#名前からひらがなを消すとかわいい
なるほど、私もさっそくやってみよう!(゚∀゚)
『語部創太』
……(゚∀゚)
……………(゚∀゚)
……………………(゚∀゚)???
世間一般の価値観とはかけ離れた思想を持つ人のことを、日本語では『変人』とか『狂人』と呼ぶ。
その前提条件を踏まえたとして、それでも間違いなく断言できる。私の友人である加賀瑞季(かがみずき)は、間違いなくそういった変人であると。
そう言える理由はいくつかある。まず、高校3年生まで携帯電話すら持っていなかった。スマートフォンはおろか、折り畳み式携帯電話――通称ガラケーすら所持していなかった彼女と休日に連絡を取るのは、彼女の自宅に電話するしかなかった。何か急用でなければ、あるいは休みの前日までに口約束を交わしておくことも多かった。
ただ、そういった約束のアレコレを彼女が破ることは一度としてなかったし、待ち合わせの時間に遅刻することも一切なかった。女子高生が持っているモノを所持していないだけで、彼女はとても真面目な性格だったのだ。
高校3年生の夏休み。夏祭りに行こうと約束していた私の前に浴衣姿で現れた彼女は、フンスッと鼻を鳴らしながら右手に持ったモノを見せつけてきた。
「ついに私も今時のジェーケー必須アイテムを手に入れてしまいました」
「…………加賀さん。それは?」
「携帯電話です」
ガラケーだった。
「見てください。昨日いっぱい練習したから、ぶらいんどたっちも出来るんですよ」
高速で12個のボタンをカチカチ連打する加賀さんは、見ていてとても可愛かった。
次に彼女のガラケーの待ち受け画面が少々、いやかなり特殊だったことだ。
「どうやって買ったんですか?」
「いっぱいアルバイトしました」
聞けば夏休み中、知り合いの経営する喫茶店でウェイトレスをしていたらしい。「撮ってもらいました」と見せられた画面には、可愛らしいメイド服に身を包み無表情でピースサインをしている加賀瑞季その人だった。決して表情が豊かではない、笑顔もほとんど見せたことのない彼女が接客業をするのは大変だったと思うが、かれこれ2週間ほどアルバイトして手に入れた給金を握りしめて携帯ショップまで行き、携帯電話の購入に成功したらしい。
そうして買った携帯電話の待ち受け画面には、工具である『ツルハシ』がデンと鎮座していた。
「…………ツルハシ?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
どうかしたどころではない。ないのだが。
あまりにも堂々と、それでいてキョトンと小首を傾げる友人を見て私がおかしいのかと思い、疑問の言葉は飲み込んだ。
……………………正直、今でもツルハシの意味は分からない。デフォルト設定でああなっていたのかもしれないし、不覚は追及しないが。
そして最後に、異様なまでの執念だ。
卒業を間近に控えた時に行われた艦娘適性検査。人生で3回目、それでいて最後の検査だ。
こう言ってしまうと何だが、好んで艦娘になりたいと思う人はほとんどいなかった。自分のこれまで歩んできた人生を捨て、命の危険を冒して『深海棲艦』とかいう未知の敵と戦わなければならない。そんな命の保証がない仕事に就きたい人などいなかった。ましてや私たちの通う高校は県内でも指折りの進学校。ほとんどの同級生が、そして私も加賀さんもご多分に漏れず、大学への進学が決まっている状態だった。
だから、そう。これは私が悪いわけじゃないのだ。ただ、退屈そうに机でボンヤリ宙を見つめている加賀さんとの話のタネになればいい。そう思っただけだった。
「加賀さん、見てください。貴女と同じ名前の艦娘がいますよ」
「…………そうですか」
「こうして見ると、アイドルグループみたいに可愛らしい女の子ばかりなんですね。艦娘って」
興味なさげな加賀さんに向かってカタログを広げペラペラとページをめくっていると、
「……………………ちょっと待ってください」
急に私の手からカタログを奪い取った加賀さんが、ある1ページを開き凝視し始めました。
瞬き1つせず「これ……」「でも……」「……やっぱり」とブツブツ言い出す様子がおかしい加賀さんが怖くなり肩を叩くと、
「赤木(あかき)さん」
「は、はい?」
「私は『瑞鶴』になります」
「……………………はい?」
そこからの加賀さんはもう、ハッキリ言って異常でした。それまでも周りから多少浮いてしまいがちな子ではありましたが、それがさらに加速しました。
その狂気が覚醒したのは検査1週間前のある日、
「赤木さん」
「どうしましたか、加賀さん」
「聞くところによれば、お百度参りというものがあるらしいです」
「正気ですか加賀さん」
