神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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 お待たせ致しました、第三話となります。
 いやぁ、これまで毎日更新を基本としていたせいか、週一更新だと本当にゆっくりですね。
 更新ペースを上げたいところではあるのですが、中々執筆スピードが上がらないのが困りものです。まあ、この外伝はオマケのようなものなので。どうかゆっくりとお付き合いくださいな。


第3話「初めての青い空だぁ!」

 デンデン丸の作り出した光の先には、初めて見る朝焼けと、光りさす新緑(しんよく)の森が待っていました。興奮のあまり木陰から飛び出した私は、すんだ空気を胸いっぱいに吸い込み、感動で声を張り上げてしまいます。

 

「かえってきた、私は帰ってきたぁ――――!」

 

 新しい朝が来ました。これぞまさに希望の朝。喜びに胸をあけ、さあ、大空をあおごうではないですか!

 そんな清々しい気分と共に両腕を天に伸ばし、私は堅苦しいお屋敷生活で固まった身体をときほぐします。

 

 ん? 何かこの私の行動が、皆様の幼少時代に通じるものでもありましたでしょうかね??

 …………ふむ、気のせいですよきっと♪ 

 

 そんな風に初めての外出を存分に満喫する私でしたが、第一の家来となったデンデン丸(響凱)はなぜか悲鳴をあげています。

 

「おひいさまっ!」

「ふえっ?」

「日の下へ出て行ってはなりませぬっ! はよう、はようお戻りくだされっ!!」

 

 当時の私は最初、彼が何を言っているのか理解できませんでした。

 こんなにも綺麗な朝焼けを、めいいっぱい楽しまないでどうするのかと憤慨(ふんがい)したのです。

 しかしてよくよく思い返してみれば、神藤神社(かみふじじんじゃ)にいた頃の私も、体が弱いからという理由で外出を禁止されていました。それどころか明るいうちは部屋の外へも出ることさえ禁じられていました。

 だからこその興奮ぶりではあったのですが、このあと私は壱の家来が慌てる理由を知ることとなります。

 

「ふえっ? ……ふえええええっ!??」

 

 なんとも意味不明な声を上げながら、私は東の空から昇ってきた日の光に違和感を覚えました。

 暑い、いえ熱いのです。まるで囲炉裏の火に近づきすぎた時のような熱さでした。私が体験した初めての日は、決してこころよくは歓迎してくれなかったのです。

 

「ふあ~、ちゃっちゃっちゃっ!!」

 

 またもや意味不明な悲鳴をあげながら、私は元いた木陰へ逃げ込みました。

 見上げればデンデン丸もまた、決して日の光が当たらぬ森の奥へと後ずさりしています。この時、私は初めて知りました。この身は決して、日の元へとは出て行けないのだと。

 

「おひいさまっ、お怪我はっ?」

「……ちゃ。うん、ちょっと熱かったけど、少しだったしだいじょうぶ……」

 

 私の言葉にデンデン丸は胸を撫で下ろしたようです。

 

「本当にようございました。ですが、鬼である我等が日の下へ出るなど自殺行為ですぞっ!」

 

 それまで私の言うことは何でもハイハイと聞いてくれていたデンデン丸が、初めて怒りをあらわにした瞬間でした。これにはさすがの私も首をすくませざるをえません。そこに理不尽がなく、ただ自分を心配してくれているのだと子供心にも理解できたからです。

 しかして、そんな理屈もくつがえすのが幼児というもので……。

 

「……ごめんなさ~い。でも、デンデン丸おこった」

「いえっ、それはおひいさまを心配したからで……」

「知ってる、でも怒った。おこったぁ!」

 

 両のほっぺをいっぱいに膨らませ、いじける私。今思えば、響凱に申し訳ないくらいの理不尽さでした。

 ですが無限城で蝶よ花よと育てられた私はいつの間にか、恥ずかしながら見事なまでの我がまま娘となっていたのです。……本当は、ちゃんとした理由もあるのですよ?

