神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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 初めましての読者様は初めまして。「本当は~」からの読者様はお久しぶりです。
 
 さてこのお話は外伝となるわけですが、前作とは違いなるべく明るい雰囲気を意識してお話を作っています。まあ、前作がアレなので終盤はアレがアレになりそうではあるのですが(アレトハナンダ
 なるべく未読でも理解できるように書いておりますが、前作の本編「本当はあったかもしれない鬼滅の刃」を読んで頂ければもっと面白いと思いますよ!(宣伝

 まあ、ともかく。
 今作もまったりとお付き合いくだされば幸いです。どうぞ、よしなに。


第一章:久遠四歳 桃太郎と仲間達
第1話「生まれました!」


 いきなりですが、唐突(とうとつ)不躾(ぶしつけ)な質問をさせて頂きます。

 

 貴方は、鬼という存在を信じますか?

 

 …………………………………………。

 

 ああっ、待ってまってっ! そんな危ない奴と関わってしまったなんて顔をして逃げないで!! 常識外れな質問をしているという自覚はありますからぁ!!!

 

 ……こほん。

 いま皆さんが反応してくださったように、鬼なんてあくまで物語上の怪異。現実になんているわきゃありません。それが大正の世における常識で、皆さんはその常識という名の線路に沿った人生を歩んでいるわけです。

 ではその線路から一歩、道を踏み外してみたらどんな世界があると思いますか? そこにはどんな世界があり、どんな常識があり、どんな生き物が住んでいるのでしょうか。

 

 そしてこの私こそがその「踏み外した世界」の住人で、皆さんをお迎えに参上したのだとしたら。

 

 …………おっ? 今度は逃げませんでしたね? ということは、多少なりとも興味を持って頂けたと推察いたします!!

 この私に見つかるくらいです。貴方も線路に敷かれた道をただ歩く人生に違和感を持ったクチでしょう。

 

 実は私。半分は人で、半分は鬼なんです。

 

 ふふっ、今何を馬鹿なと思ったでしょう。ですが真実も虚構(きょこう)も、今の私達にはどちらでも良い事柄です。なぜなら貴方は、私の人生における天上の傍観者に選ばれたのですから。そうそう、そこらの書店にある伝記本を手にとったくらいのつもりで、ねっ?

 

 私の名は神藤 久遠(かみふじ くおん)。またの名を、鬼舞辻 久遠(きぶつじ くおん)

 この国でただ一人、原初の鬼とよばれる鬼舞辻 無惨の血を継いだ者。

 

 私が生きるべきは、鬼の世か。もしくは人の世か。

 愛するべきは人なのか、それとも鬼なのか。

 すべてはこの先の物語にて、お話しいたします。

 

 それでは短くはなりましょうが、少々お時間を拝借したく。

 

 どうかお付き合いのほどを――。

 

 

 ◇

 

 

 時代は大正、世は乱世。

 大日本帝国という名の国は世界へと視線を向け、富国強兵という政策が始まってからはや四十年という月日が経過していました。

 日清戦争や日露戦争といった戦いに勝利し、国全体が活気に満ちていた頃。実は国内にもとある戦乱があったという事実は、歴史書に記載するまでもないような些細(ささい)な出来事でした。それでもそこで刀を取った人がいて、(とうと)い命も失われていた事実は確かに存在したのです。物語はそんな時代に、この世に生を受けた一人の少女の生誕から始めましょう。

 

 この私、鬼舞辻(神藤)久遠は生まれ出た時から異端でした。

 とは言っても、別に川からどん ぶらこと流れてきた大きな桃の中から生まれたわけじゃあ、ありません。半分は鬼なのに桃から生まれるなんてあべこべですもんね。え? そういう意味じゃない?

