神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》 作:みかみ
実を言えば、父に連れられて鬼ヶ島へやってきた当初から「私はみんなと何処か違う」と感じていました。
毎日寝るところや食べるところも、豪華でありましたがどこか寂しく。
思えば、半人半鬼であると周知される前から腫れ物扱いされていたような気もします。
だからこそ、私は。
自分だけを見てくれる、自分だけの家来が欲しかった。
鬼舞辻 無惨の娘である「鬼舞辻久遠」ではなく。
私は「半人半鬼の久遠」を見てくれる、本当の
我がままであることなど重々に承知のうえ。鬼達はどこまでいっても親である父、鬼舞辻 無惨には逆らえない。
生殺与奪を握られ、与えられる使命は「ただ、人を喰らって強くなれ」の一点のみ。
それが、いったいどれほどの苦行であるかは鬼である彼等にしか知れません。
これまで、どれほどの鬼が人を喰えずに滅びていったのでしょうか。
百? 千? いえ、万と言っても過言ではありません。なにせ平安の世から千年もの間、続けられてきた試みです。
そんな血塗られた歴史が続いたのちに生まれた異端の子。
それが私でした。
もし私に、鬼の皆さんを成長させる「新たな可能性」を提示できるのなら。
もしかしたら、鬼にとって新たな時代の幕開けとなるのかもしれません。
ですがそれによって到来する時代が平穏か、もしくは不穏かは。
まさに、神のみぞ知るといったところでしょう。
狂風雷雨という表現は正しいのか、誤っているのか。
天候と言う点では朝日の到来が待ち遠しい晴れ渡りようではあるのですが、吹き荒れる風と、落雷のような轟音は事実今、青山高原にて猛威を振るっています。
そんな自然災害のような人災の主犯は間違いなくこの私、鬼舞辻久遠です。
半天狗の分身である可楽から、風を吹き起こす団扇を強奪した私は正に風神様。只人が見るなら、古来より語られてきた鬼、藤原の四天王が荒ぶっているかのように写っているのやもしれません。
ばきばき、と。
ある森では暴風によって木々が折れ、吹き飛び。
ざくざく、と。
ある高地では吹き飛んできた木々が槍の雨となって突き刺さる。
「ねえねぇ、半天狗のお爺ちゃん! もっと、もっと速く、高く飛んでよ!! ねえっ!!!」
「ヒイィ、でしたら団扇を返してくだされえええええええっ!!?」
今の私はイジメっ子。
空喜の背中にまたがって、天邪鬼な小悪魔っぷりを全開で楽しみます。速く高く飛べと言っておきながら、暴風を吹き荒らして邪魔するのは命令している私本人なのですから理不尽なんてものじゃありません。
ですがこの理不尽さこそ強者の証。腕っ節だけではなく、色々な意味で鬼達の上に立つ者に許された暴虐無人さなのです。
とは言っても半天狗とて上弦に名を連ねる大鬼であり、父の腹心である事は間違いのない事実です。あまり情けない姿ばかりを見せているわけにもいきません。
「ヒグッ!」
前方から妙な
ピチャピチャとした赤い血が風に乗って私の顔へ飛び散り、前をみれば鬼の頭部がフラフラと揺れています。
それは怒の文字を持つ新たな鬼の誕生を意味していました。出所は空喜の首、なんと自分の首を跳ね飛ばして新たな鬼を作り出したのです。
「いくらあの御方の息女とはいえ、このような子供に振りまわされるとは情けないっ!」
「ヒイッ、積怒か。儂をっ、ワシを守れっ!」
新たに生み出たのはいかにも協調性のなさそうな、常に不機嫌そうな表情をうかべる若鬼です。
「いくら本体の命令とはいえ御免だなっ! 儂は怒りをぶつけるが役目、守りなど可楽と空喜に任せておけ。オイッ、チビ助!」
かちーん。
単純明快な一言が、私の中にある怒りゲージを一気に振りきらせます。
子供扱いで怒りを覚えるのはドロ助の時と一緒ですが、今回はあの時とは状況が違いすぎです。今の私に手加減するような理性はありません。
「ダ、レ、がっ! チビ助だあああああああああああっ――――!!」
私が乗る空喜の身体はいつの間にか、これまで登った山道を戻っていました。
つまりは後ろを振り返った先の盆地には伊賀の里があり、私の怒号は十分に麓まで届いたことでしょう。自分達が崇める神山からとてつもない轟音が響いているのです。里の者達がとるべき行動は多くありません。
里を守るために武器を取り立ち向かうか、それとも里を放棄して逃げ出すか。結論は、すぐ目の前にありました。
積怒の能力による雷が天より降り注ぎ、私の持つ団扇からは嵐のような狂風が吹きつける。それはまるで神の怒りのようにも見えたやもしれません。結果、伊賀の里に住む者達はもつれ合いながら落ちてくる私と半天狗の鬼達を仰ぎ見て――、
