神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》 作:みかみ
アンタはっ、何てモノを読ませるのよっ! 今度あんな恥ずかしい文章を読ませたら、この語りやめるからねっ!!
ずし、びし、どごんっ!
…………………………。
あら? もうお客様がご来場されているのですね。
ほほほ、大変失礼いたしました。少々家来のしつけに時間を取られてしまったようです。
さて、どこまでお話したでしょうか。
ああ、そうそう。伊賀の里から伊勢に向かう山中、青山高原での出会いからですね。これより先は、あのように無様な姿をお見せすることは決してございませんので、どうぞご安心を。
……土下座して頼んだって、ほんっと~にダメですからね?
まぁ、でも。この先は、別の意味で私の無様な姿をお見せするハメにもなりそうなのですが、ねぇ……。
さっ、それはともかく今はこの物語を再開させましょう。
「……お前ら、何者だ。こんな場所で何をしているっ!」
身体中から吹き出る汗が肌の色を透かして、あられもない姿を披露していた私は、その場で座りこみながら突然現れた少年を呆然と見上げていました。
「……だれぇ?」
「聞いているのは俺だ、なぜお前のような幼子がこの高山の夜道を歩いている?」
一見するならどこにでもいるような黒髪で、身体付きも普通な少年でした。ですがその猫のごとき瞳孔は、人あらざる者の証に他ありません。まちがいなく私は、泥穀に続いて二人目となる鬼との出会いを果たしたのです。
そんな瞳に心を奪われている僅かあいだ、少年は赤く染まった私の太ももへと視線を移していました。
「お前、ケガしているのか。……そんな薄着で山道を歩けば当然だな。まったく、親は何をしているんだか。ちょっと待ってろ」
そういうと少年は砂利道をそれ、青々と生い茂る草むらへと入っていき……。
「おひいさまっ! 後生で御座いますから汗を拭いて着替えをっ。泥穀、手拭いをよこせっ!」
「…………(今だ顔面沸騰のまま、首を縦にふる)」
私はようやく追いついたデンデン丸とドロ助の手によって、強制的に着物を着せられるのでした。
時間にして半刻ほどでしょうか。
乾いた着物へ着替え終わった私は、先ほどの出会いを興奮ぎみに伝えていました。ですが家来の二人はどうにも、幽霊でも見たのではないか言って信じてくれません。
「ホントだもん、見たんだもんっ!」
「しかしておひいさま、こんな夜中に山越えをする酔狂な者が我々の他にいるとは……」
私達がそんな会話を続けていると再び、がさガさと道脇から草をかき分ける音が伝わってきます。
「なんだ、いつの間にか人が増えているな。まあ、こんな幼児が一人で山中に居るわけもないが……」
間違いありません。先ほどの少年が、両手いっぱいに草を抱えて戻って来たのです。
「それ、なぁに?」
好奇心旺盛な私が、ぴょんぴょんと足りない背をおぎないながら覗き込み、問いかけます。すると意外にも、少年はアッサリと答えてくれました。
「……山で採れる珍しい薬草だ。元々コレが目的だったんだ。じゃあ行くぞ」
なんとも結果と行動しか表現しない言葉使いで、少年は歩きだします。
「行くってどこぉ?」
「俺の先生が居る所へだ。一応の治療はそっちの変人にしてもらったのだろうが、キチンとしなければ毒が入り込むぞ」
少年は「毒」という表現を使いましたが、皆様に分かりやすく言うなら「雑菌」と言った方がいいでしょう。つまりは私が
私は幼児らしく好奇心を全開にして少年の後を追いかけます。対して変人と呼ばれたデンデン丸はしばらくのあいだ
えっ、さきほどまでの私の姿?
