神藤久遠の一人語り ~鬼舞辻 無惨の娘である私は、こうして育ちました~ 本当はあったかもしれない鬼滅の刃外伝《休載中》   作:みかみ

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第7話「ふじわらの四天王はくおんのこぶんなのっ!」

 囲炉裏の火と、珠世先生の温もりに包まれて。私が夢の世界にいる間にも、大人達の会話は続いていました。

 

 夜は鬼の時間です。ですが東のお山から朝日が姿を見せるまで、もう一刻ほどにまで迫っています。朝になれば窓の木板を降ろし、一切の光りを遮断したうえで再び夜が来るのを待たねばなりません。

 それなのにまだまだ、話し合うべき問題は尽きる気配を見せなかったのです。

 

「しかしおかしいですね。私達は昨晩、この周辺で鬼の気配を感じたからこそ、この家で警戒をしていたのです。それなのに皆さんがこの青山を訪れたのは今晩、そうですよね?」

「……我が主の名にかけて」

 

 珠世先生の問いに対して、デンデン丸がしっかりと首を縦に振りました。まだ私が家出を決行してから一晩しか経過していません。この青山高原にだって、ドロ助から神藤神社への道だと言われなければ訪れていなかったでしょう。

 珠世先生や愈史郎君にとっての警戒すべき脅威は、同胞であるはずの鬼達です。私の父、鬼舞辻 無惨の意思に反する異端者。鬼でありながら人の傍で生きる裏切り者。それがこの二人なのですから。

 

 と、いうことは。

 

「……鬼女医殿の言葉が真実ならば。我々以外の鬼が、この山のどこかに潜んでいるということですな」

 

 デンデン丸が日頃の情けなさを払拭(ふっしょく)するかのように、厳しい眼差しで断言します。敵から味方かも解らない第三勢力の存在、それは不安要素以外の何ものでもありません。

 それは私達にとっても同様です。敵対される可能性は低いでしょうが、私の位置を父に知られたら家出そのものが終わってしまいかねない。

 

 そんななか、まだまだ私達への猜疑心を残した愈史郎くんがボソリと呟きます。

 

「お前達が無惨の居城へ案内してくれたのなら、そんな脅威など放置するのだかな」

「それはたとえ我等が死しても不可能ですな。あの御方の不利益な行動や言動をとった瞬間、我等はその場で死ぬ。

 裏切り者はあくまで、貴方達だ。小生達がここで拳を振り上げぬのは、おひいさまの悲しむ涙を見たくないだけだという事実を理解していただきたい」

 

 私という存在がいなければ敵同士。

 愈史郎くんとデンデン丸はお互いに釘を刺し合います。

 

「愈史郎、無理を言うものではありませんよ。それに今は、病に苦しむ少年を救う手立てを探すことこそ急がねば!」

 

 夢の世界へ旅立った私をのけ者にして、会議は喧々囂々(けんけんごうごう)としていました。

 ですがお互いの目的はハッキリしています。珠世先生と愈史郎君は難病に苦しむ人の子を癒す「万能薬」を作り出したい。

 

 そして私達は――。

 

「あの~……。もしかすると、なんだが……」

「ドロ助?」

「せめておひいさまが寝ている時くらい、泥穀と呼んでくれよな……」

「すまぬ、そうであるな。して泥穀、地元民として何か知っておるのか?」

 

 この場で唯一の地元民であり、周囲の地理や事情に詳しい泥穀が手をあげます。

 本当であれば真っ先に聞かなければならない人材であったにも関わらず、あまりにも薄い存在感がドロ助の存在を隠していたのです。忍びとしては有益なのでしょうが、酷い話ですねぇ。

 

「この高原のとある場所に千方窟とよばれる城跡があるんだが、そのなかに俺達伊賀の者が信仰する神が奉納されているんだ。そして、その神様を守るのは……藤原の四天王とよばれる鬼だと伝えられているんだが――」

 

