神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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注意:上弦の肆である半天狗さんの過去が改変されています。原作そのままが好きな方はご注意を。


第9話「ほんりょうはっきなの!(前編)」

「おひいさま、どうかお許しを……。儂はすでに過去と今において、二人の主をもっておるのですじゃ。それだけでも特別であるというのに、おひいさまにまで忠誠を誓えばどうなるか……」

 

 平安の世においては藤原千方(ふじわらのちかた)。そして明治の世においては父、鬼舞辻 無惨。半天狗のお爺ちゃんは上弦の中でもある意味、特別な立ち位置を許された鬼でした。

 つまりは元々、半分は裏切っていると言っても過言ではなく。半天狗のお爺ちゃんがよせる忠誠心は最初から、はんぶんこされているのです。

 

 そんな特殊な事情があっては当然、私「鬼舞辻久遠」の入り込める隙間などあるはずもなく。

 桃太郎における最後の家来「キジ」はすでに父のモノに他なりません。

 

「……そう。なら、い~~らないっと」

 

 残念きわまる現実を前にして。

 私の口からは自分でも驚くくらい軽く、不気味で、何とも低い声がこぼれます。そんな感情の変化と同時に、私の身体も変化を開始しました。

 

「ヒィッ!?」

 

 ひそかに自慢のぱっちりとした右眼を、血のように赤く、鋭く。

 鬼ヶ島で堕姫お姉さんにしっかりと磨いてもらった爪もまた、血のように赤く、鋭く。

 原初の鬼(ちち)から受け継いだ狂乱の血を、沸き立つくらいに熱くたぎらせて。

 それまでちょこんと(ひたい)から出ていた可愛らしい角が太く、長く。私は原初の鬼の後継者に相応しき姿へと変貌してゆきます。

 

 当時の私は間違いなく「自分の思い通りにならなければ我慢できない、我がまま娘」でした。

 

 しかもその我がままっぷりは、誰もが一度は通る自我の発芽という意味合いではなく。父から受け継いだ「原初の鬼」からくる鬼の本能(よくぼう)が、私の心を否応なくかきたてるものだったのです。

 それは私だけが覚えた感触ではありません。周囲の温度が低くなったような錯覚を覚えたと、後にデンデン丸は語っています。それも私の傍で感じたのではなく、私の姿が中へと消えた千方窟の入口からでさえ絶望的な威圧感を覚えたそうで。

 

 私と炭治郎君の物語をお読みの皆様なら、ご存知でしょう。

 普段はそれほど人と変わらぬ私の姿が、妖艶なる美鬼へと変貌するその御技を。

 

 半人半鬼である私だけが使える、私だけの秘儀。

 人の心を片隅に押し込め、鬼の狂気を前面に押し出し、父より受け継いだ力を最大限に発揮させる鬼化の術。

 

 それを、私は「鬼人化」と称しています。

 

「おひいさまの姿が変わられた! 美しいのう楽しいのう、何が起こるのかの――――」 

 

 当時の私は、語り部である十七歳の私と何ら変わることのない姿にまで手足を伸ばし。

 その細くも長い、女性らしさが滲み出た白磁のごとき腕を一度、乱雑に振るいます。

 けっして洗練されているわけでもない、手刀ととも呼べぬ一閃でした。それでも可楽と言う名の半天狗の分身体は、最後まで言葉を放つことなく腰から二つにちぎれたのです。

 

「――――っ!? …………ぐうううぅ」

 

 悲痛な呻き声をもらしながらゴロゴロと可楽の上半身が転がり、本体である半天狗の眼前で止まります。鬼なので別にこの程度で死にはしないのですが、体力が削られる事実には違いありません。

 そんな陰惨な光景を前にして、半天狗のお爺ちゃんは腰がぬけてしまったようでした。

 

