神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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 昔の自分エピソードって、今思うと赤面するものばかりじゃないですか?
 え? 私だけ??


第4話「きぶつじくおんさまであるっ!」

「伊賀流の里へようこそってな、鬼のお二人さん。まぁもっとも『元』って一文字が前につくが」

 

 闇夜の先から、自信満々な少年の声が聞こえてきます。

 それと同時に、忍者○○只今参上ってな感じで颯爽(さっそう)と登場! ……できたのなら、さぞ格好良い出会いとなったことでしょう。

 

 しかして残念ながら、その少年はいくら待てども姿形さえ見せなかったのです。

 それは果たして、忍びゆえの矜持(きょうじ)でもなんでもなく……。

 

「ねえ、どうして夜に木登りしてるの?」

「木登りじゃねえっ! 見てわからねえか、縛られてんだよっ!!」

 

 私達の言葉が示す通り、声の先には樹齢数百年は数えようかという大樹にぐるぐる巻きにされた少年の姿がありました。

 こんなひなびた農村では見られないであろう(失礼)、いかにも忍者! と言ったような漆黒の忍装束を身につけて、そのしたには自作であろう粗末な鎖帷子(くさりかたびら)を着込んでいます。しかしてその編み込みはかなり太く、そして荒いようでした。なぜなら少年が拘束を解こうとして暴れるたび、ジャラジャラとした金属音が聞こえてきたからです。……忍んでないじゃん。

 

「……山に囲まれてると、こういう遊びしかないの?」

「いえ、遊びの一種ではないと思われますぞ。おひいさま」

「おうっ、テメエら俺を馬鹿にしたな!? ぶっとばしてやるからまず、この縄を解きやがれ『餓鬼(ガキ)』!」

 

 かちーん。

 という音が私の頭に鳴り響きました。確かに当時の私は四歳児ですが、子供は自分を子供と呼ばれることが最大の侮辱なのです。ですが少年が放った次の一言が、私の興味をそらしてくれます。

 

「なんとなく分かるぜ、テメエらも鬼なんだろ? お仲間さんってわけだ」

「というと……、少年。お前もか」

「ああ、あるお方に力を授けていただいた」

 

 どうやらこの少年、鬼となってからまだ日が浅いようです。

 この調子ではまだ無限城(鬼ヶ島)へも来たことがないのでしょう。ですが残念。多少は驚きましたがこの私、鬼舞辻久遠はそんじょそこらの鬼とはワケが違うのですっっ!

 

「……でんでんまる?」

「はあ」

「よろしくね?」

「……御意、ですが本当にやるハメになるとは……」

 

 このような無作法者と出会うなど、家出した時から想定内。それに加え、当時の私はデンデン丸と共にある対処法を用意していたのです。

 

 ですけど、あの。これ、どうしても語らなきゃダメですか?

 

 ダメ?? ほんとに? ど~~~しても???

 

 私にとっては記憶の中から消し去りたい、顔面が沸騰しそうな思い出なんですけど……。騙されただけなんですけどっ! 上弦の弐である童磨(どうま)のヤツが「こうすれば皆、おひいさまの前にはは~って頭をたれますよ」って炊きつけられただけなんですけどっ!?

 

 …………………………………………。

 

 分かりました、わかりましたよっ!

 語ればいいんでしょ、もう!! 語ればっ!!!

 

 ……このナマイキこの上ない少年の前に進み出た私は、むむむ~っと胸を張り、なるべく偉そうにふんぞり返ります。

 それと同時に傍に控えたデンデン丸が、芝居がかった口上を声高々に叫んだのです。

 

「ひかえおろぉ~! 小僧、目の前に居るご息女を何と心得る。恐れ多くも、偉大なるかの御方の御息女であらせられる、おひいさま。鬼舞辻 久遠様であるぞっ!!」

 

 ああっ、自分で口にしたわけでもないのに恥ずかしいっ! むしろやれと命令した立場だから尚更っ!? 更にはここからがもうっ!

