「もう大丈夫なんですかアイズさん」
カーテンの向こう、病人用のベッドで着替えているアイズにそう尋ねた。
「ああ、まあな。私だけいつまでも寝てるわけにいかないしな」
カーテンを開けアイズがジャケットを羽織りつつ出てくる。頭や腕にはまだ包帯が巻かれていた。
「ほら腕もこの通りさ」
アイズは肩をぐるぐると回してみせる。
「援護射撃くらいなら出来るさ」
「別にお前が居なくても何とかなるぜ?」
「何とかなってないだろうが。可愛い後輩まで撃墜されて。なあレビン」
「うっ……」
レビンは痛いところを突かれたといったところでハハハ……と言って頭をポリポリとか掻く。
「それで?状況は?」
「ああそれがですね、ヨコスカコロニーの組合長であるアズマ・楠を捕まえて……」
「一介の組合長を?何故?」
「それは……」
「私が説明しよう」
ドアが開きコーゴンが病室に入ってきた。
「中立を謳っているコロニーがコロニー組合長の独断で我々に抵抗してきたからだ。やむを得ん」
「……分かりました。アイズ・スルーズ中尉現時刻をもって戦線に復帰致します」
「うむ貴官の復帰を歓迎する。ではこれから作戦を説明する」
コーゴンは病室にあるモニターにUSBメモリを差し込みファイルを開く。
「現在我々はこの地点で停止中だ。そして敵母艦はここで一定の距離を保ちつ進行、現在はロストしているが海底の形状からこの辺りにいると思われる」
画面にはさまざまな情報が表示されていく。海底の温度や成分、気候などなど。
「そして今回の我々の目的は敵母艦の進行停止、そして敵CAHとそのパイロット、青髪の少女の奪取だ」
「奪取?ですか?」
「そうだ。我々が交戦したあの機体は前時代のロストテクノロジーで造られた可能性が高い。皇帝はそれを欲している。そして青髪の少女はそれについて何かを知っている」
「だから少女を奪取しろと?ほかの乗組員は?」
「ほかの者も一緒に奪取しても構わない。しかしやむを得ない場合は射殺だ」
その言葉を聞いた時その場にいた者がみな顔を顰めた。
「……了解しました」
アイズやレビンは両足を揃え敬礼する。
「カナトもいいな?」
「……はい了解です」
「よし、では編成について説明する。現在我々の部隊のCAHは5機中3機が小破、残り2機が中破だ。稼働できるのは予備パーツで修復して3機。しかし中破しているアイズ機と俺の機体を組合わければ1機修復できるそうだ。そのあとはもう補給待ちというところだ」
モニターには機体の状況などが表示される。
「装備はマルチランチャー装備、カナト機は狙撃仕様で出撃する」
コーゴンのその言葉にカナトは少々驚いた。
「ぼ、僕ですか?」
「ああ、そうだ。過去2回の戦闘から3機が前衛、1機が後方支援にあたる戦法が効果的だと判断した」
「しかし僕は狙撃経験なんて無いですよ?」
「本来ならアイズが適任なのだがまだ万全ではないからな。それにお前のシミュレーターの成績はA+だ。問題ない」
「は、はぁ……。分かりました」
カナトは多少不安はあるが命令ならばと割り切って承諾した。
「では作戦は08:00より開始する。それまで各員休息をとれ」
「了解!」
作戦会議が終了しアイズ、レビン、コーゴンが病室かは出ていったあとカナトはもう1つのベッドでまだ目を覚まさないリデッドを覗く。戦闘の後リデッドを回収し帰投した。なかなかリデッドがコックピットから出てこないのでもしやと思いコックピットを強制解放すると中のリデッドは気を失っていた。頭部から出血していた。どうやら打ちどころがわるかったようだ。メディックのララ・ターナー曰く1日もすれば目を覚ますと。
「やっぱり心配?」
「それはそうです」
「まあそうねぇ。そんなに大怪我ではないから問題は無いはずよ」
「は、はあ……」
「傷もそんなに深くないから大丈夫よ。あなたは任務に集中しなさい」
「……わかりました。失礼します」
ターナーに一礼して医務室から出る。まだ作戦開始時刻まで時間があった。とりあえず自室に戻り仮眠をとる事にした。
