神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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ゲリラ投稿三日目。活動報告も更新してますよ!


第4話「現実という名の真実」

 ぴょんぴょん、ピョンピョン。

 手すりを掴んで身体を持ち上げ足をかけ、手すりを蹴って跳んだら、また次の手すりに手をかける。

 

 私は上へ上へと跳びながら、階段なき建造物を登り続けます。頑丈な鬼の身体なら下へ向かうには落ちれば良いだけの話ですが、登るとなれば各階にある手すりから手すりへと跳んでゆくしかありません。

 私とてこの二年間、ただ惰眠を貪っていたわけじゃありません。もはや我が家とも言える無限城(おにがしま)の構造くらい確認しています。

 

 が、それも表面上はと言ったところ。全ての施設に入り込んで隅々まで見渡せるほど、当時の私は鬼達と親しくなっておりませんでした。

 

 この鬼ヶ島は基本的に、上へ下へと移動する階段は存在しません。

 それは鬼の身体能力では跳んだ方が早いという、至極単純な理屈でもあります。ですが、むしろ蟻地獄のように人間が落ちたら戻れなくなるという意味合いの方が大きいでしょう。ここは決して快適に設計された屋敷ではなく、あくまで人間(てき)の侵入までを考慮されたお城なのです。

 私が鬼ヶ島と呼ぶ父の城「無限城」は三つの層と最奥の殿に分かれて構成されています。下へ向かえば向かうほど脱出は困難で、それゆえに私の住む父の屋敷「奥殿」も底にあり、

 

 つまりは上から――。

 

 上層:下級鬼達が暮らし、働く層。もっとも広大な面積を誇る。

 中層:下弦の鬼が住まう屋敷のある層。上層の下級鬼達を監視する。

 下層:上弦の鬼が住まう屋敷のある層。無限城全体の管理と主の守護を担う。

 奥殿:鬼舞辻 無惨と私、鬼舞辻久遠が住まう清廉とした御殿。

 

 ――が最下層となっているのです。

 

 この理屈で言えば、奥殿にある父の屋敷に住む私が上層へ向かわなければならないのも理解して頂けるでしょう。

 食料調達や調理などの雑務が、中層や下層に住む十二鬼月の仕事なわけがありません。間違いなく、上層で働く下級鬼達の仕事です。ならば私が目指すべきは上層以外になく。

 

 そこに、デンデン丸やドロ助が必死に隠した「何か」が存在するはずでした。

 

 

 ◇

 

 

「ふあぁ~……」

 

 上層へとたどり着いた私は、思わず感嘆の声を漏らしていました。

 当然の話ではありますが、見上げても青空はもちろん太陽の姿もなく、二年前に青山高原で感じた心地よい風も吹きません。

 それでも此処には、本当に屋内なのかと疑うような広大すぎる光景が広がっています。これまで木板を貼られて作られていた床から牧草が生え、床の下には土でもあるかのように柵杭がしっかりと固定されていました。

 それは当時の私でも跨げるような高さの柵でしかなく、「逃げるだけ無駄だ」と比喩されているようにも感じます。監視役の鬼達とて、まばらにしか居ません。

 

 牧草が萌える敷地内にて放牧されている動物は、両の足で立っている者もいれば四つんばいになっている者もいます。

 雄も雌も衣服は身につけておらず、それでも十分に快適な気温で管理されているようです。

 基本的には大人は女性ばかりで、必ずと言っていいほどの子供連れです。

 

 ここは牧場。

 人が食料とする豚や牛を飼うように、鬼が食料とするために飼う「人間牧場」。

 

 鬼の、台所です。

 

「ひっひっひ……。これはこれは、珍しいお客さまが来なすったのぅ」

 

 ある種の異様な雰囲気に圧倒されていた私の背後から、突然声がかかりました。

 

「ふえっ!?」

 

 鬼にしては珍しいほどの枯れた声に、私はビクリと反応してしまいます。慌てて振り向けば、一人の老婆が立っていました。

 

(うそ、久遠が気づかないなんて)

 

 これでも当時の私は、すでに上弦の鬼をも手玉にとったことがある実力の持ち主です。それが古い鬼だとはいえ、老婆に背後を取られるなんて考えられません。それこそ上弦の鬼以上の力を持っている事になってしまいます。

 

「あのっ、くお――」

「かの御方のご息女がぁ、このような不浄の場に何か御入用ですかなぁ?」

「私のことも、知ってる――――」

「ふぉっふぉ、この無限城で鬼舞辻久遠様を知らぬ者など、今やもぐり同然。さてさて、つまみ食いにでも来なすったんかの?」 

 

 次から次へと先手を取られ、私はまともに喋らせてもらえません。

 それに、つまみ食いって…….

 

「他の鬼には見せもしませぬが、他ならぬおひいさまにならばお出しせぬわけには参りますまい。どうぞ、こちらへ。ちょうど食べごろなのが一匹おりますゆえ」

 

 何も事情を知らない人が見たのなら、八十を越えた外見の子供好きなお婆ちゃんに見えたことでしょう。ですが私から見れば「肝心なところでの食い違い」があるように感じてなりません。

 私の中の常識と、この鬼のお婆ちゃんの常識は似ているようでいて、どこか決定的に違う。

 

 私は沈黙を保ちながら、大人しく後に続きました。この二年間で無限城の間取りは確認したつもりでしたが、各種建物の中にまでは入り込めていません。ここも一見すれば、只の横に長い小屋にしか見えませんでしたが……、

 

「なんと言っても、元服が食べごろですからのぅ」

 

 この一言が、妙に頭の中へこびり付いたのです。

 

