神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

23 / 30
※本作品はフィクションです。物語に登場する伊勢神宮は架空のもので、もちろん現実に神藤神社なんて外宮は存在しません。資料でしらべただけなので、伊勢に関して今後至らぬ間違いがあるかもしれませんが、ご指摘を頂ければ嬉しいです。


第三章:久遠十歳 鬼狩りへの輿入れ
第一話「かみふじけ」


「こらぁ、久遠! アンタまた神楽舞いの稽古から逃げ出したわねっ!? 待ちなさ~~~いっ!!」

 

 人の世にあっては私、鬼舞辻久遠あらため神藤久遠は、まことに天真爛漫(てんしんらんまん)でありました。

 毎日のように姉である神藤あまねに追いかけられ、山野を駆け巡り、大自然の息吹を存分に満喫します。

 無限城(鬼ヶ島)も広いといえば広かったのですが、それはあくまでもやはり家屋での話。無限の星々が見守る大平原と比べるなら、四畳半にも等しい狭さです。

 

「お稽古より、あまねお姉ちゃんと遊ぶほうが楽しいもんっ! 今日はお姉ちゃんが鬼ねっ」

「私は鬼ごっこで遊んでるつもりはないのっ!」

 

 私はこれまで着ていた上等な着物に代わって、普段着としている巫女服が大のお気に入りになっていました。ちなみに今は神楽舞用の千早姿で、これはこれで悪くもありません。ですが本番でも着るような衣装なので、野山の雑草に擦れて汚れようものなら一大事。先の未来に洗濯地獄が待ちうけているかもしれない姉は、すさまじい形相で私を追いかけてきます。

 

「いい加減にしなさいっ、く~おぉ――んっ!!」

 

 鬼舞辻久遠あらため、神藤久遠、十歳。神藤あまね、二十歳の春。思えば、この時が家族の愛情というものを一番多く感じられた四年間でした。

 

「あははははっ!」

 

 そして私の一生において何の打算もなく、心の底から笑顔でいれた最後の時期でもあったのです。

 

 

 ◇

 

 

「まぁ、あまねも久遠もドロだらけねぇ。とりあえずお風呂に入っていらっしゃい?」

 

 ほんわかニコニコと、汗まみれドロだらけになった神藤姉妹(わたしたち)を迎え入れてくれたのは、とっても優しくて大好きなお母さん。

 そういえば紹介するのは初めてでしたね。名を、神藤華音(かのん)さんといいます。

 

 そして、

 

「子供は風の子、元気が一番っ! がっはっは!」

 

 と豪快に笑うのは私達のお祖父ちゃん。名を、神藤喧吾(けんご)さん。お爺さんと言うには失礼なほどの巨躯は、齢七十にして自分の背丈以上の剛槍を自在に振り回す豪傑宮司さんです。

 台所からは美味しそうな臭いが漂い、お風呂場からは暖かいお湯が私を待っている。

 ここが私の故郷、本当のおうち。伊勢神宮に立ち並ぶ外宮(げくう)の一角、神藤宮(かみふじのみや)です。

 

 

 自宅兼社務所に集まっての夕飯時。

 

「お母さんもお祖父ちゃんも、少しは久遠をしかってよ! この子、ぜんぜん神楽舞いを覚えようとしないんだから。もうお祭りまで日もないのにっ!!」

「もぐもぐもぐ……サンマおいしー」

 

 ぷんすか怒りながらも、オカズの秋刀魚の骨を丁寧にとってゆくお姉ちゃん。一方の私は、頭からかぶりついて骨ごと噛み砕くので関係ありません。

 四年前に帰ってきた当初も驚きましたが、人間の食べ物とはなぜこんなに種類が豊富で、かつ魅惑的なまでに美味しいのでしょうか。これでは人肉が完全栄養食だなんて豪語している鬼が馬鹿みたいです。

 今の私には、もはや人肉など必要ありません。そう言いきれるのは、ある革新的な発見と再会を成し遂げたからでもありました。

 

 

 

 帰ってきた当初。私は無限城にて心に大きな傷を負い、人間の食事をとるのに抵抗感を示しました。

 なぜなら、人間の食卓にならぶ料理だって「何かの命」を刈り取ったものだからです。人肉ではないにしろ、こんな罪深い行為が許されるのだろうか。うつむきながらも私がそれを指摘すると、喧吾お祖父ちゃんは急に真面目そうな顔をして、こう言ってくれました。