リデッドが居ないため部屋には誰もいなかった。ベッドに寝そべり天井を見つめる。改めて振り返れば激動の1週間だった。20数年前の戦争中ならともかく今は表面上では平和だ。自分の父たちのような戦いは起こらない。それでも軍人としてリヴェイアを護ろうと思っていた。しかし心のどこかで戦争に参加しないとホッとしている自分もいた。だが蓋を開ければ初陣で未知の戦力と遭遇、圧倒的な力と共に恐怖した。これが戦場、撃墜されれば死ぬ。たとえ士官学校を首席で卒業しようとも戦場での命の価値は等価だ。運の悪い奴が死ぬ、それが戦場の真理だと。それはとてもわかる気がした。
母は、妹はどうしているだろうか。妹は僕の後に続いて士官学校に入ったと聞いた。正直妹には戦って欲しくはないが本人が決めたのなら仕方ないと割り切った。母は相変わらず花を育てながら過ごしているそうだ。
本国は平和だということだろう。調査のためにリヴェイアからでて世界を見て平和なのはリヴェイアだけだなと感じていた。コロニー間の経済格差は激しかった。リヴェイアのように裕福なコロニーはコロニーの防衛隊を組織したりしている。そしてそういう連中がリヴェイアに侵攻してくるのだ。
カナトは人殺しをしに軍に入った訳では無い。この国を、リヴェイアを護るためだ。護るためと言いながら人殺しの理由にしていることも分かっている。しかし、侵攻してくるのならば戦わなければいけない。戦わなければ守るものも守れない。大きな破滅を経験し1度は手を取りあった人類は復興し当時と同じ技術水準、人口まで到達すると過去とおなじ愚を犯そうとしている。人が増えれば思想も増える。やはり仕方の無いことなのか。そんなことを考えていたら自然と瞼が重くなってカナトは夢の世界へと落ちていった。
数時間後。作戦開始時刻1時間前を知らせるアラートが全艦に鳴り響く。目覚めたカナトはロッカールームへと急ぎパイロットスーツに着替える。
「よっカナトよく寝れたか?」
後ろから声をかけられた。レビンだった。
「ええ、まあ一応」
「連戦だったしな休める時に休んでおくのがベストだぜ」
そういうとカナトの背中を叩く。
「まっ、背中は任せたぜ後輩!」
「えぇ……自信ないですけど頑張ってみます」
「狙撃なんて簡単だぞ。照準合わせてトリガー引くだけだ」
反対側のロッカーから声がした。アイズである。
「姐さんそれ狙撃だけに限らないだろ」
「覗くなアホ!」
サイドから頭を出したレビンに向けてヘルメットを投げつける。それは見事にレビンに直撃する。
「ツ〜〜!!!!」
声にならない悲鳴を出してレビンは頭を抱えて悶絶する。
「ほら集合だ。行くぞ」
「は、はい……」
そんなレビンをよそに2人はロッカールームをあとにした。
「よし、全員揃ったな」
ゴーゴンは隊員それぞれの顔を確認して言う。
「これより最終確認を行う。最優先目標あの蒼い機体と銀髪の少女だ。余裕があればあの潜水艦ごと捕らえるが油断は禁物だ。では、各自搭乗にて待機!」
「「了解!!」」
それぞれ解散し自機にて待機する。カナトも自分のオーディのケージを駆け上がりコックピットに乗り込む。シートに座るとモニターと計器類が上部から降りてくる。計器類の電源を入れシステムチェックを始める。
「?これ……」
いつもと違うパラメーターが設定されていた。疑問に思っていると整備長が顔を出してきた。
「あー少尉、OSな、ちと狙撃専用に少しいじっておいたからな。火器管制システムとHUDの情報表示優先度とか調整しておいた」
「あっありがとうございます」
「あと一応このタイプは近接戦闘用の武装は持ってるがそもそも得意レンジが違うから近接戦闘は本当に迎撃だけだと思っておいてくれ。くれぐれも自ら仕掛けに行くなよ。HUDの情報処理とか敵の行動予測とか追いつかないぞ」
「だいたいどのくらい変わります……?」
カナトのその質問に整備長は呆れつつ
「あのなぁ今やるなって言ったよなぁ?……まあ仕方ない。戦場じゃ何が起こるかわからないしな。遠距離なら予測から確定まで1.2秒ほど猶予があるが一般的な機体相手なら近距離でせいぜいコンマ5秒ってとこだな」
「コンマ5秒……分かりました。覚えておきます」
「まあ、最悪の場合だからな。それだけは忘れるな」
「了解しました。使わなくて済むといいですけど」
