神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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第一章は全14話を予定しております。
もちろん二章も鋭意執筆中ですので、まったりとお待ちください。


第11話「じゅうよくごうをせいす?」

 さてさて、舞台を再び私と半天狗の方へと戻しましょうか。

 どごぉんという、盛大な着地音。いえ、墜落音と共に私は数時間前までいた集落へと帰還していました。

 そこは江戸の時代に徳川幕府の諜報部隊として活躍し、今となっては農民同然にまで没落したドロ助の故郷、伊賀流の里。しかしてその心はすでに腐れ落ち、かつての栄光を思い出話として語り継ぐのみになっているといいます。

 そして今。墜落した衝撃で出来た大穴から顔を出し、土煙の先を見るなら。驚くべきことに、私へ平身低頭している村人達の姿がありました。

 

「ようこそお出でくださいました、藤原の鬼神様(おにがみさま)!」

 

 鬼神さま? そういえばドロ助から、藤原氏ゆかりの地である千方窟は彼等にとっての信仰対象であると聞いた気がします。

 鬼にとって人間は食料でしかありません。ですが人間にとってはどうでしょう?

 恐れ敬うべき天敵には違いありませんが、逆に超常の力を持つ存在(おに)を人間が神と崇め始めたのなら。宗教学に詳しいわけではありませんが、鬼が神格化したとしてもありえない話ではありません。

 ならば今、目の前で起きている現実を受け止める他ないでしょう。そしてそれは、私にとっても実に好都合だったのです。

 

「おじさんは……お伊勢さんの場所を、神藤のお家を教えてくれたひと?」

 

 落下の衝撃で多少は落ち着いた私は、先頭で跪いている中年の男性に見覚えがある事に気づきます。そしてそれは、相手方も同じだったようで……。

 

「貴方様はもしかして、昨晩のお嬢……」

「うん」

「ほんなら広場の大樹を倒し、泥穀を連れ去りはったのも……」

「うん」

 

 どうやら私がドロ助を助けるために大樹を粉砕した時の轟音は、キチンと届いていたようです。まあ、当たり前ではあるんですけど。ではなぜ騒ぎにならなかったかと言えば……、答えはこれまた目の前に存在します。

 

「くおんの名は鬼舞辻久遠。鬼達ぜんぶのおひめさま……、邪魔するやつはゆるさない」

 

 まんまるの瞳をせいいっぱい細くして。

 私はこの場の全てを、赤く輝く右の鬼眼で睨みつけます。鬼人化で成長した姿を見せつけて、もうこれ以上自分を子供だと侮ることは許しません。

 村人達は私が大木を粉砕する轟音に気づいていました。動かなかったのではありません、動けなかったのです。この村に規格外の化物が襲来しているという事実を、生来の忍びとしての勘で察知してしまったがゆえに。

 その事実を証明するように、私は空喜(うろぎ)積怒(せきど)の首根っこを両手で掴み上げ、ギロリとした視線を投げかけます。

 

「コイツらはくおんの家来じゃない。……だから、ぽいするの。文句ある?」

「っ、あろうはずもございません!」

 

 ただでさえ真っ青だった顔色を今度は真っ赤にして、里長は額を地面に押し付けました。

 里長も気づいていたのでしょう。

 私がネズミをつまみあげるようにもった二人の鬼が、他でもない藤原の鬼神様なのだと。自分達の信仰対象が、更に強大な鬼神様によって蹂躙される現実をつきつけられているのだと。

 

 この世は所詮、喰うか喰われるかの。

 

 二つしかないのだと――。

 

 それでは、いらないオモチャをポイするお時間です。ですがただ投げ捨てるだけでは無作法というもの。ゴミはゴミらしく、きちんと処分しなければなりません。

 楽の鬼も喜の鬼も、そして怒りの鬼も放置して私は「怯」の文字を持つ本体だけを地面に抑え付けます。もはや逃げ場など何処にもありはしませんでした。

 

「半天狗のお爺ちゃん、さよならのお時間だよ? 馬鹿だよねえ、くおんの家来になっておけばいいのに」

「ヒイイイイイイイイイイイイイっ!! おひいさま、どうか、どうかお助けをおおおおっ!!!」

 

「ばい、ばいっ♪」

 

 拳を作る前の右手を振り、私はニッコリと別れの挨拶をすませました。

 半天狗の額には叩き甲斐のある巨大なコブが鎮座しており、鬼ヶ島でのお遊びを思い出すかのように拳を振り下ろします。今度は鬼ごっこのように軽く叩いて終わりではありません。私の拳はコブを潰し、頭蓋をわり、半天狗の頭部を潰れたトマトのような有様にすることでしょう。

 一般的に不死身のように謳われている鬼達ですが、その弱点は決して日の光だけではありません。身体の致命的な損傷を再生させるたびに「何か」を消費し、その「何か」が尽きた時には。

 

 たとえ夜であったとしても。

 まるで日の光に当たったかのように、灰燼に帰すのです。

 

 ですが――。

 

 ばしゃん。

 

「………………ほえっ?」

 

 ぱきり、といった頭蓋の割れる乾いた破砕音は聞こえませんでした。代わりに聞こえたのは、私の拳が泥の中に埋まる水音だけ。

 それも当然、私がしっかり首根っこを押さえていた半天狗の小さな身体が突然、いずこかに消え去ったのです。

 

 いえ、消え去ったという表現は語弊(ごへい)があるようですね。

 正確には突然できた泥沼に沈み込んだと言った方が正しいでしょう。半天狗の逃げ場は上にも、左右にもありませんでしが、下である地面にあったのです。

 

 あきらかに半天狗の仕業ではない、第三者の反抗でした。

 このような血気術に心あたりがないわけではありません。私は確信をもって、犯人を特定します。

 

 いきなり地面に現れた泥の沼……、そして人間一人を何処かへと飛ばす特異な術。

 そんな芸当をこなす者など、私の家来達以外にいないじゃあ、ありませんか!