 

 

 ◇

 

 

「おひいさま、もう戻りませぬか? お姿が見えぬとなれば、お父上様がご心配なされますぞ……」

「やっ! だって家出だもん。私もう帰らないからっ!」

 

 幼児ながらの意地はなかなか終わりを見せません。

 ちなみに四歳児にしては言葉使いがお上手ね? と思われた方もいらっしゃるでしょう。それは最初に説明させて頂いた、幼児期健忘症(ようじきけんぼうしょう)というものに私が該当しなかった事実に起因します。

 他の子は物心がついた三歳頃から急激に精神年齢が発育しますが、私は母様のお腹に居た頃からしっかりとした自我を持っていました。つまり、この私は四歳児とはいえ。精神年齢自体は七・八歳児と同等の発育をみせているのです。どやっ。

 

 さて。

 日が西の空に落ちてゆくのをじっと木陰で待ち、夜の戸張が下りてから。ようやく私は冒険を再開させました。

 とは言っても夜は夜。漆黒の闇にしずんだ世界に人の気配はなく、ただ夜行性の獣が発するガサガサとした音のみが耳に届きます。

 万が一にもお目付け役である半天狗爺ちゃんや堕姫お姉ちゃんに見つからぬよう、父の部屋からくすねてきた隠形の秘宝「隠れ蓑」を身につけました。ちなみにデンデン丸には「隠れ傘」を貸してあげています。優しいなあ、私。

 

「う~ん、風がきもちいー」

 

 もはや日の熱さも感じられず、私は念願の自由を満喫しています。

 

「でも人は全然いないね……」

「それはそうでしょう。今よりは人ではなく獣の、鬼の時間でありまする。好き好んで危ない真似をする者はおりますまい」

 

 そんなデンデン丸の言葉に、私はまたムッとしました。それではまるで、私が馬鹿だと言われている気がしたのです。

 

「じゃあ人の居るところへ行けばいいじゃん! 行くよっ!!」

「ああ、ですから人里は危険だと申しておりまするのに……」

 

 きこえな~い、とばかりに私は早足で歩を進めます。

 なぜならこのデンデン丸(響凱)だけは、私のことだけを見てくれる、絶対の味方だと信じきっていたからです。

 

 

 

 原っぱを小一時間ほど歩いたでしょうか。

 どうやら私とデンデン丸が飛び出た場所は、周囲を山々で囲まれた盆地であったようです。それでも人の営みというものはあるもので、私達はようやく村落の光を発見しました。太陽の光は天敵でも、人の燈す明かりであれば何の問題もありません。夜闇のおかげで詳しい規模は把握できませんが、どうやら三十件ほどの民家が集まる小村のようでした。

 後ろをついてくるデンデン丸は不安そうでしたが、私は人に聞かねばならぬ事があったのです。

 

 神藤のお寺に比べれば、畑小屋のようなみすぼらしい民家でした。

 ですがその中から聞こえてくる声は、今の私がもっとも切望しているものでもあります。そう、それは「家族の団欒」という名の温もりです。

 

 私は遠慮気味に、コンコンと玄関の扉を叩くと口を開きました。

 

「こん……、ばんわ~」

 

 私の声が届いたのか、それまで楽しげであった中の声がピタリと止み。

 

「どっちさまやろか?」

 

 という方言混ざりな言葉が返ってきます。

 多少なりとも胸をドキドキさせながら、私は声を張り上げました。

 

「ごめんなさい。ちょっと、道を聞きたいんです」

「はぁ? こんな夜更けにか? それに……」

 

 そんな声が聞こえてくると同時に、こちらから引くまでもなくガラガラと引き戸が開きます。

 

「けったいやな、まだ乳離れも済んでねぇような子や……ん、か」

「あっ、はい……」

 

 家の中から顔を見せたのは父よりもずっと年を重ねた、あきらかに農民ですといった風体の男性でした。それにくわえて私の顔を見たオジサンは、まるで化物を見たかのように瞳をまん丸にしたのです。

 

「おめえさん、その……ツノ」

「ツノ? …………ああっ!?」

 

 失敗も失敗、大失敗です。

 鬼は人を喰らう存在であり、オジサン(人間)にとっては恐怖の対象でしかないという事実を、私はすっかり忘れてしまっていたのです! 身体を隠れ蓑で隠しているからと油断していました。これぞまさに身体隠して、ツノ隠さずです。

 

「あのね、これね。飾りなのっ! 本物のツノじゃないよ???」

「………………(じと~……)」

 

 慌てた私はなんとか誤魔化そう頑張りますが、オジサンの瞳にはすでに猜疑心という感情が満ち満ちています。

 

「……父様(ととさま)や、母様(ははさま)は一緒やないんか?」

「えっと、その……」

 

