神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》 作:みかみ
こうして炭治郎パパは、私のために一大決心をしてくれたわけですが。
私のために未来を投げ打ったのは、彼だけではありません。デンデン丸とドロ助。響凱と泥穀の二人もまた、真の主をどちらにするかの決断に迫られていたのです。
「久遠は私が責任をもって人の世へと連れてゆきます。彼女はもう、鬼の世界では生きてゆけません。――貴方方はどうなされますか? 響凱殿、泥穀殿」
それは簡単であるように見えて、彼等の命をも左右する重大な決断でした。
デンデン丸とドロ助は私の忠実な家来です。それを私は疑ったことはありませんし、全幅の信頼を与えております。ですがそんな絆とは裏腹に、二人を生み出した本当の主人は血を分け与えた父、鬼舞辻 無惨に違いありません。
もし私を人の世に送り出すという決断が、父の逆鱗に触れたのなら。響凱と泥穀はその場で「呪い」により処刑されても不思議ではないのです。
それでも、私の忠実な家来は迷いなく首を縦にふってくれました。
「愚問だな。まず小生と泥穀の転移系合体血鬼術がなければ、人の世への入口は開かれんのだ。それに……」
「そもそも今の関係があの御方の逆鱗に触れているのなら、俺らなんて当の昔に臓腑をひっくり返されているだろうぜ。それに……」
最後の言葉は二人同時でした。
「「小生達(俺ら)は桃太郎の家来である「猿(犬)」ゆえな(だからな)っ!」」
後に聞けば、響凱にとって私は娘同然、そして泥穀にとっても妹同然の存在だと認知していたそうですよ? ナマイキにも。
そんな二人の言葉を受けて、炭十郎パパは左手に私を抱き、右拳を二人へと突き出します。すると響凱も、泥穀も同調して拳を突き合わせました。
女である私にはうまく理解できませんが、これが男の友情というものなのでしょうね。暑苦しいったらありゃしませんよ。
…………まったく、……もう。
◇
二人の決死の転移系合体血鬼術と、飛ぶ瞬間に聞こえた摩訶不思議な琵琶の音に導かれ、私達は人の世への帰還を果たしました。ようやく眠りから覚めて、ぱっちりと目蓋を開いて見上げてみれば、夜空に浮かぶまん丸のお月様が「こんばんわ」とお出迎えをしてくれています。
「――ぷぅ、やっぱり外の空気は格別だよね」
「「「………………???」」」
久しぶりに吸う新鮮な空気に、感嘆の声をあげる炭十郎パパ。対して無事脱出できたにも関わらず、私や響凱と泥穀の二人は怪訝な表情を浮かべています。
「久遠? 響凱殿?? 泥穀殿???」
それを不思議に思った炭十郎パパが、疑問の声を投げかけました。
「……いやっ。なんでもない、はずだ」
「ああ、結果として皆無事だ。なら詮索はしねえほうが幸せなんだろうな、うん!」
対する家来二人の答えは、なんとも歯切れの悪いものではありました。ですが今は結果を喜ぶことにしたようです。
「それより、ここはどこだよ? 響凱の旦那が座標係だろ?」
「うむ。あまり下手な場所へ行かぬよう、前回と同じ伊賀流の里を目指したのだが……、おひいさま?」」
目の前には、広い平野と穏やかな小川。東の方角からは僅かに潮の臭い。これはどう考えても山の盆地にある伊賀流の里ではありません。ではどこかと言えば、此処は――。
――まさか。
「――――く、おん?」
まるで、二年前に時を巻き戻したかのようでした。
「あま、ね……おねえちゃん?」
逃げ出してしまった過去をやり直せと、神様に言われているかのようでした。
ですが、それを簡単にできるなら、あの時私は逃げ出したりなんてしていません。
『鬼っ、どっかに行ってよバケモノ!!』
私の中に潜む被害妄想が、そんな言葉を未来視してくれやがります。そんな古傷が、二年前と同じく、私の足を、後ろへと運びはじめ。
ですがそんな私を、姉は。
「逃がさないっ、今度こそは絶対に逃がさないんだからねっ、バカ久遠っ!」
取り逃がしてなるものかと、問答無用とばかりに。私の背中へ追いつき、抱きついてきたのです。
「…………ふぇっ?」
そうとしか言えないほどに、嬉しくも懐かしい声でした。
この二年もの間、夢の中でしか出会えず。どれだけ現実の耳で受け止めたいと切望したか分かりません。
「何よ、こんなに目を真っ赤にして! 泣き虫さんになっちゃったの? それとも――」
そう言って、姉は怪しげな視線を炭十郎パパと家来の二人に移します。
姉にとってはこの三人が、恩人なのか誘拐犯なのかもまだ判別できていません。自然と厳しい眼差しになってしまったとしても無理のない話でしょう。
「姉君殿、それは完全なる誤解というもので――」「そうだぜ、俺達はおひいさまの――」
響凱と泥穀が必死の弁明を始めようとしています。ですが、もう一人の同行者である炭十郎パパはもっと直接的な行動にでました。
なんと、感動的に抱きあう姉妹の再会に乱入し、大人らしい大きな腕で姉ごと私を包み込んでくれたのです。
