神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

13 / 30
第12話「わがまま娘へのシツケなの?」

 暴走する私の一撃は天へと昇る龍のごとく。それは借り物の得物(積怒の杖)であったとしても違いはありませんでした。

 本来であれば天から舞い落ちるはずの雷が、地上の、しかも沼の中から間欠泉のように噴出したのですから異常以外のなにものでもないでしょう。

 

 常人がそれを見たのであれば、神の怒りだと錯覚(さっかく)し、とるべき行動など平伏の二文字しかありえません。しかして我等は鬼、神の意思にも抗う者達です。

 沼の中から雷の龍と共に地上に舞い戻った私は、帯電した黒髪がふわりと浮かび、自然と怒髪天の様相を表現していました。

 対する家来の二人は這う這うの体で地面を転がり、私を傷つけないよう回避を優先し続けた疲労が如実に見て取れます。それでも致命傷を負っていないのは、デンデン丸の血鬼術「迷宮御殿」と呼ばれる転移術によってドロ助の作り出した沼から沼へと、逃げの一手で雷をやり過ごしたからに違いありません。

 

「泥穀……無事であるか?」

「……なんとかな、黒コゲにはなってねえよ」

 

 だからと言って、無傷かと問われれば否。雷の速度は光のごとく、誰もがその脅威に抗えません。もし彼等が鬼ではなく普通の人間であったのなら、間違いなく消し炭となっています。

 

「けどもう限界だ。俺もアンタも、もう戦う力なんてこれっぽっちも残っちゃいねえ。……そうだろ?」

「……うむ。いざとなれば、小生が身をていしてでも止めてみせようぞ。泥穀、貴様はそのスキに逃げるが良い。これ以上、おひいさまの我がままに付き合う義理もあるまい」

 

 もともと、ドロ助は自分から望んで私の家来になったわけではありません。

 彼の暴言に腹をたてた私が、力をもって屈服させ、服従させたのです。デンデン丸もその事実を重々に承知していたのでしょう。これ以上の無茶を、ドロ助に強要したりはしませんでした。

 しかしドロ助にも意地というものがあるのです。

 

「……ふざけんなよ。ここまでやられて、逃げの一手なんて情けないにもほどがあるぜ。こうなったら俺らのおひいさまに、意地でもぎゃふんと言わせてやる」

「死ぬかも、……しれぬぞ?」

「忍びとして再興できないまま、農民として生きるなら死んでいるのと変わらねえよ!」

 

 歯をガチガチと鳴らし、充血した瞳には涙を浮かべて。それでもドロ助は逃げ出そうとはしません。そんな二人がぐぐぐっと両の拳を握り締め、雷光ほとばしるその先へ視線をむけると。

 

 雷を身に纏った彼等の王がそこにはいました。

 

「くおんはもう、誰も信じない。……信じられない。皆、みんな消えちゃえばいいんだ。最初から無ければ、……ほしくもならないんだから」

 

 全てを失ったと誤解している私はもう、現在と未来を絶望の闇でおおいつくしています。ガタガタと震えながらも意地を貫き通すドロ助、泥穀の顔さえも瞳に写さず。あれほど自分の身体を案じてくれるデンデン丸、響凱の顔さえも光の失った瞳に写さず。

 

 二人の頭上に、雷槌と化した右腕を振り上げ――――。

 

「……もはや、これまでか」

「……畜生め」

 

 振り絞るかのように漏れる、二人の最後となる声さえも聞こえずに。

 

 

 ――――振り下ろします。

 

 

 

 

 

 

 

「――――ダメよ、久遠ちゃん。この二人は、貴方の大切な家族なのでしょう?」

 

 冷や水のような、それでいて温もりを感じる。

 

 そんな声が、不思議と私の意識にもぐり込んできます。

 

 それはまるで弟子を叱る師のような。

 

 もしくは我が子を慈しむ母のような、そんな声でした。

 

「自分の意思をきちんと伝える、それはとても大切なことよ。でもそこに暴力があってはいけないわ。暴力は相手の意思を押さえ込み、恐怖を生む。……そこに愛情が生まれることは決してない」

 

 デンデン丸とドロ助、二人の首しか写らないでいた視界が広まり、顔をあげれば観音様のごとき微笑みをうかべる珠世先生がいます。

 

 ふわりと、私の視界は再び閉ざされました。今度は寂しげな真っ暗闇ではなく、母の温もりに包まれた椿柄の着物を視界いっぱいに写し。共に感じる柔らかな胸のやわらかさは、私に人間の理性と感情を取り戻してくれます。