 泥穀の話を要約するなら、以下のとおりです。

 今から千年もの昔。平安の世に藤原鎌足を始祖とする藤原千方という無敵の将軍と、四天王と呼ばれる四人の配下がいました。

 昔の偉人が神様として崇められる事例はよくあるものです。ですが問題なのは将軍ではなくその四天王の方で、風鬼、雷鬼、空鬼、槍鬼と言う四鬼が神変秘練の術を使って戦ったとも伝えられていました。

「太平記」に語られたくだりに「風鬼は大風を吹かせて敵城を吹き破る。雷鬼はその身より雷を放ちあらゆる者を炭へと化す。空鬼は山をも越えて全てを見透かす。槍鬼はその角を無双の槍として俄敵を取りひしぐ。各の如き神変。凡夫の知力を以て防ぐにあらざれば伊賀、伊勢の領国、これが為に妨げられ、王化に従うものなし」と書かれており、主を助ける忍者の起源であるとも言われ、地元の語り草となってきました。

 

 今を生きる人々からすれば、もはや御伽噺(おとぎばなし)にも等しき迷信です。

 しかし我等鬼から見れば、人を喰らい続けるかぎり寿命というものは存在しません。

 つまりは人の間で御伽噺のごとく語られる昔話であろうとも、鬼にとっては現代の話である可能性は否定できないのです。それに加えて数百年の前に鬼となった野良鬼ならば父、鬼舞辻 無惨との関係を断っていても不思議ではありません。

 ですがデンデン丸こと響凱は一つだけ、間違いのない事実を指摘しました。

 

「だがこの御伽噺で語られるような異能を持つ鬼は存在しない。それだけは確実ですな」

「と、言われますと?」

「あまりにも物語で語られる異能が荒唐無稽にすぎる。城を吹き飛ばすほどの風を起こし、天災である雷を操り、大空を自在に舞う、無双の槍使い。最後の槍使いだけは有り得るものではありますが、他の三つは例えこの国に生きる全ての人を喰らったとしても叶いますまい」

「……そうですね。そのような規格外の大鬼が居るのであれば、この地に人が営みを育むことはできないでしょう」

 

 響凱の推測に、珠世先生が深く頷きます。いくら人外の異能を持つ鬼とはいえ、限度というものがあるのです。

 本当にそんな異形の鬼が居るのだとしたら、そもそもが人を恐れて隠れている意味がありません。とうの昔に、この国を滅ぼしているに違いないのです。

 ないの、ですが――。

 

「だが人々にそうも恐れられるほどの誇張された鬼が長年幽閉され、動けずに今も実在している可能性は否定できない」

 

 響凱も泥穀も、そして珠世先生も愈史郎くんの指摘に頷いて同意します。

 そもそも御伽噺というものは現実に起こった事実を誇張して描かれるもの。城を吹き飛ばさずとも、目の前では立っていられないほどの強風であればそれほど難しい異能ではありませんし、嵐の夜に人里に出たのであれば、自らの意志で雷を落としたように見せる事も難しくないでしょう。

 空を飛んだという伝承もまた、鬼並の跳躍力があれば誤解される可能性は十分にあります。槍にいたっては持っているだけでも良いのです。鬼の膂力で十分な脅威に映るでしょうから。

 古来より化け物と称される存在は、朝廷の威厳にかけて討伐されてきました。ですが、もし物語に語られるほどではなくとも強すぎる鬼を討伐できず、幽閉されていたとしたら?

 

 この青山高原に数百年の時を生きる大鬼が存在する可能性も、私達は完全に否定できません。

 

「……これは早々におひいさまを連れ、山を降りなければなりますまいな」

「だがもう朝が近い。夜を待った方が安全だぜ?」

「それは話が逆である。昼間であればこそ、未知の鬼は行動できぬからな。なれば山陰深き、日の届かぬ道をもって下山する事こそが最善だ」

 

 今度は家来の二人が今後についての議論を交わしています。

 十七歳である今の私であれば、デンデン丸の意見に賛成したことでしょう。何も興味本位で虎の穴を覗き込む必要はないのです。この話を当時の私が聞けばどうするか、二人は重々に承知していました。

 

 ですが二人の心配はもう、すでに手遅れだったのです。眠れる虎はその実、見事なまでのタヌキ寝入りを披露(ひろう)していたのですから。

 

「…………ふっふ、ふ~~…………♪」

 

 確かにうとうととはしていましたが、私は別に珠世先生の豊満な胸の中で眠りに落ちていたわけではありません。そして普通の四歳児にとっては難しい話ではあっても、私には十分に理解が及んでいたのです。

 読み手の皆様にはお話しましたよね?