「良かった、本当に良かった。やはり人の世に連れて行くという私の判断は間違いではなかった。こんなにもこの子を愛してくれる家族が、ここに居るじゃあないか!」
きっと、突然の抱擁に姉は意味が分からず混乱していることでしょう。私にとっては父でも、姉にとっては見ず知らずの他人です。
それでも私を、そして姉を抱き締め、男泣きする姿を見れば。誰も炭十郎パパを悪人だとはいえません。
「何がどうなっているのよ。まったく、もう……」
実の妹を抱き締め、見知らぬ青年に抱き締められながら。姉は溜息まじりに、説明を求めるのでした――。
◇
私が父の手によって神藤家を出て三年。一回りほど歳の離れた あまねお姉ちゃんはもう十三歳になっていました。その姿はまだまだ幼さを色濃く残してはいるものの、段々と女性らしさを滲み出してくるお年頃です。
一方の私はといえば、姉の着物を涙で濡らす作業が止められません。
「いい加減に泣き止みなさいよもう、久遠! この私達を抱き締めている人はだれ!?」
「…………お父さん」
「えっ!?」
ボソリと育ち始めの胸に顔を埋めながら口にした私の言葉に、姉は驚きの声をもって答えます。
当然といえば当然でしょう。ドコからどう見ても、三年前に姉が見た父とは別人です。まあ、本当に別人なのですから当たり前といえば当たり前ですね。
「混乱させてしまい申し訳ない。私の名は竈門炭十郎、久遠さんの父代わりを勤めている者です」
「……代わりじゃないもん、お父さんだもん」
「そう言ってくれるのはありがたいし、嬉しいのだけどね。区別はハッキリとしなければいけないよ? 私は久遠の父ではあるけれど、あまねさんの父ではないのだからね」
炭十郎パパの言うことは一々正論です。あまねお姉ちゃんにとってのお父さんは、鬼舞辻 無惨でも炭十郎パパでもありません。
続けて姉の前に立ったのは、私の信頼する二人の家来です。
「貴女様が姉君のあまね殿でいらっしゃられますか。小生の名は響凱、デンデン丸の仇名を頂戴している『おひいさまの忠実なる猿』でございます」
「おなじく、『犬』の泥穀、ドロ助だ。よろしくな、姉さん」
「……猿? ……犬?」
「姉君殿がおひいさまによく、『桃太郎』を読み聞かせてくださったのでしょう? 我々二人はきびだんごにて忠誠を誓った
衝撃の連続に、あまねお姉ちゃんは理解を放棄する寸前です。
「へっ? えっ?? 確かに久遠は三歳の頃、桃太郎の絵本が大好きでしたけど……」
しかしてまさか、絵本の物語を現実でやろうという発想などあるわけもなく。
最初は驚きで口がしまらない様子でしたが、事情を理解するにつれ、姉のこめかみに青筋が。
「おひいさまは御姫様なれば、その命は絶対でして……」
「それほどまでに、久遠はワガママっぷりを発揮し続けていたのですね?」
お次は背中です。姉の背後に獄炎の炎が登り、私は今怒っていますという事実を教えてくれています。
「いえその、姉君どの?」
あ、なんかコレ、既視感を覚えますね? 具体的にいうと、お尻百叩きと朝までお説教の刑でしたね? それが珠世先生から、あまね姉さんに代わって歴史は繰り返すのですか??
「…………く~お~ん~~~???」
三年ぶりの姉から発せられる怒りの声は、それでも私の心に緊急信号を激しく鳴らしたてます。もう眠いなんて言ってられません。私は今、危機に直面しているのです。
「撤退、脱兎の如きてったいなのっ!!」
炭十郎パパの胸から、あまねお姉ちゃんの胸から反射的に飛び出た私は、その勢いのまま脱兎のごとき逃走を試みます。
ですがそれは二年前と似ているようで。悲しみではなく、喜びに満ちた鬼ごっこでした。
後方からは「待ちなさ~~い! くお~~ん!!」という姉の叫びが聞こえてきます。
私とて、本気で逃げているわけではありません。この後のお説教は長くなることも覚悟ずみです。
しかしてそれさえも、私にとっては起死回生のどんでん返しでした。
私の罪は消えません。
この年齢まで、美味しく人肉を食べていた罪。
母猫に人肉をたべさせた罪。
子猫を鬼にして、自らの手でその命を刈り取った罪。
そして――――、
それらの罪を直視せず、逃げ出した罪。
断罪の劫火はいつの日か、必ずやこの身を焼き尽くすことでしょう。ですが、せめて審判が下されるその日までは。
この家来と父と、家族の温もりを私は守りたい。
それくらいは、どうか許しを、
神よ。
鬼という罪深い存在を作り出してしまった貴方にも、責任の一端はあるのですからね?
最後までお読み頂きありがとうございました。
これにて第二章終了とあいなります。一章とくらべて、話数としては半分ですが文字数としてはそこまで変わりません。今回は一話の文字数が多かったですからね。
さて、続いての第三章「久遠十歳編」ですが。
活動報告にもあるとおり、三話程度まで書いてからプロットの見直しをしている最中です。このあたりの進捗具合は活動報告に更新していきますので、よろしければ覗いてみてくださいね。
それではまた。書き上げましたら投稿させていただきます。
みかみでしたー。