「ヒイィィィッ、可楽(からく)!? 空喜(うろぎ)、はよう儂を連れて逃げてくれっ!」

「残念じゃがここは洞窟の中、儂の羽根は使い物にならん。同じ理由で積怒(せきど)も使い物にならんじゃろう。哀絶(あいぜつ)を出さねばならんと思うぞ?」

「いやっ、アヤツは――」

「なら、お外で遊ぶ? くおんが連れて行ってあげるの」

 

 楽の分身体である可楽を身代わりにしてコソコソと対策を練る二人の前に、ゴゴゴゴという背景音を引き連れながら迫る私の姿がありました。

 鬼人化し終えたその姿は、まさに父が女装したかのよう。ですがこの時の未熟な私は父から受け継いだ暴虐の血脈を制御できません。くわえて右手には犠牲者(からく)の所持品であった芭蕉扇(ばしょうせん)のごとき団扇(うちわ)が。

 

「半天狗のお爺ちゃん。……鬼ヶ島でやってた鬼ごっこの続き、する? せえのぉっ――――!」

「お待ちくだされ、おひいさま! 外はもうすぐ、朝日が……。ヒイイイイイイイイイィィィ――――…………っ!!」

 

 その瞬間。

 この千方窟に居る者の聴覚は、自らの役目を放棄しました。

 半天狗の悲鳴は、私のおこした大砲のような轟音にかき消されたのです。

 

「みんな、みんな吹き飛んじゃえええええええええええっ!!!」

 

 道具とは使う者によって姿を変えるもの。下等な鬼ならば涼風を、上弦の肆であれば人を吹き飛ばすほどの突風を。そして、この鬼舞辻 久遠であれば全てを薙ぎ払う竜巻を。

 数千年の歴史を紡いだ千方窟の奥地にて作られた、つららのような鍾乳石達は根こそぎへし折られ。命あるもの無いもの区別なく、風が津波となって朝焼けのさし始めた洞窟の外へと吹き飛ばす。

 そんな私の姿は正に昨夜、デンデン丸が絵物語であると一笑にふした風鬼の姿に違いありませんでした。

 

 

 ◇

 

 

「ひゃっほううううう――――――♪ ねえ、お外なら飛べるんでしょ? 飛んでみせてよ、ねえ!」」

 

 自らが発した暴風に乗って洞窟を飛び出した私は、必死になって飛行体勢を整えようとしている空喜の背中へと華麗に着地しました。

 これから先はお勉強の時間。先生は私、教え子は半天狗です。課目はこの私、鬼舞辻久遠に逆らうとどうなるか。それ以外にありません。

 表向きは楽しい嬌声をあげている私ですが、心の中では自分に従わなかった半天狗に怒り心頭なのです。

 

「お父さんとくおん、どっちが怖いかしっかりと教えてあげるの!」

 

 ふかふかした羽毛に包まれた背中の上で人差し指をつき付け、私はキッパリと宣言します。

 

「ヒイイイィ…………っ!? 空喜っ、おひいさまを振り落とせっ。 いや、振り落としなんぞしたら後が恐ろしい……! ああ、儂はどうすればっ!!」

「……喜ばしく、ないっ!」

 

 まるで(ノミ)のように小さくなった半天狗は羽毛の中から震え声を出し、本当なら喜ばなければならないはずの空喜でさえ背中の私を見て怯えています。そんな恐怖にそまった感情の色が更に嗜虐心を刺激させ、私の暴走は悪化の一途を辿っていくのでした。

 

 

 

 

 

 一方、表で待つよう命じられていた猿と犬……。デンデン丸とドロ助もまた、主の変貌ぶりに顔を青ざめていました。

 特にまだまだ私を知らないドロ助、泥穀は恐怖のあまり歯をガチガチと鳴らしています。

 

「なんだよアレ。……本当に、本当にあの子は『あの御方』の娘だったのか?」

 

 伊賀の里で多少なりとも力を見せたとはいえ、彼を家来にしたあの時は鬼人化もしておりません。実は本当に私が父の子か、半信半疑だったようです。

 くらべて私が何者であるか深く知るデンデン丸、響凱は表情を固くしながらもこうなることを予測していたようでした。

 

