ということで、どーーん!!!
夏休みを超えた先にある、私の誕生日。
けど、それは甘いものじゃなかった。
祝ってくれる人は、指で数えるほどで。
いつしかそれは、0へと変わる。
私の中の誕生日は、ただの苦いものでしかなかった。
けど、そんな記憶の中でも。
確かに記憶に残っている日がある。
例えばそれは、こんな話。
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~うみside~
目を覚ます、一人の朝。
9/1。今日は私の誕生日。
といっても、特別変わった日じゃない。何の変哲もない、ただの平日。
ましてや夏休み上がり。学校のクラスメイトも浮かれ気分を持ち込んだまま、私の誕生日なんて、知らない。
だから、今日はなんの変哲もない、ただの平日。
眠さを抑えて目をこすり、リビングに行く。
おとーさんはいなかった。仕事だから、当然。
最近は、どんどん距離が離れていった。
好きだけど、その好きは届かない。時に私が、おとーさんを困らせてるのかなと思っては、胸が痛む、そんな毎日。
どうせ、誕生日なんて関係ない。
そんなことを思ってドアを開けると、机の上にはカードが一枚、それと、不器用なりにおとーさんが作ったであろう、チャーハンが置いてあった。
カードに目を通す。そこには、ただの一言、『お誕生日おめでとう』とだけ書いてあった。
「おとーさん...」
けどそれは、どこか悲しかった。悲しくなるだけだった。
そう思っているのなら、言葉で言ってほしかった。ちゃんと目を見て、感情のこもった言葉を聞きたかった。
わがままだと言われても、私はそうして欲しかった。
だって、目の前のカードは、離れてしまった距離を決定づけるような一枚だから。
私は、そうあってほしくない。できることなら、もっとおとーさんといたい。
...けど、目の前のカードは、そうはならないことを無慈悲に告げるだけだった。
そして今日もまた、何気ない一日が始まる。
何の楽しみもない、ただの一日。
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~羽依里side~
朝早く、目が覚める。
今日もまた、忙しい仕事が始まる。
最近になって、俺は時折、なんのために働くのだろうと思うことが増えてきた。
無論それは、うみのためである。
...けれど、それが本当にうみのためになってるか、なんて聞かれると、俺はどうとも答えれない。ただしいのか分からない。けど、間違っているとも答えれない。
分からないから、頑張って働く。
そして日常は機械化してしまった。
変わり映えのない、無慈悲に時だけが過ぎ去っていく日常。
リビングのカレンダーは、いまだ八月を提示していた。
しかし、今日はもう九月である。
俺は、ビリっと八月のページを破り去る。そして表示されたページの左上には、大きく赤丸が書いてあった。
それを書いたのは、紛れもなく、俺自身だった。
「...あ」
そして、今日がうみの誕生日であることを、思い出す。
思い出すほどに、忘れてしまっていた。
「...ほんと、最悪だな。俺」
分かっていても、事実は変わらない。とりあえず、手元にあったカードに殴り書くようにメッセージを綴った。
本当は、言葉で伝えたい。
けど、眠ってるうみを起こしてまで伝えることが、正しいことなのだろうか。そう思って、俺は躊躇う。
このまま、いつも通り会社に行ってしまえば、残業につかまって今日はうみと会えなくなる。
そうすれば、言葉を伝えないうちに、今日という日が終わってしまう。9/1という、大切な日が。
けれど俺は、メッセージと朝飯を残して、会社に行くという選択肢を選んだ。
それを選んで、俺は、逃げた。
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会社へ行っても、それが気がかりで仕方がなかった。
今日、うみは何を思って過ごしているのだろうか。
そんなことを考えていたら仕事の手が進まない。それが分かっていても、今日ばかりはそれが離れなかった。
もちろん、仕事に支障が出る。部長に怒られる。
まさに、最悪の負のループだった。
そうして、時刻は昼となる。
俺には、会社内で特別仲のいい人間はいない。こんな時間になると、俺は逃げるように屋上へ向かう。
途中コンビニで買った昼食を広げてみるが、俺は手にする気になれなかった。そのまま、何度目かのため息をつく。
頭の中には、後悔しかなかった。
「...はぁ、最悪だ。俺」
また逃げてしまった。それがダメだって分かっているのに、逃げてしまう俺は本当に弱い。
そうしてため息をつくと、珍しく屋上のドアがもう一度空いた。
「やっぱりここにいたか、鷹原」
「部長...」
意外なことに、俺のいる場所を訪問したのは、俺の部署の部長だった。
さきほどこっぴどく怒っていたはずの部長だったが、俺を見つめる目つきはどこか優しかった。
同情、というのだろうか。
もしそうならと考えると、苛立ちが湧いてきた。
「...なんですか?」
「そう警戒するな。怒りに来たわけじゃない。何、俺もここで昼食をと思ってな」
部長はそう言うなり、近くのベンチに腰を下ろした。
ポンポンと自分の隣のスペースを叩く部長には逆らえず、俺はそれに隣した。