 

「……久遠や。確かに儂らは毎食、他の命を奪うという罪深い行為を繰り返して生きておる。だがそれはの、ずるい言い方かもしれんが神さんが儂らをそう作ったからじゃ。久遠が責任を感じることではない」

「…………」

 

 確かにずるい言い方でした。神社の宮司さんの言葉とも思えません。それではすべてを神様に責任転嫁すれば良いじゃないか、という風にも聞こえます。

 ですが私が無言の不満を見せる間にも、喧吾お祖父ちゃんの攻勢は止まる気配を見せません。

 

「ほれ」

「むぐっ!?」

 

 私の口に、焼き魚のお肉がつっ込まれました。香ばしくも程よい塩加減のソレは、私の脳天に響くほどの幸福を与えてくれます。

 

「うまいじゃろ?」

 

 目の前には、ニカッと笑うお祖父ちゃんの顔。私は敗北感を味わいながらも、この美味さに屈するほかありません。

 

「これを美味いと思うのはな。神さんが儂らの舌をそう作ったからじゃ。儂らの誰も、責任などとれん。とれるわけがない。それこそ神の決定に逆らう冒涜じゃて」

 

 まるで破戒僧のような理屈でした。でも、確かにと納得できるの理屈でもあります。

 

「儂ら人間は何をどうしたって、最後には閻魔様の審判を受けるが運命(さだめ)。じゃが世に言う善行が、真に正しい善行だと誰が保証できようか。

 ……それでも、この食の楽しみだけは罪ではない。これが罪なのであれば、生まれること事態が罪となってしまうからの」

 

 当時六歳の私には、到底ついていけない禅問答です。首を縦に振るほかありません。

 でも、それでも今までの悲劇が身に染みた私は、問いかけてしまいます。

 

「もし、食べるということ自体が罪だったら?」と。

 

 すると、瞳をまん丸にした喧吾お祖父ちゃんはガッハッハと大笑いし。

 

「その時は家族全員で地獄に落ちようかの。なに、皆で住めば都になるかもしれんぞ!? が――っはっはぁ!!」

 

 と、私の不安を消し飛ばしてくれたのです。

 

 

 

「ご飯は最後まで美味しく、たのしく、感謝して。ごちそうさまでした~」

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

 これまでの長ったらしい理屈を一行でまとめたかのような、華音お母さんの簡潔な号令で夕食も終わり。他の家庭ならあとは寝るだけなのでしょうが、ことこの神藤家に限っては違います。

 

「ああもう、アンタはまたそんなに口を汚してっ。こっち向きなさい、ほらっ」

「ん~~っ」

 

 隣に居るあまねお姉ちゃんが、私の口を布巾でふきふき。

 

「はい、お薬もキチンと飲まないとダメよ?」

「あいっ」

 

 華音お母さんが差し出してくれた、赤くてまん丸なお薬をあ~~ん、ごっくん。

 

 これが私の毎朝(夜)(まいよ)の儀式です。

 なにせ私は全力でお昼寝した後なのですから、夕食とは朝食に他なりません。って以前にも言いましたね、このくだり。

 

「ほら、久遠は夕方サボった神楽舞いの稽古。……もしそんなにイヤなんだったら、代わろうか?」

 

 普段は強気なのに、私がある程度まで意志を曲げずにいると。あまねお姉ちゃんは、途端に口調が尻すぼみになってしまいます。

 それはまた、ふとしたキッカケで私が居なくなってしまうのではないかという恐怖。私があれだけ神藤の神社への帰ることを切望したように、あまねお姉ちゃんもまた私の帰還を切望してくれていました。

 

 ほら、今だって背中から私を抱きしめて。どこへも行かないようにと離してはくれません。

 あまねお姉ちゃんだって実は、私と同じくらいの寂しがり屋なのです。

 

「大丈夫、マジメに練習するよ。……お姉ちゃんとの鬼ごっこはもう、十分に楽しんだから。続きはまた、明日ね?」

 

 続き。また明日。私はその言葉をハッキリと伝えます。

 私はもう、どこにも行かないよと。お姉ちゃんの傍に、キチンと居るよと。そう言えば、お姉ちゃんの瞳から不安の色が消えさるって知ってるから。

 

