「現在シーケンス48%完了。完全起動まであと41分」
「分かった。レヴ、メインエンジンと索敵関係の機器は全起動しておいてくれ」
「了解艦長」
艦長・・・・・・そう呼ばれるのはどこか心地よかった。いつか自分の船を持ち世界を旅するのが夢だったレンにとって少し違う形ではあるが夢が叶った。
「対空レーダー、ソナー関係起動。問題なし。敵影は無し」
「了解した。ヨーコそのまま警戒を」
「了解」
ビギンズノアのメインエンジンは原子力ではなく水である。簡潔にいうと水力発電と同じ原理とおやっさんが言っていた。本当はもっとすごいのだろうが。どのみちエンジンが臨界状態に入れば熱感知でなくともソナーで気づかれる。
「エンジン臨界。全システム完全起動まで残り35分だよー」
「!!ソナーに反応あり!数は・・・・・・4です!」
「やはり待ち伏せしてたか。反応が出た瞬間に向かってきたな」
「俺が出る。レヴだいたい何分持たせればいい?」
「そうですねぇ・・・防御システムの起動を中断して火器管制システムに演算力を割振れば20分弱という所でしょうか?」
モニターには20minuteと表示された。
「よしじゃあレヴ演算力を火器管制システムへ。火器管制システム起動後俺達も動く」
「了解」
アオイはブリッジを出て格納庫へ急ぐ。
「おやっさん準備は!?」
「出来てるぞ。前回の戦闘の傷は応急措置程度に修復してある。だがレールガンの弾数は変わんねぇから気を付けろよ」
「分かった。イクシロンだすぞ」
ハッチを閉めようとした時ミズキがのりこんできた。
「ちょっとミズキなにしてんだよ!」
「この機体はやっぱり私がいなきゃダメ。まだ貴方に扱い切れてない」
「っ・・・・・・分かったよ」
実力不足は自分が一番知っている。だが実力不足なりに今はミズキを護らねば。
「右舷ハッチ注水完了。イクシロンどうぞ」
「了解。イクシロンでる!」
ペダルを踏み込みハッチを出る。コロニーの遥か水底、そこは薄暗く冷たかった。
「ヨーコ敵の位置は?」
「6時の方向距離5000、敵は水上をホバーで移動中」
「了解」
アオイはメインエンジンのスイッチを切り無音航行に移行した。数ではこちらが圧倒的不利。ならばこちらがとる戦法は一つしかない。
「敵がきたら奇襲で一撃離脱だ」
攻撃しては潜み1機ずつ倒していくしかない。
深淵の海を朝焼けが照らし始める。海は静かであった。今日は台風一家であった。風は強いが晴れている。嵐は去った。だがアオイにとってこの静けさは嵐の前の静けさといえるものであった。
心臓が高鳴るのを感じた。その時、レーダーが反応する。反応は4。自然と操縦桿に力が入る。
「アオイダメよ。リラックスして。でないと私もあなたもやられる」
「あ、ああ・・・・・・」
ミズキはアオイの手を握る。とても暖かかった。肩の力が抜け呼吸も整った。
敵との距離は既に500mを切っていた。
「ミズキしっかり掴まってろよ。・・・・・・いま!」
フットペダルを踏み込み急速浮上する。ダガーは展開済み。狙うはメインカメラ。
「はあああ!!」
その目はしっかりと敵CAHを捉えていた。
真横からの奇襲に対応出来ずにシャチに捕えられたアシカのように海に引きずり込まれた。
『ぐぁぁぁっ!?』
接触回線で敵パイロットの声が聞こえた。
「こないだの奴か!!」
『神薙アオイ!なぜ抵抗するんだ!!あの娘を引き渡せばお前達は助かるのに』
「誰かを犠牲にして助かるくらいなら俺は戦うさ!!」
『分からずやっ!!』
『カナトしばらくそいつを抑えていろ!反応がそいつではなかったとすれば別の何かがコロニーにある!』
『分かりました!』
アオイは舌打ちした。カナトと喋りすぎた。これでは奇襲の意味がない。しかもビギンズノアの位置はバレてしまっている。
「くっ!行かせるか!!」
『 それはこちらのセリフだ!!』
進路上をカナトのオーディが塞ぐ。
『 その機体、そして銀髪の少女を渡してもらおうか神薙アオイ!!』
「そんなこと言われたって渡すわけないだろ!!」
アオイはレールガンのロックを解除しすぐさま照準を合わせトリガーを引いた。
雷光とともに射出された弾丸をカナトは最小限の動きで回避して見せた。
「(動きが読まれている・・・・・・!?)」
三度にわたる戦闘によるデータの蓄積。そこからシミュレーションを作成したのだろう。つまりこちらの行動は予測済み。
『 (やつは素人だ。戦闘のプロじゃない。だが素人なりに奇抜な戦法をとってくる。油断は禁物。)』
行動パターンはほぼ分析済み。まず遠距離武器での牽制、外した場合はフェイントをかけ近接戦闘に移行、近接戦闘は一撃離脱戦法をとる。
『 (初撃を外した場合は・・・・・・)』
レールガンを避けられたアオイはダガーを逆手持ちにして全身のスラスターを最大で吹かし急速接近する。
「ぐっぅぅ・・・・・・!」
強烈なGがアオイをシートに縛り付ける。
『 (初撃はフェイント・・・!!)』
「(間合いは十分・・・・・・!!ここからなら!!)」
アオイが繰り出したのは右下から左上への切り上げ。それをカナトは後ろへの回避をとる。
「(もらったっ・・・・・・!!)」
ダガーを逆手持ちから順手に切り替え突きを繰り出す。
『 甘い!!』
左方向への回転を伴った回避で突きを回避したカナトはライフルに装備されたバヨネットで斬撃を繰り出す。
「まずっ・・・・・・!!」
とっさにフィッシャーダガーを空中に放り投げ右手を翳す。
六角ヘックス型の光の多重装甲が展開しバヨネットを阻む。
『 ホログラフィックシールド・・・・・・くそっ』
カナトは即座に距離をとる。
「動きが読まれてる・・・・・・このままじゃダメだ・・・・・・」
今までにない動きでカナトを翻弄しなければならない。
「アオイ悩まないで。貴方は貴方らしい戦い方をすればいいの」
「俺らしい・・・・・・?」
ミズキのいう「俺らしい」とは一体なんだ・・・・・・?