 きっと、帯電した稲妻は珠世先生にも伝わっていることでしょう。しかして彼女は、私の背中に廻した両腕を離そうとはしません。

 

 それはきっと、母が子へとそそぐ無限の愛情。

 

「…………おかあさん」

 

 もう一年以上、顔も見ていない神藤家に居る母の顔が思い浮かぶようでした。

 そう、こんな感じで。いつも母は私が悪戯すると抱きしめ、膝の上にのせて……横抱きにし、腰巻をまくりあげてお尻を――――。

 

 うえっ、これも語りたくないなあ……。

 

「……………………ふえ?」

「だから――。悪い子には、お・し・お・き、ですっ!!」 

 

 珠世先生がそう言った瞬間。

 伊賀の里を中心とした盆地の全域に、ぱっし~~~ん!! っと、お尻をひっぱたく盛大な音が轟きました。

 

「いったあああああああああああっい!!」

 

 私はまるで、条件反射のように悲鳴をあげてしまいます。

 常識的に考えれば、鬼舞辻 無惨の娘である私にこの程度の張り手が効くはずもありません。更に言えば叩かれている箇所は脂肪の厚いお尻でもあります。更に更に言えば、別に拳打(げんこつ)より掌底(はりて)の方が痛いという理屈でもありません。何故だか解らないけど、珠世先生の手は私に明確な痛みをもたらしていました。

 

 私がどれだけ泣き叫ぼうとも、

 ぱしーん、ぱっし――ん! ぱっしーん!! と珠世先生の百叩きは止まる気配を見せません。たちまち私のお尻は赤い紅葉(もみじ)のような手形ができ、ジンジンとした痛みが襲い掛かってきます。

 

「ごめんなさい、は?」

「いたいの、やあなのぉ……」

「私の声が聞こえなかったのかな? デンデン丸さんとドロ助君に、ご・め・ん・な・さ・い・は??」

「……むぅ、でもぉ……」

 

 それでも私の中に残る意地が、言葉を濁らせます。

 ぱしーん!

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいいいいいいいいいい!!」

「私に言ってもしょうがないでしょ? ほら、きちんと二人に、ね?」

「うぅ……ごめんね、ドロ助ぇ、デンデン丸ぅ」

 

 だらだらと顔中を涙と鼻水とよだれで汚し、私は家来の二人へ謝罪の言葉をひねり出しました。一方のあやまられた当の本人達は、この光景を見ても良いものやら分からず、ひたすら顔を背けています。

 まあ、これまで私の我がままにつき合わされっぱなしだったので無理もありません。鬼の本能として、いえ野生の本能として弱者は強者に従うものです。自らの意志を貫き通したければ、己が力を示す他ありません。

 それは鬼にとっても常識。しかして鬼でありながら人の世に生きる珠世先生は、人の理で生きる者でもありました。人は鬼とは違い、力の他に愛情という心で動くこともあるのです。

 

「お二人も親御さんから娘さんを預かったのでしたら、最低限のしつけぐらいは行なうべきです。特に久遠ちゃんのような自我が芽生える時期ともなれば、今後の人格形成に多大な影響をも及ぼしかねません!」

「いえ、あの御方の娘であるおひいさまに我等がしつけなど恐れ多い……」

「主の娘さんという大切な存在を預かっているからこそ! その責任を果たしなさいと言っているのです!! ただ甘やかすだけが可愛がり方ではないのですよっ!?」

「そりゃあもう……珠世殿のおっしゃるとおりなんだろうけどよぉ……」

 

 これまでおっとりとしていた珠世先生の変貌に、デンデン丸もドロ助も慌てふためくばかりです。

 こうして始まった先生のお説教は朝日が昇っても終わることなく、焼け焦げるまえに近くの民家に避難してなお、お説教は続きました。もちろん、我がまま娘へのお尻ぺんぺんもです。ええ、それはもう一度日が沈む頃まで。

 その凄惨さたるや、こうして読んでいる今の私ですら身震いをおこしてしまうほどです。

 

 この出来事をきっかけに、私の心には珠世先生という存在が、恐怖の代名詞として刻み込まれることになります。

 ……普段はおっとりドジっ子属性の可愛らしい人なんですけどね。怒らせるとあぶないので、取り扱いには十分に気をつけましょう!




 最後までお読み頂きありがとうございました。
 あとはエピローグを2話ほど投稿して第一章の終了となります。

 子供の頃で一番優しくて、怖い存在といえばお母さん以外にいませんよね。実のお母さんではありませんが、強さ的にみても珠世先生は適任かと思います。
 まだまだ久遠さんの成長物語は続くので、引き続きまったりとお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。