「というわけで今から行ってきます」
「もう夕方18時ですよ加賀さん」
「ではまた明日」
「加賀さん!?」
その時は、その日だけだと思ったんです。どうせ明日になればいつも通りの加賀さんに戻っているだろうと。ヘトヘトに疲れてグッタリして「もう二度としません……」ってうめき声をあげている加賀さんが見られるだろうって、そう考えていたんです。
「今日も行ってきます」
「今日も行ってきます」
「今日も(以下略)」
「今日も(ry」
『今日も行ってきます』
土曜日にはCメールが送られてきました。日曜日にも送られてきました。月曜日には「今日は朝から行ってきました」と言ってきました。「放課後も行ってきます」神様もうんざりですよ加賀さん。
とにかく異常なまでの『瑞鶴』に対する執念。数少なかった加賀さんの友人もドン引きし、彼女から距離を取るようになり――
「加賀さん」
「おや赤木さん」
「お昼、ご一緒してもいいですか?」
「どうぞ。ご自由に」
ついには、彼女に話しかけるのは私1人になってしまいました。
それでも平然としている加賀さん。彼女を見ていると不安になってしまいます。私が他の人同様に彼女から離れていっても、加賀さんは今まで通り何も変わらないんじゃないかと。彼女にとって私は友達でもなんでもないんじゃないかと。
言いようのない不安に包まれながら、机の上で正座する小人さんに総菜パンをちぎり分け与えていると、加賀さんが目をパチクリさせていました。
「どうしました? 加賀さん」
「赤木さんも、それが見えるんですか?」
それと指差された先にあるのは小人さん。艦娘適性検査の時から見えるようになった謎の存在。
「加賀さんも見えるんですか……?」
「はい。てっきり私だけに見える幻覚なのかと思っていましたが」
幻覚が見えるほど自分がおかしくなっているという自覚はあったんですか。
「どうやら赤木さんもおかしくなっているようで安心しました」
私も同じにしないでくれませんか。という言葉は、加賀さんの珍しい笑顔で頭から浮き飛んでしまいました。
滅多に笑わない人が笑うのは、本当にズルいです。特に加賀さんみたいに綺麗な人が笑うと、ちょっとやそっとのことはどうでもよくなってしまうから不思議です。
そんなこんなで2人してエヘヘとはにかみ合いながら昼食を摂った、その1週間後。
赤木静江(あかきしずえ)殿
厳正なる検査の結果、貴殿を航空母艦赤城型一番艦『赤城』に任ずる。
海軍省人事局
封筒の内容を開けた次の瞬間には、加賀さんに電話をかけていた。上手く言えないけど、何故だかとある確信があった。
『私は貝になる』
「駄目だったんですか!?」
『違うそうじゃないってなりました』
「瑞鶴ではなかったんですね!?」
『お、おぅ……。まさか親友から致命傷を負わされるとは』
「何の船だったんですか!?」
加賀さんを狂わせた憎き艦娘カタログのページを捲りながら会話を続ける。
『なんか、テンション高いですね赤木さん……』
「艦名を教えてください!」
あった。見開きのページに凛とした姿で写っているのは、赤と青の対照的な色合いをした2人の艦娘の姿。
『言いたくないんですが……』
「いいから、教えてください!!」
『えぇ……。し、仕方ないですね』
赤い方は『赤城』。私がなる艦娘の姿。そしてもう1人は――
『……『加賀』。私は『加賀』になりました』
「やったあああああああああああああああああ!!!!!」
『ちょっと!? 人の不幸を喜ぶとは何事ですか!?』
珍しく焦ったような加賀さんの声が受話器越しに聞こえてきますが。
大喜びで万歳三唱する私の耳には届きませんでした。
「赤木さん」
「私はもう赤城ですよ、加賀さん」
「そうでした。赤城さん」
「はい。なんですか、加賀さん」
「今日のお昼はカレーですよ」
「そうでしたね。もう金曜日ですか」
「さすがに気分が高揚します」
「ええ。とても楽しみです」
「それと、赤城さん」
「なんですか、加賀さん」
「明日と明後日は、久しぶりの2連休です」
「はい。ゆっくり休んで英気を養いましょう」
「久しぶりに食べ歩きに行きましょう」
「いいですね。ぜひ行きましょう」
「さすがに気分がアゲアゲします」
「あら、大潮さんが乗り移っちゃってますね」
2人で顔を見合わせて笑い合う。
「それじゃあ、行きましょうか赤城さん」
「はい。頼りにしてますよ加賀さん」
「鎧袖一触よ。問題ないわ」
「油断しては駄目ね」
「……………………(ムスッ)」
「あらあら」
一航戦として。隣に立つ親友の相棒として。
航空母艦『赤城』。今日も参ります。
ちなみに、相互さんの名前はひらがなだけだったんですね。
『』
名前が…………ない…………!!( ゚Д゚)