「久遠様が受け継いだ血脈は、狂気と破滅を謳う原初の血。しかしてまだまだ、うまく制御できておられぬのよ。それゆえに一時の感情の起伏によってアッサリと理性を失う。だからこそ、無限城で蝶よ花よと育てられてきたのだ。

 ……いや。あまりにも恐ろしい存在ゆえに、誰もしつけを行なえなかったと言ったほうが正しいかもしれぬな」

「けど、俺がガキよばわりした時には……ここまで」

「お主の無用な挑発が、導火線を短くしたのは事実だが。……それだけ今回の件が、おひいさまにとって逆鱗に触れるものだったというわけだ」

 

 当時も今も、私にとって「家族の絆」とはかけがえのない宝物です。

 たとえどれだけの金塊をつもうが、どれだけの力を見せ付けようが、これだけは容易に得ることはできません。そんな、人から見れば当たり前の感情を……私はどれだけ渇望してきたでしょうか。

 

 私の前には大きな壁が立ちはだかっているのです。

 父である鬼舞辻 無惨と、生まれもって受け継いだ「原初の血」という大きな壁が。

 

「身体の発育なんぞは時間が解決してくれるもの。見ての通り、おひいさまがその気になれば成長されたお姿を拝観(はいかん)できぬでもない。おひいさまが真に欲するは忠実な僕か、あるいは……」

 

 そこで響凱は口を閉ざしました。無限城での生活から私を知る彼でも、私の真意を図りかねているようです。一方の泥穀は里での悪口を後悔したのか、露骨に話題を変えようと試みます。というよりはこれが今、一番の懸念事項なのでしょう。

 

「……城を吹き飛ばすほどの風なんて、不可能じゃなかったのかよ」

「おお、普通の鬼では不可能であろう。だが我等が主は普通ではない。おひいさまはな、これまで決して生まれることのなかった『あの御方の血』を半分も受け継がれた……かつて無い大鬼なのだっ!!」

 

 通常、父が鬼化した人物に与える血液は数滴。上弦の鬼ならばそれなりの量を頂いているでしょうが、けっして身体を巡る血液の半分を占めている鬼など居はしません。その事実を響凱は、まるで自分のことのように誇っていました。

 ですがまだ家来になったばかりの泥穀は、そこまで私を信じられず身体を小刻みに震わせています。

 それは同行していた二人とて同じこと。私の豹変に驚いた珠世先生は、愈史郎君に守られながらも必死に解決策を探し求めていました。

 

「あの子を、久遠ちゃんを鎮める手段はないのですか?」

「……一つだけ。おひいさまはこの状況を想定されて、我等に奥の手を託されておる」

「ならさっさとしろよっ! 迷ってる場合じゃないだろ!?」

「小生だけではおそらく足りぬ。泥穀、これより先は本当の覚悟が必要だ。お主が真に『おひいさまの従僕となる覚悟』がな」

 

 そう言って、響凱は懐からサラリとした黒い束を取り出しました。

 まるで絹糸のような、それでいて濡鴉の羽のような艶やかさ。それは他でもない私、鬼舞辻久遠が家出をする際に彼へ託した、自らの髪の毛です。鬼ヶ島に居た頃は腰ほどまでに伸びていた自慢の黒髪は、今となっては肩口ほどまでにまで短くなっていました。

 

「迷っている場合ではない。確かに泥穀、お主の言う通りではある。だがこの『これまで存在する筈のなかった第二の原初の血』を自らの体へ受け入れる覚悟があるか?」

「………………」

 

 響凱の問いに対し、泥穀は答えを出せずにいます。

 本来の鬼たる者が食すは人間の肉。それこそが最上の栄養素を含んだ万能食材であり、多くの鬼は人の肉を喰らって成長してゆきます。

 ですがそんな鬼の彼等にも限界がありました。自らの許容量を越えた栄養を体内に貯蔵できないのです。つまりは鬼としての成長もまた、個人の差はあれど止まってしまう。

 ならば己の許容量を拡大させるには何が必要か。それこそが父、鬼舞辻 無惨が与える「原初の血」でありました。全ての鬼がなぜ父に服従するのか。それは親であるからというだけではありません。自らの生を、力の成長を主たる父に管理されているためだったのです。