一瞬の思考の中でアオイは答えにたどり着く。
「なら、こうする!!」
繰り出したのはレールガンによる目くらまし。カナトのオーディの足元に撃ち込まれた弾丸の衝撃で激しい水しぶきがあがる。
『同じ手はくわないっ!! 』
カナトは構わず突っ込む。
『 貰った!!』
「それはこっちの台詞だ!!」
そこにはイクシロンはいなかった。レーダーが指す位置は現在カナトのオーディがいる位置。すなわち
『 上!?』
レールガンを背中にマウントし両手にフイッシャーダガーを装備したイクシロンは勢いよく振り落とす。狙いはオーディの両肩。
「はぁあぁぁぁ!!」
『 このっ!!』
カナトはライフルを上に向けて連射する。だがホログラフィックシールドによる自動崩御システムに阻まれてしまう。
カナトは機体を左にひねりつつギリギリで回避する。間髪入れずにくる着地からの横薙に派生する一瞬の間をカナトは見逃さなかった。
『 はあっ!!』
左脚を軸にして放つ右回し蹴り。それはイクシロンのマニピュレーターに直撃しダガーを蹴り落とした。
「なっ!?」
アオイはとっさに後ろへと跳躍し距離をとる。
『 新しい動きには少し驚いたけど所詮素人の動き・・・・・・!』
「言うねぇ・・・・・・けどお前は目の前の戦闘にしか気が回ってなさそうだな。周りが見えてないぜ!」
『 何を言って・・・・・・!!??』
カナトはそこで気づく。自分とイクシロンの位置。そう戦闘開始時の位置と比べてカナトを中心として真逆になっていた。つまり今の位置ではカナトが外側、アオイが内側。アオイの方がコロニーに近くなってしまっていた。
「目先の勝利じゃなくて次を見据える。俺はお前と戦うのではなくお前の仲間をおうことを選んだってわけだ」
『 しまった・・・・・・!!』
「それじゃぁな!!」
アオイはレールガンを右手に装備し全速力で後退する。
『 待て!!』
「そういわれて待つ奴がいるかよ!!」
照準を定め撃つ。その弾はオーディのマルチプルランチャーを掠めた。
『 ぐうっ!!このっ!!』
カナトはライフルを連射するがイクシロンのスピードにはなかなかロックオン出来ずにいた。当たったとしても遠距離武器はホログラフィックシールドに阻まれ本体には届かない。
『 こうも重武装では・・・・・・!!』
あちらは水陸両用。たいしてこちらは汎用性を換装によって補完している機体。水上で戦うにはそれなりの重武装になってしまう。
「シールド・・・・・・持つのか!?」
ホログラフィックシールドには自動で遠距離の攻撃を防いでくれる利点があるが自動で防御するためその為に熱量が蓄積しやすい。
「のこり5%・・・・・・」
このスピードで後退しているため並のパイロットでは掠めすらしない筈だがカナトの弾丸は本体に当たることさえないがそれでもしっかりと的を捉えていた。
その時一際大きなアラートが鳴り響く。真正面から凄まじい速さの弾丸が飛んできてイクシロンに直撃した。ホログラフィックシールドが作動してほとんどのダメージは吸収したがそれでも防ぎきれなかった。
カナトはライフルのアタッチメントを変形させバヨネット装備からロングライフルに変更。それを水上という安定しない場所での狙撃を成功させた。
「シールド0%・・・・・・!?まずい・・・・・・オーバーヒートだ!!」
バックパックから白い煙がたちこめ機体のスピードはぐんぐん落ちていく。
「アオイ・・・・・・今なら・・・・・・!」
「ああ。システムチェック完了・・・・・・D.C System、ブースト!!」
ダ・カーポ、その名の通りイクシロンは「冒頭」に戻る。白煙を吐いていたバックパックは息を吹き返し蒼い粒子を散布し始める。
「いいぞ・・・・・・このままやつを引き離してビギンズノアに向かった奴らを叩く!」
アオイはペダルを踏みしめ全速力でビギンズノアへと向かった。
「敵3機こちらに向かってきます!」
「やはり1人をイクシロンに対応させたか」
冷静に状況を分析するレン。その口元はにやけていた。
「読んでいたの?艦長」
「だいたいな。敵の目的はイクシロンとアオイ、ミズキの回収。敵はこちらの手の内は知らないはずだ。こんな艦があることもな。だからミズキとアオイをバラバラにせず一緒に乗せた」
