神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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第2話「必死の抵抗となつかしき人達」

「ぜったい、絶対。ケッコンなんて、ぜええええええええええったい反対ぃいいいいいぃ!!!」

 

 神楽舞いの練習どころじゃなくなった私は、もうぜんと自宅兼社務所へ駆け戻りました。その勢いのまま、お茶の間にいた祖父と母へ猛然と詰め寄ります。

 せっかく、ようやく暖かくて幸せな、この空間を手に入れたのです。もはや私の中で、姉のいない神藤神社など考えられるはずがありません。

 

 対する母や祖父は、こんな私の態度を半ば予想していたようでした。

 何しろ当時の私は姉にべったりとした生活をしており、例外なんて神楽舞いの稽古がイヤで逃げ出す時くらいのものです。

 

「気持ちは分かるけどね、久遠。これは三年も前に決まっていた事なの。あまねお姉ちゃんだってもう二十歳なんだから、幸せにならなきゃね?」

 

 困っているような、困っていないような笑顔で私の説得にかかる華音母さん。

 なんと私が戻ってきて一年後、姉が十七歳の時に、私に内緒でお見合いをしていたそうなのです。ですがこの時の私にとって姉は、無くてはならない存在でした。簡単にはいどうぞと、譲るわけにいきません。

 

「別に、二度と会えねえってわけじゃねえんじゃぞ?」

 

 そう言ったのは喧吾お祖父ちゃん。とは言ったって、嫁ぎ先は関東。かなりの距離です。行きたい時にいけない、会えない時に会えないっていうのは、生き別れと何が違うのか。

 私が脳裏でそこまで考えた時、問題なのは離れ離れになったお互いの距離だけなのだと。私は結論づけます。

 あれ? それなら……?? と。すごく、すご~く身近に解決策がある事に気づいたのです。

 

『……響凱、泥穀。私の声が聞こえてる!?』

 

 祖父と母への抗議を突如ピタリと止め、不思議に思われながらも自室に駆け込んだ私は。ボソリと頭の中で、この場にいない家来へ語りかけます。

 すると、

 

『はっ、おひいさま。この響凱、いついかなる時にも御身の傍に』

『久しぶりのお呼び出しだな。いつ呼び出しがあるかも分からずに待つのも疲れるんだぜ?』

 

 私の耳が聞き慣れた、信頼する部下二人の声を受け取ります。

 今現在、デンデン丸こと響凱と、ドロ助こと泥穀はこの神藤神社にはいません。なぜかといえば、二人にとって人の世は危険だからです。この伊勢神宮という土地が放つ神気も鬼の健康に良くないし、いつどこで鬼殺隊士に眼に付けられるか分かったもんじゃありません。

 四歳の時に家出した際、身につけていた三種の神器は今だ私の手元にあり。外出時は隠れ傘と隠れ蓑を身につけることで、私は平穏な四年間を送ってきました。

 身を隠す術がない二人は無限城でお留守番です。それでも不自由がないのです。

 なにせこの二人は、六年前の家出劇で会得した合体血鬼術で一度訪れた場所なら何処にでも行けるのですから。ならば鬼にとって一番安全な場所である、無限城に居るのが理想的です。

 

『泥穀は、西の方って何処まで行ったことがあるの?』

 

 はたから見れば何もない空へ語りかけるようにして、私は人の世から鬼の世へ意志を伝えます。すると、無限城の泥穀から意外な言葉が返ってきました。

 

『俺自身はそこまで遠出したことはねえな。なんと言っても西、関東は鬼殺隊の本部があると噂される方角だ。好き好んで向かう鬼なんていやしねえ』

『そっか、そうだよね。誰も危ないところへなんて行きたくないよね……。でもそれだと、関東へは飛べないよね?』

『ああ』

 

 昔の私なら、ワガママの限りをつくして無理矢理命令したのでしょうが。今の私は分別というものを知った大人の女(十歳)です。家来である泥穀の身体が第一、危ないまねは主人としてさせられません。

 

 でも、

 

『ただ、今じゃ俺の代わりにアイツが各地を回って情報を集めてくれているんだぜ? おひいさまから預かったアイツがな』

 

 にゃおん、と。

 無限城からとは、また別の場所から聞こえるような、

 

『ふえっ?』

 

 そんな風に届いた鳴き声は、忘れるわけもない我が娘の声色です。

 

『この四年間で、俺の持つ忍術を叩き込んでやったんだ。今では立派な忍猫だぜ? なあ、茶々丸』

 

 にゃあ。

 泥穀の呼びかけに元気に答えるねこ、あらため茶々丸。ってこの子、すでに出産さえも経験した大人の女性なんだけど!? なんで名前が茶々丸!?? 泥穀、なんで勝手に新しい名前をつけてるのおぉおぉ!??? 

