赤原の守護者と禁忌教典   作:石橋航

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狂人の執着心

「───さて、事の顛末を聞かせてくれないか?」

 

 リィエルと共に駆け上がったエミヤ。

 目的地となるエミヤが使用していた部屋に到着すると、そこには既に手負いのグレンと変装姿のアルベルトが居た。

 開口一番エミヤは問う。早急な情報交換が必要な場面だからだ。

 ここへ至る道中にも魔術痕や刃物痕が散見されていたことから、戦闘があったというのは疑惑から確証へと昇華されている。

 

「……悪い、エミヤ。俺が至らねえばかりに……!」

 

 話を聞くに、バークス=ブラウモンが単騎にて襲撃に舞い降りた。

 アルベルトは離れた森でエレノアに足止めを喰らい、一人戻っていたグレンがシスティーナと共に迎撃を為した。

 だが、その間に侵入した第三者……正体は不明……にルミアが誘拐されてしまった。

 彼女が隠れていた部屋には抵抗する痕跡が残されていたが、バークスがわざと広範囲に音が伝播する攻撃方法を選択し人為的に防音の役割も果たしていた。

 というのが、エミヤがここに駆けつけるまでに起こった顛末という。

 グレンがシスティーナを戦闘の駆り出すばかりでなく、ルミアを守り切れなかったことに責任を感じているようだが責めるつもりは無い。

 部屋のベッドに寝かされているシスティーナを見るに、特に大きな外傷もなさそうな様子だ。それだけ彼が、彼女を気に掛けながら戦ってくれたという事だろう。

 

「気にする必要は無い。元はといえば、私が後手に回るような戦略ばかりを選んでいたツケが回ってきたということだ」

 

 この身も随分と安全策ばかりを好むようになったものだ。

 特務分室の在籍年数からこのメンバー間の実質的な指揮官的なポジションに据えられていたエミヤにも、ここまで敵の策略に弄されている責任はある。

 むしろ陣容の質を見れば、柔な敵には後れを取らないはずなのだ。

 

「全員に責任はある。俺とて、エレノアの奸計に陥った」

「……わたしも、勝手に行動したから……」

 

 グレンを慰める為、かは分からないが責任の所作は一人だけではないと二人は告げる。

 

「全員に責任があり、最後まで敵の流れに流されていたが故にこの状況に陥ってしまった。であれば、私達がすべき行動も決まっている」

 

 エミヤはアルベルトとリィエルの言葉を掬い、グレンの瞳を見つめる。

 全員の視線と思惑が交錯することで初めて、エミヤ達はスタートラインから走り始められる。

 

「すぐさま行動を起こすぞ。時間は無い。ここで暢気に反省会をしていては、再び流されていく結果となるからな」

 

 エミヤの声に頷いた三人は、簡単に情報を交換する。

 エミヤとリィエルからは、『リィエルの兄』を名乗る存在が居る事を。

 グレンからは、バークス=ブラウモンが異能を担うことが出来る事を。

 アルベルトからは、此度もエレノアが敵に回っているという事を。

 各々の視界から手に入れた情報を共有した三人はエミヤの部屋を出ていった。

 最後になったエミヤはふと、ベッドで眠りについているシスティーナに目を向ける。

 

「……すまなかった。私の責任で、再びルミアを連れていかれてしまった」

 

 友人として、一番の関係を築いている二人だ。

 幾度も命の危機に陥っているルミアの姿に、心を痛めていないはずがない。

 でなければ、力になりたいと自ら死場を求めるような真似はしないだろう。

 

「私が必ずルミアを連れ戻す。だから君は───」

「───待ってください、エミヤ先生」

 

 独白にも似た謝罪文を述べていたエミヤだったが、言葉を食いちぎるようにして目の前のシスティーナが起き上がる。

 下半身を布団の中に隠しながら上半身のみで起き上がったシスティーナは、戦火を乗り越えた直後というのに澄んだ瞳をしていた。

 静謐に、されど堅剛な意志で、告げる。

 

「私も、私も───ルミアを助けに行かせてください」

 

