ウルトラマンになろうとする者たちの前日譚。

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ウルトラマンファルシュ

目撃

 

地球から1500光年離れた小さな惑星、ソンブレロ星雲。その星に住んでいる若い異星人、ピエールは自身の宇宙船を修理している。流線型のスタイリッシュなデザインの宇宙船。ピエールが初めて買った新品の宇宙船だ。

 

『〜...さて、こんくらいでイイよなぁ。さっすが天才ピエールくん!開発だけじゃなくて修理の腕も...おぉ??』

 

流星。

青い光が遠くでチラリと見えたかと思えば、こちらに向けて真っ直ぐに飛んでくる。青白い光の軌跡を描き、ぐんぐん、と勢いを増しながら。

 

『う、おぉぉぉぉ!?!?マジこっちに来んのかよォ!?』

 

ピエールは急ぎ宇宙船に乗り込み、流星をかわすために向かっていくが....

 

『...あん?』

 

青いエネルギーに包まれたその流星は、星屑ではなく、ヒロイックな外見の異星人が納められたシンプルなデザインの救命カプセルだった。その只事ではない様子に戸惑ったピエールは、とにかくこのカプセルを収容しようとハッチを開け、静かにカプセルを船内に納めた。

 

『さーて、生きてますかねェっと...』

 

ピエールが収容したカプセルは、モニターがついている、白がベースの錠剤のような楕円状のカプセルだった。その中に静かにうずくまるようにして、異星人が眠っている。

異星人は青と白の体色を持ち、鋭く切れ長の目を持っている。

胸にはスペード型のカラータイマーをつけており、全体的にヒロイックな姿を持っていた。

 

『....う、ウルトラマン...?』

 

この異星人は、ウルトラマン。

M78星雲『光の国』からやってきた、銀河を守る正義の戦士である。そしてピエールという異星人は...

 

『....ほ、....本物ォォォォ!?!?!?!?』

 

ウルトラマンに少年の如く憧れる、風変わりな異星人であった。

 

 

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地球。

東京の一角、少しだけ年季の入った、だが新築といってもまだ通じるような不思議な見かけのマンション。住宅街に建てられた、悪人面の夫とおしとやかそうな妻が管理人を務める防音マンションの名。

その名は『星雲荘』。

このマンションの一室、『096』号室の住人こそ、主人公である男の住居である。

目覚まし時計が金属をけたたましく鳴らす音が鳴り響けば、もぞもぞと部屋の中央にある布団から伸びた手が力なく時計を止める。

 

「...あー...、なーんで、こんな時間に時計セットしたんだっけ」

 

陰気そうな男が、首をゆるゆるかしげながらぼーっと考える。

自分の働かないくすんだダークブラウンの脳みそを必死に働かせる。

 

「...あー、そうだそうだ。不二ちゃんがこっちに来るんだった。...じゃあ着替えなきゃ...」

 

タンスからシワひとつないクリーニング済みの服を引っ張り出し、自分の寝巻きである漢字Tからその服に着替える。

自分の財布、スマホなどを入れた黒のハンドバッグを手に持ち、靴を履いて扉の外へ出ると、真っ白な日の光と、少しぬるい風が男を出迎えた。現在の時間は7時20分。

 

「...ん、んん....」

「ハ、ハヤタ殿、おはようございます...ひゅふ、ふふふ....」

「おぉ?おはようございます、有江(ありえ)さん。あれ、今日は外に出るんですか?」

「は、はい...今日は、調子がいいので...ひゅふふ...」

 

男『向淵 ハヤタ』に話しかけた奇妙な笑い方の女性は、『有江 アサヒ』。精神的な疾患で職場を離れ、現在は病院に通いながら療養中の女性だ。

 

「そうでしたか。...お気をつけて。」

「...む、向淵さんは、これからどこへ?」

「田舎から出てきた妹分を迎えに。しばらくここのマンションに住むみたいなので」

「...となると、駅、ですね。...私も、そこまでついて行っても?」

「随分と遠出しますね。...本当に大丈夫ですか?」

 

歩幅を合わせながら、二人はマンションを出ていく。

 

「朝ごはん、食べましたか?」

「...い、いえ...実は、まだ...駅に行く途中で食べようかと思っていまして....」

「僕もそうなんですよ。そこのお店でなにか食べますか?」

 

汗をかきながら急ぐサラリーマン、キックボードに乗りながらどこかへ向かう少年、ゴスロリの風の服を纏った少女...