 

 なぜこんなにも私が狼狽しているか理解できない泥穀は、首を斜めに傾げています。

 

『そりゃあ誤解だ、おひいさま。いくら俺だって名付けの時に性別くらい確認するぜ。茶々丸って名前をつけたのは、俺じゃない』

『じゃあ、だれなの!?』

 

 憤慨しつつも意識の中で問い返す私。ですが次の瞬間、私はそんな浅はかな自分自身をひっぱたきたくなるほど後悔してしまうのでした。

 

『あー、伊勢神宮からそこまで遠いってわけじゃねえから、行こうと思えば会えるぜ。覚えてるか? 六年前に青山高原で出会った鬼女医さん、珠世先生のこと。茶々丸は今、そっちでご厄介になっているんだ。』

 

 ――――――……、へっ? えええええぇっ!??

 

 そのようなわけで、私は六年ぶりにあの鬼女医様への再会は果たすべく、行動を開始しなければならないのでした。

 

 

 ◇

 

 

「そんなにコワイ人かな? 珠世先生って」

 

 夕暮れという鬼にとっての朝時。私は今日という一日を、外出にあてることを決心しました。

 だからと言って、一人での外出を許されるほど私の信用度は高くありません。私が夜に外出する時は、必ず誰かの同行を求めなくてはなりませんでした。

 それは武術の鍛錬という名目で私と遊びたがった喧吾お祖父ちゃんだったり、近場でのお散歩であれば あまねお姉ちゃんだったり様々です。

 しかして今回の同行者はこの人、炭十郎パパでした。

 

「むかし、オシオキだって酷い目にあわされた苦い記憶が、ね」

「どうせ、久遠がひどい悪戯しちゃったから怒られたのだろう?」

「むぅ、まぁそうだけど。どうせってなに、どうせって!」

 

 最近の炭十郎パパは、娘である私に対して容赦がありません。それに私がいくらお願いしても長男や次女(長女は私)、そして新しく生まれたという次男に会わせてくれません。

 

「それにお父さんは、自称お姉ちゃんの婚約者についてなくていいの? 昔からの友達なんでしょ?」

 

 反撃とばかりに私は口を尖らせます。

 炭十郎パパの友達を悪く言うのは気がひけますが、なんでしょう。あの産屋敷耀哉という男性からは、得体の知れない何かを感じてしまいます。それが私の中にある鬼の血が感じるのか、それとも人の血が感じるのかまでは不明です。が、あまり気分の良いものとは思えません。

 炭十郎パパは「自称じゃないんだけどな」と呟きながら答えを返してきます。

 

「耀哉には東京から連れて来た護衛役がすでに居るしね。上弦級の大鬼が出張ってこない限りは心配ないよ」

「……ふ~~ん」

 

 嘘じゃないよ? とばかりにのんびりまったり、炭十郎パパは旅路を満喫しています。親友の心配なんて欠片もしていません。ならば私も、この旅路を楽しまねばもったいないというものです。

 季節は初春。もうすぐ満開の桜が境内を覆いつくす風景を想えば、この先の不安ごとなんて吹き飛んでなくなってしまいそうです。

 ええ、この時の私は間違いなく幸せでした。

 

 少なくとも、次の炭十郎パパが口にした発言を聞くまでは。

 

「それに私は、道案内役も兼ねているんだ。久遠は知らないでしょ? 珠世先生の診療所が何処にあるか」

「………………ふえっ?」

 

 

 

 

 

 痛し懐かしな風景というのは、こういう時に使う表現なのでしょうか。

 え、痛し痒しの間違い? ……ま、まあそうとも言いますね。ほら、昔の苦い思い出がありつつも懐かしい、みたいな状況で使う私独自の造語ですよ。え、それだったら苦し懷かしだろうって? ………………。。。。

 

 まぁ、そんなどうでもいい言葉遊びは置いておいて。

 夕日が沈み、三日月のお月様が爛々と輝くようになってニ刻ほど。私は頭の中で響く泥穀の案内にしたがって、山麓の村にたどり着いていました。

 遠方には懐かしい、青山高原の山々。あのてっぺんには六年前に大暴れした千方窟があり、そのまま向こうに下りるなら泥穀の故郷である伊賀流の里があります。

 とどのつまり私と炭十郎パパが辿り付いた農村は、六年前から珠世先生が医師として滞在している村なのです。あのとき珠世先生は、この村の少年が患った難病をどうにかしようと青山高原へ訪れていました。

