神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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第13話「鬼は人とちがうもの」

 バタンと勢い良く障子戸(しょうじど)を開けて、脱兎のごとく。

 

「……う~~~……」

 

 もううんざりですと言わんばかりに唸りながら、私は玄関口へと逃げの一手を打ちました。

 

「久遠ちゃん、私のお話はまだ終わっていませんよ!」

 

 背中からは珠世先生の呆れ声。ですがもう、何を言われようとも関係ありません。

 

 私は限界でした。

 お説教も、正座も。

 もうおなかいっぱい、ぱんぱんなのですっ!

 

 

 

 激動の一夜がようやく明けた私達は今、伊賀の里にある村長宅でお厄介になっていました。

 この日本という国で生きる大多数の人が「清々しい朝」と表現する一日の始まりは、当然のごとく日の出どきでありましょう。

 しかして昼夜が逆転している鬼にとっては夕暮れが朝であり、「朝どき」とは正にこれから寝ようかという時間帯です。そう、鬼にとっての朝とは、人にとっては夕日が沈んだ頃となりますね。この場合、「清々しい夜」とでも表すのでしょうか。

 そう、新しい夜が来た。希望の夜だ! と謳いながら体操をし、一日の始まりとなる夕食をいただくわけです。ふふふっ、人である皆さんからすればちょっと可笑しな表現ですよね。

 

 そういう意味で言えば、今の私達は徹夜明けという表現がぴったりです。なにせ人でいうところの朝から晩まで、永遠と珠世先生によるお説教を受けていたのですから。

 私はもう、ヘろへろの、くたくたでした。

 

「珠世殿、おひいさまも十二分に懲りたでしょうから。……そろそろこの辺りで」

響凱(きょうがい)殿がそうやって甘やかすから、今のワガママ久遠ちゃんが出来上がっているのですよ!? 足の怪我だってまだ血が止まっただけなのです。また出血するとも限りませんから、新しい包帯を巻かねばなりません。そもそも、私とて怒りたくて叱っているわけではないのですよ!? 本来、この役目は本来あなたの……」

 

 今だお説教部屋に残るデンデン丸が、決死の覚悟で避雷針となり私をかばってくれています。ならば今、私にできることなど戦術的撤退以外にありません。

 私の血を吸ってカサカサになった包帯は動きづらく、感情のままに引きちぎって放り投げると慌てて珠世先生が受け止めてくれました。

 

「久遠ちゃん、まだ包帯をつけていないと傷が開きますよ!」

「デンデン丸が殿を務めている今が好機なの。てったい撤退、退却にあらず!」

「それ、……主人としてどうなんだ?」

 

 脱兎のごとく逃げ去る私の隣には、同情と呆れの感情を混ぜたような表情のドロ助が追従しています。

 

「デンデン丸は良いシモベだったの。()()()()()の気持ちを無駄にしちゃあ、いけないの……っ!」

「いや、死んでねえからな? お前も主人だっていうなら、ちっとは家来を大切にしろよ!?」

 

 そうは言いながら、私と一緒に逃げているドロ助とて同じ穴のムジナに違いありません。

 主犯である私や、保護者枠としてお説教攻撃を受けていたデンデン丸に比べて、ある意味被害者ともいえるドロ助は軽傷で済んでいたのです。

 

「わかってるもん。でももう、おせっきょうはこりごりぃ!」

 

 不満を溜め込みながらも、今は戦略的撤退を選択せざるをえません。決して逃亡ではありません、私は反抗を期すために撤退するだけなのです!