 そう、言われるとは思っていた。

 彼女の正義心が、一人だけ安全地帯から待っているという選択を許さないのは、十分理解していた。

 

「君は、自分が何を言っているのか理解しているのか?」

「はい。確かに先生達と共に肩を並べて戦う、ということは出来ないと思います。ですが、援護ぐらいなら出来ますっ!」

 

 グレンと共に戦った経験が、彼女を強くしたのだろう。

 自分が全て出来ないと理解している聡明さ。

 しかして、自分に出来る事を模索できる勇敢さ。

 それらは確かに尊いものだが、それのせいで自分自身を正式に測れないのであれば足枷へと成り果てるのだから───。

 

 システィーナの実力は確かに同世代の中では一線を画している。

 だが、彼女には間違いなく足りないものがある。それを理解していたエミヤは、当然その願いを聞き届けることは出来ない。

 

「駄目だ。私達がこれから向かうのは、首魁が整えた舞台だ。それ故に、何が起こるか私とて分からない。万が一の場合、我々を分断し各個殲滅する罠が仕掛けられている可能性だってある。その時、君は一人で自分自身を守ることが出来るのか?」

「そ、それは……」

 

 現実を突きつけられ、酷く意気消沈するシスティーナに罪悪感を感じないわけではない。

 今でも心が引き裂かれそうな痛痒に表情が歪みそうになるが、その甘さが人を殺すという現実をエミヤは知っている。

 故に、手は抜かない。

 

「君は聡明だ。故に分かるだろう? 今私が言った可能性の話を」

 

 何も言わずこくり、と首を動かした。

 

「であれば、今はここで待っていてくれ。何れ、君の力が必要になる時が来るだろうからな」

 

 そう言い残し、エミヤはドアノブに手をかける。

 一捻りすればドアはその先の光景を見せ、両者の距離は物理的に切断されることになる。

 物理的に、心理的に、エミヤはシスティーナをそこに残す為に、ドアを開こうとする。

 その時、ドアノブに触れる右手とは逆の左手首に外界からの圧力が籠められた。

 布団から勢いよく飛び出し、艶やかな銀髪を焦燥に揺らし、されど毅然とした瞳でシスティーナはエミヤを引き留めた。

 

「何れ。それは、何時の話でしょうか?」

 

 問いかけるシスティーナの瞳は、煌々とされど静謐に澄んでいた。

 そうして逃げの言葉が通じない事を、この時エミヤはようやく悟る。

 

「……確かに私が驕っていたのは事実です。先の魔術競技祭での実績も、何時の間にか自分の功績としてしまいました。ただ学園内での成績が高いだけなのが私。それが実践にそのまま反映されるわけではない事は、先生の授業や先ほどのグレンさんとの共闘……と呼べるのかは疑問がありますが、戦闘で理解しました」

 

 それでも、とシスティーナは続けた。

 

「私は今みたいな、ルミアの窮地に助けに向かえる、先生と共に行きたい……! こうして一人で待つのは、もう我慢できないんです……!」

 

 クラスメイト、親友、家族───。

 ルミア=ティンジェルと強靭な絆で繋がっているシスティーナの願いは、ごく単純な大切な人を助けに行きたいというものだった。

 その感情の発露は、噓偽りの無いシスティーナ=フィーベルの情動だろう。

 荒れ狂う奔流を舌に乗せるその姿は、理性を担う人間たる姿だった。

 悔しそうに両腕を握りしめ、瞳に雫を浮かべて己が弱さを呪う。

 その姿は───酷く過去の自分に似通っていた。

 だからこそ、逃げることなく向き合う事が大切だと知っている。

 告げる罪悪感を切り伏せ、雫に遮られながらなお真摯に向き直る彼女にエミヤもまた向き直った。

 

「───君の気持ちはよく分かる。自分に何も出来ないと理解していながら、なお突っ走ることが正解なのではないかと思ってしまう感情は、オレにはよく分かる」

「え……?」

 

 有り得ないものを見たかのような表情をするシスティーナに、頬を崩しながらエミヤは告げていた。

 そう告げた次の瞬間、エミヤは一転真剣な表情を向けた。

 

