気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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しばらく精神不調で筆が進みませんでした。そしてさらにアスカの扱いどうしようか悩んで倍率ドン!!

だから気晴らしにANIMA読んでました。うん、綾波族はええなぁ。


アスカ、来日

 

 ミル55D輸送ヘリ。

 

 機上の人となった自分はミサトさんと一緒に海の上を飛んでいた。佐世保を出港し、新横須賀へと向かう国連軍太平洋艦隊へEVA用非常電源ソケットを届ける為だ。

 

 しかしアメリカから参号機は空輸出来たのに弐号機は遠路遥々ドイツから海運でというのは今一腑に落ちないが、次に現れる使徒は海に適応しているタイプであるからシナリオとしては間違っちゃいないのだろう。その点新劇ではリストラされたガギエルに代わって登場した第7の使徒迎撃は空輸されていた弐号機のスカイダイビングから始まっている。どちらにしてもタイムリーで弐号機が其々の使徒に対応する様にセカイは出来ているとでもいうのか?

 

 そんな事を考えても仕方がないし、一パイロットにエヴァの輸送手段を提言できる権限はない。

 

 しかしそれで国連軍との関係性を悪くする必要性は皆無だ。であるが、実際二体の使徒──特にラミエルと戦ったから思う事は、エヴァ抜きで使徒を倒すためには国家規模の計画を必要とするという事だった。

 

 それをひとつの艦隊でやるというのは途方もない程で、しかも今回相手は水棲特化で相性が悪すぎる。ミサトさんが立てた戦艦二隻によるゼロ距離射撃作戦が無茶ではあるが最も犠牲が少なくて済む方法であったのではないかと思わされてしまう。

 

 零号機でならいくらでも戦い様は思い浮かべられるものの、貞本エヴァでも同じ様にガギエルはゼロ距離射撃で殲滅されている様子から、原作スペックの弐号機ではどのみちそうした方法でないとガギエルは倒せないのではなかろうか。

 

「どうしたのシンジ君? 元気ないわね」

 

「別に。考え事してただけですよ」

 

 そう、ミサトさんに返す。考え事をしていたのは本当の事だ。元気が無く見えるのは考える事がありすぎるからかもしれない。

 

「キミはいつも考えすぎなのさ。時には流れに身を任せるのも良いんじゃないのかい?」

 

「どの口が言いますかそれ」

 

 隣でアルカイック・スマイルを浮かべるカヲル君に返す。老人たちに生かされている、自分の自由は死を選ぶことだと宣う彼が言える事じゃないだろう。

 

 原作ならこのヘリにはシンジ君の他はトウジとケンスケが乗るのだが、残念ながら自分はシンジ君の様に彼らとの絆は結べていない。あくまでも綾波シンジはトウジやケンスケからすれば教育実習生と生徒という関係でしかない。

 

 だから誰も誘うつもりはなかったのだけれども──。

 

「僕は委員会からキミの監視をする様に言われているからね。キミが第3新東京市(此処)を離れるのなら、ついていく義務が僕にはあるんだよ」と、そんなことを言ってヘリに乗り込んできたのだ。ミサトさんも委員会の回し者のカヲル君には意見出来ないから同行するなら拒否出来ない。

 

 まぁ、今のカヲル君はチルドレンでもなんでもないからアスカと会っても大丈夫だとは思うけれども。

 

 空母が5隻、戦艦4隻、他補助艦艇に護衛艦で構成された国連軍太平洋艦隊。

 

 青い海に浮かぶその艦隊にこれから荷物を届けに行くのだが、此処まで来るのにも一仕事を終えてきたばかりで少し疲れているのもあって、ミサトさんから見ると元気の無いように見えたのだろう。

 

 駄々っ子のシオンを置いてくるだけでも一苦労だった。そもそも連れていけばその苦労はしないでも良かったのだろうが、シオンとアスカが衝突しないとも限らなかったし、なによりリリスのコピー体であるシオンを弐号機に乗せる様な事になった時、何が起こるかわからないから予防措置として涙を飲んで貰った。代わりに帰ったら無茶苦茶構い倒してやらないとならないが、それは良い。

 

 ともかく今回は不確定要素を極力避けてガギエルと戦い、原作の通りに事を進める事が一番被害が少なくて済むだろう。なにしろB型装備で水中戦を戦わなければならない。今回の主役はアスカなのだから、自分に出来ることはなにもないのが歯痒い。

