神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》 作:みかみ
不定期更新ですみませんorz
雅楽の奏でる音圧がビリビリと、伊勢中の木々に生えた葉、一枚一枚を微細に揺らしています。
明治の世における文明開化によって、西洋文化が浸透する事はや四十年。ぴあの、とらんぺっとなど南蛮な楽器が海の彼方よりどれだけ伝来しようが、この音をだせる楽器だけは日の本より出ずる国にしかありません。
私達の奉じる舞いは、神へ奉じると同時に子々孫々へと伝統を繋ぐ舞いでもあります。目新しいものばかりに目を取られず、これまで当たり前に存在する物を大切に。二代、三代、四代へと伝え継ぐ。それこそが、私達の使命です。
よく人から、舞っている時は何を考えているの? と聞かれます。
それは舞う私達の表情が、何か人のようではないほどに……。その、綺麗であるとか、神がかっているなどと、過分な評価を頂戴しているようでした。
しかしてそれはある意味、的を射てもいます。
わが身に神を降ろしている。などと言えば恐れ多い表現ですが、実際にそのような不思議極まる「神がかり」体験が実在している。それは決して、私が特別なのだと言う意味ではありません。
後になって相棒たる友人二人に聞けば、同様の体験をしていたと語ってくれました。神職、そして巫女という務めはもしかすると。神の代弁者となる事にこそ、本意があるのかもしれませんね。
儀式は厳かに続いていました。
私も、美奈子ちゃんも、祈花さまも、輝夜さんも。前述の通り、何かに取り付かれたように舞い踊ります。もちろん決まった踊りの型もありますし、阿吽の呼吸で互いにあわせなければならぬ箇所も存在します。
しかして失敗するような不安は微塵も沸きません。
私達は巫女。その意思はただ、
◇
そんな神事に、一つの違和感を覚えたのはどの辺りだったでしょうか。
もしかしたら。
舞いを始める前に私を壇上まで背負ってくれた、華音ママの言葉だったかもしれません。そう、今想い返すならこんな感じでした。
「……きちんとした体に、産んで上げられなくてごめんね」
「――――えっ?」
先ほどと同じように驚く私。ですが喜びの震えはありません。
この私、神藤久遠は鬼の血を引いて生まれたことで、普通の人とは違った道を歩んできました。
僅か三歳で神藤の家族から引き離されて鬼ヶ島で生き、鬼の世と人の世、そのどちらも経験してきて思うのです。
やはり鬼とは、人から生まれた生き物であるのだと。
人が当然のごとく持つ感情。いえ、欲の形と言い変えた方が分かりやすいでしょうか。それをハッキリと表に出し、叶えるだけの力を持たせた存在こそが「鬼」なのではないかと。
ですが、出る杭は打たれるとも申します。人の世において、誰かと違うという点は決して幸福な事でもありません。
母はそれを重々に承知しているからこそ。ここまでも、そしてこれからも。波乱に満ちた人生を歩むであろう私に、謝罪の言葉をかけてきたのです。
……話を、母との会話に戻しましょうか。
突然の母からの謝罪に、今度こそ私は無表情になりました。
「これから舞うって時に、突然な~に~?」
重苦しい雰囲気を拭い去ろうと、私はなんとかおどけてみせます。それでも、母の背中から発せられる空気は重苦しいものでした。
「ママはね、大恋愛をしたの。久遠を生んだのだって、後悔するわけもない。あの人だってきっと、天国で許してくれているわ」
華音ママの言う「あの人」とは私の父ではなく、人間である「あまねお姉ちゃんのお父様」の事でしょう。
姉の父がどんな人物であったのか、何が原因で亡くなってしまったのかは聞かされていません。ですが華音ママの言葉の節々に、大変な労苦と悲しみがあった事実だけは察せられます。
「……ママは、なぜ私の父と結婚したの?」
これまで聞こうとして、どうしても聞けなかった話題でした。それは神藤家の中でも暗黙のうちに秘するべし、といった雰囲気があったからです。
華音ママは、どうして私という半人半鬼を生んだのか。ですがその問いに答えるには、あまりにも時間が足りません。
「……………………そうねぇ。一言でいうなら、恋愛という名の狂気が、ママを狂わせちゃったのかな。それはどちらの旦那様であっても、違いはないわ」
「???」
華音ママの答えはあまりにも抽象的で、説明がなければ理解さえできません。
「いずれ、久遠にも素敵な旦那様が見つかったら理解できます。このお祭りが終わったら、ゆっくり話しましょうか。さっ、思う存分舞ってきなさい。私の愛する娘、久遠」
「…………うん」
ですがそうまで言われては、目の前の舞いに集中せざるを得ません。
すでに他の三人は壇上にて私を待ってくれています。すぐにでも伴奏の音が鳴り始め、私達四人娘最後の晴れ舞台が幕をあけるでしょう。
ならば前述の通り、私達は巫女たる自分を奉るだけ――。
そんな私達の舞いを見守りながら、舞台袖では華音ママの瞳に、一筋の雫がたれていました。
「……本当に立派になって。今のあの娘なら、もう手を離して大丈夫ですよね? ねぇ、あなた」
私達四人娘の倭舞は、厳かに、そして神々しく進んでゆきます。
普段からいつも一緒の私達は、お互いの呼吸や動きを完璧に把握していました。
万一誰かが失敗したとしても、他の三人がいつでも助けられる。逆にその失敗が緩急となり、私達の倭舞は天上へと昇華されてゆくのです。
(本当に、この時だけは不思議。――まるで、自分の身体が自分の物じゃないみたい)
私がそう思えば、
(――せやねえ。今年も神さんは、ウチらの身体を気に入って下さったみたいや)
とは、美奈子ちゃん。
(――――――――。ぐ~~、すやすや……)
って、輝夜ちゃん寝てる!?
(コラ輝夜っ! いくら神懸かりの最中だからって寝るなっ!)
(……おおっ!?)
すかさず
そんな漫才をこなしながらも、私達は妙な違和感に気づいていました。
(ねえ、気づいてる?)
(当然でしょ。これだけあからさまなら、輝夜だって気づくわよ)
(そうやなぁ、この神嘗祭に『厄』が混ざりこんどるなぁ)
私の問いかけに、祈花様と美奈子ちゃんが答えてくれます。当然、口に音をのせての会話ではありません。一緒に舞っている者だけが感じられる、説明も出来ない意思伝達術です。
(どこから、かしら?)
((どこって……))
再びの問いに、戸惑う二人。そしていち早く結論を導き出したのは、輝夜さんでした。祈花さまはああ言いますが、実は神懸かりの才で一番なのは輝夜さんなのです。
(――――――ここ。今、私達の居る、此処。でもまだ、出てこない)
そう、神様を降ろした巫女だけが気づく災厄は、今、正に。二千年もの長きに渡り続いた神嘗祭に、終わりを告げようとしていました。
それを何とかする役もまた、神は私達に任ぜようとされていたのです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
なんとかマイペースで続けていきますので、時たま覗いてみてください。宜しくお願い致します。
2021/03/23追記:長期間更新が停滞して申し訳ありません。モチベーション低下と新作の方に意識が向いてしまったため、この外伝はいったん投稿を休止させていただきます。次回作は一次創作となる予定です。もちろんこのハーメルンにも投稿しますので気長にお待ち頂ければ幸いです。