 

 泥穀の言葉が確かなら、今もこの村に、目的の鬼女医さんが住んでいるはずでして――。ですがしかし、医者だからといって特別門構えが違うわけでもありません。はっきり言えば、どの家が珠世の住処なのかが、じぇんじぇん分からないということです。

 しかして何の心配もいりません。

 

「珠世先生の診療所は村はずれにあるんだ。もう少しだよ」

 

 私の頭上から、道案内さんが進むべき道を示してくれています。どうやら炭十郎パパはこれが初めての来訪ではないようです。ですが私としては正直、気が進みません。六年前のお尻百叩きは、私の心に大きな傷を残しているのです。

 

「なんで? もうツノだって隠せるようになったし、力も抑えられているから大丈夫。今の久遠は、誰が見てもただの美少女巫女さんだ」

「むぅ、褒めたって何にもでないよ? ……、えへへ」

 

 今にして思えば、ちょろいですね私。炭十郎パパの手から伸びるヒモが、私の首に巻きついているかのようです。

 そんな家族団欒に横槍をいれてきたのは、懐かしいほどにぶっきらぼうな少年の声でした。

 

「だからと言って、夜にしか姿を見せないのであれば十分に怪しいが。ひさしいな、鬼舞辻久遠」

 

 そこには六年前となんら変わらない、鬼少年の顔があります。

 

「今は神藤久遠だよ。あ、珠世先生の犬の……えっと、パシ郎くんだっけ?」

「……愈史郎だ。それに珠世様の助手ではあるが、畜生にまで落ちたつもりはない!」 

 

 私のうろ覚えな言葉に憤慨する愈史郎くん。相変わらず影の薄さでは天下一だと感心(?)してしまいます。ですが、そんな私の暴言を炭十郎パパは許しません。

 

「こら久遠。いくら知り合いでも人を貶してはいけないぞ?」

「はぁーい」

 

 これでも本人は精一杯怒っているつもりのようですが、残念ながらちっとも怖くないのも炭十郎パパらしいです。

 

「相変わらずの奔放っぷりだな。まぁ、だからこそ珠世様と意気投合できるのかもしれんが。今回は百叩きなどされんよう、気をつけることだ」

「うっ、イヤなこと思い出させないでよー」

 

 本当は珠世先生の名前がでた時から思い出しちゃってたけど。

 

「なに、俺を犬呼ばわりしてくれた礼だ。気にするな」

「むぅ……」

 

 私をやりこめて満足したのか、愈史郎君の視線は炭十郎パパへと移ります。

 

「前々から思ってはいたが、改めて問わせてもらおう。鬼殺の剣士がなぜ鬼の娘を連れている? なぜ鬼を見つけたのに斬らない? 俺達鬼は、貴様等からすれば憎悪の対象だろう」

 

 鬼特有の鋭い視線が、炭十郎パパの顔面へ突き刺さります。しかしてこの程度で怯む人でもありません。四年前には上弦の弐:童磨の威圧さえ受け流したのです。

 

「なに、私は鬼殺隊の中でも変わり者でね。ただ鬼だからという理由で刃を向けるのはやめたんだ。そのおかげか、こんなに可愛い娘もできたしね」

 

 モフモフさらさらと、私の黒髪をすいてくれる炭十郎パパ。気分の良い私は目を細め、家猫のようにされるがままとなっています。

 

「……奇妙な男だ。まあ、良いだろう。()()()()()()()()()()()

 

 一応ではありましょうが、私達は信頼を勝ち得たようです。私と炭十郎パパは、早足で村の郊外へと向かう愈史郎君を追いかけ始めました。その歩みの先には珠世先生と、私の子:茶々丸が居るはずです。

 

 果たして六年ぶりとなる珠世先生との再会は、どのような展開となるのでしょうか?

 待て、次号!




 最後までお読み頂きありがとうございました。
 次号にて、懐かしい御方が再登場します。そう、鬼滅界のチートである珠世先生です。彼女に比べれば、竈門兄妹のチート振りも可愛いもんですよね。なにせ原作では、彼女としのぶさんが居なければ確実に無惨を討伐出来ていないのですから。
 無限老化薬ってなんやねん。どっかに伏線あったかな?
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