 

「あの艦隊がEVA弐号機を運んでいるんですよね?」

 

「そうよん。セカンドチルドレンの乗るEVA弐号機。見とれちゃわない様に気を付けるのよシンジ君?」

 

 そうニヤケながら言ってくるミサトさんは何を考えているのか。

 

 確かにアスカは見掛けは美少女だ。けれども中身は果てしなく面倒な女の子だ。しかしそうなるだけの理由が彼女にはあるのを、自分は識っている。

 

 輸送ヘリから降りて風に揺られそうになる身体を踏ん張らせる。ヘリのローターから吹く風も去ること、はじめて降り立った空母の上は海の上を進んでいるのもあってそれなりに強い風が吹いていた。そりゃスカートも捲り上がるよ。

 

 しかし潮風が気持ちが良い。青い海が広がっているというだけでも気が楽だが、そうとも言えない事もある。

 

 シャムシエルは光のムチの本数を増やし、ラミエルは新劇張りの変形を見せたが、それでも能力を拡張させた程度に収まっている。ならばガギエルはどうなるのか、考えても仕方がないが、新しい能力の機能増幅が行われるより前に倒せれば良いわけだ。とはいえ、そう簡単には行かないのだろうと心の何処かで思わずにはいられなかった。

 

「噂のフォースがどんなヤツかと思えば、こんなトロそうなヤツがパイロットなんて信じらんない」

 

「え?」

 

 気づけば目の前に此方を覗き込む橙髪の女の子が居た。

 

「うわっ!?」

 

 足に感じる衝撃と同時に視界が落ちる。足を払われて尻餅を突いたのだ。

 

「オマケに無警戒。こんなのが同じパイロットだなんて幻滅、恥を知りなさい!」

 

 見下ろされながら睨み付けられる彼女の視線には失望と怒りが渦巻いていた。

 

 あまりの勢いに茫然としてしまった。気が強い娘ではあるけれども、こんな当たりが強い子だっただろうか?

 

「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

 そうミサトさんがアスカを紹介した時、空母の甲板で強く吹いていた風が、アスカのワンピースのスカートを捲って行った。アングルは新劇のアスカなのに展開はお約束を演出するセカイが憎い。つまりどうなるか?

 

 仁王立ちで自分を目の前で見下ろすアスカのパンツが眼前に晒されてしまうというワケで──。

 

「ぐはぁっ」

 

 情け容赦ない蹴りが顎を襲って、そのまま後頭部を甲板にぶつけ、目の前で星が散らばり意識が真っ白になった。

 

「このエッチ! スケベ! ヘンタイ!! もぉぉぉッッ信じらんない、バカァ!!!! アンタなんか直ぐお払い箱にしてやるっ」

 

 そう吐き捨ててアスカは、自分など眼中に無いように踵を返して行ってしまった。

 

「大丈夫かい? シンジ君」

 

 そんなアスカと入れ違いでカヲル君が声を掛けてくれた。

 

「……っぁぁぁぁっっ、……ぅぅぅ、…あ、りが、とう…。大丈、夫…、かなぁ……いっ、たぁぁぁ……」

 

 まだ視界は明滅するし頭がクラクラするが、割れて無いから大丈夫だと思う。

 

 ただ痛みよりもそれを吹き飛ばしてしまう程強烈な1st Impressionに何をどうしたらこうなってしまったのかと考えずにはいられなかった。

 

 カヲル君の腕を借りて立ち上がったものの、アスカはミサトさんを連れて行ってしまった様だ。

 

 案内役とはぐれてしまうのはいただけないと思いながらも、今のアスカは自分の事を拒絶していた。その理由がわからない。決してパンツを見られたからだとかそんなんじゃないと思う。まだビンタされて見物料だと言われる方がマシだ。

 

「彼女はどうしてキミを敵視していたのかな」

 

「わからないよ。こっちが教えて欲しいくらい」

 

 アスカの口振りから、自分がパイロットであることが気に食わない──許せない感じだった。

 

 それが何故なのか、何が彼女の怒りに触れているのか。

 

 エヴァのパイロットである事が全てで、アスカは優秀な自分を特別視している。それは傲りでもなく、そう思うようになる環境に居たからだ。

 

 弐号機との接触実験で母は心を失くしてしまった。アスカを我が子と認識出来なくなってしまった。人形を自分の子であると思い、日々人形に話し掛ける母親を見る事になるアスカ。

 

