ソードアート・オンライン 黄金の林檎編   作:べれみが

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第2話

 キッチンから出てきた彼女はケーキスタンド、デザートプレートやフォークを木製のトレイに乗せて運んできた。

 

 

「持ってきてくれたんだ、手伝うよ」

 

 

 アスナはそう言ってソファから立ち上がって彼女にかけ寄る。

 

 アスナがいくつかの食器を手に取ると、

 

 

「ありがとうございます、アスナさん」

 

 

 水妖精族(ウンディーネ)のイメージを体現したような女性プレイヤー、シウネーは礼を言って穏やかに微笑んだ。

 

 

 

 テーブルの真ん中にケーキスタンドを置き、それから左手でシステムメニューを呼び出す。鈴のような音を鳴らしながら出現したメニュー画面からアイテム一覧を選択。

 

 いくつかのアイテムをタップすると、ケーキスタンドに色鮮やかなケーキがいくつも並んだ。

 

 

 最近解放された(正確には解放した、が正しい)アインクラッド第29層は果樹園が多く存在するエリアだ。

 

 そこで採れる果物は名物になるほどとても美味らしい。

 

 そして主街区にはその果物をふんだんに使った美味しいと評判のケーキ屋さんがあるらしく、以前それを聞いたアスナはシウネーと共に噂の店を訪れた。

 

 このケーキはそこで購入したものだ。

 

 

「美味しそうですね……」

 

 

「うん……」

 

 

 色とりどりの美味しそうなケーキを目の前にして、シウネーもアスナも先程まで話していたイベントのことも忘れて思わず見つめてしまう。

 

 隣ではリーファが鼻歌を歌いながらデザートプレートを人数分並べている。

 

 すると手を止めて、

 

 

「あ、ケーキは誰食べますかね?」

 

 

 人数確認をするために顔を上げた。

 

 

 その問いに答えるように

 

 

「あたしも食べたいですー!」

 

 

 そう言って4mほど離れた木の丸テーブルの所で座っていたシリカはピンと手を上げた。

 

 どうやら京都旅行の時に撮影した動画をシノンに見せていたようだ。

 

 リズもシリカの隣にいるので、撮影した時の思い出をシノンに語っていたのだろう。

 

 他の2人も食べたいと言ってこちらに歩いてきたのでリーファは計6人分の食器をテーブルに並べた。

 

 各々が好みのケーキをデザートプレートに乗せて

 

 

『いただきまーす!』

 

 

 揃って挨拶をしてから口元へと運ぶ。

 

 数回咀嚼する。

 

 もぐもぐ。

 

 もぐもぐ。

 

 ごくん。

 

 

『……美味しいぃぃぃぃ〜っ!』

 

 

 これまた全員が声を揃えて喜びの声をあげた。

 

 噛んだ瞬間に広がる味と香り。

 

 生地はフワフワで柔らかくクリームは滑らかに舌を転がっていく。

 

 名物の果物は噛めばシャキシャキと小気味よい音を立てて、そこから溢れ出た果汁はしつこくない甘さだ。

 

 咀嚼していくうちに生地やクリームと混ざり合い、ケーキ全体の味をみるみる変えていく。

 

 爽やかでフレッシュな味わいから濃密で重厚な味わいへ。

 

 一緒に口に含んだ空気すら美味しく仕上げている、鼻から抜ける僅かな風味すら惜しい。

 

 ずっとこの感覚に酔いしれていたいとすら思える美味しさ。

 

 

「凄く美味しい! 今までALOで食べたケーキの中で1番美味しいかも!」

 

 

「噂通りの味ね、これは確かに人気が出るのにも納得だわ……」

 

「ふわぁぁほっぺたが落っこちそうです〜!」

 

 フォークを進める手は止まらず、普段なら談笑しながらゆっくり食べるのだが、皆相当気に入ったのか黙々と食べ続けてあっという間に完食してしまった。

 

 

「ん〜っ美味しかったぁ」

 

 

 アスナは口直しにティーカップに新しくお茶を湧かす。

 

 先程とは違いピンク色の液体を口に含むと、口の中に残ったケーキの旨みと含んだお茶が混ざりあって、また新しく生まれた余韻に浸る。

 

 他の皆も同じ心境であったらしく、しばし穏やかで静かな時間がログハウスの中を流れる……。

 

 

 

 それから少々時間が経って、ふいにリズが思い出したように口を開いた。

 

 

「そーいやさっきイベントがどうとか言ってなかった?」

 

「うん、明日からイグシティでイベントがあるみたいで……」

 

 

 そう言ってアスナは半透明の(ウィンドウ)に先程リーファにしてもらったように《MMOトゥモロー》のイベント詳細の画面を呼び出しリズ達に見せる。

 

「ふむふむ……面白そうじゃない!」

 

 どうやらリズにとっても心惹かれる内容であったらしい。

 

 

「色んな領地の武器とか素材も集まるってことでしょ? 属性付与の武器とかあったら今後の参考にしたいし、鉱石とかインゴットの掘り出し物もあるかも知れないしね。あと、この武器コンテストってのも気になるのよねぇ」

 