この一日の始まりと言える朝の時間。

様々な服、特徴、年齢の人物がサラダボウルのように混ざり合うが、しかし交わることなく日常を謳歌している。...混沌としながらも、平和な時間。

 

「...そ、うです、ね。はい、た、たべ、ましょう」

 

きらりと閃く、二つの流星。

青と、赤。二つの軌跡は宙を舞い、社交ダンスを踊るように、戦闘機のドッグファイトのように絡み合い、ぶつかり合う。その物珍しい現象に、そこにいた人物達は目を引かれるが...聡明であった人物は、気づいてしまう。

あれは、流星ではない。

あれは、異形のものだ。人に似たモノと、異形の戦いの軌跡なのだと。

そしてそれは、こちらへと向かって来ている。

 

「っ、有江さっ__

 

ッゴォォォォォォ!!!!

 

 

 

....なんだ?なんだ、あいつは。もう片方は、データベースで見たことがある。だが、それと戦っている、やつは誰だ?

姿こそウルトラマンに似てはいるが、あんなやつは、見たことがない。別の宇宙から来たのか?

それに、合流するはずだったあの人...ルーカスは、どこへ行ったんだ?

 

 

 

土煙が晴れても、戦いは終わらない。

乱打。乱打。乱打。

子供同士の喧嘩のように拳をぶつけ、蹴りをぶつけるその様は、激しいながらも、膠着した戦いを醸し出す。

人に似た、パールホワイトにレッドのラインが入った、スーツのような人外と、大きな腕を振り回す怪獣『レッドキング』。大きな腕がパールホワイトの人外の顔面にぶつかり、大きく距離をとってしまう。

それを好機と見たレッドキングは、走った。とどめの一撃となるはずの、渾身の一撃を打ち込む為に。しかし、彼は、見誤っていたのである。

 

 

『ッ....アァァァァ....』

 

 

パールホワイトの武器は、徒手空拳だけか?

本当に、彼が自身の攻撃のみの力だけで吹き飛ばしたのか?

そして...

 

 

彼の腕が、光っているのは、何故だ?

 

ハァァァーッ!!!!!

 

瞬間。

直線的な光の波動が、レッドキングを打ち倒す。

これこそ、パールホワイトの切り札となった必殺技である。

ヒトに似た人外は、トドメのチャンスをうかがって前もって貯めておいたビームエネルギーを一気に放出したのだ。

それは偶然にも、この星に幾度となくやってきた戦士、ウルトラマンの切り札に酷似していた。

 

 

この戦いを皮切りに、偽物のウルトラマン達が、地球を守る物語が始まる。

ヒーローとなるものに、本物や偽物など関係ない。

どんなに弱くとも、どんなに小さくとも。

目の前の人の事を想い、考え、手を差し伸べることが出来れば、誰にでも、誰かのヒーローとなれるのだ。




話の流れは考えていますがいきなり長編にするとエタる可能性があるので短編にしておきます。気が向いたら長編になっているかもしれません。
以下、キャラの簡易的紹介です

ソンブレロ星人・ピエール
ウルトラマンに憧れ、ウルトラマンになる為のスーツ、人間がそれを纏う為の変身道具も開発してしまったウルトラマンマニア。
終盤のレッドキングと戦ったスーツの中身も彼。着ぐるみのようにスーツを纏って戦っていた。

向淵(むかいぶち) ハヤタ
マンション『星雲荘』に住むデザイナーの青年。
自身が死ぬかもしれない巨大な戦いに見入るなど、マイペースで危なっかしいものがある。
不二という名前の妹分がおり、彼女を迎えにいく為に駅に向かっていた。
彼の住むアパートの部屋番号である『096』の番号は『甦れ!ウルトラマン』が公開された1996年の下2桁から。
名前の由来は初代ウルトラマン、ハヤタ・シン。

有江 アサヒ
心療内科に通いながら治療をしている元OL。
ロングヘアに黒いメガネのダウナーな容姿で、奇妙な笑い方をする。


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