「だが、今の君を連れていくことは出来ない。戦力として数えることは、私には出来ない」

 

 その一言を聞いたシスティーナは、悔し気に表情を落とす。

 気丈な視界は、今は心象を表すように何もない床を映していた。

 

「そう……ですよね。ごめんなさい、私……分かっているだなんて言いながら、本当は何にも分かっていなかったんですね……」

 

 痛痒を無理矢理に振り払うような笑みを浮かべたシスティーナ。

 彼女は向けられた言葉をそのままに受け取り、解釈をして吞み込んだ。

 その姿を見て、エミヤは自分が不器用であることを再確認した。

 彼女が呑み込んだ言葉は少しばかり濃すぎる。矢継ぎ早に言葉を重ねて希釈する必要がある。

 

「まあ待て。確かに今宵の戦いに連れていくことは出来ない。だが、君には私が納得した操が心象に突き刺さっている。それが折れない限り、君の成長を阻むものは無いだろう」

 

 随分と遠回りな希釈に辟易とする。

 結論を相手に告げたのであれば、それ相応の理由も必要というのに。

 それを適切な言葉にするのは、どうにも不慣れだ。

 含羞するようにエミヤは後ろ髪を撫でながら、それでも口を開く。

 

「……まあ、何だ。私も君の成長は著しいものと理解している。故にルミアの防衛も任せた。その成長を蔑ろにだけはしないで欲しい。これからも君は強くなれるのだからな、必ず。だからその近い未来で私が困ったら、迷わず君を頼りにしたい」

 

 随分と自分勝手な言葉じゃないか。

 纏まらない理由を言の葉に乗せていれば、当然の帰結とは理解していたが。

 だが、システィーナは一度目を見開くと、決意を固めてエミヤの言葉に頷いた。

 

「───分かりました。ではその近い未来が一日でも早く訪れるように、精進しますっ!」

「ああ───ありがとう」

 

 ───上手く希釈出来たのだろうか。

 それを願いながら、エミヤは今度こそドアの先へ踏み出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「良いのかよ、騙すような真似して?」

「仕方あるまい。彼らは私達とは違う世界を生きるべき者達だ。下手にこちら側へ連れ込む必要も無いだろう」

 

 夜の天幕が空を覆いつくす中。

 四つの影が鬱蒼と生い茂る森林を駆け抜けていた。

 その中の一人、後ろを向きながらのグレンの言葉にエミヤは当然のように答えた。

 システィーナと別れた後、宿舎の外で心配そうにしていた生徒達にエミヤは変装したアルベルトが真相を隠すために用いた嘘である爆破事件、その解決の一助となる為に今から動く必要がある、と偽りの理由を吐いた。

 その事についてグレンは言っているのだと、言外の意図は理解していた。

 しかし彼が求めた答えはそうではないのか、呆れたようにため息をついた。

 

「ホント、お前ってそう言う所は変わらねえよな。無関係な人間を巻き込まず、全て一人で抱え込む在り方はさ」

「では生徒達を巻き込めと言うのか? それこそ論外だ。ただでさえ不安になっている彼らに余計な油を注ぐ必要は無い」

「別にその判断については俺も今回ばかりは同感だ。だがなぁ……お前は言葉が少なすぎるんじゃねえか? さっきだって、あの……システィーナが代わりに説明してくれなきゃ纏まんなかっただろ?」

 

 グレンの言葉を同意を示すようにエミヤの隣を駆けるリィエルも首肯した。

 

「ん。それはエミヤの悪い癖。わたし達には溜め込むのは良くないって言うのに、自分は一人で全部決めちゃう……わたしも、エミヤの助けになりたいのに……」

 

 無機質な声音がデフォルトなリィエルだったが、この時ばかりは沈んだ声が耳に響いた。

 

「全くだ。先の一件で少しは他者にも重荷を背負わせる覚悟が出来たと思っていたが、その本質は簡単には変わらないらしいな」

 

 先の一件、それはエミヤが無断で軍を抜けた事をグレン達に謝罪した時だろう。

 先行しているアルベルトは顔は正面を向きながら、意識のベクトルは逆方向のエミヤへ曲がっていた。

 