 リズが読んでいる部分を覗き込むと、自分で造った武器の完成度をプレイヤー同士で競い合うといった内容が書かれていた。審判はNPCが行うらしく、見た目や武器としての性能を総合した完成度で優勝を決めるようだ。

 

 

「でもあたしの力作ってみんなが普段使ってる武器なのよね〜わざわざ借りるのも悪いしなぁ……どうしよう」

 

「それじゃあその時はわたしの武器をコンテストに出したら? わたしもコンテスト見学したいから」

 

 

「おっ! 流石アスナさん話が分かりますなぁ〜」

 

 

 リズが肘でグリグリしてくるのを抑えながらシリカやシノンにも感想を求める。

 

 

「シリカちゃんとシノのんはどう?」

 

「あたしも行ってみたいです! 猫妖精族ケットシー領にはテイムモンスター専用のお洋服とかアクセサリーもあるって前に聞いたことあるので、それ関連のお店あったらピナに似合う物買いたいなぁって」

 

「私も明日は特に予定無かったし、色々と気になるやつあるから行こうかしら」

 

 

「りょーかい。それじゃあ後は他の人にも聞いてみようか」

 

 

 アスナは他のメンバーにもイベント参加の可否を確認するためメッセージアイコンをタップする。

 

 ちなみにタルケン、ノリ、テッチ、クラインの4人はとあるクエストをクリアするために出かけている。

 

 この層で採れる果実は先程食べたケーキ以外にも様々な物に使われており、その果物で作られた果実酒が飲みたいとクライン達は前々から言っていた。

 

 そして昨日、隻眼という中々にイカついおじいちゃんNPCから「最高級のブドウ酒」が報酬として貰えるクエストを街を散策していたシノンが発見した。

 

 それを聞いた4人は念願の果実酒を手に入れられると大喜び、早速今日クエストをクリアせんと向かった、というわけだ。

 

 グループチャット機能でその4人にメッセージを送り、そこで1時間程前に前庭へと出ていったキリトやユウキ、ジュンの事が気になったアスナは外の様子を伺うのに窓から外を覗いた。

 

 本当はケーキを食べる時に一度呼ぼうかと思ったアスナだったが、ケーキのストックはまだあるし戻ってきた時に聞けば良いかと思った。

 

 しかし未だに戻ってこない上に窓から声も聞こえてこないのでどこかに行ったのかと思ったのだが……。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 その答えが分かったアスナは思わず笑ってしまった。

 

 クエストにでも行ったと思っていた3人は前庭にいた。

 

 笑ってしまったのは3人が盛大に寝ていたからだ。

 

 芝生の上に布製のシートを敷いて、気持ち良さそうな顔を浮かべてゴロンと寝転がっている。

 

 ログハウスで時間さえあればいつの間にか寝ているキリトはいつもの事だが、今回は新たにメンバーが追加している。

 

 毎回ではないが、キリトが寝ているとよく一緒に寝ている娘のユイの他にも闇妖精族(インプ)の少女と火妖精族(サラマンダー)の少年がキリトを挟むようにして両隣で寝ている。

 

 確かに今の天候は昼寝をするには最適の状況かもしれないと思ったアスナは、気持ち良さそうに寝ている黒ずくめの少年を見つめていると、いつかの記憶が蘇る。

 

 

 今は無き旧アインクラッドでも彼は

 

 

『今日はアインクラッドで最高の季節の、さらに最高の気象設定だ』

 

 

『こんな日に迷宮に潜っちゃ勿体ない』

 

 

 そう言ってぐぅぐぅと昼寝を始めてしまった。(……その後自分も寝てしまったのは今でも思い出すと恥ずかしい)

 

 あの時の姿と現在前庭で爆睡している姿が重なり、笑いそうになるのを堪えて、その隣で寝ている闇妖精族(インプ)の少女に目を向ける。

 

 思えばここ最近は29層の攻略もあってバタバタしていたし、先日は京都旅行にも参加していたのでこうやってゆっくりするのは久しぶりかもしれない。

 

 毎日を忙しく過ごすのも良いが、たまにはこうやって何もしないでゆっくりするのも案外悪くない……。

 

 そんなことを考えながら、綺麗なパープルブラックのロングヘアを羽のように広げて寝ている妖精の少女を見てアスナは思った。

 

 

 彼女と出会ってからの毎日はとても充実しすぎているほどで、1日が24時間では足りないと何度思ったことか。

 

 一緒にやりたいことはまだまだある。

 

 一緒に行きたい所もまだまだある。

 

 もっとたくさんの思い出を一緒に作っていきたい。

 

 穏やかな寝顔を浮かべる彼女を見ていると、心の奥底に押し込んだ感情が溢れだしそうになる。

 

 それをどうにか押さえ込むように、一度ぎゅっと目を瞑る。

 

 感情を落ち着かせたアスナは、気持ちを切り替えるために明日からの事を想像する。

 

 きっと明日から始まるイベントは自分にとっても、彼女にとっても、みんなにとっても楽しいものになる。

 

 そんな確信じみたものを感じながら、アスナは前庭で未だ起きる様子を見せない妖精達をしばらく見つめていた。

 

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