 

「泥穀、おひいさまに追いつかれたとしても回避を優先せよっ! たとえ今の状態でも、まともに一撃を喰ろうては再生できぬほどの微塵となるぞ!!」

「せっかく成長したのに足止めさえも無理なのかよおぉ!?」

「何はともかく、おひいさまのお怒りが静まるまで避けて、逃げ続けるのだっ!」

 

 沼の奥から聞こえてくる聞きなれた二人の声。

 幸いにも私の家来二人は無事、私のきびだんごを食べられたようです。血液そのものではなく、髪の毛であったことが幸いしたようですね。

 

 ですが制御できているかと言われれば、何とも頼りなく……。

 

「……なに? デンデン丸とドロ助も、くおんに逆らうのっ!?」

 

 そんな私の声は、土中にいるであろう二人には聞こえません。

 ですがそれでも構いませんでした。なぜなら、これは私自身に対する事実確認なのです。

 

 あの二人も、私の家来も。

 やはり裏切ってしまったのだという事実を、確認するための。

 

「……やっぱり、悪い子のくおんには、誰も優しくしてくれない。鬼ヶ島でも、此処でも。くおんが信じられる人なんて、誰もいないんだっ!」

 

 半ば、自暴自棄になりながらも。

 

 真っ赤な右眼に狂気を宿らせながらも。

 

 そして、両の瞳からあふれる涙を止められず。

 

 私は家来の二人を追いかけるべく、泥沼の中へ飛び込みました。水中なら涙をさとられることもありません。私は二人を捕まえられたとして、どんな言葉を告げるのかなど考えもせずに。

 残酷にも告げられた孤独から、必死に目を背けて――。

 

(もう、信じない。誰も……、信じられないっ! だいっきらい、みんなみんな。――だいっきらい!!!)

 

 ただ未練がましく追い続けていたのです。

 

 

 ◇

 

 

 ドロ助の生み出した泥沼の中は意外にも澄んでおり、視界の不便はありませんでした。

 だからこそ私は、必死になって半天狗のお爺ちゃんを引きずりながら逃げる、二人の家来をも簡単に視界へおさめます。

 対するデンデン丸とドロ助も、当然のごとく追いかけてくる私を察知しておりました。

 

「ぶくううううううう!(まてえええええええ!)」

 

 真っ赤な右の鬼眼をギンギラギンに輝かせ、がむしゃらに両手で水をかきながら私は二人を追いかけます。

 

「ぶくっ!? ぶーくぶく!?(うえっ!? どーすんだよ!?)」

「ぶくぶくっ! ぶくぶくぶくぶく!!(逃げろっ! 時間をかせぐのだ!!)」

 

 はたから聞けばふざけているとしか思えない会話の応酬ですが、当の本人達は大真面目です。

 私の家来である二人の血鬼術は、決して戦闘向きというわけではありません。いくら私の髪の毛(きびだんご)で力を増したとはいえ、正面から私の相手をするには無理がありますし、鬼人化で大人へと成長した私を傷つけられるわけもありません。

 当時の私は文字通りの暴走列車。通り過ぎた後にはぺんぺん草一つ生えぬくらいの力を誇りますが、(から)め手に対しては致命的な弱さをほこります。そしてその搦め手こそ、デンデン丸とドロ助が持ちえる数少ない勝機でもありました。

 

 地上の生き物はすべからく、酸素を必要とします。術者である二人はともかく、感情の赴くままに暴れるだけの私では酸素が持つわけもありません。

 

「ぶくぶく、ぶくぶくぶくぶくぶくぶく……(このまま、おひいさまが酸欠で気を失ってくださればよいのだが…………)」

「ぶく……(ああ……)」

 

 希望的観測を胸に、事態の収拾を願う二人。しかして私の左手には、二人が知らない新たな得物が握られています。

 ここは沼の中、つまりは水中。

 

 ぱちぱち、と。

 左手に持つ杖から雷のほとばしりが発生しました。そう、私は可楽の団扇だけでなく、積怒の杖までも奪い取っていたのです。

 

「…………(にっこり)」

「ぶく……ぶくぶく?(あの……おひいさま?)」

「ぶくぶく……ぶくぶく?(冗談……だよなぁ?)」

 

 無言ながらも、にまぁと笑みを浮かべる私。対して家来の二人はこの先の未来が見えたようで、顔を青くしています。

 

「ぶ――――くっ!(そ――――れっ!)」

「「ぶくううううううううううううっ!??(うそおおおおおおおおおっ!??)」」

 

 瞬間、沼の底は眩いばかりの光に包まれました。

 デンデン丸も、ドロ助も。そしてもちろん私も、その水中に飽和した雷の中にいます。同じ沼の中に居る同士、自分だけ雷を避けるなどという真似はできません。これは自分が父の子であるという己の頑丈さを利用した、自爆攻撃です。

 しかしてこの一撃が偶然にも頭が沸騰した私自身への沈静剤にもなるとは、まったくもって想像もしておりませんでした。

 

 この戦いはここまで。

 残りはトドメを刺すだけの、ぼおなすすてえじ です。私の勝利はどう足掻いてもゆるぎない、はずでした。はずだったのです。

 あの、怒れるお姉さんが襲来するまでは――。

 

 

 といったところで、このお話の続きはまた次回。

 これより先の私は新たに乱入した調停者の手によって、文字通りの手篭めにされてしまいます。

 自分で語るのはこれまた恥ずかしい内容ではあるのですが、この第一章ももう少しですのでよろしければお付き合い下さいね。

 

 神藤久遠からの、お願いなのですよ? 

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