 

 実は私、母様から命を授かった瞬間から今までの記憶を鮮明におぼえているのです。

 聞き手の皆様からすれば、幼児期健忘症という言葉をご存じの方もいらっしゃるかもしれません。曰く、物心がつく以前の記憶を未熟な脳では書きとめきれなかった事によるごく自然な記憶喪失ではあるのですが、まれに母様の胎内にいた頃からの記憶を持ち続ける者も存在するのです。

 まるで暖かいお風呂の中に居るようなまどろみから、いきなり冷たい外へと飛び出た感触は言葉では表せぬほどの衝撃でした。おぎゃあ、おぎゃあと泣くのは、もしかすると赤ん坊による精一杯の苦情なのかもしれませんね。

 それでも産湯に浸かり、母様の胸の中に包まれる感触は暖かなものです。純粋に体温が伝わるというだけでなく、愛情という名の温もりが伝わってくるのですから。

 対して赤子の私は、母の隣に奇妙な人が居るのにも気付いていました。姿形は他の人と何ら変わりないのに、どこか違う人。それが自分の父親であるらしいことも理解しています。この時点で私は、もしかすると。もうすでに他の子とは違っていたのかもしれません。

 

 私がうまれ出た家はそれなりに裕福で、それでいて他の人から尊敬を受けるような神社でした。周囲にある家より明らかに立派で、そして奥には大きな仏像が沢山あり、毎日のように多くの人が祈りを捧げていきます。

 赤ん坊の私は日のささぬ一室でお留守番、一人ぼっちの時間が多くあったように覚えています。それは私の姉や母もまた、巫女として従事しなければいけないお仕事が沢山あったから。ですが寂しいと思うこともありません。私の生まれ持った鋭敏な感覚が、瞳に写さずとも千客万来な(にぎ)わいを見せてくれていたのです。

 そんな私を母のようにお世話してくれたのは、だいぶ歳の離れたお姉ちゃん。名を、神藤あまねさんといいました。まるでもう一人の母のような存在で、私がぐずれば駆け寄り、優しい声で絵本を読んでくれたのです。

 

「むか~しむかしの、ことじゃった~。おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…………」

 

 子供ならば誰しも「英雄譚」というものに憧れを抱きます。

 私は女の子でありながら「桃太郎」の絵本が大好きでした。正義の名のもとに悪人をこらしめる。そんな勧善懲悪(かんぜんちょうあく)が正しい大人の姿だと信じきっていたのです。

 それと同じくらい、柔らかくも暖かい声色で眠りの世界へと誘ってくれる。そんな、一回りも歳の離れたあまねお姉ちゃんが大好きでした。私は将来、必ず「ももたろう」のように勇敢で、そして「あまねお姉ちゃん」のように優しい人になろうと決めていたのです。

 

「――――幸せに暮らしたとさ。めでたし、めでたし…………ふぅ」

「ねえちゃ、ねえちゃっ!」

 

 まだ言葉がうまく操れないなりに、私は「もう一度読んで!」とせがみます

 

「久遠は本当に桃太郎が大好きね。……喜んでくれるのはいいんだけど、寝てもくれないのよね。はいはい、もうオネムの時間だよ~」

「ううう~…………」

「そのかわり子守唄を歌ってあげるから、ね?」

「っ、うん!」

 

 桃太郎の絵本と同じくらい、私はあまねお姉ちゃんの歌う子守唄で寝るのが大好きでした。

 この時においてだけは確実に、私は祝福された存在だったのです。そんな幸せな時が続き、これまでと変わらない生活がずっと続いていくんだろうなぁと、現実を楽観視していた頃。

 

 私、久遠が三歳の誕生日を迎えた日から物語は動き出します。

 この頃はまだ、人と鬼の区別というものがまったくもってついていなかったのです。

 

 

 

 

「久遠、たまには父さんとお出掛けでもしようか?」

 

 ある日の夜。

 普段は外出しがちな父が私にそう、声をかけてきました。ですがまだまだ幼い私は言葉をうまく口にできません。

 

「おで、かけ?」

「そう、おでかけだ。父さんの家来が沢山いる、とっても楽しいところだよ?」

「いくっ!」

 

「楽しいところ」という父の言葉に、当時の私は即座に反応します。

 今思えば、ここが幸せな暮らしの終わりを告げた瞬間だったのかもしれません。しかして私は、めったに遊んでくれない父からの提案に舞い上がってしまったのです。いつもならさっさとお風呂に入って寝ますよ! と言われる時刻からのお出掛けというのも私の興奮を加速させてくれました。

 そう、それから五年もの間。……母とも姉とも会えない生活が待っているなど夢にも思わなかったのです。

 

 周囲がぐにゃぐにゃした、自分が今どこに足をつけているかも分からない時が終わると。その先は、大きな木の家がからみ合っている不思議な場所でした。

 耳にはジャンジャンと鳴る琵琶(びわ)の音が常に耳へと響き、上下左右、どこを歩けば良いのかさっぱり検討もつきません。

 