「部長がここに来るなんて、珍しいですね」
「まあ、ここは一人になるにはもってこいのところだからな。...たまにこうやって、逃げたい日もあるんだよ」
一人しみじみと何かを思って、部長は俺の顔を水に続ける。
「今日、カミさんと喧嘩しちまってな。それも、娘の前で。...全く、今日は娘の誕生日だってのによ。カッコ悪いとこ、見せちまってさ。全く、情けねえ」
「そうですか...」
「ついでにお前にも謝らんとならんな。...さっき、怒ったろ。...若干、八つ当たりだったんだ。俺は、俺のうっ憤を晴らすために怒った。だから...すまんかった」
部長は俺の方を見て、平謝りした。自分に非があると思い込んでいた俺は、さすがに反応に困った。
「いえ...仕事の手が遅かったのは事実ですし...」
言って、部長の話した娘の話を思い出した。
そして今日が、うみの誕生日であることが、それに付き従うように思い出される。
思わず、俺はそれを口にした。
「...俺も今日、娘の誕生日なんです。...けど、何もしてやれないまま、家を出てしまった。今日が残業になるって分かっていながら、何も告げずに...」
「それが気がかりで、手が進まなかったんだな」
俺は返事の代わりに、一度うんと頷いた。
「...そうか。...まあ、仕方がないことだな。お前の家庭の事情に対して、俺ができることも少ない。相談相手になってやることくらいしか、できんかもな。...それも、お前が拒否すれば、それまでだけどな」
部長は親身になって俺のことを考えた。
特別何か相談することもない俺だったが、部長のそのやさしさは救いだった。
甘えるように、俺は部長に色々と話してみる。
部長は、ただうんうんと頷いて、聞いてくれた。
それでどうにかなるわけではないと分かっていながらも、俺はどこか、少し楽になれた気がした。
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夕方五時、定時を告げる放送が鳴る。
しかし、今日の俺は残業が確定してる身。関係ないと、遅れた分の仕事を取り戻そうとした。
その時、奥から声がかかる。
「鷹原! こっちへ来い!」
部長の怒号だった。また何かミスをしたというのだろうか。
恐る恐る俺は、部長のデスクへ向かう。
俺が来るなり、部長はニコニコしながら俺に告げた。
「お前、今日は帰れ」
「...は?」
「いいから。娘が待ってるんだろ?」
「でも...仕事が」
俺が後ろめたくそういうと、一喝するように部長は声を上げた。
「仕事をすることだけが、家族のための行動だと思うな!!」
「!!」
俺は背筋を震わせた。
「...大切なもんから、目を背けるなよ。仕事を理由にして、家族と向き合えないのは、父親失格だろ。仕事は俺が代わりにやっとくから、今日は娘さんといてやんな」
「部長...」
喝を含めた部長の優しい言葉に、俺は泣きそうになった。
こんな優しい世界がずっと続いてくれたらと、そう願うほどに。
「でも、部長の娘さんも、確か今日が...」
「お前さんのとこのよりは年もいってるし、理解してくれると思うさ。...ま、それがダメなら泣いて詫びる。お前は人の心配より、自分の娘の事心配しな。...家で、待ってるんだろ」
「...はい!」
俺は、すぐさま荷物をまとめて、家へと急いで帰った。
そこに、うみがいると分かっているから、それを伝えるために。
家の玄関を開ける。うみはいない。
ならば、とリビングに駆ける。今度こそ、うみはいた。
帰ってきた俺を見て目を丸めて、名前を呼ぶ。
「おとーさん...」
「うみっ...!!」
俺はただうみのもとに駆け寄り、その場でうみを抱きしめた。
こういう時、伝えるべき言葉はごめんでも、ありがとうでもない。
なんせ、今日はうみの誕生日なんだから。
「うみ...お誕生日、おめでとう」
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~うみside~
その年を境に、おとーさんは私の誕生日を祝わなくなった。
だから、この年の誕生日が、私が生きてきた中で、一番暖かった誕生日。
全てが消え去ろうとしたあの空間の中で、私がちゃんと忘れずにいた記憶。
大切に、肌身離さず持っていた記憶。
そうして、それは時を超え、何度も夏を繰り返した先にある今でも。
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9/1。
島の学校は、今日から始まる。
夏休みが終わって、浮かれ気分の周り。私の誕生日を誰が祝ってくれるか、分からなかったりする。
けれど、それでもいい。
歩き続けることでたどり着いたこの世界。
私の誕生日を祝ってくれる人は、そこにいる。
三人で並んで敷かれた布団。両隣はもういない。
私が居間へ向かうと、そこに二人はいた。
おとーさんと、おかーさんと。
そうして二人は、優しく私に語り掛けるように、その言葉を伝った。
「「うみ、お誕生日、おめでとう」」
これが私の、たどり着いた未来。
羽ばたいた先の、確かな未来。
ということで、連日のSSです。
白羽作品は、大体こんな感じってのを体現した気がするようなしないような。
とりあえず、サマポケ語るならうみは外せないでしょう!
というわけで、気合いだよ!!
今回はここらへんで。