 

 今度は額からちょこんと伸びた角を可愛くひけらかし、赤く染まった鬼眼を爛々とさせながら。

 私は今できる精一杯の威厳のある姿を見せようと苦心してしまいました。えっへん。

 その気配は鬼である者なら誰もが知りえる最初にして最大の記憶。鬼化させられた時に味わったであろう最恐の畏怖。私の体に流れる父の血が、何よりの証拠として全ての鬼を平伏せるのです。ああ、あの時の私に自重という言葉があればっ。

 もしくは身につけていた隠れ(みの)を、この時だけは外していればっ!

 

 私の鬼眼が、何よりも父から受け継いだ絶対的支配者の血が。

 

 先ほどまでナマイキだった鬼少年の顔面を恐怖のどん底へと突き落とす、はずでした。

 巨樹の幹にぐるぐる巻きにされて身動き一つとれない少年が、夜目にわかるほど震え始め。顔面蒼白のお顔からは暴言を後悔する涙が伝い始める、はずでした。

 もはや先ほどまでの勢いはどこにもなく、少年は不自由な体で必死の謝罪を始める、はずだったのです。

 

「………………はぁ?」

 

 うん、どうやら謝罪の言葉さえガチガチの口からは出せないようですねっ。誰かそうだと言ってぇ!?

 そんな未来に生きる私の願いも空しく、鬼の少年は私が鬼舞辻 無惨の娘であることなどまるで信じていないようでした。

 鬼に成り立ての少年では、私の高貴な血脈を感じ取ることが出来なかったのです。そうだと言ったらそうなのですっ!

 

「むぅ、ホントだよ?」

「と、言われてもなぁ。お前みたいな餓鬼(ガキ)を恐れたんじゃ、伊賀忍の恥だぜ」

 

 かちかちーん。

 はい、二度目です。

 餓鬼である私の堪忍袋の緒は短く、もはや暴発寸前です。

 

 でも、

 

「忍びってなに?」

「へっ!?」

 

 これまで鬼ヶ島という世界に隔離されていた当時の私に、常識というものはありません。怒りよりも僅かな差で、好奇心の方が勝ってくれたのです。……無駄な抵抗でしたが。

 

「……忍びなんて人、私きいたことないもん。デンデン丸は知ってる?」

「主の影で隠密……、つまりは色々なお手伝いをする者達の名です」

「ふ~~ん、それって神藤のおうちもわかるの?」

「調べさせれば、たやすいことかと」

 

 そっか、ならナマイキだけど家来にしてあげてもいいかな? (ひたい)をピキピキさせながらも、おひいさまは優しいのです。

 

「……ねえ、縛られてるのも嫌でしょ? 助けてあげよっか?」

「おう、礼くらいならするぜ? 『餓鬼(ガキ)』が好きそうな甘味はないけどな」

「お主、いい加減その減らず口を閉じねば……、大変な……ことに」

 

 デンデン丸の静止は間に合いません。

 

 かちかち、かちーん。……ぶちっ。

 千切れました。はい、三回目です。優しい餓鬼の堪忍袋の緒はぶち切れました。ですが私はお姫様、餓鬼であったとしても、こんな野蛮人と違って約束自体は守るのです。餓鬼であったとしてもっ!

 

「おひいさま、どうか冷静に……」と言うデンデン丸の言葉など聞こえません。

 

 右手を振り上げ、鬼の少年を縛り付けている大樹の根元へ向けて拳骨(げんこつ)を振り下ろします。 

 そして、

 

「えいっ」

 

 どごん! ばきばきばき、どど~~ん!!

 

「うおおおおおお――――――っ!??」

 

 鬼の少年を縛っていた大樹は、私の拳による一撃に耐え切れるはずもありませんでした。

 現実にはもっと凄まじい轟音が周囲に木霊したはずなのですが、私にとっては積み木を崩した程度にしか感じません。

 結果、樹齢数百年を数えるであろうこの地の御神木はあわれ、わずか四歳の女の子によってその命を木っ端みじんに粉砕されたのです。なむ。

 

 

 ◇

 

 

 静まりきった真夜中に突如響いた大樹のへし折れる轟音は、寝静まった村人達を一人残らず布団から叩き起こすほどのものでした。

 しかして意外なことに、数十件もある家の中から飛び出してくる村人の姿はありません。もしかすると、もう私の存在は先ほどのデンデン丸の口上によって広まってしまったのでしょうか。

