蒼き飛翔のイクシロン   作:赤羽ころろ

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Depth6 過去と記憶と

「よお、久しぶりだなコーゴン」

聞き覚えのある声がしてアズマは悪態をつきながら顔を上げた。その先にはかつての友がいた。最後に会ったのはあの日以来か。

「23年振りだな」

「ああ、カムラン沖の聖戦以来だな」

 

聖戦、そう呼ばれた戦いがあった。アーサー王の伝説になぞらえカムラン沖と呼ばれた海域での戦い。東のリヴェイア、西のシリコンバレー、北のアイルランド連合、南の南アフリカ連合が領土を争った戦い。CAHの雛形とも言えるPR(パワーレイヴ)が各陣営で数機ずつ開発され戦いはいかに優秀なPRを短期間でつくれるかだった。そんな中、広大な国力と工業力を持つリヴェイアと超先進的な技術力を持っていたシリコンバレーの2国がそれぞれアイルランド連合と南アフリカ連合を取り込み戦いは二極化した。決戦の地カムラン海域。コーゴン、アズマ、そしてコースケとアオイの父、神薙ソウスケも士官学校を卒業しリヴェイア側の当時最新鋭の試作PR「ヴリィズ」で参戦していた。コーゴン、アズマ、ソウスケのスリーマンセル。コースケはメカニック。リヴェイア特別騎甲隊第5小隊は完璧なコンビネーションプレーでシリコンバレーをなぎ倒して行った。しかし敵にも手練はいた。稲妻のようなイエローに身を包んだ機体が閃光と共に戦場を駆け抜けていく。コーゴン達も交戦した。しかし、攻撃を防ぐのがやっとで撤退を強いられた。そしてその直後暴走した南アフリカ連合の一部が持ち出した禁止兵器の「スーパーノヴァ」を使い周辺のコロニーをも巻き込み敵味方多数の犠牲を出した。戦場は当然混乱。コロニーの救助に向かうやつもいれば逃げる奴もいた。そしてそれを狩る輩も。第5小隊も当然決断を迫られた。コロニーの救援に向かうか敵を狩るか、それとも逃げるか。当時の小隊長はコーゴンだった。

「どうする・・・・・・救援に・・・・・・しかしこちらも損害が軽微ではない。帰投すべきか・・・・・・!?」

『 どうするコーゴン?』

『 救援に決まってるだろう!』

アズマの怒号が無線に響く。

「分かっている!だが、このまま行けば無抵抗のまま撃墜だぞ!」

『 知るか!そこで助けを求めている人たちがいるんだ!俺は1人でも行くぞ!』

アズマはヴリィズのブースターを最大展開しコロニーに向かっていく。

「待てアズマ!勝手な行動は! 」

追いかけようとしたその時だった。コーゴンたちの目の前を爆炎が覆う。アズマは一瞬で見えなくなり信号も消滅した。

「ッ!アズマァァァァ!!!!」

南アフリカ連合が2発目のスーパーノヴァを発射したのだ。被害はさらに拡大しコーゴン達は撤退を余儀なくされた。

アズマはMIA認定されたが敵、味方及び周辺コロニーへの被害が大きく捜索は後回しにされた。

スーパーノヴァ発射に関わったとされる8名は戦犯として処刑。リヴェイアとSVとの間には終戦協定が結ばれた。両国は手を取り合い復興に尽力していた。

コーゴン達も当然現地での復興作業に従軍していた。そして3年がたった日だった。休憩用のテントで休憩中にふとソウスケが口を開いた。

「なあ3年前の聖戦、あのスーパーノヴァ発射の件、不審な点がないか?」

「なんだ急に」

ソウスケは持っていたコーヒーをデスクに置き手元のパソコンを操作してとあるソフトを起動した。

「こいつは俺が組んだあの戦いのシミュレーションソフトだ。スーパーノヴァの着弾地点はここ、俺達はここにいる。そして第5小隊の母艦のスレイプニルがここだ」

マップの真ん中にはlanding pointと表示されていた。そしてそこから20kmほど北にピンが三本、hugin01〜03と表示されていた。さらにその後ろにSleipnirと表示された大きなピンがひとつ。