その時だ。コクピットに通信が入る。通信士のクリスティーナ・べーテルの声だ。
『敵潜水艦がいると思われる海溝の探知終了しました。これよりターゲットに対して魚雷による攻撃を行いあぶりだします。魚雷攻撃と同時にCAH隊は出撃してください』
「4番機了解。待機します」
「よし、じゃあ健闘を祈る」
カナトはサムズアップで返すと整備長はコクピットの外へと出ていった。ハッチを閉じて最終確認を行う。
「4番機出撃準備完了しました」
するとそれに続くようにアイズ、レビンが
「こちら3番機同じく」
「2番機も同じくだ」
「よし、では出撃する!!!」
ゴーゴンの声と共にユーリシャスは浮上、ハッチが展開する。ゴーゴンの一番機、レビンの2番機に続きアイズとカナトの3番機、4番機も出撃する。
レーダ上には先程ユーリシャスが発射した魚雷の軌跡が表示されていた。そして数秒の後全てが着弾の表示に切り替わる。通常弾の他にソナー弾も混ぜてあった為レーダ上にソナー反応が広がる。すると
「!!!ありました。大きい反応、恐らくあの潜水艦です!!!」
アイズの報告を聞いたゴーゴンは
「よし、各機、作戦通りに展開せよ。カナトは後方から援護を」
「了解しました」
カナトは進行を停止しその場でホバリングをしてスナイパーライフルを展開、狙撃用のHUDを起動しスコープを下ろす。
「(今度こそ逃がさない……神薙アオイ……)」
1度深呼吸をする。すると余計な緊張感は自然と抜けていく。残ったのは戦闘に対する緊張だけ。その目は確かに獲物を狙う獣のようだった。
「レヴ、エンジン始動、しかる後急速潜航だ!!!」
『了解しました!!!』
「ホロシールド、後どのくらい持つ?」
『うーんこの程度の攻撃ならエンジン始動まで余裕で持ちますしそのまま戦闘も可能ですね』
「よし、ならいい」
その言葉を聞いてひとまず胸をなでおろした。レンはひとまず落ち着くことにした。焦りが1番判断を鈍らせる。程なくしてヨーコ、コウキ、ジュン、ツバキが戻ってきた。
「よし、全員揃ったな。エンジンは始動済みだ。ソナー、警戒を。レヴは防御に集中して火器管制システムと操舵は仙道と櫟に任せろ」
『あいあいさー!!!』
「海面を移動する反応が4つ、いや3つです!!!後は遠方にスクリュー音と……その間に海面で停止してる音がする……」
「わかった。ヨーコ、もう少し探ってみてくれ」
レンの言葉にヨーコは無言で頷き耳を澄ます。その時ブリッジにアオイが駆け込んできた。ミズキも一緒だ。レンはミズキの服を見て一瞬吹きかけたが咳払いをして持ち直した。アオイも一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに察したようで苦笑した。しかし直ぐに切り替えた。
「レン、状況は?」
「ん……第一種戦闘配置ってとこだな。敵は3機と母艦、それと海面にいる何かだ。気をつけろよ。ミズキはそこの空いている席に。揺れるからな」
「了解した」
「それじゃ出撃する」
そういうとアオイはダッシュでブリッジを後にしようとした。が、
「待ってアオイ私も」
アオイの手を引っ張ってミズキが呼び止めた。アオイはその手をそっと握って
「いや、大丈夫だ。ビギンズノアが起動した今ならここの方が絶対安全だ」
「でも機体が……」
「大丈夫。イクシロンも頑丈だ。ここの方が安全だけど……とにかく大丈夫だから!」
そういうとアオイはブリッジを出ていった。その背中にミズキは一抹の不安を覚えながらも大人しくシートに座った。
「よし、イクシロンを出したら潜航しつつ援護する。向こうのCAHは攻撃オプションはあっても潜航するための装備は持ってないはずだ」
「なるほど。上部発射管に魚雷装填しておく」
「頼む」
コウキは手早くコンソールを操作する。ヨーコはソナーに耳を澄ませていた。未だに海上に一つだけある反応が何をしているのか掴めないでいた。
「おやっさん!!」
「アオイ、準備は出きてるぞ」
「了解!!」
コックピットに飛び込みコンソールにペンダントをかざす。ex-Yの表示のあとシステムが順に起動していく。
