「君のことはずいぶん前から知っていたような気がする」
「それがあなたの常套句? って言いたいけれど私も同じ気持ち」
「ああ全くもってそうなんだ。けど思い出せないこと自体は些細なことだって思う。不思議とね」
「もしかしたらあんたと私は双子なのかもしれないわよ。それが一番この状況を説明するには簡単だから」
この感慨深い会話の応酬の中にあっても、彼らの差す手は迷うことはない。一進一退の攻防、かと思えば黒髪の少年の差した横入りの手が、炎髪の少女の陣をかき乱す。そうやってもう何戦目になるか分からない軍人将棋を繰り返していた。勝敗は数えてはいない。例え正確に数えたとはいえそれは徒労だろう。
「納得は出来る。怪談なんかもそうさ、そうやって最もらしい理由があれば誰も怖がらない。正体が分かればそれはもう科学の領域だよ。でも違う、そうだろう?」
「ええ、そうね。言っている本人でさえそれが違うと分かる。いや断言できる。理屈で説明出来るものじゃない」
「そうだね。僕は白が何故白なのか? 黒は黒でなきゃいけない理由があるのか? そういったスタンスだけど、この問答に関していえば君に同意だよ。僕は、僕たちは一体誰なんだろうね」
「彼らは何も教えてはくれない。だとすればもう
言って、炎髪の少女はせわしなく動く彼らを見る。どれも凡庸な顔つき。だからこそ一瞬視線をそらせばその顔を思い出すことは出来ない。きっと人間ではないのだろうというのが少年と少女の共通見解だった。
「なんにせよ、彼らの言う時とやらが来るまで僕たちは互いに暇をつぶさなくちゃいけない。眠る必要も食事も性欲さえも失った僕らにはこうして考えをぶつけ合うしかこの膨大な時間をやりくりできないからね。それより……僕のことはクロって呼んでって言ってるじゃんよーシアン~」
真面目な顔で、指していた手が止まり、シアン――と呼ばれた炎髪の少女が顔を上げると、クロは下唇を突き出し不満そうにわめいた。
「あんたはそういうけどね、私はまだ納得していないのよ? 髪の色で決めるという案までは良かったのになんで私はアカじゃないの」
「えー、アカなんてちょっと響きが悪いと思ってさ、君はよく思案顔をしているからちょうどいいかなと」
クロはまるで子供のような無邪気な微笑みで返す。
――はぁ、なんでかしら。この顔を見たら何もかも許してしまうそんな気分になる
「それよりシアン! 僕とさ面白いことしない?」
それにシアンは微かな微笑みで返す。このやり取りにどこか懐かしさを覚えずにはいられない。彼に関する記憶はない。それが幸か不幸か判断はつかない。しかしながらこの長く続く時の中で彼に任せてつまらないと思ったことは一度もない。今回もそれに付き合おう。
その淡い観測が二人の、ひいては国家そのものの在り方を変えるなどと、まだ誰も知らない。