 慌てる私へ、オジサンが更なる追撃を試みます。

 今考えてみれば、こんな夜更けにいかにもお嬢様然とした幼児が一人で放浪しているなんてありえません。この時代は決して、子供が一人で夜遊びできる時代ではないのですから。だからと言ってデンデン丸が姿を見せるわけにはいきません。彼の人相や服装とて明らかに、普通の人ではないのです。

 怪しげな目で見られながらも、私は自分の目的をはっきりと伝えました。

 

「かみふじって、しりませんか?」

「かみふじ? ……確か、お伊勢さんところにそんな名の神社があった気がすんなぁ……」

「ほんと!?」

 

 脳天にはもはや産毛しか残っていないおじさんが、首をひねって出した答えに私の心は沸き立ちました。そう、家出した私の目的地は、一年前にお別れしたお母さんやあまねお姉ちゃんがいる神藤神社だったのです。

 しかして家の奥からは奥さんらしき人のダミ声が。

 

「アンタ何しとん!? お人良しもたいがいにせぇ!」

「わかっとるわっ! えらい事なっとるんは分かるが、こんな村に人助けできる余裕なんかあらへん。嬢が何者かは詮索せんから戻り。……ええな」

「…………」

 

 おじさんの問答無用な押しに、私は言葉を詰まらせてしまいます。

 確かにこの家も、周囲の家も。神藤の神社に比べれば作業小屋に等しき(たたず)まいなのは先ほども言った通りです。無情にも引き戸がピシャリと閉められ、周囲には再び静かな風の音のみとなってしまうのでした。

 

「む~…………」

 

 私は再びほっぺを膨らませながら、唸り続けます。

 

「やはり、こうなりましたか。おひいさま、いくらなんでもそのお年で一人旅というのは怪しすぎます」

「……けどぉ!」

「それに極力、人とは関わらないほうが良いかと。騒ぎにならなかっただけ、良しと致しましょうぞ」

 

 闇夜から隠れ傘をかぶったデンデン丸が姿を現し、必死になって私をなだめてくれますが、それでも思い通りにいかないお姫様の機嫌はなおりません。

 

「デンデン丸が助けてくれないからぁ!」

「小生の姿では人の前に出られません。顔を見せた途端に大騒ぎとなってしまいますよぉ。……今度こそ鬼だとばれてしまいます」

「う~………………、そんな恥ずかしい格好してるからでしょ。……この、ハダカ丸!」

「はだかまるっ!?」

 

 私はこの時、初めて世間の冷たい風というものを体感しました。

 この大正の世。更に言えば山間部の田舎に住む人々は、今日という日を生きるだけで精一杯なのです。ですが四歳当時の私はまだまだ、自分を中心に世間が廻っていると信じて疑わないお年頃。ただただ、ご機嫌斜めになってデンデン丸を責めることしか出来ませんでした。

 そんな状況を誤魔化そうと、彼は周囲を見渡した結果を教えてくれます。

 

「それはそうと、おひいさま。この村は少々おかしな気配に包まれておりまする」

「……おかしなけはい?」

 

 今なお周囲の気配に気を配りながら、デンデン丸は何かが気になるようです。

 

「はい、普通の農村はもっと穏やかな雰囲気に包まれているものです。ですがこの村はまるで……」

「まるで? なによもうっ!」

「戦場、とまではいかずとも。ピリピリとした空気が広がっておるのです。おそらくは悪党か、もしくは志能備……」

 

 と言いかけた、その時。

 

「ずいぶん古い言い方をするじゃねえか。今は忍びって呼び方が新しいんだぜ? ……鬼のおっさんよぉ」

 

 闇夜の中から、少年の声が私達の耳へと飛び込んできたのです。

 

「伊賀流の里へようこそってな、鬼のお二人さん。まぁもっとも『元』って一文字が前につくが」




 最後までお読みいただきありがとうございました。
 久遠ちゃんの「はじめてのお使い」ならぬ「はじめての家出」のはじまりはじまりであります。

 このお話を執筆するにあたり、農村のオジサンが話す三重弁というものに苦戦しました。関西系でありつつ、独自の言い回しや単語があるようなのですが。あまりにも解り辛いものはワザと使っておりません。
 ちなみに作者は新潟生まれ新潟育ちではありますが、越後弁を使っているかと言われれば、標準語が主であると言わざるをえませんね。まあ、時折ぽっと出て困惑される時はありますが。
 同じく、忍びという昭和以降に創作された言葉も解り易さを重視して使用しております。明治以前の忍者の呼び方は地方によって様々ですからね。解りやすさ第一ということでっ。
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