神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》 作:みかみ
外伝の第二話です。
本編では綺麗で頼りがいのある強いお姉さんな久遠さんですが、このお話ではまだまだ三歳児。
己の欲望と本能に突き動かされる久遠ちゃんの姿をお楽しみください(笑
この私、鬼舞辻(神藤)久遠が父に連れて来てもらった鬼ヶ島には、いろんな鬼が沢山住んでいました。
多分、皆さんがこの光景を見たのなら「こんな所の何処が面白いの?」と言うでしょう。別に公園に設置されているような遊具がある訳でもないし、大量のおもちゃを買ってもらったわけでもありません。
じゃあなんだよと問われれば……、そうですね。この鬼ヶ島全体がお化け屋敷だったと言えば理解してもらえると思います。
見上げれば数え切れないほど数多くの部屋があり、鬼達の暮らしがあり、自己紹介だけで一生が終わってしまいそうなほどです。これが他の人なら化物の巣窟だと恐れたのでしょうが、まだまだ幼い私にとって鬼が何であるかなど知るよしもなかったのです。
「半天狗のおじいちゃん、今日も鬼ごっこしよっ!」
私が母様の胎内から生まれでて三年の月日が過ぎ、この頃にはもうだいぶ言葉も覚えたようでした。
「ヒイィィ……おひいさま。儂一人でも逃げ切れぬのに、喜怒哀楽の鬼に力をさいてはすぐさま捕まってしまいますぞぉ……」
今の私はお姫様であると同時に、鬼ヶ島にやってきた桃太郎でもありました。
桃太郎のお仕事はヤァヤァと叫びながら鬼達を追い掛け回すこと。鬼ごっことしては役割があべこべではありますが、当時の私はあまねお姉ちゃんが読み聞かせてくれた絵本の主人公になりきっていたのです。
「いつも通り、その大きなたんこぶを叩けたら私の勝ちねっ!」
この半天狗、老けた見た目の割にすばしっこくて中々捕まえられません。それに加えて奇妙な分身の術を会得しているのです。
「ヒィィ……早う、早う儂を連れて逃げておくれ可楽!」
「たのしいのう、楽しいのう。今日こそは逃げ切ってみせるからのう!」
身体が半分に割れ、若々しい二本角をもった鬼が現れると不思議な
ですがその技は昨日、もう見ていますっ!
「風だけじゃあ、つまんないよっ! ねぇねぇ、もっと楽しい鬼がいるんでしょ? もっと、もっと出してよぉ!」
「ヒイィィィィ――――……っ!」
「たのしいのう、鬼ごっこは楽しいのうっ!!」
まるで狂気の塊のような鬼ごっこでした。半天狗の繰り出す弾丸のような風を縦横無尽に躱しながら、私は上下左右に揺らぎ続ける鬼ヶ島の中を走り抜けます。
私は父の、鬼舞辻 無惨の娘。
この鬼ヶ島(無限城)に居る鬼の誰しもが、その事実を疑いはしませんでした。その証拠とばかりに私は、三歳にして上弦をあしらうまでの力を手にしていたのです。
今思えば、この鬼ごっここそが私の旅支度でした。鬼は人のように大げさな手荷物も必要ありません。必要なのは一つだけ、例え孤独になろうとも生きぬく力。それだけがあれば良いのだと、かたくなに信じていたのです。
そんな、まだまだ幸せな生活が続いていた。――ある日のこと。
毎朝の日課となった屋敷内のお散歩を、私はもう一人のお世話役である堕姫お姉さんと一緒に楽しんでいました。
そんなおり、私は床材の木板の段差につまづき、ゴッツンころりんこしてしまったのです。
私とて神ではありません。たとえ三歳にして上弦を追い掛け回そうが、木から落ちたり筆を誤ったりもしてしまいます。
「うっ……うぇ…………」
その時の私はまだまだ幼稚で、言葉よりも泣くか笑うかで感情表現をする生き物でした。
ひざ小僧からジンジンとした感触が伝わり、これが痛みというものだと認識した瞬間。条件反射のごとく瞳から涙があふれてきます。
「うえええええ――――――――っ!」
私は大げさなくらい、声を出して泣きました。
幼児の泣き声って痛みだけではなく、「怪我しちゃったよ、可愛そうなんだから私にかまってよ!」という意味も含まれるんですよね。今思うと
「あらあら、どうしましたおひいさま。ちょっとつまづいたくらいで…………」
かまってちゃんな当時の私に対して、堕姫お姉さんの反応はひどく冷めたものでした。
ですがそれは、決して堕姫お姉さんが薄情だというわけではなく。
鬼に痛覚など存在しないという常識があるためだったのです。
それに加え、私のひざ小僧から血が流れて止まらない光景を見て。
堕姫お姉さんは、まんまるに両目を見開いたのでした。
「……血が止まらない? 傷が、塞がらない……っ!?」
