神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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 お待たせしました、第五話です。
 もしアニメであればそろそろサービスシーンの一つもあっておかしくありません。
 前話に引き続き、恥ずかしかる語り部の久遠さん(17)をお楽しみください(笑


第5話「やまのぼりは汗をかくのっ!」

 こうして二人目の家来であるドロ助を迎えた私達は一路、村のオジサンから聞いたお伊勢さんにむけて歩き始めました。

 家出開始早々に、目的地である神藤神社の住所が判明したのは幸運としか言えません。しかしてその前には、見上げるほどに高いお山がそびえ立っています。その上にはまん丸のお月様が顔を見せ、歩くのに不自由はありません。

 ありませんが……、決して運命の神様は私を甘やかすつもりもないようです。

 

「……ドロ助、神藤の神社はこのお山の向こうなの?」

「そうだ、です。大変かとは思うが、この青山高原を抜けねば伊勢には着かねえよ、です」

「む~~…………」

 

 はい、そこの貴方。

 大樹をへし折るくらいなんだから、山登りの一つや二つ、へっちゃらでしょ? って今思ったでしょう。久遠先生は寛大なので、しょ~~じきに名乗り出なさい!

 確かに出来るか出来ないかで判断するなら、何の問題もありません。当時の、四歳の私であろうとも全力で走破するなら、朝日が顔を見せるまでには山の向こう側に到着しているでしょう。

 ですが、ですがです。

 鬼だって疲れるんです、無限の体力なわけではないのです。お肉さえ食べればいつでも元気満タンという単純な体じゃあないのですよ私達はっ。

 はい、理解してもらえたのなら良いのです。鬼だからって何でも出来るわけではないのですよ?

 

 それでは話を物語へと戻しましょう。

 ドロ助こと伊賀忍の鬼:泥穀(でいこく)はまだまだ使い慣れない敬語で、ぶっきらぼうに私への試練を告げました。

 元は忍びといえども、徳川幕府が滅んだ運命と共に農民へと身をやつした集団。それがあの村、伊賀流の里です。泥穀はその事実に納得がいかず、この大正の世においても忍びの存在を認めさせるため奔走していたそうで。そんな行為を騒乱の元だと断じた村の長によって、ぐるぐる巻きにされていたのです。

 しかしてそれも仕方のなき事。

 今の日本が相対している敵は世界なのです。さすがに地球の反対側にまで行くのに己の足だけでは無理がありすぎますし、忍びと呼ばれる者達は敵が同じ国内の大名であったからこそ、活躍の場が存在したというわけですね。

 そんなわけで今となっては私の子分となったドロ助ではありますが。国内の地理に詳しい彼にとって、同じ国にある都市へ案内することなど朝飯前だと豪語していたのですが。

 

 さすがに四歳児の我がままには対応していなかったようです。なんという体たらくでしょう、このワンちゃんは。

 

「……デンデン丸、かたぐるま」

「いえ、さすがにこれだけの山を一晩で駆け抜けるには厳しく……」

「じゃあ、ドロ助」

「俺、いえ自分の体格ですと乗り心地がよろしくないかと……」

 

 私の我がままなら何でも聞いてくれると信じていた猿と犬からは、かんばしい返答がありません。

 私はお姫様なのに、お姫様は大きな(かご)でゆらりゆらりと優雅に旅をするものなのにぃ。こうなってくると最後の子分である「キジ」を何としても見つけねばなりません。きっと、キジならその翼で高山高原の向こうにまで運んでくれるに違いないのです。

 

 ないの、ですが――。

 

「でも、お空を飛べる人なんているわけないよね……。ふぅ……」

 

 妄想の世界から帰還した私は、現実の非情さを目の前にして大きなため息を一つつきました。

 かといって、またあの無限城(鬼ヶ島)に戻るのはゴメンです。ならば行くしかありません、行くしかないのです!