 だからアスカは母親に自分を見て貰いたくてエヴァのパイロットになった。その為にどんな努力を重ねたのかはわからない。

 

 そして、アスカが弐号機のパイロットに決まった日に、アスカの母は人形(アスカ)を道連れにして自殺してしまった。

 

 エヴァのパイロットでない自分には意味がないという風に終盤には自らを追い詰めて行ってしまう程に、エヴァのパイロットとして優秀になっていくシンジ君に愛憎入り乱れた感情を抱くように。

 

 エヴァのパイロットとして誰よりも優秀であることがアスカのアイデンティティーなのだ。

 

「まさかね…」

 

 アスカが自分の事の何を知っているのかまではわからない。ただ、自分の最近のシンクロ率を思い返すと見えてくる物がある。

 

 零号機に乗れば100%は当たり前。

 

 初号機でも98%前後をキープしている。

 

 そして、その上限は400%を超える。

 

 つまり幼い頃から弐号機のパイロットとして努力し続けた彼女の積み上げてきた物を、ポッと出の新人が塗り替えてしまったのだ。

 

 プライドの高いアスカからすればそりゃふざけるなと言いたくなるだろう。

 

 シンジ君の場合はいきなりの実戦でのシンクロ率は40%超えということを加持さんに教えられた時はアスカも驚いていた。しかしそれでも初号機はテストタイプであるからと、弐号機こそ本物のエヴァだと自慢する余裕があったのは、その時点ではシンジ君のシンクロ率がアスカに及んでいなかったからだろう。

 

 その点、自分は零号機と初号機相手なら好きにシンクロ率を上げる事が出来、現時点でのアスカのシンクロ率を追い抜かしてしまっているのだろう。

 

 アスカからすれば自分の立場を脅かす敵以外の何者でもない事になる。

 

 もちろんアスカが自分をどう思っているかなどわからない。コレも全て自分の知識の中のアスカに照らし合わせて導きだした予測でしかない。それでも当たらずとも遠からずではあるだろうというのは、先程の過激なファーストコンタクトで伺い知れる。

 

 一緒に戦う仲間になるだろうし、次の使徒はアスカとのユニゾンを必要とするだろうし、どうにかしたいものの今は取りつく島もなさそうな様子である。

 

 死にたくないから頑張って、同化されそうになったから対話して、自分に出来ることをした結果敵が増えたとか理不尽極まりないけれども。自分が招いてしまった結果であるのならば仕方がないと泣き寝入りするしか今はないのだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 フォースチルドレン、綾波シンジ。

 

 第3使徒戦後長期入院したサードチルドレンと、零号機の起動実験に失敗して重症を負ったファーストチルドレンに代わって急遽招集された四人目のパイロット。

 

 ファーストの兄。単独で使徒を倒した、零号機と初号機に乗ることの出来るマルチパイロット。

 

 零号機と初号機は開発過程で建造されたプロトタイプとテストタイプ。どんなパイロットが乗れても不思議じゃない。むしろ試作機の段階で限られた人間にしか乗れない兵器なんて欠陥品も良いところだ。

 

 でも弐号機は違う。

 

 だから試作機でいくら高いシンクロ率を出したって本物には敵わない。

 

 これまで襲ってきて倒された使徒は偶然日本に攻めてきて、そして日本にあるエヴァが零号機と初号機だけだったから使わざる得なかった。

 

 それももう時間の問題。

 

 アタシと弐号機が日本に到着すればもう出番なんてない。

 

 アタシが居ればあんなトロくさそうな変態なんかお払い箱だ。

 

 ミサトをブリッジに案内して、艦隊司令に挨拶が終わった後、ブリッジに顔を出しに来た加持さんがフォースとその付き添いを連れていた。

 

 睨み付けてやったらヘラヘラして返してきた。なに考えてるのかわからなくてムカつくヤツ。アタシに愛想笑いを向けたって無意味。アタシはアンタなんかと仲良くする気なんてサラサラないんだから。

 

「なんでアンタが此処に居るのよぉ!」

 

「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」

 

「ウカツだったわ。十分考えられるハズだったのに……」

 

 加持さんを睨み付けるミサト。そんなミサトに加持さんは笑みを浮かべていた。愛想笑い。とはまた少し違う。なんだかモヤモヤする。

 

「加持さんはミサトさんと知り合いなんですね」

 

「ま、昔馴染みってヤツさ。君が仲の良いリっちゃんと3人で大学時代につるんでいたのさ」

 