その他にも多数のピンが配置されていた。

「スーパーノヴァ自体は対拠点制圧用超大型クラスターミサイルだ。親から子のミサイルが30本、そこから500基ほどのミサイルを発射する。砲塔用のPRと観測用PR、そして射撃手用のPRでやっと発射出来る。大掛かりな分制圧範囲は大きいが20kmもの制圧力はない。今の技術力じゃ不可能だ。スーパーノヴァ自体の制圧範囲はせいぜい6kmだ」

ソウスケは慣れた手つきでマウスを操作する。

「これが本来の着弾範囲だ。着弾まで3秒」

再生ボタンを押すと当時の状況が再現される。南西から発射されたスーパーノヴァは3秒後分裂、さらに2秒後に最終分離し着弾した。着弾地点から4-5kmの範囲に着弾した。

「本来なら当たらないはずの味方にも当たったということは知らされていなかったのだろう。そしてこれが聖戦で起きた20kmが焦土化したものだ」

もう一度再生ボタンを押し最終分離を起こしたあと半径20kmの範囲の味方、敵問わずピンが消滅した。

「・・・・・・なあコースケ、半径20kmを焦土化する事なんて改造でどうにかなるものか?」

ソウスケとコーゴンはコースケの方を見る。

「メカニックの観点からいえば範囲を広げることは出来なくはない。しかし20kmは無理だ。20kmにするには単純計算で一度に約4発、別々の地点に着弾させなければいけない。互いを爆破しないようにな。そんな面倒なことを戦場ではしてられない」

「だよな。さてここで問題だ。なぜスーパーノヴァが禁止兵器に指定されたか分かるか?」

「それは大量殺戮兵器だからじゃないのか?」

「優等生みたいな回答だな。半分正解ってところだ」

「じゃあ、その半分というのは何なのだ?」

ソウスケは別のファイルを開く。

「こいつはカムラン沖の海底の性質の分布図だ。そして・・・・・・」

さらにそこからとある物質だけに絞る。

「これは・・・・・・!」

「そうだ。こいつが半径20kmの謎だ」

「メタンハイドレート・・・・・・!」

燃える氷とも呼ばれるもの。旧世紀では石油や石炭に較べCO2の排出量が少なく次世代のエネルギーとして期待されていたもの。見た目は氷に似ていて火をつけると燃える。

「旧世紀が終わった時、この地球のほぼ全てが水の中に沈んだ。そしてそれらの有機物がメタンハイドレートになって世界中に埋まってる。それも旧世紀では考えられないほど広く、多くな」

さらに別のファイルを開く。

「これは当時の各陣営のPRの損傷状況だ。ほとんどの機体はミサイルではなくメタンハイドレートによる爆発によって下半身がやられてる。そして海底が爆発してコロニーの土台の支柱が破壊され倒壊。最悪だな」

民間人の死者は22万人に登った。

「それで?これで20kmの謎は解けたがお前の言っていた不審な点というのは?」

「簡単な話しさ。単純に奴らにはスーパーノヴァを撃つ理由がない」

ソウスケは先程のシミュレーション画面に視線を戻す。

「これを見ればわかるが戦況は俺達リヴェイアの圧倒的劣勢だった」

それは戦場にいたソウスケ達が身をもって知っていた。自分たちはそれなりに善戦していたが数で挑んだリヴェイアは一騎当千の活躍を見せるSVのPR、特に黄色いPRのパイロットには多数の味方がやられた。大局的に見ればリヴェイアは負けていた。

「確かにそうだ。追い込まれて撃つならわかるがあのタイミングで撃てばむしろ味方に不利な状況に陥る。南アフリカにメリットはない」

だとすれば

「!仕組まれていたと?」

「正解だ。軍上層部で極秘の取引が行われた痕跡があった。そもそも南アフリカがスーパーノヴァを持ってるところからおかしかった。恐らくウチが譲渡したんだろう」

「理由は?」

「戦いの早期集結、国土拡大、なんとでもある。あのまま戦闘が続いていればリヴェイアの敗戦は秒読みだ。そうなる前に休戦に持ち込み対等で交渉したかったんだろうなウチの上層部は」

リヴェイアは国力や軍事力は世界で1番であったが技術に関してはSVに遅れを取っていた。さらに遅れをとる前に国力の安定化を図るために様々な国を取り込んでいた。南アフリカ連合を取り込もうとしたのもそうした背景があるのだろう。南アフリカ連合はそれなりに対等にリヴェイアやアイルランド連合と戦えたがPRに関しては遅れをとり連合国という体制のため国内もアイルランド連合ほどは安定しておらずとりあえずリヴェイアに恩を売りかわりに国の安全を保証する約束をした。つまり実質的なリヴェイアの支配下となる。

