。今ここにいるのは18歳の明智ではなく、捨てられ、心の奥に閉ざされた子供の明智だ。それは、誰にも目を向くすら思わなかった故、心の奥底に抑えられ、すべての辛いことを耐えた子供の感情だった。

「心配してるよ。」

晶はそう答える。

「彼らに何をされたか、教えてくれる?」

沈黙、晶は明智が答えてくれないと思ったときに、彼はやっと話し出す。

「施設で、頭数を増やすために残された。子供が増えると、国からの補助金も高くなる。年上の子にいじめられても、誰も助けてくれない。」

明智は辛そうに語る。

「血筋が大事にされている今の社会、隠し子はいつも蔑まされる。僕が隠し子だと知られるといつも嫌われてた。どうやら、悲惨な事故故に、孤児になったことと、取り入れてくれる親戚が見つからないから施設に送られたのは違うみたい。新しい居候家庭に引っ越し度に、過去が知られ、蔑まされ、取り入れてくれたこと自体を後悔された。施設の補助金だけを目当てにする居候家庭があれば、ほかに行く当てがないから、無理やりに押しつかれた居候家庭もあった。無視する家庭があれば、理由もなく殴りかかってくる家庭もあった。福祉施設にばれると、新しい家庭に送り出せ、それで過去が知られ、また同じパターンが始まる。何回繰り返したかは今になってもう覚えていない。少しでも優しくしてもらえるため、僕はできるだけいい子にしてきた。少し効果はある、でも心配してくれる人なんていなかった。」

胸が締め付けられたように苦しい。なぜ明智に対してそんなに残酷なことをするの?この頑固でありながら、可愛くて、優しい子になんてことする。補助金目当てで引き取るなんて、冗談じゃない!こんな人達みんな改心するべきだ。彼はこの社会に絶望した、それは全部腐っている大人、とわけわからない福祉施設のせいだ。明智の過去は怪盗団のだれよりもつらい。トラウマになって、近づいてくる人はみんな何かを企んでいるように思うことになっても仕方ない。だからほかの人を信用できない、だから彼女の助けを拒否する、だから自分で大丈夫と言い続ける。それを知り、晶はより彼を慰めたくなり、より彼を心配する。

明智は立ち上がり、躊躇しながら晶の隣へ向かう。

「本当に、僕のことを心配してくれるの?」

その声に期待があふれ出ている。

「本当だよ。」

晶は頷く。

晶は決意をする。彼女は一瞬で二人の間の距離を縮み、明智を抱きしめる。明智の目に光が灯した。彼は嬉しそうに笑い、腕を伸ばし、晶の腰に巻き、彼女を抱きしめる。その力が強くて、まるで晶は彼の命綱みたいだ。明智は今自分が何をしているかを理解しているかどうか晶にはわからない。元通りになると、今のことを思い出すかどうかもわからない。でも、今の明智は喜んでいる、それだけでいい。

明智はまた体重を晶に寄せる。薬の副作用がまた回ってきたみたい。彼は頭を晶の肩に乗せる。

晶は手を伸ばし、ゆっくりと彼の髪をなでる。その動きは明智が動くまで続く。

「なんで?」

探偵は眠そうな顔で聞く。

「なんで、心配してくれるの?」

「う……、」

正直に言うと、晶もわからない、そんな質問にまともな答えを持っている人がいるかな。

「わからない。探偵君、変なことを聞くね。私達は今話していて、私はあなたのことを少し理解してきて、あなたを大切に思うようになった。それくらいかな。」

「それだけ?」

何か面白いことを聞いたように明智が笑う。

「本当、君らしい答えだ。何でも簡単そうになる。つまり、これは自然に生み出した環状とでも言うのか?」

「そうよ、少しずつ友情を育つと約束したでしょう。」

「友情。」

明智はこの言葉を知らないように繰り返す。

「僕たちって、本当に……」

「友達になれる、って聞きたいの。当り前でしょう。」

でも明智は悲しそうにしている。

「君の心は純粋で、きれい。僕のとは大違いだ。」

「そんなこと言わないで。」

「それが事実だ。」

明智は低い声で言う。

「僕の心はめちゃくちゃだ。もし君が僕の心の中をのぞくことができたとしたら、好きになるわけがない。」

その苦痛に染められた表情で彼は言い続ける。

「僕は弱かった、それで、取り返しのつかない間違いをした。」

それってどういうこと?