「おおっ、藤原の鬼神様や。皆の衆、我等の祈りが、一族の再興を祈り続けた儂らの祈りがようやく届きはったで!」
その場に平伏したのです。
◇
さて、一度お話の舞台を変えてみましょうか。
半天狗のお爺ちゃんを追いかけて飛び出した私に対して、千方窟に残った皆さんはどうしていたのか。残ったのは珠世先生と愈史郎君。そして私の
問題は私の家来である二人ですが、果たして無事に食せたのかは見ての通りです。
「おおっ、おおおおおおおっ???」
「こっ、これ泥穀。きちんと己の力を制御せぬかっ!」
「そうは言ってもよぉ? いきなり力があふれて……うおおおおおおおおおおおっ???」
場所は千方窟前の大広場。
急激な力の成長に戸惑うドロ助は溢れ出る力を持て余し、少しでも動けば体がどこかへ飛んでいきそうな有様です。
ですが、それも無理のないことでした。これまで野良で生きる鬼でしかなかったのに彼が、いきなり
幸いにもドロ助の身体は私の髪の毛を受け入れるだけの許容を見せたようですが、だからと言って使いこなせるかと言えばそれもまた別の話。
いわば人が一瞬にして、熊の腕と馬の足を得たようなものなのですから混乱するのも当然でしょう。
これぞまさに暴走列車。腕を振れば大岩を叩き割り、足を動かせば飛ぶように跳ねる。いかに私の、鬼舞辻 無惨から受け継いだ血による恩恵が凄まじいかを証明していました。
「我等は己が主を諌めるため、行かねばなりませぬ。珠世先生と愈史郎殿は一度、山小屋へと戻るがよろしかろう」
ドロ助よりもまだ、私の恩恵になれたデンデン丸が理性的に別れを提案します。
これより先は、戦う覚悟を持つ者のみが向かう戦場。人の命を救う職業にある珠世先生には、似合わぬ場所であることは間違いありません。
ですがお医者さまの使命は、戦場にこそあるのもまた事実。
「いえ、私と愈史郎も同行致します。あんな泣き叫んだ久遠ちゃんを放ってはおけません!」
「ですが……、命の保証はできませぬぞ?」
デンデン丸は刺すような眼光を突きつけますが、それでも珠世先生は微笑みを崩しません。
「あら、私も鬼ですよ? その私に命の心配ですか?」
「いえっ、ですが……」
「……無駄だ。こうなってはもう、珠世様は己の意見を曲げることはない」
本当であれば止めたいであろう愈史郎君もまた、ため息交じりに主人の意向に同意したようです。
「もはや久遠ちゃんが鬼舞辻 無惨の血を引いている事実を疑ったりは致しません。いえ、確信したからこそ放ってはおけない。鬼と人の狭間にあるあの子を救わずして、何のための医者ですか!」
「……こういうお人なのだ。普段は猫をかぶっておられるのだがな。まだ一応、俺達の目的は一致してもいる。……そうだな?」
愈史郎君がそう問いかけます。二人の目的は他でもない、「万能薬へ至るための知識」。
「今更、半天狗殿から万能薬の情報が聞きだせるとお思いか!? そもそも知っているかどうかさえ……」
「無理かもしれない、知らないかもしれない。それに鬼舞辻 無惨の腹心たる上弦の鬼でも知らぬのなら、存在自体しないのかもしれない。だが半天狗という鬼が、古来より語り継がれてきた藤原の四天王であることも確かだ。ならば虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言える。……無理矢理、こじ付けも良いところの屁理屈だがな」
口にしている愈史郎君とて、それが屁理屈であることは重々すぎるほどに承知の上でしょう。ですが彼の主はもはや止まりません。珠世先生の医者としての矜持が、撤退の二文字を断固として許さなかったのです。
「はいっ、もう正直に言っちゃいます。万能薬の情報あるなしに関わらず、私は久遠ちゃんを助けたいのです。本当の理由は私の我がまま、それ以外にありません。……鬼らしくて、分かりやすいでしょう?」
にっこりと開き直った珠世先生の笑顔は、それはもう晴れ晴れとしたものだったそうで。そんな彼女の笑顔をひるがえす術を、もちろんデンデン丸やドロ助が知るはずもなく。
そして後に、彼女が私の窮地を救ってくれることを未来の私はこの物語で知ったのでした。
本当に、今更ではありますが。
ありがとうございます、珠世せんせい――
「――それに、我がままな子には大人がしっかりお仕置きしてあげませんと。……ね?」
最後までお読み頂きありがとうございました。
いつのまにかラスボスと化した久遠ちゃん。
どうみてもバ○モスです。ゾ○マです。デスピ○ロです。ゴルベ○ザです。本当にありがとうございました。
対するは何とも頼りない勇者PTである家来達。
果たしてこの地に平和をもたらすことができるのでしょうか?
マホ○ーンやル○ニなんて効きやしませんよ?