 私は幼児期健忘症に該当しなかったお陰で、普通の四歳児ではありえないほどに理解力があることを。

 

「……くおん、……聞いちゃったもんね~~♪」

 

 後にデンデン丸こと響凱は、この時の私の声を父よりも恐ろしかったと供述しています。

 

「お、おひいさま……?」

「どうか、冷静になってくだされ。我らの目的はご実家である伊勢の神藤神社に向かうこと。決して、鬼退治ではありませぬ! そもそも我ら鬼が同族である者を退治するなど……」

 

 デンデン丸とドロ助は二人がかりで私をいさめようと必死です。ですが私の目的は、決して神藤の神社へ行くだけではありません。

 そう、デンデン丸(猿)とドロ助(犬)につづく「桃太郎における最後の子分」、キジを探さねばならないのですっ!

 

「なら、退治せずに家来にしちゃえばいいのっ。ふじわらの四天王こそ、最後の下僕にふさわしいのっ!」

「そんなっ、これ以上素性の知れぬ鬼をおひいさまの家来にさせられませぬっ! それに我らだけでおひいさまをお守りできるかどうかも……」

 

 突然すぎる私の言葉に、デンデン丸は困り果ててしまいます。そんな彼に意外なところから助け船が訪れました。

 

「ならば私達も協力いたしましょう。愈史郎、いいですね?」

「はぁ……」

 

 迷い無くにっこりと微笑みながら助太刀を申し出てくれる珠世先生。 

 ですがデンデン丸と同じく、愈史郎君もあまり気乗りはしないようです。まあ、護衛対象が自ら危険な場所へ行こうというのですから当然の反応ですかね。

 私にとっては、母の温もりを思い出させてくれた珠世先生が一緒というのは大歓迎なのです。

 

 なの、ですが……。 

 

「……いいの?」

 

 胸の中で抱かれながらも不安そうに見上げて、私は思わず問いかけていました。自分の父がなぜ恨まれているのかはわかりませんが、私が父の子であると分かった時の厳しい視線が忘れられなかったのです。

 

「ええ、もちろんよ。それほどの昔から生きる大鬼ともなれば我々の知らぬ叡智を持っているやもしれません。……それにっ!」

「ふえっ!?」

 

 その細い腕に似合わぬ力で、珠世先生にひょいと抱き上げられ。先ほどまでの温もりが今だ残る胸の中は、私だけの特等席です。

 

「私とて、鬼の端くれなのですよ? たとえ宿敵の娘さんであろうとも、こんなにも可愛い久遠ちゃんが怪我なんてしてしまったら大変ですもの」

「……ん、ありがとう」

 

 こうして、これからの指針は定まりました。

 家来二人に加えて珠世先生と愈史郎君を加えた私は、いざ藤原の四天王っとばかりに遺跡へと向かいます。四歳の私は果たして、最後の家来である「キジ」を見つけられるのでしょうか? そして珠世先生は「万能薬」の手掛かりを見つけられるのでしょうか?

 次話に続きますっ!




 最後までお読みいただきありがとうございました。

 いやあ、筆が進みません。物書きを趣味にしてから二年ほどの年月が経過しましたが、今が一番かけないかもしれません。
 はじめの頃は無知なりに面白いものをと思うがままに書いていたのですが、今はキチンとした物語を作ろうと頭を悩ませている感じです。
 一つの物語を完結させるって、とっても難しいのですよね……。それでもなんとか頑張ってみますのでこれからも読んで頂ければ嬉しいです。
 よろしくお願いします!

 
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