「取り返しのつかない間違い?何のこと?」

「僕、僕。僕は……」

明智は晶の腕から逃げ出し、目を閉じ、頭を横に振る。

「いやだ、今は思い出したくない、いや、もう二度と思い出したくない。僕は、僕は……」

涙を必死に堪えようとしていた明智は気持ちを抑えきれず、その雫は彼も目からボロボロと落ち始める。

「明智君。」

晶は戸惑う、これは明智の隣に向かうべきか、ティシューを持ってくるべきか。結局晶はカバンの中からティシューを取り出し、明智の涙を拭き始める。それでも、明智はまだ必死に涙をこらえていると晶はわかっている。

「我慢しなくていいよ、泣きたければ、泣けばいい。」

「でも、泣いたら、また殴られる。」

明智の声は涙にむせられている。

晶にはそれを理解することができない。

「殴られる?誰に?」

「大人たちに、いつも、僕がうるさくって寝られないと言っている。」

「え?」

やっとわかった、これはまた明智が抑え続けていた子供の自分だ。それはきっと居候家庭で起こったでき事。

「今は私達しかいないよう、ほかにだれもいない。」

「大人たちはほかの部屋にいる。怒鳴りながら出てくるよ。」

「そんなことないから、私を信じて。」

晶は明智の肩に手を置く。

「泣いてもいいよ、明智君。」

それを聞いて、明智はもう涙をこらえることができなくなる。爆発的に泣き出し、まともに声すら出なくなる。

まるで改心された鴨志田や班目みたいだ。拭いても、涙はまた彼の目から出る。それでも、晶はせかさず、彼の涙が止まるまで拭き続ける。

「今言いたくなくてもいい。言いたくなったら、私いつでも聞くから。」

明智は何も言わなかった、ただ恥ずかしそうに俯いている。

「もう寝ないと、明日は早いよ。」

晶はそう言う。

「寝たくない。」

またこれ。晶はため息をつく。

「もう立ったまま寝てるよ、明智君。」

「終わらせたくない。」

「何のこと?」

「今のこと終わらせたくない。これは夢だろう。」

少し止まり、明智はまた口を開く。

「そうだ、君が僕のこと心配してくれるといった、これは夢だ、この夢を終わらせたくない。」

と明智は呟く。

「目を覚ますと、夢が終わってしまう。でも寝ないと、目を覚ますこともない。だから寝たくない。それで目を覚ますこともできない。」

「明智君。」

彼の崩壊した理論がおかし過ぎて、晶は笑いたくなる。でもそれだけ明智は傷つけられたってことだよね。

「これは夢じゃない、現実だよ。」

「現実?じゃ、明日目を覚ましたら、まだ僕のことを心配してくれるの?」

「もちろんだよ。」

沈黙。

「わかった。」

やっと妥協してくれたらしい。

「明智君。お休み。」

晶は明智を抱きしめ、軽くお休みのキスをする。それが彼を微笑ませたが、彼はその場から動かない。

晶は電気を消し、自分のベッドに戻る。すぐに眠りについたが、少し経つとまた目が覚ます。

「晶?」

小さいが、明智の声が聞こえてくる。

「何?」

その声で、晶は目を覚ます。明智は彼女のベッドの隣で立っている。

「明智君、どうした?」

明智は手を伸ばし、枕を沿って晶の頭を探す。何回彼女の髪をなで、最後は彼女の顔に止める。彼は動きを止め、手を一度離す、少し音がした後、彼はもう一度彼女の顔を触れる。その感触から、先の音は明智が手袋を外す音だ。

「明智君?」

彼はじっくりと晶の顔と髪をなでている。まるで初めてこのようなものを触っているように、丁寧に触れている。最後に一回彼女の顔の位置を確認して、彼は晶の顔を近づき、その頬に優しくて、好意を込めたキスをする。

それが温かくて、優しくて、やわらかいキスだった。

明智は晶がご飯に行く前にしたように、彼女の頭をなでる。その温かさは晶の心を包み、彼女を眠りにつく。彼女が覚えた最後のことは、正義のコープがランクアップしたと宣言する声だった。

 




この小説。「偽りなく」は三章しなありません。すなわち、次の章で、この話は完結します。その続編である「反逆の翼」は現在まだ連載中となっております。現在32章まで更新されています。章ごとかなりなボリュームがあり、原文の文字数40万弱となっております。「偽りなく」の翻訳が終わり次第、訳すつもりであります。

最近は忙しくなりつつ、翻訳をする時間が少なくなっています故、投稿するスピードは今までより遅くなると思われます。決して投げ出すつもりではないので、どうぞ、ご了承いただければ幸いです。

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