 そんな私の実力を唯一見抜けなかった村人の鬼少年は、倒木となった大樹から解放された今もなお、仰向けになって夜空を仰いでいます。

 

「ねえ」

「ひぃっ!?」

 

 爛々と赤黒く輝く右の鬼眼で見下ろしながら私が声をかけると、言葉にならない悲鳴が下から漏れてきました。

 

「私の名前を言ってみて?」

「あ、あの……」

「さっきデンデン丸が言ったでしょ? 鬼舞辻 久遠、それが私の名前だよ?? どうしたの、デンデン丸はさっき、ひかえろって言ったよねぇ???」

 

 ニッコリと笑いながらも、私はハッキリと額に青筋を浮かばせます。

 

「ははぁあああああああ――――っ!! 鬼舞辻 久遠様っ、どうかお許しをおおおぉぉぉ……」

 

 まったく、最初からそうすればいいのにと思わずには居られないほど見事な土下座でした。まあ、それだけ私達の身につけた三種の神器の一つ「隠れ蓑・隠れ傘」の気配遮断効果がすごいということに他ならないのですが。

 どうやら今度は恐怖のあまり、歯がガチガチして上手く喋れないみたいです。月明かりが私達を照らす中、白い湯気が少年の股間から……。あらあら、まぁまぁ。どうやら私が父の娘だという事実は信じてもらえたようです。

 ですがこの程度ではまだまだ、私の堪忍袋は元にもどりません。

 

「ねえ、私は自己紹介したよ? 名乗られたなら、名乗り返さないといけないんだよ?」

「でっ、泥穀(でいこく)と申します……」

「じゃあ、ドロ助ね。……どうしよっかなぁ、さっきまで家来にしてあげようかと思ってたんだけど……」

「へっ!?」

「しつけのなってない犬は、いらないかな?」

 

 私の発言の意味、それは泥穀改めドロ助自身が一番よく理解していたことでしょう。つまり使わないオモチャは、ぽいっ。の法則です。

 ――――殺される。

 そう直感的に覚ったドロ助は足元を泥沼に変貌させ、身体を沈め、逃げの一手を打っているようでした。ですがそんな逃亡を、この私が許すはずもありませんよね。

 

「へぇ、それが貴方の血鬼術? でも、逃げちゃダメだよ」

「………………(ガチガチガチガチ)」

 

 これがもし池を作り出す血鬼術であったのなら、もしかすると逃亡に成功していたやもしれません。ですが沼に沈む彼の身体はひどく緩慢で、私はあっさりとドロ助の右腕を掴むことができたのです。

 私に腕を掴まれたドロ助は命の危険を感じ、恐怖のどん底に落ちてしまいました。その結果、ガクリと気絶してしまったのです。

 

 う~~ん、小便臭いよドロ助。

 

 

 

 

 

 結局、ドロ助が意識を取り戻して会話できるようになるまで一刻ほどの時間を要しました。

 本来であれば、失礼極まりない鬼など処分するのが当然です。ですが私は、この村でどうしても聞かなければならない情報がありました。

 

 大樹を殴り倒しておいてなんですが、騒ぎを大きくしたくはありません。

 私は家出中なのです。他の鬼ならばともかく、父に追われてはすぐに捕まってしまいます。ならば処刑寸前だったドロ助から聞きだすのが得策でしょう。

 デンデン丸の介抱で、ようやく落ち着いて会話ができるようになったみたいですしね。

 

「ねえドロ助、お伊勢さんって神社がいっぱいな所はわかる?」

「はいっ! 東の青山高原を抜けた先にあります!」

 

 うんうん、やっぱり家来は素直じゃないとね。

 

「案内できる?」

「もっ、もちろんです!」

「じゃあ、さっきも言ったけど久遠の家来になるの。そうすれば『貴方の願いを何でも一つ叶えてあげる』。なにがいい?」

 

 この状況ですと正直、「きびだんご(願いごと)」を与えなくとも力づくでドロ助を家来できたのかもしれません。ですが当時の私はあくまで「桃太郎の物語」に固執していました。それが将来的に、本当の忠義を得られる結果になるとは思いもせずに。