 

 

 意外にも、厩舎の中は快適な空間に整えられていました。

 別に(わら)のベッドなわけもなく、一人ひとりに狭いながらも個室が与えられ、畳の座敷に布団が敷かれています。

 裸であっても熱くも寒くもなく。鬼婆さんの話では食事も日に二度与えられていて、やせ細っている人などいません。

 

 それどころか……。

 

「ねえ、なんでみんなブヨブヨ太ってるの?」

 

 そう私は口に出してしまうほど、ここで飼われている人間達は異様でした。

 

「ふぉっ、ふぉ。愛情たっぷりのエサをたぁくさんあげておりますからの。元気にぶくぶく肥えて、美味しそうでしょう?」

「美味しそうって……」

 

 とても同意するわけにはいきません。

 ですが当の鬼婆さんはまるで、自分の孫達を自慢するかのように得意げです。

 

「この子なんて、いかがですかいのう~」

 

 ギィという音がなり、部屋の中から一人の少年が引っ張り出されました。

 少年とはいっても、六歳の私にとってはかなりの年上で大人にも見えてしまいます。ですが先ほどの言葉を踏まえれば、この少年は元服(十五歳)間近なのでしょう。

 

「いかがって、……言われても」

 

 お相撲さんのようにぶよぶよのお兄さんを前にして、私はどんな反応をすればよいのか分かりません。

 

「ふむ、なるほど。まあ、見た目だけではわからぬのも確かですな。どれ、味見でもいかがですかな?」

「ふえっ? 味見??」

 

 それから先は、止める間もありませんでした。

 鬼婆さんは腰から鉈包丁を素早く取り出すと、手馴れた調子で足払いを一閃。そして情け容赦なく、倒れこんだ少年の首を叩き斬ったのです。

 

「――――――――っ!???」

 

 少年は悲鳴をあげる間もなく、絶命しました。これが動物なら命がつきる瞬間まで暴れまわるのでしょうが、人間の最後なんてあっけないものです。

 ですが私にとってはこれが、初めて見る。

 

 人間の、絶命する瞬間でした。

 

 「本当はじっくりと血抜きをして、数日熟成させてからの方が美味いんじゃが。まぁ捌きたてには捌きたての良さというものがありますゆえなぁ」

 

 そんな理屈、聞きたくない。

 目の前にいた人間の命が今、消えて。昨日、私が食べたお肉と同じになった。

 そんな現実を自覚した瞬間。私は嘔吐し、意識が暗転してしまったのです。

 

 

 ◇

 

 

 気づけば朝、なんて表現は無限城にはありません。

 太陽の満ち欠けなんてないんですから当然ではあるのですが、そもそも夜行性の鬼に明かりという存在すら不要なのは、今更言うまでもないでしょう。

 

 これまで気づかなかった、衝撃の事実でした。

 いえ、気づかないようにしていただけなのかもしれません。

 

 私がこれまで食べていたお肉はすべて。あの人間牧場で育てられ、精肉された人間のもの。

 つまりは毎日の食卓に並んでいたお肉も人間のもの。

 

 鬼は人を喰らう者。

 すでに調理されていたから現実みがありませんでしたが、少し考えてみれば当たり前すぎる事実です。それなのになぜ、当時の私がこれほどまでに衝撃を受けたかといえば。間違いなく、炭十郎パパの存在が出来たからです。

 

 二年前、あの家出劇でも自分がどうしようもなく鬼なのだと痛感させられました。

 そして今回。私はどこまで、鬼である自分を否定しなければならないのでしょうか。

 

「はぁ…………」

 

 出るのは溜息だけで、言葉もありません。

 いっそ、猫達や炭十郎パパと出会わなければ。人の心なんて思い出さずに鬼として思いのままに生きれば、どんなに楽か。

 

「どうしよう。シロに人肉なんて、絶対に食べさせられない」

 

 私は迷い続けます。

 人の肉がダメなら、獣の肉が必要です。ですが鬼の城である無限城に獣肉なんてあるわけがありません。

 そもそも肉を食べるという行為自体が、命を刈り取る行為です。では鬼ではなく、人でもない獣なら刈り取っても良いのでしょうか。

 頭の中で、そんな結論のでない論理がぐるぐると回転します。革新的な結論なんて、出るわけも無いのに。

 

 そんな私の脳裏に、炭十郎パパの言葉が思い起こされました。

 

 弱肉強食、強い者が生き残るからこそ種が繁栄する。

 仮に弱き者が生き残ってしまえば、種は衰退の一途を辿ってしまうでしょう。

 

 右を行ってもダメ、左を行ってもダメ。

 

 なら、

 

「ならまっすぐ行って、壁を壊すしか……ないんじゃないのかい? おひいさまぁ??」

 

 そんな不気味で、確信をついた「誰か」の言葉が。

 その時の私には、地獄の天井に照らされた一筋の光明にも思えたのです。




 最後までお読み頂きありがとうございました。
 さあ、八方塞がりとなった久遠ちゃんに近づく怪しい影。それは本編でも大暴れしてくれやがったあの方です。
 原作だとこの方も真正面から戦って破れましたが、立場的にこういう風に暗躍して映えるキャラだと思うんですよねえ。
 それが誰なのか、第二章はあと三話ですのでもう少しお付き合いくださいね。宜しくお願います。

 ※作中にある無限城の構造はオリジナルです。無惨様のお城だから、蟻地獄みたいなのをイメージしてみました。
 ※活動報告も更新してますので「今何やっとんじゃい」と思われる方は」覗いてみてください。日記代わりです。
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