「それで?お前はその情報をどこから?」

「3年間調べ続けてとある高官がゲロってくれた」

「お前・・・・・・そんなことバレたらただじゃすまされないぞ」

「もうバレてるさ」

ソウスケはパソコンをシャットダウンし画面を閉じた。

「どのみち俺はもうリヴェイアに居るつもりはない。お前らはどうする?」

「俺は残るに決まっている。皇帝に忠誠を誓っているからな。お前達だってそうじゃないのか?」

「俺は別にメカを弄りたくてここに入ったからな。忠誠なんてはなっからないさ」

コースケは移動用のホバーバイクを弄りながら答えた。

「俺も生憎そういうのは持ち合わせていない。というか3年前に民間人を巻き込んだ時点でとっくに忠誠なんぞ失せてるさ」

「大義のために犠牲は必要だ!」

「じゃあその大義とはなんだ!!皇帝が掲げる大義とは、世界の恒久的な平和とは結局はリヴェイアだけの平和じゃないのか?共生という道も・・・・・・」

「他の国のことなんぞ考えているほど余裕は無いだろう?俺達が今まで守ってきたのはなんだ?他でもないリヴェイアだろう?お前は共生といいながら結局は他国を侵略してきたじゃないか!」

「俺はあくまでも抵抗してきた奴らだけを倒してきたつもりだ。無抵抗の民間人を殺す虐殺者になったつもりなどない!」

確かにコーゴンの言うことは正論だ。何も間違っていない。それでもソウスケは矛盾を抱えてでも共生という道を目指すと決めていた。

「これでお別れだな」

「何処に行くつもりだ?」

「アズマのところだ」

予想していなかった人物の名前が飛び出しコーゴンは困惑する。

「3ヶ月前連絡が来た。奴は今ジパングにいる」

「生きていたのか・・・・・・」

「奴はそこでジパングから世界の平和を模索している。俺達もそこに行って考えてみるさ」

「ジパング・・・・・・極東か」

極東のコロニー「ジパング」。イーストサイドのコロニーでかつて日本と呼ばれていた場所。リヴェイアの戦争とは全く無縁の場所。あくまでも中立を保ちどこにも加担していない。厳密に言えばリヴェイアから離れているため事実上そうなっていると言えるが。

大昔、旧世紀には黄金の国とも呼ばれたそこで何をしようと言うのだ。戦争とは全く無縁の場所で平和について考えるなど。

「止めないのか?」

「止めたところで行くのだろうお前達は」

ホバーバイクに跨ったソウスケはヘルメットを付けながら答えた。

「まあそうだな。俺にはこのまま歩み続ければリヴェイアはいずれ破滅するように思える。そして今までそれを正そうとしてきた。内部からはたらきかけようともした。しかし無理だった。この国は性根から腐ってた。だから俺は外から変える。この国を」

「いくぞソウスケ捕まっとけ」

「ああ」

コースケに促されレバーを掴む。コースケがアクセルを捻ると勢いよく飛び出した。

「じゃあな。達者でな」

「余計なお世話だ」

そうしてリヴェイア軍から脱走したコースケとソウスケは1ヶ月をかけジパングにたどり着いた。追っ手などはなかった。それどころではないのだろう。

コロニーに着くとアズマはそこでコロニーの行政を任せられていた。まだ発展途中のこのコロニーでは人手も足りなかったそうだ。

「ここのコロニーはいいぞ。風が心地いい。そして人々も暖かい。元リヴェイアと知っても変わらず俺を受け入れてくれた。お前らも時期に慣れるさ」

アズマはコースケとソウスケに住居と職を与えた。コースケはメカニックとしての能力を活かしコロニーの建設作業、ソウスケは漁業とコロニー周辺の調査を与えられた。それからアズマとソウスケは結婚し子供も生まれ新しい生活に慣れていた。アズマはコロニーを治める長となりソウスケはいっそう調査に力を入れた。そしてある日コロニーの海底地下深くに巨大な反応があった。発掘してみると巨大な潜水艦であった。どうやら旧世紀時代の遺産のようで中は今の時代からは失われた技術ばかりだった。とりあえずは発掘し地下に保管することになった。