「ああそれとレールガンだがな、前回お前が帰って来る間にアズマが使ってた奴がたまたまビギンズノアの近くに落下してきたんでな。回収しておいた」
「それって……まさか」
「……ああ多分アズマは分かって落としたんだろう。どこまでも計算してるやつだ。あれに入ってた弾も補充してある。それでも7発しかない。大事に使え。まあ死にそうになったら盛大にぶっぱなしゃいい」
おやっさんのその言葉にアオイは安堵した。
「わかった。生きて帰ってくるよ、おやっさん!」
「おう。……よしミハネ、カタパルト動かせ!!!」
そういうとコースケはコクピットハッチから頭をひっこめ昇降用クレーンで降りていった。
「あいよ!!!ちゃんと生きて帰ってこいよアオイ!!」
「もちろんだ!!!」
激励するミハネにアオイはサムズアップで答える。
「艦長、格納庫から準備完了の連絡が」
「了解した。発進しろと伝えろ副長」
「了解、ミハネちゃんOK出たわ」
ツバキは手元の画面に映るミハネにOKを出す。
『うっし、了解した』
通信が切れ画面がブラックアウトする。すると今度はレヴが割り込んできた。その顔はかなり不満そうだ。
「どうしたの?」
『むぅ……私のお仕事少ないですぅ……』
確かに現状レヴがやってるのは艦内の生命維持だけではあるのだが攻撃システムや防御システム、機関に関してもツバキ達がやりやすいようにシステムの処理を数段レヴが省いてやってくれている。それだけでも充分なのだが彼女は不満だそうだ。その顔を見たレンは素っ気なく
「じゃあミハネと一緒にCAHのナビゲートでもすればいいんじゃねえか?」
『……おおっ!!ロボットアニメでよくある"アレ"ですね!!!行ってきます!!!』
そういうとハイテンションで通信を切っていった。
「アレって……妙に人間臭いよなナビ子……」
「そんなこと言ってるとまた怒られますよ。それより状況、動くんじゃないですか?」
すぐに気持ちを切り替えて先頭に集中する。だがレンは1人だけ割り切れない顔をしてる奴を見つけた。ミズキだ。
「心配か?」
「ああ」
既に3回目とはいえそうすぐに戦闘に慣れるわけが無い。それにアオイは人を殺しかけた恐怖も知ってしまった。まだ17の少年がもう3度も命の危険がある戦場に出ている。それも全て自分のせいだ。無理をさせているのではないか、そう思ったら不安が頭を覆い尽くしていた。
「お前よりはアイツと付き合いが長いから分かるけどな」
ふう、と一息ついて
「アイツは自分がやるといったからイクシロンに乗ってるんだ。別に誰のせいでもねぇ。強いて言うなら……まあ男の覚悟ってやつだ」
「覚悟……」
その言葉を聞いた時自分の中にあったはずの過去の記憶と重なった気がした。覚悟、そう言われれば自分がすることはひとつ。
「信じる」
「え?」
「アオイの覚悟を信じることにする」
いつも怒っているのかと思うほど感情が表に出ないミズキだがそのときの顔は心做しか柔らかくなったような気がレンはした。
「よし、なら俺たちの操艦も信じてもらおう」
そういったレンの横顔には笑みが現れていた。彼がこういう時に笑うのは緊張が解けた時だ。そしてこの時の彼は本当に強いとツバキは知っている。だが同時に危うくもあると。
「艦長指示を」
「ああ、アオイの出撃後潜るぞ!!!総員準備しろ!!!」
「了解!!!」
その笑みは確かな自信であった。
ビギンズノア右舷格納庫、イクシロンを電磁柵が覆いながらカタパルトへと移送されていく。3重に作られた扉が開きカタパルトに固定される。
すると両脇から膨大な量の水が注水される。
「右舷注水完了」
『スーパーキャビテーションモードでイクシロン固定完了です!』
唐突にミハネが映るモニターの横に別のウインドウでレヴが割り込んでくる。
「うぉっレヴ!?」
『艦長がやることないって言うならイクシロンの出撃シーケンスの手伝いでもしてこいというので来ました!!!というわけでスーパーキャビテーション式カタパルト出力上昇、ユーハブコントロールです!』
「おお……アイハブコントロール……?」
レヴのテンションの高さにアオイが困惑していると