「…………ふぇ?」
一応はかまってもらえたので泣きやんだ私でしたが、今度はなぜ驚いているのかが理解できません。
私にとって、怪我をしたら血が流れるのはごく当然の摂理。しばらくはこの痛みを我慢しなければならないのも、「人ならば」当たり前すぎて説明するまでもありません。
しかしてここは鬼の城、鬼ばかりが住む鬼ヶ島です。
父、鬼舞辻 無惨の娘である私にも当然、鬼の血は流れているわけで。堕姫お姉さんは、私が怪我をする生き物だと知らなかったのも無理はありません。
「お姉ちゃん、いたいのいたいのとんでけ~して?」
「……え、痛い? おひいさま、痛いのっ!?」
「転んだら痛いのはあたりまえだよ…………」
神藤神社に居た頃であればこんな時、義理の姉である あまねお姉さんはよくおまじないをしてくれました。
柔らかくもあたたかい布で傷口を抑え、私が泣き止むまで「痛いのいたいの、とんでいけ~」と言いいながら頭を撫でてくれたのです。当時の私はそれが当たり前で、いま目の前にいる堕姫お姉さんもしてくれるはずだと思い込んでいました。思い込んで、いたんです。
ですが……、
「もしかしてこの子、……半分は人間っ!?」
そう言った時の彼女が見せた反応は、今でも鮮明に覚えています。
まるで化物を見たかのように驚いて飛び退り、これまで優しかった瞳が急に細くなって私の顔を射抜いてきたのです。私は知りませんでした。そこは鬼ばかりが生活し、父が支配する無限城なのだということを。
そして此処における人間という生き物は、……皆にとって食料でしかないということも。
◇
それからというもの、私の鬼ヶ島(無限城)での生活は急に寂しいものへと変わってゆきました。
別段、爪弾きにあっているわけではないのですが、どうにも私を避けているような印象を受けたのです。
「こんにちわ~」
神藤神社に居た頃、あまねお姉ちゃんに「挨拶はちゃんとしなきゃダメ!」と言われていた私は今日も元気よく声をかけます。
ですが、ほら。
「こっ、これはおひいさま。ご機嫌うるわしゅう……、すみませぬが急いでおりますので…………」
「むう~~…………」
みんながみんな、こんな感じです。
昨日までは私とのおしゃべりにも優しい笑顔でつきあってくれたのに……。まるでもう此処にいちゃいけないような気がして、私の気分も沈んでいく一方です。
これは後から知ったことなのですが、私の体に父の血が流れていることも皆は当然のごとく気付いていました。でも皆、私に頭を下げているわけではなく、私の後ろに見える父に頭をさげていたのです。
千年もの間つづく鬼の歴史の中で、私は初めて生まれた鬼と人の混血です。そんな私にどう接するべきなのか、下手に何かをすれば父の怒りに触れてしまうのではないかと恐れられるのも無理はありません。
まぁ、本当はもう一つ理由があるのですが……、そのお話はまた今度に致しましょうかね。
「なんで、どうして誰も久遠と遊んでくれないの……?」
しかして当時の私にそんな事情が理解できるはずもありません。
私はただ、鬼の皆に嫌われているのだという誤解を宿したまま。いつしか自室に引きこもり、中身のない毎日を過ごすようになってゆきました。
「もう、お家にかえりたいな……」
布団の中で思い出すのは神藤神社での生活。
祖父がおり、母がおり、そして あまねお姉ちゃんの優しい笑顔が当たり前にようにあったあのお家。けど私がどれだけ泣き喚こうが、父は決して神藤神社へ帰してはくれませんでした。そんな父に不満をもった私は無限城に来てから一年後、ついに暴走することになります。
そう、
家出です――――。
「おひいさま、小生は。小生は、どこまでお付き合いすればよろしいのでしょうか?」
「いいからっ、さっさと私を肩車して歩きなさいデンデン丸! もちろん楽しい太鼓の音も聞かせてね?」
家出という名の大冒険を決意した私は、一人の家来を連れてゆくことにしました。
え? 家来なんていたのかって?
もちろんです、だって私はお姫様なのですから。えっへん。
と同時に、当時の私は桃太郎にもなりきっていました。
はじめての家来は猿。ではなく、体中に太鼓を付けたオジさんです。名は
天才か、当時の私。ひどすぎる仇名だぞ。
そんなデンデン丸に肩車をしてもらいながら、太鼓の音と共に行進し、この無限城の出口をひたすら探します。当然の事ながら、そう簡単に見つかるわけもありません。なぜなら、そもそも出口なんて存在しないのですから。
しかしそれとて私は予測済み。
こんなこともあろうかと、ある秘策を用意していたのです!