それからしばらくしてソウスケとアズマの妻は旅行先でハリケーンに巻き込まれ行方不明になる。悲しみに暮れていた中ソウスケはアズマだけにそっと話した。

「アズマ、俺はしばらくコロニーを出る」

「!?何を言ってる?母親がいなくなったばかりなのに子供たちを置いていくのか!?」

アズマはソウスケの肩を掴み迫るが振り返ったソウスケの瞳を見てその手を離した。その瞳は苦渋の決断というような目だった。

「行かなければいけない。俺は・・・・・・」

「ソウスケ・・・・・・」

友人の決意が揺るがぬことを知ったアズマは

「生きるんだぞ」

そう一言だけ声をかけた。

その一週間後、ソウスケは子供たちに漁に出ると言って船を出し行方不明となった。それからアズマはアオイとヨーコ、2人の親代わりとしてミハネ、レンと共に育てた。

そして時は過ぎ昨日、アズマは元戦友と再会する。敵同士という形で。

『このコロニーに神薙アオイという少年が居るはずだ。速やかにこちらに引き渡して頂きたい』

その聞き覚えのある声にアズマは顔を顰めた。

(コーゴン・・・・・・)

相手は油断できなかった。とにかく今は時間を稼ぐ必要があった。

「・・・・・・アオイなら四日前に死んだよ。 まだ若かったのに。 それに仮にこの場にいたとしても貴公らのような連中に渡すわけにいかん」

コロニー全体でアオイを守ると決断したのはコロニー組合長たる自分だ。これは自分で責任をとるべきだと判断していた。だから連れ去られた。特に抵抗もせずに。武器は届けた。ならば彼らは戦えるはずだ。楠アズマとしてはもちろん彼らに生き残って欲しい、だから自分の事は追いかけないで欲しい、そう思っている。しかし、育ててきたからこそわかる。彼らは来る。来てしまう。ならば少しでも生き残れる力を渡したかった。あの潜水艦も生き残るために渡した。

他にも目的はあった。アオイが連れてきた青銀髪の少女、東雲ミズキ。彼女は旧世紀の生き残りだと言っていた。ならばソウスケが調べていたことにも繋がるかもしれない。そう思った。だからそれを含めて護れる力、それがあのビギンズノアだ。

そして、ソウスケの居場所だ。リヴェイアに行ければソウスケの手がかりがなにか掴めるかもしれない。そしてここからのルートなら恐らくあの勢力の圏内に入る。上手く行けばアオイ達の味方をしてくれるかもしれない。それに賭けたのだ。

「お前は変わってないんだ。何も。未だにリヴェイアに居続けてる」

「お前は変わったな。どこで違えたのだろうな。同じ未来を見ていたはずなのに」

アズマはハハハ……と笑った。

「訂正する、お前は変わっていた。とっくの昔にな。23年前からお前は変わっちゃいない。でもそれより前にお前は変わってしまった。俺が変わったんじゃなくお前が変わっちまっただけさ」

その言葉にコーゴンは顔を顰める。

「何故俺を捕まえた?一介のコロニーの組合長だぞ?攫ってなんの意味がある?」

「・・・・・・」

「秘密主義も変わらないんだな。まあアオイ達を捕まえるための餌というところか」

図星だったようでコーゴンは口を開いた。

「我々の目的はあの少女だ」

「東雲ミズキ、彼女が狙いか」

やはり。たとえ技術者ではなくてもその時代にあったものの情報は貴重だ。どこも欲しがるだろう。アズマはそこに気づいていた。だが、

「お前は彼女がただ旧世紀の少女だから狙われていると思っているのか?」

予想外の答えだった。てっきりそうだと思っていた。

「違うのか……!?なら何故……」

「答える義理はない」

そうしてコーゴンは独房をあとにして行った。

「東雲ミズキ……」

そう名乗った記憶喪失の少女は何かを握っている。だから狙われた。

「一体何を知っているのだ彼女が……」

アズマは誰もいなくなった独房の壁にもたれかかって1人呟いた。

 

コロニーを出発してから一日が経とうとしていた。追われる側から追う側となったが油断していてはミズキまで奪われてしまう。幸い艦のAIシステム「REVE」のおかげで自動航行や索敵までしてくれるため各々休憩をとったりしているのでそれほどストレスが溜まる感じもなかった。