「無論全てを話せとは言わない。ただ、もう少し状況を話す必要はあったんじゃないか? お前を慕っている生徒達だ。全て自分に任せろ、だけで納得するには材料が少なすぎる。今は未熟かもしれんが、彼らとて立派な魔術師の卵だ。それに───」

 

 他でもない、お前の背中を見て育っている生徒達が成長していないわけが無いのだからな、とアルベルトは言葉を結んだ。

 エミヤは思わず瞠目する。

 生徒と教師という関係に縛られ過ぎて、エミヤは彼らを庇護対象として見ていたのかもしれない。

 ただ、先ほどのシスティーナのように彼らとて成長しているのだ。

 停滞せず醜くとも足掻くのが人間だ。それを理解し成長を促す役職を担っているエミヤがそれを忘れているなど論外すぎるだろう。

 

「───すまない。また、君達に教わられたな」

 

 その言葉に対する返答は無かったが、周囲で肩を並べる仲間達は全員満足そうな表情をしていた。

 そうだ。孤高の正義の味方など存外脆いものであることなど、この身は実感を以て理解させられているだろう───?

 

 確かに生徒達を戦場へ送ることは直近では出来ない。当たり前だ。

 だが、成長を続ける彼らは何れ守られているだけでは納得できなくなる事は想像に難くない。

 それに守護者としてこの世界に顕現したエミヤだ。紛れもなくこの世界に危機が迫っているのは、我が身が証左となる。

 その危機が現実となって世界を覆いつくした時、生徒達は、仲間達は、この身に手を差し伸べるだろう。

 であれば、その時に如何なる返答をすべきなのか。

 答えは依然として分からないままだが、分かることはある。

 それは───守る一択では、無いという事だ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「どうして……どうしてこんなことをするんですか、バークスさん!?」

 

 それは、この場所には似つかない声音の問いだった。

 暗澹たる漆黒が何処までも景色を塗りつぶし、瘴気が空中で可視化出来そうなどんよりとした空間。

 開けたその空間の壁に四肢を拘束され吊るさられたルミアは、絶体絶命の状況でありながら気丈さと勇敢さを以て目の前で日中まで矍鑠として笑みを浮かべてくれていたバークスを見る。

 何かの間違いなのではないかと、僅かな希望を握りしめて───。

 だがそんな儚い希望を握りつぶすようにバークスは口元を歪ませた。

 

「どうしてこんなことをするか、だと? そこには無論高尚な理由があるとも」

「高尚な理由、ですか……?」

 

 返答の意味が分からずオウム返しをしてしまう。

 警戒心を心象に突き立てながら首を傾げるルミアに、バークスは大仰に両手を広げて答えた。

 

「そうだ! 貴様の担う異能、これが単なる『感応増幅者』に連なる存在な訳なかろう? 正真正銘の化け物が、貴様だッ! ああ、そうだ貴様は化け───待て」

 

 そこまで述べた瞬間、バークスが怪訝な表情をする。

 眉を顰めながら先ほど己の口先から発せられた音に疑問符を浮かべていた。

 化け物? この娘が? 

 戯言も大概にしろ。往年の復讐が遂に為されるという高揚感を前に、理性を失ってどうする?

 

「いや……訂正しよう。貴様如きでは到底化け物とは程遠い。その異能には目を見張るものがあるが、彼の『死神』シロウ=エミヤを凌駕できるほどの力ではない。奴こそが───本物の化け物なのだからな」

 

 シロウ=エミヤが化け物だ、その言葉をバークスは口元を弦月の如く裂けさせながら言った。

 憧憬とか、恍惚とか、そんな言葉で表すことが出来ないような表情だ。

 ルミアは思わず頬を引きつらせる。

 だが、自分達を優しい笑みで、そして過去に弱っていた己を救ってくれた正義の味方に対しての言葉としては看過できない。

 深呼吸をして弱った酸素を吐きだして、ルミアは心火を灯した瞳でバークスを照らす。

 