『もう分かってないなぁ!!!さあ、かっこよく出撃してください!!!』
「あーもうわかったから!神薙アオイ、イクシロン、ブースト!!!」
操縦桿を前に倒しフットペダルを踏む。電磁柵が解放され機体の前面を大量の泡が包み込む。機体が水の抵抗を受けなくなりカタパルトの勢いを殺すことなく飛び出す。
船体のバランスが悪くなるので注水した水を抜いているとレヴが鼻息を荒く……いや画面の中での話なので実際は鼻息などないとは思うのだがそれは置いておいて。何か感慨深いと言った表情で腕組みをして首をずっとたてにふっていた。
『いやぁやっぱりいいですねぇこういうの。まあアオイさんはまだまだですけどねぇ』
そんなレヴに呆れつつも作業を完了させたミハネは
「はいはい、ここも終わったからレヴは艦の情報処理に集中してください」
『はっそうだった!!行ってきます!!!』
ミハネに指摘されズボシだったようでレヴはぶつんとモニターを真っ黒にして去っていた。
「本当に人間臭いよねあの子……」
「ああ、300年前のAIてぇのはあんな表情豊かなもんなんだなあ。さて、俺たちも機関室に行って待機だ」
「了解おやっさん」
そうして2人はカタパルト横の制御室を後にした。
「隊長、レーダーに反応。これ、あの機体です!」
「よし、戦闘行動に入る。やつを行動不能にするぞ。全機フォーメーションアルファ3!!!」
コーゴンの通信を音頭にアイズ、コーゴン、レビンが三角形に広がる。フォーメーションデルタと違い突撃陣形ではなく目標に対して前に2機、後ろに1機の防御フォーム。なのだが……。
「レーダーに反応、3機……!!!」
海中を高速で進むイクシロン。あと40秒程で接敵する。さて、どうでるか。
向こうのレーダーにもおそらく捕捉されている。正面から突っ込むのは得策ではない。向こうにはアオイが渡り合えるレベルの兵士が2人ほどいる。とはいえ残りはこれまで生き抜いてきた戦士だ。こちらも戦闘については素人。油断はできない。イクシロンの化け物じみた性能がなければ何度かアオイは死んでいた。
『アオイ、敵は防御陣形だ。1機ずつ確実にいけ』
「わかった」
レンから通信が入る。レンの判断は適切だ。アオイよりはまだ状況が分析できる。
レーダー上の敵機を示すマーカーが徐々に近づいてくる。接近を示すアラートがコックピットに鳴り響く。
アオイは呼吸を整える。ふぅと大きく息を吐いたと同時にマーカーが自機の直上に重なる。
「いまぁ!!!」
巡航中だったイクシロンを上昇させ大量の水しぶきと共に海の中から巨人が現れる。
目の前に居たのは2番機、アイズの機体だ。無論それをアオイは知らない。
「隊長、かかりました!!!」
「よし、レビン、アイズ、手筈通りにな!!!」
「「了解!!!」」
「カナトも集中しておけ」
『了解しました……』
交戦するコーゴンたちのはるか後方、狙撃仕様のオーディが停滞しライフルを構えている。カナトはトリガーから指を離すことなく状況を見極める。緊張からか手は震えていたがなんとか呼吸をして抑えようとする。これは重大な役割だ。失敗はできない。新たな狩人が産声をあげるにはまだ舞台が整っていなかった。
「アオイが動いた。潜るぞ!!!」
「了解した!!!」
ジュンは操縦桿を握りしめて船体を潜行させる。
「敵の母艦、あれから動きませんね」
ツバキは手元のモニターに映った周辺の分布図をみて呟いた。確実にこちらの位置はバレている。はずなのだがあの魚雷攻撃から動きが全くない。ソナーにもスクリュー音と大きな影が反響している。
「どうせバレてるんだ。藪をつついてみよう。コウキ、通常弾頭で魚雷4発装填、ターゲットの周りで爆散するようセットしろ」
「直撃させなくてもいいのか?」
「牽制だからな。そんなもんでいい」
「了解。発射」
コウキがトリガーを弾くとレーダー上に魚雷のピンが4本大型反応に向かっていく。そして数秒後自爆し消失する。
「ヨーコ、今のデータ取れたか?」
「はい、あらかたシルエットまでは」
「よし、レヴ、リヴェイアのデータベース漁って敵さんのスペックとかもろもろ引っこ抜いてきてくれ」
『えっ!?私!?』