「父さん、ここどこ?」

 

 私は隣で手を繋ぐ父を見上げ、そう問いかけました。

 

「ここはね、父さんの家来が作った『鬼ヶ島』だ」

「――っ、おにがしまっ!」

 

 父の言葉を聞いて、三歳児である私の心は沸き立ちます。

 それというのも、あまねお姉ちゃんへ毎日のように読んでとせがんでいた「桃太郎」の世界が、現実のものとして目の前に現れたのですから無理もありません。

 ここは絵本に出てきた島でも、岩山にあいた洞窟でもありません。それでも本当の鬼ヶ島はこんな風景なのだと、私は疑うことを知りませんでした。その証拠に、廊下の両脇で平伏しながら出迎える人達の瞳は赤く、(ひたい)には大小様々な角が生えていたのです。

 不思議に思った私は、そっと父の耳に口を寄せて訊ねました。

 

「……ねぇお父さん、なんでみんなツノが生えてるの?」

「…………、何を言っているんだい? 久遠にも可愛らしい角が生えているじゃないか」

「ふえっ?」

 

 周囲に聞こえないような小声で父にそう返された私は、慌てて自分の額に手をあてます。すると確かに可愛らしい、それでいて黒曜石のごとく黒光りする鉱物のような角が生えていたのです。

 混乱する私から父は目を離すと、二人の鬼へ声をかけていました。

 

「――堕姫、半天狗」

「ハハァッ」

「御身の前に」

「……しばらく、この子の世話を頼む」

「「御意にございます」じゃ」

 

 いつもの父からは想像もできないほどに静かで、冷たい声でした。私にはあんなに優しい声で話しかけてくれるのになんなんだろうって。ですが当時の私は、それが大人の会話なのだとしか思いません。

 

「貴女が噂の『おひいさま』?」

 

 淡々と話が進んで理解が及ばない私に、父から私を託された女性が声をかけてきました。ちょっと、いやかなり服装がだらしないけど、とっても綺麗なお姉さんです。

 

「はじめましてっ、きぶつじ くおんですっ!」

 

 初めて会った人には挨拶をしなさい。あまねお姉ちゃんに教わったとおりに私が挨拶すると、お姉さんは嬉しそうに微笑んでくれました。

 

「どうもぉ、初めまして~。アタシの名は堕姫よ、よろしくね?」

「うんっ!」

 

 綺麗だけど、なんかちょっと怖い目。なんで目に文字が書いてあるんだろう? しかもお顔に花が書いてある、変なの。そう思いつつも良い子の私はそれを口にしたりしません。

 どうやらこのお姉ちゃんが私を案内してくれるようです。お父さんは忙しく常に外出していましたから、一般の子供達が満喫するであろう家族の団欒に父の姿はそもそもありません。それがもう、当たり前になっていたのです。

 

「さあ、新しいお家の探検にでかけましょうか。おひいさま」

「……私、おひいさま? おひいさまってな~に?」

「御姫様って意味なのよ。久遠ちゃんにはぴったりね」

 

 そう言われて悪い気はしません。あまねお姉ちゃんに読んでもらった沢山の絵本には、お姫様という女の子も出てきていたのです。

 今の私はそんなお御姫様にうりふたつ。桜模様の明るい着物に赤いかんざし、腰まで伸びた黒髪はあまねお姉ちゃんが(クシ)を通してくれたお陰でサラサラです。

 

「えへへ……、私がお姫さま?」

「そう、久遠ちゃんはお姫さま。あの御方の大切な………………、そして私にとってはこの上なく憎たらしい子」

 

 堕姫お姉ちゃんの最後の言葉は酷く聞こえにくい、小さな声でした。でも当時の私はそんな人の機微に気付くわけもなく、ウキウキしながら新しい遊び場へと探検に出かけたのです。

 

 ぽつりと残った、一人の老鬼を残して……。

 

「ワシの役目でもあるのじゃがのう……、ヒィ」




 さてさて、始めてしまいましたよ外伝です。
 始めた以上、なんとかして完結させなければいけません。目標は年内! かな(汗
 長々と書いてしまう癖のある私ですので、今後は短くまとめられればいいなあ。

 無理だろうなあ。。。(汗
 週一更新のだるさではありますが、今作もよろしければお付き合いくださいね。
 宜しくお願いします!
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