記憶にございませんね、おホホほほ。
◇
少年の言う「先生」のおられる家は、意外にもお山の中にありました。
しかも道なき道を進んだ先にあるその家は、もう随分と前に放棄された猟師小屋のような粗末さで。それなのになんとも言えない温もりを感じさせてくれる、不思議な家です。
強いて要因を説明するなら、まるで家主の心がそのまま乗り移ったかのような雰囲気が温もりとなった、と表現するのがもっとも似つかわしいでしょう。ここだけ数度、気温が上がっているかのような錯覚にさえとらわれます。
「珠世様、ただいま戻りました。遅くなりまして申し訳ありません」
まずは私達を先導して黒髪の鬼少年が玄関先に立ちます。すると、私の予想した通りの優しい声が返ってきました。
「お帰りなさい愈史郎。その声色では、あまりよろしくない成果に終わったようですね……。あら、お客さまですか?」
どうやら少年の名は愈史郎。そして家の中から聞こえてくる優しい女性の声は、珠世という名前のようです。
「はい。鬼らしき幼子が怪我をしていたようなので……」
「怪我? 鬼の子が?」
「ええ、不審に思いまして連行した次第です」
加えて私を助けてくれた黒髪鬼少年は、どうやら少々意地悪な性格をしているようでした。おそらくは自分の真心をうまく口にできない
そんな二人を会話に割って入るかのように、私は屋内へ顔をひょっこり見せると、あまねお姉ちゃんに教わった通りの挨拶を口にします。
「はじめましてっ、鬼舞辻 久遠ですっ!」
しかして、その挨拶が予想外の展開を呼び寄せてしまいました。
鬼舞辻の性はデンデン丸にとって忠誠の対象であり、ドロ助にとっては恐怖の対象です。これまでは違いこそあれ、四歳の私に害意を向けるものではありませんでした。
ですがこの二人にとっての「鬼舞辻」という名は、煮えたぎるほどの怨念が籠められていたのです。
一足飛びで珠世と名乗った女性の元へと飛び、今までの優しさが嘘であったかのように
ですが何の事情も知らない当時の私は、二人の突然すぎる豹変がまったくもって理解できなかったのです。
ですがですが、次の会話で二人は更に驚くことに。
「無惨のよこした手の者か。こんな幼子まで利用するとは、相変わらずの悪党だなっ!」
「……っ!? 『お父さん』を知ってるの? まさか……」
この時、私はこの二人を父からの追っ手なのだと勘違いしてしまいます。
「やっ、久遠はもう戻らないんだからっ!」
「おひいさまっ!」
後ろで待機していたデンデン丸とドロ助にもこの場の異常性に感づいたようでした。私の前に立ちはだかるように進み出ると、両者とも私の盾となってくれたのです。
「…………………………」
「…………………………」
かるく数分は、にらめっこが続いたように思います。
そして意外にも、最初に口を開いたのは。愈史郎くんが庇う珠世先生でした。
「今、お父さんって言いましたよね? ……鬼舞辻 久遠とも。まさかあの、鬼舞辻 無惨が子をもうけたのですか?」
優しげな瞳と、花びらのような唇をまんまるに開いて。女性は驚きの声を発します。子どもというものは、大人が思う以上に敏感なもの。当時の私は、それを、父への侮辱であると明確に悟ってしまいました。
「そんなことないもん、お父さんは優しいもんっ! くおんのおとうさんだもんっ!!」
「ですが、あの悪鬼が人を愛するなど……」
ここまでの金切り声で珠世先生に抗議するのは、私が心の奥底で一番に気をかけていたからに他なりません。
神藤の神社に居た時も、そして「鬼ヶ島」に居た時も。父は忙しいからと私にかまってくれませんでした。もしかしたらと、この一年で感じていたのです。もしかしたら私は、父に愛されていないのではないかと。
その証拠に今も絶対に戻らないと言いはりつつ、どこかで父が連れ戻しに来てくれる事を待ち望んでいる自分がいます。それなのに、一行に父が迎えに来る気配もありません。
だからこそ私は意固地になって家出を継続し、無理にでも
後の協力者となる珠世先生の言葉は、私がわずかに残していた希望を打ち消すものでもありました。我慢などもう、できるはずもありません。
「お父さんは、……久遠のおとうさんはっ。……うえええええええええぇ――――…………」
えもいわれぬ想いは私の瞳に涙を沸かせ、まだまだ拙い感情表現は泣く事でしかこの悲しみを表現できませんでした。
そんな私を前にして珠世先生も愈史郎くんも、デンデン丸もドロ助も。お互い、矛を収めざるをえなかったのです。
なきじゃくる幼児には、誰も勝てませんね。
何時の間にやら涙も枯れはて、私の顔は懐かしい温もりと柔らかさに包まれていました。
愈史郎くんが採取してきた薬草を調合し、化膿止めの薬を塗ってもらった私の足はもう随分と痛みも収まり、
「ごめんなさいね、久遠ちゃんにとっては優しいお父上なのですよね……」
「うう…………」
うとうととした眠気に誘われていました。
夢うつつに懐かしい母のような温もりで誤魔化され、なでなでと優しく私の頭をなでられ。珠世先生の膝の上で、家猫のように丸くなってしまいます。
パチパチと薪が弾ける囲炉裏端。
一応の休戦となった私達は屋内へと招かれ、お互いの事情を語り合っていました。
当然のことながら、デンデン丸やドロ助は父の不利益になるような話は口に出せません。一言でも口にした途端、呪いによって頭からぐしゃりと潰され、口からは異形の鬼が飛び出てしまうからです。