 それに今はこの憂鬱な気持ちを切り替え、新しい未来への活力を得なければなりません。

 

 そのためには、何かしらの気分転換が必要でした。傷を癒すための栄養も必要ですしね。

 

「お腹すいた~……」

 

 まず最初に思い浮かんだ方法は、腹ごしらえです。

 思えば、家出を決行した昨晩から何も食べておりません。私の可愛らしい小さなお腹は、きゅ~きゅ~と苦情を漏らしています。隣に控えるドロ助は平気そうですが、私は育ち盛りです。毎日三食、お腹いっぱい食べるのも四歳児の義務と言っていいでしょう。

 

「ドロすけぇ、オヤツな~~い?」

「……干し肉の類なら、あるけどよ」

「え~~、生がいぃ」

「生って、……まさか『現地調達』するワケにもいかねえだろ?」

 

 ドロ助からはかんばしい答えが返ってきません。

 しかして過剰なワガママを言えば、また珠世先生にお説教されるかもしれません。今の私は、自由の権利が阻害されているのです。

 

「むぅ~~。さっきのお説教といい、くおんが何か悪いことでもしたの!?」

「えっ、悪いことしたかってお前………………」

 

 ただ私は自分の家来が欲しかっただけなのです。そのために青山高原に居る藤原の四天王へ会いにいって、……会いに行って……。

 

 あれ? それから私、どうしたんだっけ??

 

 どうにも昨夜の記憶が曖昧です。たしか藤原の四天王が半天狗のお爺ちゃんで、自分のモノにならないことに腹をたてて……。

 

 あれれれれ???

 

 それからそれから、どうしたんだっけ? なんで、伊賀忍の里(さいしょのむら)にまで戻ってきてるんだろう??

 

 混乱する私は、昨晩から今まで何が起きたのか理解できません。よくよく見れば、こも村長宅もどことなく、昨夜よりみすぼらしい印象を受けます。具体的に言えば、天井からパラパラと木屑が落ちてくるなどですね。

 

「……昨夜のこと、覚えてないのか?」

 

 あからさまに信じられないといった表情で、ドロ助が問いかけてきて。

 

「覚えてないから聞いているんでしょ! もういいのっ、お散歩してくるから!」

 

 業を煮やした私は、ドロ助の手から僅かばかりの干し肉を奪い取って玄関へ向かいます。

 ようやく日も落ち、気温も涼しくなってくる頃合となりました。伊賀の里の村中をお散歩するには丁度良い頃合でしょう。こんな家の中にいたのでは現状を確認などできません。自分の眼で直に確認するのがもっとも確実でもあります。

 

「って、おい! 外はまだ片付けが済んでな……っ」

 

 慌てるドロ助を無視して、私は干し肉をムシャムシャしながら玄関の扉へ開け放ちます。するとその先には、私の思いもよらない光景が待ち構えていました。

 

 それは、

 

「……何、これ?」

 

 まごうことなき、焦土地獄。

 

 昨晩まではこじんまりとしていた伊賀の里。それが一昼夜過ぎた今では、まるで荒廃した戦場のような光景へと変貌していました。

 里の中に聳えていた木々は雷の直撃を受けたのか、先端を炭にして真っ二つに裂け。五十件ばかりはあったはずの民家もまた、今にも崩れ去りそうなほどに黒焦げのボロボロです。

 

 まるでこの伊賀の里に、天罰が下ったかのようでした。

 

「……ねえ、何があったの?」

 

 そう問うも、私の言葉に答えてくれる人は誰もいません。なぜかと言えば、答えなど分かりきっているからです。

 昨晩から今までの一日の間に、この伊賀の里で、これほどの超常現象を起こせる者は――。

 この私、鬼舞辻久遠以外にいません。

 

 呆然と村長宅の玄関前で立ち尽くす私を、一番近くの焚き火に集まる集団が見つけたようでした。

 

「……鬼神様や。『ああ、そうや。鬼神様が出てこられた』『鬼神さま、鬼がみさまおにがみさま、おに……』」

 

 私を見つけた村人達は、まるで亡者のごとき足取りで近づいてきます。

 彼等に敵意などありません。それどころか……。

 

「天罰をくだすった鬼神様じゃ……。我ら伊賀流の不甲斐なさを知り、叱咤しにきてくだすった鬼神様じゃ……。皆の衆、平伏(ひれふ)せい」

 

 その場に居る誰もが、なぜか私に感謝しているようでした。

 ただ感情のままに暴れ、自分達の里を焦土にされたというのに。彼等は怒るどころか喜びをみせています。

 ただただ、不気味の一言でした。当時の私には、この村人達がとった弱者の処世術を理解できません。

 