「つまりそれって・・・・・・」
「そういう事だよ森宮。現在において囮はアオイじゃない。俺達だ。アイツらはここにミズキがいると思ってる。普通CAH対艦船の戦闘では近づいてしまえばCAHの圧倒的有利。艦船は取りつかれてからの迎撃手段はない。だが今回の場合で考えてみろ。護るのはどうだ?今の自分たちにゃ解析できないであろうオーバーテクノロジーの塊だぜ?イクシロン1機に手こずるヤツらだ。イクシロンの数倍でかい俺らを初見で撃破は無理だろうさ。そういう訳だ。レヴ、魚雷関係だけ優先で起動させろ。あとは後回しにしてもいい。魚雷関係の次は防御システムだ。その他の兵装と機関は全部あとだ!」
『 了解、艦長』
起動までの時間は5分を切っていた。
「敵の射程圏内まであと1200を切りました!接触まであと180second!」
『火器管制システム魚雷のみに絞り起動完了。1番から8番に通常弾頭装填開始』
「よしコウキ準備しろ!記念すべき初弾だ!!外すなよ!」
「オーライ!!」
「弾道は右から迂回させろ!今撃てばあいつらが射程に入る頃には着弾するはずだ!」
「弾道はマニュアル、3時方向から」
『 装填と注水完了。トリガーをコウキに譲渡』
魚雷発射管のロックが外れる。画面にはALL GREENの文字。
「艦長いけるぜ!」
「よし、撃て!!」
「オーライ、ファイア!!」
船体前方から8つの魚雷が尾を引いて進んでいく。
「よしこれで少しは足しになる。レヴ、防御システムの起動率は?」
『 現在48%です。並行して微力ながら機関も始動中』
「よしいいぞ・・・・・・あとは敵の動きによるな・・・・・・」
レンは艦長用のシートに座り直す。戦闘経験もろくにない素人が戦術指南書ひとつで本職の軍人に勝とうというのだ。やはり緊張はする。
「敵の射程まであと30sec、こちらの魚雷も敵陣へと進行開始。29、28、27、・・・・・・」
「さてどう動く・・・・・・?」
気づかないことはあるまい。迎撃か回避か。既にレーダーに捉えているが敵は察知されたとは気づいてあるまい。安全な選択は回避だが。
「10、9、8、7、・・・・・・!!反応喪失!撃墜されました」
「撃墜・・・・・・さては敵に新兵がいるな」
「何やってるリデット!!」
「す、すいません!!」
今ので恐らく敵はこちらの位置を掴んだ。敵の司令官はやり手だな。魚雷は恐らくこちらの注意を引くためのデコイ。ならば
「このまま直進する」
「え!?でも魚雷は左舷から・・・・・・」
「敵も阿呆ではない。わざわざ自分の位置を知らせると思うか?」
「確かに・・・・・・」
よし、と一息つきコーゴンは残りのふたりに指示を出した。
「フォーメーションデルタだ。左右から挟み込む」
『 了解』
『了解です 』
その時だった。レーダーに反応しアラートが鳴り響く。
「後ろ!?」
コーゴンが振り向いたと同時に機体の右腕が吹き飛んだ。
「ぐっ・・・・・・カナト足止めに失敗したか」
『 隊長あれは!』
水平線の向こう水しぶきを上げ高速にこちらへ突っ込んでくる機体。その背には翼が生えていた。
「初遭遇時のあの力か・・・・・・総員警戒しろ!やつの戦力は未知数だ!」
『 了解』
コーゴンは背部のミサイルランチャーを左腕に装備させる。
「(東雲ミズキ・・・・・・お前だけは必ず・・・・・・)」
コーゴンは唇をぎゅっと噛み締めた。
「間に合った・・・・・・さあここからが第2ラウンドだ・・・・・・!!」
システムの残り時間は200secを切っていた。
アオイはレールガンを構え放つ。その弾丸は雷光とともに水面を切り裂く。
こんにちは作者です。再投稿に際して現在の設定と矛盾が生じるところは書き換えたり削除したりしてます。なにせ四年前に書き始めたので当然といえば当然なんですが・・・今は固まってるのでそうそう変わらないとは思いますが・・・。発想が若かったなとか思いますね。ハイ。ではまた次回。
次回予告
DCシステムが発動し形勢逆転したアオイ。しかしそれでもコーゴンは性能差を物ともせずイクシロンに食らいつく。そして一人迷い悩むミハネ。苦悩の末導き出した答えとは。
次回蒼き飛翔のイクシロン
Deprivation