一方の珠世先生も、当然のことながら私達への警戒を解いてはいません。それでも最近は伊勢方面の小村で診療所を営んでいるそうで、今日も村で病に侵された少年の薬を作る手掛かりを得るため、珍しい薬草を求めて訪れたとのことでした。
実はこの青山高原。なかなかに霊験あらたかな地であり、新種となる薬草の発見も珍しいことではないそうです。
「それで、成果はあったのですかな?」
家猫と化した私の代わりに、デンデン丸が問いかけました。
私達が出会うキッカケとなったあの時も、愈史郎君はく珍しい薬草を求めて奔走していました。ですが本日の成果も残念ながら芳しくなかったようです。
「……いいえ。もとからして、新薬というものは出来たからといって直ぐに投与してよいものではないのです。薬と毒は表裏一体、病の気を毒で殺すのが薬とも言える。良かれと思って飲ませた薬が毒となり、患者さんを殺してしまうかもしれません。本来であれば数年単位での検証が必須となります。
それでも今は時間がありません。私は生み出したいのです、医学界で呼ぶところの『万能薬』とも言える存在を――――」
珠世先生の求める夢は、今の私が正直に申し上げるなら「現実味のない」夢物語でした。
すべての病を癒してしまう特効薬、そんなモノが現実の世に存在するとは到底思えません。それでも鬼という、ある意味不滅の存在が珠世先生の果てしなき目標を追い求めさせていました。
ですが今回のケースでは、そんな悠長なやり方では間に合いません。現実に今、病で苦しむ少年が存在しているのです。珠世先生の医者としての
「珠世様、やはり私は反対です。それでは万一の場合、珠世様が人殺しの罪人となってしまう」
なんとしても病に苦しむ子を救いたいと奔走する珠世先生と、少しは自分の身も考えてくれと願う愈史郎くん。そんな二人は「まるで鬼らしくない二人」でした。
もちろん、私からすれば当然すぎる話ではあるのですけどね。人間が善で鬼が悪なんて誰が決めたのかって話ですよ。
そんな会話を夢うつつに聞いていた私は、あるモノの存在を思い出しました。
「――――――あっ!」
「……久遠ちゃん? ひゃあっ!??」
そう、私が持って来た荷物の中にアレがあるではないですか!
私はガバリと珠世先生の膝から飛び起きると、部屋の隅に置いてあった自分の道具袋に飛びつきます。
「せんせー、これっ!」
ガバリと私は袋の中から目的のモノを取り出すと、それをそのまま珠世先生の方へ突き出しました。
それこそが「三種の神器」の一つ。
もしかしたら万能薬たりえるかもしれない、「延命袋」だったのです。
◇
延命袋の中に入っていたのは、私にとっては桃太郎の物語に出てくる「桃」そのものでした。
皆さんの想い描く桃太郎という物語における「桃」とは、主人公が生まれる「卵の殻」でしかないでしょう。ですが私達の生きていた明治時代における「桃太郎の桃」は、もっと重要な役割をもっていました。
桃から生まれた桃太郎。
この言葉は昭和の時代から製作された創作です。
時の子供達が読みやすいよう、分かりやすく作り変えられているのです。では江戸・明治における桃太郎の桃とはどのような描かれ方をされていたのでしょうか。
正解は、両親である老夫婦が桃太郎を出産するための奇跡。数十年もの時を巻き戻す、「若返りの秘薬」として登場していたのです!
当時の私とて、コレが珠世先生の探し求める「万能薬」だという確信はありません。ただそれでも、なんらかの手助けになればという一心でした。
しかして、私の差し出した「延命袋」の中身を覗き見た珠世先生は。
ほんの一瞬だけ厳しい目付きになったかと思えば、そっとその封を閉めてしまったのです。
「久遠ちゃん、ありがとうね。でもコレは、鬼の皆さんが使うべきお薬だわ。決して、人の子に使ってはならないモノよ」
「……久遠、せんせーの役にたてない? よけいな、お世話だった?」
「まさか。久遠ちゃんが優しい子だってことは、私にも十分に伝わっていますよ。さあ、念のため包帯を変えておきましょうか。化膿止めのお薬も塗り直さないとね?」
言われてみれば擦りむいてしまった傷に巻かれた包帯が乾き、凝固した血液でカサカサしていました。この状態で動き回っては、固くなった包帯が太ももに擦れて逆効果になりかねません。
私は珠世先生のなすがままになって治療を受け入れます。
延命袋の中身を見た時の厳しい眼差しも。
私の血がベットリと染み付いた包帯を、懐へ大切にしまい込んだのも。
あの時、珠世先生が何を考えていたのか。当時の私は後々になって知るまで、何の疑いも持っていませんでした。
そして私もまた、隠れ蓑・隠れ傘、延命袋に続く最後の「三種の神器」である「打ち出の小槌」だけは荷物袋から取り出せませんでした。なぜかと問われれば説明が難しいのですが、「これだけは使ってはいけないモノ」だと私の中にある何かが警告していたのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ようやく最後までのプロットが固まってきたmikamiでございます。その点で少々、原作である「本当はあったかもしれない鬼滅の刃」本編での伏線に関して修正する可能性がでてきました。
ネタバレになってしまうので、どこを修正したのかは外伝の投稿に平行して発表していこうかと思いますが。前作からの読者様は探してみるのも楽しいかもしれません。
修正する時期になったら報告いたしますね。
さあ、響凱・泥穀に加えて珠世先生と愈史郎君も登場してくれました。続々と「久遠と愉快な仲間達」が集いつつあります。今後とも、待ったりとお付き合いくださいね。
ではでは。