「そうだったんですか。あ、つまりミサトさんの」

 

「シンジ君ステイ。それ以上はダメよ?」

 

「それがもう答えですよミサトさん」

 

 フォースを睨んで口を止めさせるミサト。でもフォースはからかうようにミサトに笑顔で返すと、ミサトは額を押さえてテーブルに突っ伏した。

 

「ほう。中々やり手だなシンジ君は」

 

「そんなことありませんよ。ただミサトさんが素直じゃなくてからかいがいがあって面白いんですよ」

 

「はは、確かに。なるほど、リっちゃんが気に入るワケだ」

 

「もう最悪よ…。リツコみたいな悪魔が増えるなんて」

 

「知りませんよ? 書類間に合わなーいってリツコさんに泣きついて手伝ってもらえなくなっても」

 

「お願いシンジ君。後生だからリツコには黙ってて?」

 

「さて。どうしましょうかねぇ」

 

「あの葛城が手の平の上とはな。君が同級生でなくてホッとするよ」

 

「そうですか? 僕としては加持さんやミサトさん、リツコさんと楽しそうな学生時代送ってみたかったですけど」

 

「ヤメテ、リツコだけならまだしもシンジ君まで同級生なんて悪魔と死神が肩組んで手招きしてる様にしか見えないわ…」

 

「良いですねそれ。今からでも遅くないですよミサトさん。帰ったらリツコさん交えてお茶しましょうよ。加持さんもどうですか? ミサトさんがどんな学生時代を送っていたのか興味ありますし」

 

「ゴメンシンジ君、ホントゴメン。だからね? そう眩しい笑みをお姉さんに向けないで。ね? ね?」

 

「人生のセンパイとしてアドバイスしとくぞシンジ君。あんまり女の子で遊んでると愛想尽かされるぞ」

 

「そうですね。肝に銘じておきますよ。ただミサトさんは別です」

 

「いやーん、もう、シンジ君機嫌なおして~」

 

 隣のミサトに抱き着かれながらそれを無視して涼しい顔でコーヒーを口に運ぶフォース。加持さんとミサトと軽々しく会話をして、アタシなんか眼中にないみたいな態度がムカつく。

 

「しかしシンジ君は明るいな。急遽招集されたフォースチルドレンって事だから訓練も無しにいきなり実戦に出て恐い思いとかして、少し暗い感じをイメージしてたんだが」

 

「そんなことないですよ。イメージトレーニングをするヒマはありましたし、第一次直上会戦の映像を何度も見返しましたし、座学とシミュレーションも3週間程の猶予がありましたから。あとはまぁ、必死にやれるだけの事をやっただけですから」

 

「そうか。強いんだな、君は」

 

「いえ。そんな…」

 

 加持さんに褒められて照れるフォースがムカつく。なんで加持さんまでフォースを見るの。こんなヤツにそんな頑張った子供を褒める様な視線を向けるのが我慢できない。

 

 席を辞する加持さんに続いてアタシも食堂を出る。その時もミサトはフォースに平謝りしていたけれども、フォースは涼しい顔でコーヒーを飲み続けていた。

 

 あんな茶番が繰り広げられている空間に置き去りなんて真っ平御免よ。

 

「どうだった? 綾波シンジ君は」

 

 食堂を出て、海に面した通路でたばこに火を点けながら加持さんが訊ねてきた。

 

「別に。あんなのがフォースだなんて幻滅。オマケに人をからかって遊ぶなんて最低よ」

 

「アレは葛城も承知の上さ。彼と葛城のスキンシップの仕方なんだろう」

 

 そう言った加持さんの横顔は何処か遠くを見つめていた。

 

 アタシだってバカじゃない。加持さんがミサトと付き合ってたなんてのはさっきの会話から読み取れた。ミサトの態度からもう別れた昔話なんて事も。

 

 だからアタシにだってまだチャンスはある。

 

「あんなヘラヘラしたヤツがアタシよりエヴァとのシンクロ率が高いなんて認めない。認めてやらない。あんなヤツ、さっさとこのアスカ様が蹴落としてやるっ」

 

「威勢が良いな。アスカにライバル登場ってところかな?」

 

「別にあんなヤツ、ライバルなんて思わないわ」

 

 そう、ライバルなんて思わない。同じ土俵になんかあげてやらない。精々蚊帳の外で悔し涙流して吠え面掻いていればいい。

 