 

「よしっ、もうしょうがないから行くよっ! デンデン丸、ドロ助!!」

「……御意」

「しょ、承知したぜ。ましたっ」

 

 私は両手で(ほお)をピシャリと叩き、気合をいれます。

 さきほどの言葉はなんだったのかと言われそうですが、疲れるのを覚悟すれば登れない山ではないのです。ええ、覚悟の問題なのですよ、覚悟の。だからこそ、意気揚々と歩み始める私の後ろで「無限城に戻れば疲れないのですが……」というデンデン丸の言葉も聞こえど、完璧にシカトをかましたのでした。

 

 

 ◇

 

 

 そういえば言い忘れていたのですが、この壮大な家出劇を決行したのは夏まっさかりの季節でした。

 ですがこの地域、皆様の言葉で言えば現在の三重県伊賀市勝地とよばれる青山高原は標高が高く、夜ともなれば肌寒いくらいにまで気温が低下します。だからとはいえ、もくもくと歩けば体温も上昇しようというもので、私の着ている上等な厚手の着物では山登りに最適とは言えません。そのうえ、三種の神器である隠形の隠れ蓑まで防寒具代わりに着込んでいたのです。

 

なので当時の、……私は。………………え? ウソでしょ? 私、こんな痴女みたいな真似してないわよっ!?

 

 誰よ、こんな逸話を盛り込んだの!

 

 もう二度と恥ずかしい語りはしないって宣言したばかりでしょ!?

 ちょっと響凱(きょうがい)! アンタ、まさかデタラメ書いてんじゃないでしょうねっ!!?

 

 ……何よ、なに涙ながしてるのよ。

 

 え? 当時の小生と泥穀が、どんなに大変だったか自覚してくだされですって? たしかに当時の私は、少しだけ我がままだったみたいだけど……。

 

 …………ホントに、ホントなの?

 そして、私が読まなきゃいけないの? 良い子の皆さんだって読むかもしれないのに??

 

 ちょっとぉ、涙目で(にら)まないでよぉ……。

 反省する意味でもキチンと読んでくだされって、もう十三年も前の話じゃない。

 

 ねえ、許してよぉ。ねっ、ねっ?

 

 ――――――――――――――――――。

 

 ああもうっ! 解りましたよ!! 読めばいいんでしょ、読めばっ!!!

 

 ぐすん。

 

 

 

 

 

「もう~~、暑いのやっ!」

 

 まだまだ女性としての恥じらいも生まれぬ四歳児。

 恥ずかしながら、私はデンデン丸とドロ助が目の前に居るのも気にせず。山道のど真ん中で、自分の腰に巻かれた桜模様の帯をぐわしと掴みました。

 

 そして、……そしてぇ!

 帯の端をドロ助に持たせると、私はその場でぐるぐると回りはじめたのです。

 ええ、そうです。古来よりいやらしい男性客が舞妓さんと遊ぶ、アレです。あ~れ~、とかは言ってませんからねっ!? 着物という衣服は帯の支えがなくなってしまえばあっけないもので、……じつにアッサリと着物がはだけ、……長襦袢(ながジバン)が姿を現します。

 

 ねぇコレ、何の罰ゲームなのよぉ! 自分の脱衣を自分で語るってひどくないっ!?

 

 うう。そんな私の奇行を見て、むしろ慌てたのはデンデン丸達の方でした。己が主と決めた御方が月明かり照らす高原でいきなり脱衣を始めたとなれば、慌てるのは彼等の方です。って、アンタ達も手伝ってるでしょ!

 

「お、おひいさまっ? はしたのうございますぞ!!」

 

 デンデン丸(響凱)が顔を真っ赤にして私を諌めます。ですが常に半裸の彼に言われたくはありません。ドロ助に至ってはどう反応したら良いものか分からず、ただ帯びの端を持って背を向け続ける始末。

 

「だって暑いんだもん。デンデン丸、着物もって」

「はっ、……ふえっ!? しかして、おひいさまの温もりの残った着物など……。小生は、小生はあああああっ!???」

 

 当時の私は何にも思いませんでしたが響凱、変態ですね。まさか四歳児の着ていた着物に興奮するか。

 くんかクンカとかしてたら、ぶっ飛ばすわよ? えっ? するはずがないでしょうって? 怪しいなぁ……。

 

 ……桜模様のしっかりとした着物は厚手で、重さだって結構なものです。その下には肌襦袢(はだジバン)長襦袢(ながジバン)を着こんでいたのですから、そりゃあもう暑苦しいったらありゃしません。

