青鈍色の砂漠   作:wachbataillon83

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毒に塗れた手で、我々は一体何を守ることができるだろうか?家族、友人、祖国、地球人類。私が思い浮かぶのは、こんな所だ。皆はどうだ?手を汚してまで守ろうとするのは、どんな事物か?それは、どういう結果を生むために行うのか?


プロローグ"国家行政組織法 第三条 国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする。 第4節 第二項の国の行政機関として置かれるものは、別表第一にこれを掲げる"

事の発端は数か月前、ある省庁で行われた非公式な会議に遡る。

「自然環境局局長」わざわざ肩書で呼ぶからには、間違いなくケンカ腰だ。

「はっ」「きみたちの資料では、この惑星には先住知的生命がいないということになっている」と、拓務省高官。拓務省は、日本が宇宙にその領土、領星、領系、領宙を持ってから、改正国家行政組織法に基づいて新設された、新しい植民候補を探し、テラフォーミングが終了した惑星の自治体形成を助け、その発足まで統治する機関だ。地方自治体としての権能も有する。

21世紀半ばの第三次世界大戦を経て、先進諸国(もちろん、核兵器による先制攻撃を行った諸国だ)で途上国を半ば置き去りにする形で宇宙進出ブームが訪れてから、こうした省庁はG4(日米英印)諸国には必ず有る。

21世紀末から現在に至るまで続く大規模な征服活動は、結論から言ってしまえば当然の帰結だった。豊かな土地が飽和していれば、労働者や中流層でも地主になれる。経営だの帳簿だのが面倒な人々でも、新しい働き口が大量にできる。

戦争と地球の限界といった諸問題が後押しした研究が結実し、現実的かつ経済的なタイムスケールの恒星間活動が可能となったことで、人類は誰もが無限の植民地主義者となったのだ。

"人類"のスケールで見たら、国同士が争う必要もなくなるばかりか、途上国に"ホシを恵んでやる"ことで、そのシーレーン護衛やインフラ整備、あるいは労働集約型産業を担当する大国や大企業がガッチリと胃袋を掴むこともできる。

誰も貧しい思いをしないで済む時代が訪れたのだ。もはや生産性の低い地域に住む人は減る一方、頑固で伝統に忠実な人間、そして政府や経済の中枢で働く者とインテリばかりが、かつてより小さくなった都市で暮らしを送っているに過ぎない。

「もちろんです。コミュニケーションが不可能な相手など…」と、局長。

「だが、奴らは群れを形成し、道具を使い、集団で狩りをやる」と、高官。

高官は思う。人類は今現在、技術・科学・経済の面では宇宙でトップクラスに発達している。その成長を維持していくには、とにかく、奴らを文明と認識しない事が大切だ。

「その程度の動物なら、地球上にいくらでもいます。例えば」言いかける局長。学者目線の、いい加減地球外文明を研究させてほしいという態度が、動物として言い訳するという言い分や、その権限があるという材料を以て発露している。

「能書きはいい。問題は我々があまつさえテラフォーミングをやって地表面を増やし、奴らの住む場所を奪い、しかもそうして出来た土地を開発することだ。その時に起こり得るリスクを、どうやって推し量る?」遮るように言う高官。

高官は想像する。もしも学者が踏み込み、言い訳が効かない程調査が進んで、ノイジー・マイノリティ共が保護や権利を訴えたら?大多数の人類は、薄々分かっていることだ。

しかし、21世紀初頭のリベラルイデオロギーの暴走、20世紀後半の戦争において"きれいでフェアな戦い"を行う為の圧力がかかった事、そうして健全な国家の運営が阻害されてきた事。

そうした事を起こすきっかけを、左派インテリに与える事は反人類、反日的と言える。人類と国家の行く先を考えるならば、文明の存在を認めるなんて暴挙を許してはいけない。

人類の生存圏はその拡張を終えてしまい、再び国家同士が武器を突きつけ合う時代が始まる。人類の為、日本人の為に、絶対に学者を下ろしてはいけない。

"人類以外に知的生命体に該当する種はいない"と主張する御用学者が学会で正当性を持てるのは、自衛隊、拓務、経産、財務、厚労、国交、農水、そしてそれらを代表する各分野の政治家たちが一丸となって協力し、証拠ひとつ残さず惑星を清掃し、情報を操作しているからだ。

その為に、拓務省所轄の衛星のスキャンで"危険で攻撃的な生物"が確認された惑星には、災害派遣や防衛出動でやってきた自衛官しか降下を許されない、という建前が星間法で規定されている。

「生物学者を送って、調査することが一番だと思います」粘る局長。異星生物学の未来がかかっているのだ。現状、植民惑星の大多数には地球の生態系が大幅に持ち込まれていて、ズタズタになった現住生態系の残りカスを観察することしかできなかった。

もちろん、おいしい現住生物がいれば、畜産業の中に取り込まれ、周辺の星系のスーパーでちょっと高い珍味として保護されることはあったが、その程度であった。

「そんなことをしたら、貴様らは現地の生態系可愛さに叫び、喚き、テラフォーミングすらできなくなる。蒸し暑い気候をした猫の額ほどの島嶼を、漁業と観光で食わせる気か?タックスヘイブンになるのも時間の問題だ。人類として、日本人として、それは絶対看過できない」と、高官。

「ことを荒立てるつもりですか」と局長。もはや諦めている。環境省ですら、自然環境局の力は矮小なものとなっていた。水・大気環境局が最大派閥で、テラフォーミングの推進に一役買っている。

「この惑星についても、"通常の手筈"で処理する、今までだって、自衛隊には色んな惑星の"有害生物"の駆除に活躍してもらったではないか。今更世論が特別視するとでも?」と、高官。いい加減、小うるさい自然環境局の人事に圧力をかけるべきだな。

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