 弐号機用の非常用電源ソケット、それと一緒にやって来たフォース。

 

 これがただの見学だなんて思ってない。今のところ使徒は一月に一度のペースで現れ始めた。三回とも日本に現れたから、今回非常事態に合わせて電源ソケットが運ばれた。それは良い。でも予備のパイロットを送り込むなんていうのは許せない。認めない。

 

 弐号機はアタシにしか動かせない、アタシのエヴァ。フラッと現れたポッと出のパイロットがシンクロ出来るハズもない。

 

 それを証明してやる。

 

 加持さんに別れを告げて、アタシは食堂から控え室に続く通路のエスカレーターで待ち構える。

 

「フォースチルドレン、ちょっと面貸しなさいよ」

 

「あ、う、うん。わかった」

 

 鈍くさい顔で返事をしたフォースを引っ張って、艦隊を行き来する連絡用ヘリを捕まえて弐号機の眠る輸送艦オスローへと向かう。

 

 弐号機を覆う天幕のカバーの端を捲って先ずは中を見せる。

 

「これが弐号機か。赤くて強そう」

 

「違うのはカラーリングだけじゃないわ」

 

 冷却水に浸されて横たわる弐号機の上に立って、フォースに見せつける様にアタシは言い放ってやる。

 

「所詮零号機と初号機は、開発過程で生まれたプロトタイプとテストタイプ。だからアンタにシンクロするのがその良い証拠よ。でもこの弐号機は違うわ!」

 

 そう、弐号機はアタシが乗るためのエヴァ。アタシにしか乗れないエヴァ。アタシの為に調整されている専用機。

 

「これこそ実戦用に造られた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ! 正式タイプのね!!」

 

 どうだ参ったかと弐号機を示して言い切ってやる。

 

「なるほど」

 

「なによ! アンタなんか試作機と試験機しか動かせない半端者のクセにっ。この弐号機はアンタには動かせないの! パイロットとして半端者の自分が恥ずかしくないの!? 男のクセにっ」

 

 アタシの言葉に特に何も感じていなさそうなフォースの態度がアタシの心に火を点けた。

 

 だから言ってやった。アタシが言われたら怒り猛る様な言葉を並べてやった。でもフォースはなんとも思っていない目でアタシを見上げていた。

 

 所詮は半端者だからなんとも思わないのか。なんで。どうして。こんなのがエヴァのパイロットなんて認めない、認めてやらない、エヴァのパイロットはアタシだけで充分だ。

 

 フォースを睨み付けてやった時、突然激しい横揺れが襲った。まるで大きな波に船が横から煽られたみたいな、そんな揺れ。

 

「キャァァァ!!」

 

 アタシはその揺れで、立っていた弐号機の上から脚を滑らせてしまった。船の上だし波の揺れもあって落ちないように脚を張っていた。けれどもその張りを振り落とす揺れにはどうしようもない。

 

「アスカ!!」

 

 フォースがアタシの名を叫んだ。うつ伏せの弐号機の上から滑り落ちて、横を向く弐号機の頭に落ちる。高さは数m。でも当たり処が悪ければ死ぬ。そうでなくても大怪我する。

 

 落ちていく間、まるでスローモーションの様に時が流れて行く。

 

 フォースが弐号機の頭を必死な顔を浮かべてよじ登って来た。

 

 バカなヤツ。アレだけ散々言われた相手になんで必死になっているんだか。

 

 でもそんなんじゃ間に合わない。

 

「アスカァァァァーーーー!!!!」

 

 フォースが両腕を伸ばして、アタシの名を叫んだ。するとアタシの身体が暖かい何かに触れた。なに? なんだろう。良くわからない。

 

 間に合うハズもなかったのに、何故かフォースは間に合って、アタシを受け止めて、そのまま勢い余って弐号機にぶつかった。

 

「っぐ、あ゛あ゛ぁ゛……」

 

 弐号機にぶつかって呻き声をあげるフォース。衝撃はあったけれど、フォースが庇ったからアタシは無事だった。

 

「ア、スカ、大、丈…夫……?」

 

 腕の中に抱いたアタシを覗き込んで、痛みに呻きながら途切れる声でアタシの安否を気遣う。

 

 ワケわかんない。

 

「なんでよ……」

 

「え……?」

 

「なんで、あんなボロクソ言った相手を必死に助けンのよ…。アンタバカよ」

 

