とても頭の悪いゆるゆるな作品です。
東京、中心から外れた場所にある小さなどこにでもあるアパート。
カーテンの隙間から青い光が漏れていた。
火にかけたやかんからぴゅーっと音が鳴り、ぼやけていた意識が少しずつ少しずつ鮮明になっていく。お湯をゆっくり注ぎ、空気にコーヒーの香りが混ざりだす。
「もうこんな時間か……」
バイトまではそんなに時間がない。知らない人間に媚を売り、知らない人間に頭を下げる。嗚呼、なんて退屈な人生だろうか、つまらない……つまらない……行きたくない……
「俺以外の人間なんて……」
誰にも聞かれることのない独り言を静かにつぶやく。脳に命令を下すまでもなく、いつもと同じ手順、同じ動作で準備を進めていく。殺風景な部屋から逃げるように扉の鍵を閉め、俺は重い足を引きずるかのようにバイトへと向かっていった。
歩きなれたバイトへと向かう道を視力2.0のぼやけた視界で進んでいく。通り過ぎる人間の顔なんて見る気もない、たくさんの足が視界から消えていく。気づかないうちに自分の思考は内へ、内へと沈んでいった。
思えば幼いころから不思議な感覚を持っていた気がする。小学生のころだっただろうか、同級生との会話、担任の先生との会話、他人との会話。どれをとっても空虚、相手の「生」を感じられなかった。今自分が話している相手は本当に自分の意思で言葉を紡いでいるのだろうか。実は目の前の人間に中身はなく何か大きな意思が俺に話しかけてきているのではないかと思った。
まるで目の前の人間が人じゃないように思えた……。
都会の喧騒、店内には平日のお昼時ということもあり、中々の混み具合となっていた。
「いらっしゃいませー」
来てほしいなんて思ってない……
「ご注文はお決まりですかー?」
さっさと決めろ……………。
「お待たせいたしましたー」
食ったら帰れ…………………………。
「またのお越しをお待ちしております-」
……………………………………。
貼り付けた笑顔にワントーン上げた声。目まぐるしく状況が変化する店内に接客をしている自分の足は悲鳴を上げていた。決まった言葉を繰り返すだけでやり過ごせたらどれだけいいか……。どうせ誰も俺のことなんて見ていないくせに。特に原因がこちら側にあるわけでもないことで喚き散らす客を目の前にして平謝りを繰り返していく。
こうして自分は一日一日を消費していくのか……。目的もなく、目標もなく、同じ毎日、同じ生活、つまらない…………。日々の行動によって自分のとる業務の流れは体に染みついていた。店内の後片付けもそこそこに俺は仕事場である店を出た。
本来の帰り道であるルートは最短距離から幾分遠回りをする。人がまばらな川沿いの道を力の抜けた足取りでゆっくりと歩いていた。端に並ぶ街灯は規則的に佇み、オレンジ色に光る。僅か先だけを見据えて進んでいくと、またしても俺は思考の沼へと沈んでいった。
俺はこれまで生きてきた24年間がいかに空虚であったかをひしひしと感じていた。なんの代わり映えのない日々を送ることに嫌気がさしていた。そう思っていながらも今日もまた、何もかもが同じであった。まるでデジャヴ、カレンダーは本当に進んでいたのか思わず疑ってしまう。確かに停滞は楽だ。体に染みついた感覚のままに、本能のままに、自然のままに行動すればいいのだから。
しかし、俺の人としての「こころ」はどうだろうか。凪いだ海のように一切の揺れはなく、そこは平面を保ち続けている。これを空虚と言わずに何と言えようか。このままでは周りの人の殻を被ったものと同じになってしまう。俺はまだ人でありたかった。そのためには変化だ、この止まった世界に変化を…………。
だが、そう簡単に起こるわけもない。これまでもこの年月が過ぎてなお何もなかったのだから。
「…………い!」
俺の脳内にノイズが走る。
「おい!聞いてんのかてめえ!!!」
深い深い底なし沼のような思考に没頭していた俺の意識は唐突に現実に引き戻された。目の前には何かの音を発する肉人形。あまりにも喚き散らすので耳を傾けると何やら俺とぶつかったことに腹を立てているようだった。
やかましい、やかましすぎるのでこの俺の思考を邪魔した目覚まし時計を止めたいと思います。腕に力を込めて、
「ふっ!くっ…………」
止めようとすると余計に耳障りな音が響いていく。意味を成さない言葉の羅列、
「がああああぁぁぁ…………っぎぎぎぎいいいぁぁぁ」
「ぃぃぃぃぃ…………ぁっ」
ようやく訪れた静寂に俺はひどく安堵していたのだった。
その日はよく晴れた日だった気がする、視界は色を失ったような灰色に包まれていたが。寝て起きたわけではなかったがあっという間の出来事、時間の流れがとても早かった気がする。
気づけば俺は逮捕され、すでに事情聴取も終えていた。聞かれた質問には全て嘘偽りなく答えたつもりだ。なぜ殺したのか、殺したのではない、強く握ったら壊れてしまった、ただそれだけのこと。
警察署から護送されるため外に出るとたくさんの報道陣、やじうまで溢れかえっていた。たくさんの人の声が響き渡っている。しかし、その人だかりから少し外れた場所に一人見知らぬ女がやけに目についた。女の恰好はたいして目立つようなものではない、だが目を引かれてしまった。女は何やら口を動かしていた。声など聞こえるはずもない距離でその音は確かに俺の鼓膜を捉えた。
「このヒトデナシ」
護送車に乗った俺は車に揺られながら外を見ていた。そこに広がるのはいつもと変わらない澄んだ青空。結局、どんなことが起きようともそうそう日常なんて大きく変わることはないんだなと俺は感じていた。
この世界はとても空虚だ、変化なんて起きやしない……。
西暦2003年某日、東京新宿の上空に謎の巨人と竜が出現。この日を境に今までの日常は脆く崩れ去っていった。
文章の練習で書きました。かなりめちゃくちゃですが……。