レヴは突然のことにモニターの中でびっくりして変な声をあげる。レンは頭を抱えてかなりでかいため息をつく。
「暇だから仕事欲しいって言ったのはどこのドイツだ……?」
『ヨーロッパの私ですね……。でもこの太平洋のど真ん中でサーバーまで繋ぐなんて通信衛星が飛んでる時代ならともかくこの時代ざっとサーチしましたけどそういう類の見当たらないんですけど』
「この時代は基本的にコロニーに通信機器乗っかってるんだよ。まあ確かにビギンズノアの有効範囲にコロニーはないけど、ちょうど目の前に中継に使えるのがいるだろ」
レヴはうーん……と頭を抱えて悩みこんでいる。レンはまた大きなため息をついて
「敵母艦中継してリヴェイアのサーバーにアクセスできるだろ……」
『あっそっか!!!敵母艦経由してさらにほかのコロニー伝いにリヴェイアサーバーまで行けます!!!よし!やりますよ〜!!!』
少し戻ればジバングコロニー郡に入って通信できるがそんなことはしてられない。逆に敵母艦がいる位置ならばアメリカのコロニー群が少し範囲に入る。そこからさらにコロニーを伝っていけばリヴェイアのサーバーにアクセスできるはずだ。
『よし、リヴェイアまで到達……アクセス開始っと〜。ふむふむやっぱりこのくらいのセキュリティですか。250年前とは違いますねぇ。えへえへ』
「静かにやれ……」
『あっありました!!!』
すると正面の大型モニターに次々とデータが表示されていく。
『えーとリヴェイアの最新式の潜水艦ですね。UXENON級11番艦ユーリシャス。所属は第11独立機械化試験班。配属人数は船員74名、CAH5機とパイロットも5人、2304年5月月22にリヴェイアを出港しイースト方面の調査をしつつ5月31日に極東エリア旧ジパングの調査を開始。全長250m、全高25m、全幅12m……全重量が……』
「よし、もう大丈夫だ」
『武装は魚雷発射管15、設置型魚雷発射管5、防御システムは鱗型装甲で〜』
「もういい……」
レンはモニターの音量をオフにする。レヴは気づかず目を輝かせながら未だにモニターの中でデータを読み漁っている。
「このAI作ったやつはなんでここまで人間臭くしたんだほんと……」
「それで、何が知りたかったの?」
「いやな、向こうも補給が必要なんじゃないかなと思ってな」
レンは手元のモニターをスワイプするとツバキの手元のモニターに先程レヴが提示したデータの抜粋が送られてくる。そこには出港日と立ち寄った場所が載っていた。
「これ通りなら最後に補給を受けたのは5月29日、今日は6月4日」
「3日以内には補給しないといけませんね。ここの最寄りの拠点は……」
ツバキは手元のモニターを操作する。すると周辺地図の抜粋が表示され周辺のコロニーの位置がピンで示される。
「南アメリカ戦線……」
現在主にリヴェイアが争っている地域はリヴェイアの東、旧ルーマニア付近を境にアラブコロニー群や旧ロシアのソレスティアなどの連合国と未だに戦っている。
そしてもうひとつの大きな戦線、それが南アメリカ戦線。現在の地球にて数少ない大地が残る地域。強国SVプラントへの進軍への拠点にしたいリヴェイアとそれを阻止したい南アメリカと支援するSVプラントによって長期にわたって戦い続けている。リヴェイアは戦闘の裏で旧フォークランド諸島海域に移動基地「フォークランド」を建設。南アメリカ地域を占領した暁にはこの基地を大地に隣接させ速やかに要塞化するためらしい。
「リヴェイアは各地に拠点があるし補給にそこまで困ることがないから貯蓄はせいぜい1週間。向こうはあともう少しでその貯蓄がなくなる」
「でも南アメリカ戦線に突っ込むなんてこと私たちには無理でしょう。戦力はイクシロン一機で母艦の乗組員もほぼ学生。潜水艦1隻相手にするのとはわけが違います」
ツバキの意見は最もだ。だがこのまま追いかけ回してもいずれフォークランドにはいはれてしまう。そうなればもう手出しはできない。アズマの行方もどうなるか分からない。どこかで行動を起こさなければ。レンの中で焦りが募る。無意識のうちにシートの肘置きに指を置いてトントンとリズムを奏でていた。それに気づいて胸の前で腕を組む。焦っている時に出てしまう悪い癖だ。