改めて艦内を回ってみたが大人ひとりに子供7人で使うにはかなり広かった。個人用の部屋や四人部屋など部屋もかなり多い。ただの潜水艦ではないという事だ。

「なあレヴ、なんでこの船こんなにでかいんだ?」

「アオイさんいい質問ですね。それはこの船が移民船として使われたからです」

「移民船……?だからノア?ノアの方舟か」

約250年前、生き残った人々を乗せコロニー建造までの間の居住施設として機能したとレヴはいう。ならばこれを作った人々は「あの日」が来ることを予期していたのだろうか?万が一の時に作っていたとしても用意周到すぎる……。そんな事をアオイは考えていた。

だがなんにせよ今アオイたちの役に立っていることには変わりない。

ブリッジに戻るとレンが手元のモニターと睨めっこしていた。他には索敵手のヨーコがソナーを食うようにみていた。

「どうしたんだレン、そんな怖い顔して」

「いや今後の補給の話しさ。今俺達はリヴェイアのあの部隊と睨めっこだ。ある程度の距離を保ちつつジリジリ追っかけてる。正直このままの状態で膠着したら食料がなくなる。幸い水には困らないがな」

「補給……それもそうだな」

コロニーを出る時アズマ曰く架空の運送業者を装って食料を確保出来たそうだがそれでも四日分が限界だったそうだ。そもそもただの運送ならば最高速を出してノンストップで飛ばせば世界中どこでも2日とかからない。途中で補給などもすれば十分持つと判断されたのだろう。

一応コロニーから特権パスを得ているので補給はしてもらえる。が、補給できる場所に立ち寄れるかが問題なのである。

ジパングのコロニー群から東に行くとアメリカエリアまで出るまで途中にはコロニーがほぼない。極小規模のコロニー群が存在するが他所のコロニーの船に補給などしてあげられる余裕はないだろう。

「それとさっきから奴らの船、止まってるんだ」

「気づかれたのか?いや、とっくに見つかってるもんな」

「ああ。あいつらはこちらが追ってきていることを知っている。しかしまあこちらもステルス性はピカイチだ。さっきからメインエンジンは切って潜行してるしパッシブデコイもそれなりにまいてある」

現在敵艦は20km前方に停泊。こちらはそれより後ろについてアンカーで固定。

「何もアクションを起こしてこないのが気になるんだ」

「そういう事か。でも特に何も無いんだろ?」

「ソナーには特に……。何かが発進した感じもないし」

ヨーコはヘッドセットを外し大きく背伸びをする。

「ヨーコちゃんそろそろ寝てきな索敵ならレヴが変わってくれるから」

「うん、そうする。レヴ頼むね」

『了解です!レヴちゃん頑張っちゃいます!』

「うん、じゃあよろしく。仮眠とってきますね〜」

ヨーコは大きなあくびをしながらブリッジから出ていった。

「気は抜けないな」

「ああ、若干名まだ慣れてないやつも混じってるが相手はプロだ。学生の俺らがどこまで通用するか」

そうだ。どれだけレンの成績が優秀であろうと所詮は学生。戦場に出ればそんなものは関係なくなるだろう。

「俺達は戦場という大海原に出るための船を得た。ビギンズノアという船をな。ただ舵が定まってないからな」

「でも自信はあるんだろ?」

「まあな」

レンはニヤニヤしていた。レンをつき動かしているのは外の世界への興味だろう。レンは所謂天才だった。だから張り合う相手もいなかった。昔から誰かと張り合いたいと言っていた。それは多分一種の承認欲求だったのだろう。

「今まで積んできた自分の経験がどこまで通じるか試してみたいんだ」

「ま、俺たちが死なないくらいに頼むさ」

「もちろん。お前達を生かす戦術でな」

レンは自信ありげに答えた。その言葉だけで大丈夫だと確信が持てる信頼がアオイとレンにはあった。

 

私は誰なのだろう。ただ一つ、遠い記憶の中で誰かが名前を呼んだ。

『ミズキ、ミズキ……』

私の名前を呼ぶ人、分からない。思い出せない。ただとても温かい声だった。

『君は……通に……きるんだ……。いずれ君を見つけた人を護る人が……一族の使命に縛られることなく……』

モニター越しにその人は優しく触れた。自然と涙が溢れる。何故私は泣いているのだろうか。

その人は何かを決心するとすっと立ち上がった。

『私は行かなければならない……蒼の……使命を果たすために……私で終わりにするよ……あ……しているよミズキ』

「……!!!!」

声が出なかった。いやでていたのかもしれない。でも耳に聞こえていたのは言葉ではなくただただ嗚咽と叫喚だけだった。何故かと聞かれても答えられないだろう。しかしその人は紛れもなく自分の中でとても大切な人だったのだろう。