「これだからコイツらはよぉ…………」

「ドロ助ぇ?」

 

 思わず瞳に涙を浮かべてしまった私を、後ろに居た彼だけは察してくれたようです。

 

「おひいさまが不気味に思うのも無理はねえよ、これが今の伊賀流だ。強者に、主君に寄生することでしか生きられなかった奴等の哀れな末路ってやつよ」

 

 よくよく見れば、先頭で村人達を仕切る初老の男性に私は見覚えがありました。そう、私が昨晩に神藤寺の場所を聞いたおじいさんです。偶然にも彼が里長であり、そしてドロ助の父でもあるらしく。

 

「おお、泥穀。この鬼神様へ、すでにお前は忠誠を誓っておったのか。さすがやなぁ……」

「半ば強引な形ではあったけどな。それでも、今の親父達のように魂までは売り渡してねえつもりだぜ」

 

 ドロ助はそう言うと私の隣を通り過ぎ、伊賀衆の先頭に陣取ります。そしてドロ助もまた、私の前で膝を折ったのです。

 まだまだ昼の暑さが残る夜風に吹き付けられながら、平伏するドロ助と村人達が、一斉に私へと向けられました。

 

「おひいさま。いえ、鬼舞辻久遠様! 我ら伊賀の里一同、どうか貴方様の配下に加わりとうぞんじます! 我等の忠義、どうぞお受け取り下さい!!」

「ふぇええええええええ???」

 

 意外すぎる展開に頭が真っ白になった私は、先頭で平伏(へいふく)するドロ助に問いを投げかけます。

 

「なにこれ?」

「まあ、分かりやすく言えば無条件降伏だな。昨晩の騒動で、自分達の生きる道がコレしかないって確信したわけだ」

 

 つまりは、これ以上私の怒りを買いたくない一心だったってことですね。まあ、鬼人化した私を一目でも見れば、勝ち目がないことくらい理解もしたことでしょう。

 ちなみにこの里での鬼はドロ助のみで、他の皆さんは人間です。鬼のような超常的な身体能力はないにせよ、長年忍びとして(つちか)ってきた技術は有用です。

 まあ、本音を言えば自分達の里を焦土にした私への恨み言もあるのでしょうが……、命があっただけでも儲け物だったと割り切ったらしく。むしろ強者の配下に加わることこそが、忍びとしての繁栄の道なのだそうで。

 これもまた現実主義と言うのでしょうか。

 

「アンタの望む『キジ』ほどではないかもしれねえが、まあいっちょよろしく頼むわ。おひいさま」

「………………うん」

 

 総勢50名、これが私にとって初めての子飼いとなる兵でした。これ以降、この伊賀衆は私の右腕として東京に行った後も活躍してもらうことになります。

 しかして今の私には、なんの感動も達成感もありませんでした。

 

 なぜなら私の瞳に映っている光景は、目の前の伊賀衆ではなく。怒りに任せて「鬼人化」した、自分の爪痕に注力されていたのです。

 

 これまでの私は神藤家での閉鎖された三年間と、鬼ヶ島での一年間における鬼達との生活が「普通」でした。つまりはこの家出劇で、初めて「外の世界」を知ったのです。

 神藤家では当然のように愛されて、鬼ヶ島では自分の地位と強さをもって当然のように支配してきました。

 

 ですがその二つは、天と地ほどの落差がある世界なのだと。

 

 今ここで、この焦土にしてしまった伊賀の里を見て。私はうまれて初めて自覚したのです。

 そして、どうしようもない不安にかられるようにもなりました。

 

 例え、無事に神藤の神社へ戻っても。

 

 果たして鬼である私を神藤の祖父や母、そしてあまねお姉ちゃんは、一年前と同じように受け入れてくれるのだろうか――と。 




 最後までお読み頂きありがとうございました。
 残り一話で第一章も終わりとなります。続けて第二章も始めていきますのでよろしくお願いします。
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