 

 ところが四年前、千年近くも続いたこの形に異物がまぎれこみました。

 居るはずのない主の子。だがその子から発せられる気配は疑いようもありません。私、鬼舞辻久遠という名の「二つ目の原初の血を持つ者」が誕生したのです。

 鬼ヶ島(むげんじょう)の鬼達は大いに戸惑いました。船頭多くして船山に登ると申します。これまで唯一絶対であった父のほかにもう一人、頭を下げるべき存在が現れたのですから無理もありません。

 父や私の「原初の血」は鬼にとって成長を促す良薬であると同時に、取りすぎれば身の破滅を呼ぶ劇薬でもあります。身の程をわきまえた量で満足しなければ、逆に自らの身体を食い荒らされる。

 

 響凱の言っている「覚悟」とは、そういう意味でありました。

 腹心たる上弦の鬼達であっても、父の血を頂戴した量は微々たるもの。それに比べて、私が響凱に持たせた髪の毛は「身体の一部」です。もしかすれば喰らっても何も起こらないかもしれませんし、身の破滅を招くかもしれません。

 私が家出を決行し、外の世界へ出る際。壱ノ家来である響凱は、即物的な褒美を何も望みませんでした。ですが私はそれで満足できず、母様から生まれて今まで伸ばし続けてきた己の髪の毛を切って、響凱に褒美として渡していたのです。

 

 いつか、デンデン丸が大変な時に使ってね。

 

 と。そして、

 

 デンデン丸なら。本当の意味で久遠の家来になると、何の欲もなく誓ってくれた響凱なら、きっと大丈夫だからと。

 

「おそれ多くもおひいさまは小生の忠誠を信じ、御身の一部を拝領してくださった。小生は一度、口にしておるがそれも少量。今のおひいさまを止めるとなれば、以前よりも多くの髪を頂かなくてはならぬ。

 そして泥穀、お前は小生のように身体へ慣らす暇もない。それでも己の素質と命と忠誠を、おひいさまへ捧げられるか?」

 

 更にいっそう騒がしいガチガチという歯鳴りが、泥穀の迷いを現しています。

 響凱とは違い、つい数時間前に出会ったばかりの私に命や忠誠を捧げろというのも無茶な話でしょう。

 

 それでも、ここが。

 

 沼鬼:泥穀の鬼人生における分かれ道であったのです。

 時間はもう、残り多くありません。いつ夜が白み始め、朝日が登るかも分からないのです。究極の選択を迫られた彼は、それでも手に渡された一房の髪の毛を凝視し続けるのでした。




 最後までお読み頂きありがとうございました。
 最近は青春と共にあった「ダイの大冒険」を横で流しながら執筆するのがマイブームのみかみです。
 前作のアニメ打ち切りは、子供心にも衝撃を与えてくれました。

 父:バランによるダイの記憶消失シーン
「忘れない……っ!(ダイ君)」
「…………へっ!?(TV前で呆然とするみかみ)」

 いやあ、十分くらいは何が起こったのか理解できませんでしたね。これが打ち切りというものかと、大人の不条理を初めてしった一件でもありました。
 今回の第九話にて描写した「鬼人化」も、竜の騎士における「竜魔人化」が影響されています。
 今回はぜひ、完結まで頑張ってもらいたいものですね。
 ではまた来週、日曜日にお会いしましょう。

 あ、鬼滅の刃劇場版おすすめですよっ!
 まだの方はぜひっ!! 特にアニメしか見た事ない勢は行くべきです!!!
 ネタバレが無ければ更に面白いですからっ。ああ記憶を消してから、もう一度見たい!!!!
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