(せめて潜水艦だけが相手なら……)
敵の護衛がおらずイクシロンも使えて、と考えれば所詮甘い考えである。
「アオイの状況は?」
「依然交戦中。戦況は……あまり芳しくないかも」
「……森宮、仕掛けて見てなんとかなると思うか?」
レンの問いにしばしの沈黙のあとツバキは口を開いた。
「……ならない。仮に攻撃が成功してもそれで貴方のお父さんが無事でいられるか保証はない。目的、忘れちゃダメよ。あの船に勝つことじゃない。ミズキさんを守りお父さんを助けるんでしょう」
「……ああ。そうだな」
やはりこの女を副長において置いて正解だった。恐らくこの女以外では反対はしてもレンを納得させるのは難しかっただろう。副長というのは艦長を支えるもの。業務的なことはもちろんではあるが賛同だけする副長ではダメだ。しっかり自分の意見をいい艦長の命令に異を唱える事が出来るもの。それが副長としての最善だとレンは考える。そしてかのパックワーカーも自著で述べていた。それらの知識がレンに自信を与えてくれている。そしてビギンズノアという力もある。それを動かす人間もAIもいる。だからこそこれを使うなという方が酷である。確かに勝つことは目的ではない。だがそれはアオイの目的だ。レンの目的は世界を回ること、そして自分の力を試すことにある。確かにアオイは親友だ。しかし親友だからと言うだけで着いてきた訳では無い。いわば利害の一致というやつである。だがツバキの言うことも事実。だからレンはツバキの意見も踏まえた上で次の行動を決めた。
「よし、敵母艦にカチコミに行くぞ」
「は!?」
ツバキは驚愕の声をあげ立ち上がった。当然だ。人の話を聞いていなかったのか、が第一声だろうとレンは思った。しかしツバキはレンの顔から何かを悟ったのかレンの予想を裏切り落ち着いた口調で
「この状況でCAA無しに突っ込むのは無謀でしかありません。賛同しかねます」
と返してきた。まあその返答も予想の範囲内であった。
「狙うのは撃沈じゃない。あくまで陽動だ」
「陽動……」
「そうだ。これを見てくれ。この一帯の分布図だ。もう少し行くと海溝がある。そこを通って近づく」
レンはコンソールを操作し作戦を説明する。
敵艦は先程から動きを見せていない。こちらがちょっかいを引っ掛けて敵艦を引きつける、さらにアオイと戦闘しているCAHがひきつけられたらなおよし、と言ったところ。
「それに、近づけばソナーの異音も何か分かるかもしれないしな」
敵艦に仕掛ける上での不確定要素はそれだった。何がそこにあるのか。それをはっきりさせることも出来る。
「分かりました。それも含めてなら同意します」
渋々納得したのか彼女はシートに座り直す。渋々と言ったのは彼女の目が分かりやすく不満を語っていたからだ。これはあとからお叱りが来るぞとレンは内心苦笑した。自分の判断のせいとはいえ彼女に怒られるのは怖い。いつだって委員長タイプと言うやつは怒ると怖いのだ。
そんな事を心の片隅に思いながら息を整えシートに座り直す。
「よし、ジュン海溝に沿って準戦闘速度で進んでくれ」
「了解っと」
ジュンはスロットルを前に倒し船を進める。船体は潜航をやめ海溝を進んでいく。
「ヨーコ、敵艦との距離は?」
「ざっと3800……いや、待って向こうも動いた!!」
「こっちの喧嘩を買ったか……さて、どう動く」
自身の可能性が絶え間なく試されていく海という教室は少年の心を昂らせると同時に世界の広さをその身に理解させていく……。
どうも作者です。先日蒼き鋼のアルペジオの原画展に行ってまいりましてArk先生のネームのすごさにいたく感動したところであります。さて僕はそこまで戦艦やら潜水艦に詳しいわけではありません。好きではありますが。そのため今回とかにもあった潜水艦同士の戦闘描写はとても苦手です・・・。僕の頭の中ではこう動いてここでこういう仕掛けが!とかはあるんですがそれが皆さんに伝わっているかどうか・・・精進します!ではまた次回。
次回予告
動き出した戦場、アオイとレンそれぞれの戦いをする中海に魅入られたレンがある行動を起こす・・・
次回蒼き飛翔のイクシロン
渦巻く海