 ようやく私の言葉を飲み込んだドロ助は、ゆっくりと自身のことについて語り始めたのです。

 

「………………、俺は没落してしまった伊賀の忍びを再興させたい」

 

 ……サイコー? 御家の権威を建て直したいという意味ですぞ、おひいさま。しっ、知ってるもんそれくらい! などという会話をデンデン丸と私はひそひそ話しながら、ドロ助の語るこの村の正体に耳を傾けました。

 

 そもそもこの村は今でこそ農村ではありますが、伊賀流といえば江戸徳川幕府お抱えの諜報部隊であったそうです。ですが時代が明治に移り変わる際、政府の眼が世界へと向けられるにつれ忍びの活躍する場はなくなり、農民と何ら変わらない立場へと没落してゆきました。

 ドロ助こと泥穀(でいこく)は、そんな無気力な大人達に我慢できず伊賀流を再興させようとしていたのです。

 

「結局、忍びなんてものはこの国で争いがあったからこそ続けてこられたんだ。もうこの国に、俺達忍びの場所なんてありはしねぇ……」

 

 ドロ助の表情には絶望の色が見えていました。自らが口にしながら「出来ずはずがない」という結論に達している者の顔です。

 ですが私は、そんな彼の絶望をあっさりと打ち砕いてしまいました。

 

「なら、久遠の忍びになればいいの」

「……いいのですか?」

「うむ、ドロ助。お前達は徳川に捨てられたのだろう? ならばこれより、おひいさまに忠義を尽くせ。なれば伊賀流は以前以上の繁栄振りを見せるであろう」

 

 どうやら無事に話がまとまりそうな雰囲気です。

 私はトドメとばかりに、父の部屋から拝借してきた「三種の神器」のうち、一つを貸し与えることにします。

 

「忍びって隠れ潜むんでしょ? なら私が着ているこの『隠れ蓑』を貸してあげるの。これを着ていれば人にも鬼にも見つからないはず、だから」

 

 ドロ助の眼にも、この「隠れ蓑」がどれだけの財宝か理解したようです。ぷるぷると震える手をゆっくりと伸ばし、私の手から鬼の神器を受け取ろうとしましたが――。

 デンデン丸が横から待ったをかけてきます。

 

僭越(せんえつ)ながらおひいさま、これより先は山越え。隠れ(みの)は防寒具にもなりますゆえ、小生がお借りしている隠れ傘を渡しましょう」

「……いいの?」

「無論でございます。小生よりドロ助の方が使いこなせるでしょう。それがおひいさまの為でもありまする」

 

 うんうん、デンデン丸は良い家来ですね。

 ドロ助は隠れ傘を受け取ると、更に深く頭をさげ、私に忠誠を誓ってくれました。

 

「……久遠様。いえ、おひいさま。俺は貴方様に忠義を尽くさせていただきます!」

「うむっ。くるしゅうない、なの!」

 

 さぁ、これで家来の猿(デンデン丸)と犬のドロ助(泥穀)が埋まりました。

 私のゆく先に、最後の子分であるキジは現れるのでしょうか。

 

 今回は赤面するほどの想いでしたが、まだまだ私の話は続きます。

 よろしければお付き合いくださいね。ではまた、次のお話でお会いしましょう。

 

 もう二度と、こんな若気の至りな場面は語りませんからねっ。




 最後までお読みいただきありがとうございました。
 お姉さんな久遠さんも良いですがガキ大将な久遠ちゃんも書いていて楽しいです。こんな娘が居たら大変ながらも楽しい毎日でしょうねえ。

 ちなみに今回新たに家来となった泥穀くんですが、原作でいうところの炭治郎が初めて戦った異能の鬼:沼鬼さんに名前をつけたキャラクターとなります。よくよく見ればこの鬼さん、忍者みたいな格好しているんですよね。なので伊賀流とさせていただきました。それほど違和感はないと思うのですが、どうでしょうかね?(笑

 さて、これで家来は二匹あつまり、残るはキジだけとなりました。
 久遠ちゃんの大冒険はまだまだ続きます。よろしければゆっくりとお付き合いください。
 ではまた来週!
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