「……先生は、化け物ではないと思います。先生は私達の事を一番に考えて、私達の事を見守ってくれています。そんな人に、化け物なんて渾名は似合いません」

「それは奴が日常の衣を羽織っているからそう言えるのだ。戦場での奴を一度でも見てみると良い、正真正銘『死神』の渾名を担う血みどろの殺戮者への変身するだろうからな?」

 

 言いたいことは言い終えたのか、バークスは興味を失うようにルミアから視線を外すと、近くで佇んでいる青年に声をかける。

 

「再び、貴公に頼みたい仕事がある」

 

 再び。その言葉が指し示すように、青年は一つの大仕事を成し遂げていた。

 それは、ルミア=ティンジェルの捕獲だ。

 まず部屋に居たシスティーナ=フィーベルとルミアの二人に睡眠の魔術を秘密裏に付与し、その場で待機。

 グレンとバークスが衝突したのを部屋で確認した後、バークスの命令でシスティーナを目覚めさせ、窓からルミアを連れて退散した。

 無論何もせずに部屋で待機していたわけではない。彼の命令に従う人形を駆使し、人払いも行っていた。

 生憎、その造形からその人形には変装をさせてはいたが。

 斯様な大役を果たしたにも関わらず、再び仕事を任される。

 普通であれば辟易とする場面だろうが、青年は真摯な表情でその命令を聞き届ける。

 

「何でしょうか?」

「貴公にここからの術式の進行を一任しよう。私はこれから、やらねばならぬ事があるからな」

 

 呆けた青年に追加の説明など不要と、バークスは歩みを止める事は無かった。

 開けた空間から去ろうとするバークスだったが、壁に寄りかかりながら一連の流れを見ていたエレノアが瀟洒な笑みを浮かべて呼び止めた。

 

「宜しいのでしょうか? その術式は、紛れもなく我々が完成を渇望している代物でございます。それを他人に譲るなど、正気の沙汰とは思えませんが?」

「構わん。私としては、シロウ=エミヤとの決着がつければそれで良い。天の智慧研究会での階位など、奴への復讐の前では副産物に過ぎんのだよ。しかし、私が正気の沙汰ではない、か」

 

 エレノアの言葉を、一度嚙み締めるようにしてバークスは呑み込んだ。

 

「ああ───もしかしたら私はあの時から、正気を失っているのだろうな。何せ───」

 

 ───過去に死んだ私を突き動かしているのは、『死神』の首一つなのだからな?

 

 口元をそう歪ませたバークスは万全の準備を整える為その場から離れる。

 

 ───それこそイレギュラー介入の変更点。

 執着にも似た悪鬼の如く執着心を死神に向けさせられた彼は、既にその脳裏から天の智慧研究会への憧憬は失われていた。

 

「───奴を殺すのは、私だ。余計な仲間を引っ提げているようだが、何警戒は不要だとも」

 

 思い返すは旅籠における戦闘だ。

 そこでこの身は、シロウ=エミヤの大切な仲間を追い詰めた。

 痛痒と辛苦に歪む青年の表情を見ていると、体全身が欲情した。

 奴の大切な物を傷つけているという事実こそが、バークス=ブラウモンの復讐心を点火させる。

 そうだ。奴の仲間を、他でもないこの私が追い詰めたのだ───!

 

「精々過去の私を今の私に重ねるが良い、シロウ=エミヤ。その慢心を穿ち、戦闘の果てに立っているのは、このバークス=ブラウモン唯一人。その復讐が叶ったその時、過去に縛られた私はようやく解放されるのだ……!」

 

 そこには魔術の真理を追う魔術師としての姿は無い。

 正真正銘、死神に人生を狂わされた狂人が醜悪に地べたを這いずりまわっているだけだった。

 

 ───その背中を見つめて、ルミアは願う。

 

「ごめんなさい、先生……!」

 

 無力な自分では、嘗て助けてくれた正義の味方を待つしか出来なかった───。

 




 おいおい、バークスさん原作と比べると顕著に病み過ぎでは?
 これがヒロインであればヤンデレ(?)候補になったのに。残念!
 なお、最初の予定ではここまでエミヤ愛が強いはずじゃなかったんですけどね。あれれ、おかしいな?

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