「……ここまで来れば、お父さんにも見つからないかな。さあ、デンデン丸。約束どおり、ご褒美をあげるね?」
肩から飛び降りた私は、背が高いデンデン丸を見上げるとニコリと微笑みます。
そのご褒美とは、背中に担いだ大袋の中身にありました。
「隠れ蓑・隠れ傘」「打ち出の小槌」そして「延命袋」。
実はコレ、父の部屋からくすねてきた「三種の神器」と呼ばれる鬼ヶ島(無限城)の秘宝なのです。
世の中は持ちつ持たれつ。ハイカラに言うなら、ぎぶあんどていくです。ただ頭ごなしに命令するだけでは部下の心を得ることなどできません。
ならばと私は、これから家来にする「猿・犬・キジ」の願いごとを叶えてあげようとしたのです。桃太郎でいうところの「きびだんご」ですね。
「……おおっ、おひいさま。まさか、まさかソレを小生…………、に?」
「全部じゃないよ? これから犬とキジも家来にしなきゃいけないんだから。これでデンデン丸の願いは叶うかな?」
「それはもちろん――――。…………いえ、申し訳ありませぬ」
最初は宝物を前にしてヨダレをたらしそうな勢いだったデンデン丸は、一転して顔を曇らせ、謝罪の言葉を口にします。
「だめなの?」
「おひいさまのお気持ちは、小生にとって法外なもの。ですがお許しくだされ、小生の願いは己の手のみでしか成しえないものですゆえ……お気持ちだけを、ありがたく」
私の前で膝を折り、謝意を伝えるデンデン丸。
ですがそれでは物語になりません。桃太郎は「きびだんご」を与えて「家来」を集めるものなのです。
「なら、デンデン丸の願いって。……なに? 久遠には叶えられないもの?」
「おそれながら……、小生の願いは『一生に一度の傑作』を書き上げることです。この先、数百年という月日が流れようとも人々の間で読まれ続けるような、そんな物語を」
彼が言うにデンデン丸こと響凱は人であった頃、売れない作家として苦悩する毎日を送っていたそうです。
どれだけ書こうが芽は出ず、師匠には筆を置けと怒鳴られる毎日。
そんな生活の中で、唯一の楽しみであったのが鼓打ちでした。本人の想いとは裏腹に自筆の作品は日の目を浴びず、それに反するかのように副業であった演奏家としての評判ばかりがたかまってゆく。
他人から言わせれば人間時代の響凱とて一角の財を成した人物だと写っていたことでしょう。ですが彼の望みは演奏家としての成功ではなく、莫大なお金でもなく。
才に恵まれなかったとはいえ、もっとも夢中になれた小説家への夢だったのです。
当時の私は、そんな彼の想いを打ち明けられて考えました。
そして、名案がピカンと閃いたのです!
「ねえ、デンデン丸。なら、久遠といっしょに来て『久遠の物語』をかいてよ」
「…………おひいさま?」
「ね? 久遠はこれから冒険をするの。桃太郎の絵本みたいな大冒険で、英雄さんになるの。デンデン丸はそんな久遠の、初めての家来になるの」
突然の言葉に、彼は呆然と私の顔を見上げています。
「小生が……。小生がおひいさまの伝記を書かせて、いただけるのですか?」
ニッコリと満面の笑みを浮かべる私と喜びの涙を浮かべるデンデン丸。どうやら満足してもらえたようです。
「うん。だからね、久遠の家来になってよ。お父さんの家来じゃない、久遠だけの家来になってよ!」
「もちろん、もちろんでございますともっ。この響凱、おひいさまのお傍で一生を書き留めさせて頂きまする!」
木の床にひたいをゴっつんこさせながら、デンデン丸は私の前にひれふしました。
ふふふ、すべては私の計画どおりなのだ!
そうなれば、あとはこの鬼ヶ島から脱出するだけです。先ほども申し上げた通り、父の居城である無限城に出口はありません。当時の私は知る由もないことでしたが、琵琶女と呼ばれる鬼が父以外すべての鬼を出入りさせているのです。
当然のごとく、私が出たいと駄々をこねても出られるわけもなく。だからこそ、鬼の中でも特異な血気術をもった彼を第一の家来にしたのです!
目の前にはどこにでもある、何の変哲もない木板の壁。
出口がない? なら出口を作ればいいではないですか。
やはり私、天才ね。
デンデン丸こと響凱の空間系血気術「迷宮御殿」の力により周囲の景色が絶え間なく変化し、うつろい。そして、一つの道が開かれます。奥は真っ白で何も見えませんが、その先には確かに鬼ではなく、人の居る気配が感じられました。
それだけで、当時の私は身震いするほどの冒険心を掻き立てられたのです。
「さあ、デンデン丸。冒険の始まりだよっ!」
「ははぁ――――――っ!」
余談ではありますが響凱はこの時、まだ下弦にすらなっていない雑魚鬼でした。ですがこの数日間だけは、私が与えたあるモノによって、上弦に迫るまでの力を持っていたようです。
ええ、もう。何度でも言いましょう。
さすがだな、私。
最後までお読みいただきありがとうございます。
普通に物語を書いてもつまらないので、未来の主人公による一人語りでの、昔話風にしてみました。
語り部;神藤久遠
脚本:デンデン丸(鼓鬼:響凱)です。
というわけで「桃太郎を演じる久遠」による「鬼の家来」集めが家出と言う形で始まります。
鼓鬼の響凱さんこと「デンデン丸」は猿役ですね。
もちろん犬とキジも今後のお話で登場しますのでお楽しみに。
毎週日曜、午前零時に投稿しますので週末の空き時間に覗いてみて下さいね。
それではまた来週、お会いいたしましょう!