朝。陽が部屋を包み、小鳥の囀りにて目が覚める。人の喧騒がない静かな朝。これだけでも今日が良き日になると確信できる。
「さて……仕事するか。」
\パリンッ!/「お待ちください、ご主人様。」
静寂は窓をと共にメイドによって破られた。
「おまっ…!ベルファスト!」
「お叱りはご最も。しかしその前に訂正を。ご主人様、只今の時刻は午前2時でございます。草木も眠る丑三つ時。喧騒も囀りも、ましてや陽の光などあろうはずがございません。」
こいつ、モノローグにツッコミを入れてきやがった。
「しかもご主人様が就寝なされたのは午前0時。2時間前でございます。睡眠時間が全く足りておりません。仕事などと言わず、速やかにベッドに戻ることをオススメ致します。」
「へっ!嫌だね!2時間も寝たんだ!十分すぎるわ!」
「恐れながら申し上げます。ご主人様がキリンだというのなら、十分すぎる睡眠時間でございましょう。しかしご主人様は人間であらせられます。ですので最低でも6時間は寝て頂かねばご健康に害が及びます。ですからどうぞ、ベッドにお入りください。寝付けないのであれば僭越ながらこのベルファスト、子守唄を歌わせて頂きます。」
子供扱いすんな。
「俺は仕事するんだ!邪魔をするな!」
言うより早く寝室から出て、脱兎の如く駆け出す。悪いが問答をする気はない。俺は仕事をするんだ。しなくてはならないんだ。
「お待ちくださいご主人様!!このような時間に走られては、幽霊と勘違いされます!」
そんな勘違いする奴がいるか!
『ひっ!何この音…?もしかして幽霊がうちのフィッシュ&チップスを狙って…?』
してる奴がいたー!!というかシグニットの奴、また深夜に自室で夜食食ってんのか!
「ご主人様!!」
注意したいが今は追われている。…はっ!そうだ!
「ベルファスト!シグニットがまたフィッシュ&チップス食べてるぞ!!」
「!?シグニット様!!」
\ガチャン!/
「ひぃ!!」
「このような時間の食事は肥満の元となりますので、控えるようにと何度も…!」
「ひぃぃん!!酷いよぉぉぉ!しきかぁぁぁぁん!!」
許せシグニット。これも俺の為だ。お前の犠牲は忘れるまで忘れない。
ようやく執務室に到着。囮のお陰で特に妨害もなく目的地に着けた。
「ベルファストは…いないな。よし!」
イスに座り、人心地つく。
「お疲れ様です、ご主人様。どうぞ紅茶です。」
「ああ、ありがとう。」
走って疲労した体に、程よい温度の紅茶が染み…。
「…って、ベルファスト!?いつの間に!?シグニットは!?」
さっきまで人の気配すらなかったのに。
「隠し通路はメイドの嗜みでございます。」
絶対に違うし答えが半分だ。
「シグニットは…。」
「シグニット様はシェフィールドが対応しております。彼女ならば相応の処置をいたしましょう。…それより、ご主人様?」
「うん?」
「
その言葉と共に睡魔が俺を襲う。
「べ、ベルファスト…一体…?」
「少々乱暴ではございますが、こうでもしなくてはご主人様は眠ろうとなさいませんので。」
どんどん瞼が重くなる。
「計ったな…ベルファスト…!!」
「それではご主人様、お休みなさいませ。」
そこで意識は闇の中へと消えていった。
「──知ってる天井だ。」
目が覚めるとそこは
太陽の光が部屋を照らし、活気づいた声が遠くから聞こえる。
「今…何時だ…?」
ベッドの横にある時計を見ようと寝返りをうつ。すると目と目があった。
「おはようございます、ご主人様。只今の時刻は午前8時56分32秒でございます。」
それはメイドであった。慌てて上体を起こす。
「おまっ…!ベルファスト!」
「6時間42分57秒。合わせて約9時間程でございますか…。あまり良い睡眠時間とは言えませんが、普段のご主人様のことを考えますれば、もう少し眠って頂いてても宜しかったですね。」
俺を計略に嵌めた黒幕が同じベッドで寝ていた。しかも一糸まとわぬ姿で。
「べ、ベル……!」
「!…この状況でその名を呼ぶのは卑怯でございます。こちらは堪えているというのに…。」
何を?
「それよりなんで服を着ていないんだ!」
「主に添い寝するのはメイドの務めでございます。そしてより良い睡眠の為に衣を脱ぐことはメイドの義務でございます。」
絶対に違うだろ。
「それに…。」
ベルファストがにじり寄ってくる。
「こうして肌で温めますと…ご主人様を直に感じることが出来るんですよ…?」
耳元で囁く。その甘い声音に心拍数が上昇する。触れ合える距離にいるベルファスト。毛布がずり落ち、その真っ白な玉体が顕になる
「べ、ベル…!見えてる!見えてるから!」
「見たいのでしたらどうぞ、存分にご覧になってください。ご主人様に隠すべきものなど、このベルファストには一つもございませんので。」
首に手を回し、より密着してくる。胸と胸が重なり、彼女の柔らかい感触が鮮明に感じられた。心拍数が更に上昇する。
「あら…?ふふっ。」
俺も男だ。ここまでされれば反応する所が反応する。抑えることの出来ない本能だ。それに気づいたベルファストは嬉しそうに微笑んだ。
「これを鎮めるのもメイドの務めですね…。」
「い、いや!いいから!離れてくれれば自然に収まるから!」
「それはもったいな…いえ、ご主人様のお手を煩わせるわけにはいきません。どうかベルファストにお任せを。」
今、勿体ないと言おうとしたか?ベッドから出ようとするが、ベルファストが手に力を入れてそれを阻止する。丸で獲物を手中に収めた捕食者のようだ。目が絶対に離さないと物語っている。
「ベル…!はな!離せ!」
「朝食には遅い時間ではございますが…。」
彼女は屈託の無い笑顔でこう言う。
「どうぞベルファストをお召し上がりください♡」
今回の勝負
×指揮官VSベルファスト○
その頃執務室では…。
「閣下遅いな…。」
ロンドンが1人で仕事をしていた。
──
おまけ
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「何を疲れているのですか。まだ10キロですよ。」
「じゅ!10キロも走れば十分だよ…。」
「いいえ、全然足りません。夜中のフィッシュ&チップスは重罪です。この程度ではまだまだ贖罪に足りません。」
「そんなぁ…。」
「さぁ、口より足を動かす。あと32.195キロ!」
「ふぇぇぇぇぇん!!助けてしきかぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」