そしてその人は画面から消え、もう戻らなかった。否、戻れなかったのだろう。いなくなってからミズキは重たい睡魔に襲われ眠った。夢など見ないとても深い眠り、仮死とも取れるほどの永い眠りだった。そして目覚めればそこは蒼穹のごとき青空だった。250年という月日は緩くも激しいものだった。ミズキの記憶すら奪う程に。

時々記憶がフラッシュバックする。それは今のミズキが知らない自分。

自分とよく似た蒼みがかった銀髪の少女、銀髪の壮年の男に青髪の女性。他にも白衣を着た男や女が多数いた。みな笑顔で何かの研究に没頭していた。

切り替わる記憶、炎に包まれる『家』。爆発音が響き渡り爆ぜる。やがて大量の水が入り込み呑まれる。

『私』はコンテナに押し込まれた。そして銀髪の男性に蒼い巨人の胸の位置にあるコックピットに入れられた。

そしてその男が消えるとこで目が覚める。

「また……」

自分に与えられた部屋でミズキは虚空に手を伸ばしていた。いくら伸ばしても届かない手を。

蒼い巨人、アオイがイクシロンと名付けたその機体の中で目を覚ましてからそろそろ3週間経とうとしていた。それから寝る度同じ夢を見ている。そしてその夢は睡眠を重ねる毎に結末へと近づいていた。最初はみんなと幸せにしている所だけだった。しかし最近は一言で言えば破滅。それを繰り返しみている。

服は寝汗でびっしょりだった。ミズキは着ていたワンピースを脱ぐとカバンの中からTシャツを取り出してそれを着た。コロニーを出る時にアオイの妹、ヨーコが買ってきてくれた。とりあえず下着類まで全て揃えてくれたのでしばらくそれを着ることにしている。

「三笠魂……?」

ヨーコが買ってきたTシャツにデカデカと書いてあった。

よく分からないが今の時代にはこういうのが流行っているのだろう。

さらにショートパンツを履く。サイズはちょうどよかった。

コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「アオイだけど」

「入っていいぞ」

プシュッと自動ドアが開く。

「あ、その服……」

アオイの指さした服、ミズキが着ている三笠魂のTシャツだ。

「ああ。ヨーコに買ってきて貰ったものだ。どうだ?似合っているだろうか」

「う、うん。いいと思うよミズキが気に入っているなら」

「ところで何故三笠魂なのだ?」

「ああそれは……」

アオイは近くにあった椅子に腰を下ろし話し始める。

「俺たちの生まれたコロニー、ヨコスカは元々日本にあった場所なんだそこには大昔の戦争で使われた三笠っていう戦艦が公園として現存してたんだよ。今はもう海の底だけど。俺も大昔の本で読んだことがあるくらいだから詳しくは知らないけどヨコスカに住む人の魂を忘れないようにってことなんだと思うよ」

「忘れないように……か」

自分もそんなふうに何か残せば忘れないだろうか。そんな事を思った。

「何か思い出したの?」

「いや……ただ最近夢を見る。家族……だと思う人達が出てきて……そして破滅する……」

「破滅……」

アオイはしばらく黙り込み頭の中で思考をめぐらせる。

「もしかしてそれってさ……」

アオイが話始めようとしたその時だった。突然アラートが鳴り響く。

「なんだ!?」

アオイは椅子から立ち上がり内線に手をかける。

「ブリッジ!どうした!?」

『アオイか?奴らだ。奴らが来た』

レンの声。

それは紛れもない攻撃のサインだった。




どうも作者です。最新話更新は二年ぶりですね。お待たせしました。今回はアズマとコーゴンの関係、そしてミズキの記憶も少しだけ・・・という回。少し唐突な入りでしたが今後のカギでもあります。お楽しみに。

次回予告

出航したアオイたち。カナト達は逃げつつも迎撃に出撃しイクシロンとミズキを奪取しようと試みる。四度目の交戦、その数を重ねるたびレンの中の自信があふれていく・・・
次回蒼き飛翔のイクシロン
交戦
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