「なんでって。…わかんないよ。でも目の前であんな事になったら助けるよ」

 

 コイツはどうしようもないバカだと今わかった。それも早死するタイプのバカだ。

 

「いつまで触ってンのよ、エッチ」

 

「ご、ゴメン。……それよりあの揺れ」

 

 グッと、守るために回されている腕は力強くて、それでいて柔らかくて、暖かくて、ヘンな感じ。

 

 痛くて動けなさそうなのをわかってて文句を言ってやる。まぁ、このアタシを助けた名誉の負傷って事で今はガマンしてやる。

 

「水中衝撃波に爆発なんて、タダ事じゃないわね」

 

 名残惜しいなんて思うバカな自分を押し退けて、フォースの腕の中から抜け出して外に出る。

 

 全艦で警報が鳴り響いて、対水中戦闘用意のアナウンスが響く。

 

「アレが、使徒?」

 

 護衛艦が爆発して海面を水柱が突き進む。

 

「多分ね。水の中から襲ってる」

 

 左腕を押さえながらフラフラしてるフォースが天幕から出てくる。額からは血が流れていた。

 

「アンタ、それ……」

 

「大丈夫…。背中から串刺しにされるよりかは痛くないから…」

 

 アタシが見栄を張ったからケガをしたフォースを見て、罪悪感が込み上げて来た。

 

「アスカ、弐号機で出て。使徒を倒さないと」

 

「指図されなくってもわかってるわよ!」

 

 そう、わかっている。こんなヤツに言われなくってもわかってる。

 

「アンタはどうすんのよ」

 

「僕は平気だよ。なんか迎えが来たみたいだから」

 

「は? なに言ってンのよ?」

 

 ワケのわからないことを宣うフォースの言葉に聞き返すと、フォースの足元から何かが現れた。

 

 それは銀髪の女で、何故だかフォースと同じ場所から血を流していた。

 

「な、ななな、なんなのよアンタ!?」

 

 軽いホラーな光景に柄にもなく驚いてしまう。

 

「ゴメン、痛かったよね?」

 

 フォースは突然現れた女の傷口に手を当てながら謝った。この女はフォースの知り合いなの?

 

「ワタシはアナタ、アナタはワタシ。アナタの想いはワタシの想い。平気、直ぐに治るもの」

 

 フォースに寄り掛かる銀髪の女はアタシを真っ直ぐその紅い眼で見つめてきた。

 

「な、なによ……」

 

「ワタシはアナタでも、ワタシはワタシ。ワタシはアナタをユルセない。でもアナタはアナタをユルシている。わからない。ワタシはこのココロをどうすれば良いのか」

 

「大丈夫だよレン。アスカは何も悪くないから」

 

「そう…」

 

 この二人の会話は意味がわからない。興味が失せたのか、銀髪の女はアタシから視線を外して海を見た。

 

「探し物をしている。でも見つからないのね」

 

「探してるって、何をよ」

 

「自分の還る場所…。でもそこに還る事をワタシは望まない」

 

 銀髪の女の言葉は意味がわからない。

 

「くっ、今度は何よ!?」

 

 何も爆発していないのに船が揺れた。

 

 海面が盛り上がって何かが現れる。

 

 それはオレンジ色をした頭に1つ目の──エヴァだ。

 

「エヴァ、零号機!?」

 

 そのエヴァは資料で見たことがある。ネルフ本部が開発した最初のエヴァンゲリオン。でも資料で見たのとは形が違っていた。

 

「ワタシはワタシ。ワタシだから何処へでも、何処までも共に居られる」

 

 その頭に光の輪を持ったエヴァ零号機は、海面から出ると宙に浮く。何か推進器で飛んでる様には見えない。本当にただ浮いてるだけ。ふざけるのも大概にしろ!

 

「アスカは弐号機を立ち上げて。僕はレンと零号機で行く」

 

「ああンもう!! 何がどうなってるのかあとで説明しなさいよねっ」

 

 その銀髪の女はなんなのか、なんで突然海から零号機が現れたのか。そんな聞きたいことは山程あるけれども、今は使徒殲滅が最優先。そして、この場に零号機があるのならグズグズしていたら使徒殲滅スコアを目の前で掻っ攫われる事になる。そんなの許せるもんか。

 

 アタシは踵を返して天幕の中に入ると、急いでプラグスーツへと着替えて弐号機のエントリープラグに飛び乗った。

 

 

 

 

つづく。


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