「…………うん」

 

 安心してくれたのでしょう。少しだけ、私を抱きしめる姉の腕が緩んだ気がします。 

 私はもう、二度とこの絆を手放しません。

 

 ――絶対に、ぜったいにです。

 

 

 ◇

 

 

 稽古場である本堂裏に向かった私は、自分だけの「お父さん」の気配を感じ取り、思わず駆け足になってしまいました。

 

「――お父さん!」

「おはよう、久遠。今日も神楽舞いの稽古かい?」

 

 とは言っても実の父、鬼舞辻 無惨ではありません。私のいうお父さんとは勿論、炭治郎君と禰豆子ちゃんのお父君、竈門炭十郎パパのことです。

 周囲には篝火(かがりび)が焚かれ、神聖な雰囲気が漂っており。あとは主役である私の登壇を待つのみとなっています。

 

 この神藤の神社に戻ってから、炭十郎パパとはずっと一緒の生活とはいきませんでした。

 なにしろ彼には彼のお仕事があります。

 元々、人間と鬼は相容れぬ存在。私やデンデン丸、ドロ助のようにに会話がなりたち、友好の輪を作れる鬼の方が希少極まりない存在です。大抵の鬼は己の本能に忠実で、見境なく人を襲う山賊のような連中だと言ってよいでしょう。

 炭十郎パパ曰く、心の善悪どちらかを前に出すかで善人か悪人かは決まる。それは鬼も人間も変わらない、だそうで。そう考えれば私も、自然と納得できました。

 もちろん私と炭十郎パパの絆は、たとえ平穏な生活に戻れたとしても途切れることはなく。今はお嫁さんや子供さん達が居る実家と、鬼狩りの出先、そしてこの神藤神社をぐるぐると回るような生活を送っているようです。

 

「ねえねえ、今度はどれくらい此処にいられるの? 鬼退治するのはこの近く??」

 

 私は疑問をぶつけながらも、餌付けされた飼い犬のように擦り寄ります。もしシッポが生えていたなら、ブンブンと振り回していることでしょう。

 

「ああ、いや。今回は鬼退治じゃなくて、護衛の仕事だよ。なんでも、此方から関東の方へ御輿入れがあるらしくてねぇ。鎹鴉(かすがいがらす)曰く、ここから近くて。ともすれば、この神藤神社かってくらい――」

「そう、目的地はここに相違ないよ、炭十郎。この神社の娘さんが私の愛するお嫁さんなんだ」

 

 とは、とっても落ち着いた口調の誰かさん。少なくとも私の知らない声でした。

 対する炭十郎パパは、珍しくも表情豊かに口をあんぐりと開けて硬直しています。

 

「なっ、なっ――――」

 

 な? 「な」から始まる名前なのかな?? え、違う???

 

「おやおや、鎹鴉から聞いていないのかい? 今回は私のお嫁さんの護衛をお願いしたんだけどねぇ」

「耀哉っ、お前!?」

「うん、久しぶりだね炭十郎。君ったら全然本部に顔を見せないんだもの。こうなれば御館様権限を使っちゃおうって、ね?」

 

 なんだか、随分と親しげな会話です。

 

「鬼殺隊の当主が、なぜこんなトコロにまで遠出して来ている!? どこから狙われるとも知らないのだぞ!」

 

 そもそも炭十郎パパがこんなに声を荒げるところなんて、始めてみました。

 って、え、ええ? 鬼殺隊の当主様?? それってつまり……、

 

「ああ、ずっと会ってみたかったんだ。君が炭十郎を助けてくれた久遠ちゃんだね? 親友がいつもお世話になってます」

 

 お世話? ああ、そうか。はたから見れば、私が炭十郎を無限城から救い出したって形になるのか……って、ええっ!? 私は混乱するばかりです。

 

「改めまして自己紹介を。私の名は産屋敷耀哉。君のお姉さん、神藤あまねさんを迎えにきた、未来のお義兄さんなんだ。よろしくね? 『神藤』久遠ちゃん」

 




 最後までお読みいただきありがとございました。
 この三章は前半と後半に分けたところの間章となります。平和な日常回ですね。なのでのんびりと読んで頂ければと思います。
 全五話を予定しており、執筆は終わっていますのでそれまでは毎日更新を継続します。よろしければ17時になったら確認してみてくださいね。

 お願い致します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。