 重苦しい帯や着物をすべてデンデン丸へ押しつけると、私の身体へなんとも涼しい風が吹きつけてくれました。

 

「おひいさま! その御姿をお見せするのはどうか、どうか将来の旦那様だけにしてくだされっ! 泥穀、お主も(いさ)めぬかっ!!」

「………………(まっかっか)」

 

 私とて今であれば決してこんな蛮行はしなかったでしょう。今の姿を現代で表現するなら、下着一枚しか纏わぬ艶姿(あですがた)なのですから。……って、当たり前ですっ! こんな姿、炭治郎君にだって見せたことないのにっ。この、ロリコンどもがぁ!!

 

 

 

「あ、岩清水みっけ。……んっ、んっ……ぷはぁ! あーきもちいっ!!」

 

 そんな十七歳となった私の想いも知らず、身軽になった四歳の私はあらゆる意味で自由奔放でした。

 山肌からチョロチョロと流れる清流で喉をうるおすと、さらには草履(ぞうり)も投げ捨て。もうこのまま青山高原をつっきってしまいかねないくらいの()()()()()()です。

 

「おひいさま、お待ちをっ! その格好では危険ですぞ!」

 

 背中から必死になって追いかけてくるデンデン丸とドロ助。

 周囲を蚊やアブが飛びまわるのも気にせず、下着姿の私は月明かりの照らす山道を先頭きって走り始めました。しかしてその元気は、この高地を駆け抜けるまで持たなかったこともまた、当たり前の事だったのです。

 いくら疲れ知らずの四歳児とはいえ、体力自体は成人男性に遠くおよびません。それが全力であったのなら尚更です。

 疲労と共に注意力が散漫になり、道端にはえた鋭利な草が私の太ももにすれ、赤い血が滲んでしまいました。気分が高揚している時にそんな事実には気付けません。身体中の力がスッカラカンになった時に始めて、痛みというものが襲ってくるのです。

 

「…………ふえ?」

 

 散々はしゃぎまわってから、私はその事実に気付きました。

 最初はちょっとした(かゆ)みから始まり、次第にジンジン、そしてズキズキへと変わってゆきます。半人半鬼の私の体は致命傷にかぎり、鬼らしい驚異的な再生能力を発揮します。ですが人でも十分に自然治癒が可能な傷はきちんとした手当をしなければなりません。

 無限城でつまずき、膝小僧をすりむいた時も。そして今、ろくに整備されていない高山高原の山道を夢中で駆けていた時も。こんな時だけは、人らしい身体を実感できたのです。

 

 足を止めると 、出血の痛みと同時に全身から大量の汗がふきだし始めました。

 はしゃぎながら走っている時は吹きつける風と自らが作り出した風により冷されていたのですが、(きぬ)絹で織られた上等な肌襦袢(はだジバン)は肌が透けるような薄さであり、汗を留め置く力などあるはずがありません。たちまち私の姿は、桜模様の刺繍だけを残して白い肌をあらわし始めたのです。

 ……ってだから、こういう恥ずかしい描写はいらないのよっ!

 

「おひいさま~~……、どうかお待ちくだされ~~……」

 

 振りかえると必死になって私を追いかけるデンデン丸とドロ助の姿が。

 一方、血が滲んでいる足からの痛みに私は涙目です。今度こそ肩車してもらおう、してくれなかったら家来失格だもんと固く決意したところに。

 

 闇夜の山道から、またもや一人の少年が姿を現したのが。人の世における第二の出会いでした。

 

「……お前ら、何者だ。こんな場所で何をしている」




 最後までお読みいただきありがとうございました。
 お読みの通りのサービス回です。それが幼児の肌であろうとも、サービスなのです(迫真。
 どっちかと言えばお色気よりも笑いの方を重視しているかもしれませんね^^;

 さあ、次回からはまた新しい人物が登場します。彼等は久遠ちゃんの家来になってくれるのでしょうか?
 まったりとお待ちくださーい!

 ……連載始めたくせに全体のプロットが出来ていないなんて言えないorz
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