「では、あの戦闘は待ち伏せだったと?」と、長門。中隊本部の天幕に、先の戦闘の当事者───"カツシカ"磯波三曹、"アシヤ"伊勢二曹───が呼び出されていた。
彼我が互いにその能力を測り合っている段階にあっては、少しでも手掛かりを得なければならない。
「はい。自分の見立てでは、ステルス性のある魚雷か機雷を用いて初撃を行って動揺を誘い、そうして作り出した優位を以て我に損害を与える。いわゆるハラスメント的攻撃と考えられます」と、磯波。
部下を失いかけ動揺していた筈の分隊長として、その戦術眼には大きく目を見張るものがあった。
「二名の戦線離脱をものともせず、突撃を敢行し敵を撃滅せしめたその手腕は評価に値する。受勲できるよう書類を整えておこう」
「それには及びません、中隊長殿。元より、攻撃のセオリーたる機関銃班の分離をせず、その火力を重迫や重装甲に丸投げしたのですから。彼女たちこそ、今戦闘の立役者といえるでしょう」
「"最後の決は我が任務"だろう?君は小銃分隊の指揮官として、大きな役割を果たした。貰えるものは貰っておくがいい」長門は思った。
何よりも、分隊単位の攻撃でのセオリーは、実際に敵に近迫するのはそのうちの8人、残り2人は機関銃手と副機関銃手だ。それを重迫で肩代わりすることを思いつき、データリンクがあるとはいえ何の連絡もなく割って入った重装甲分隊までもを奇貨とし、突撃を敢行した。
その即席の交互躍進(ファイアアンドマニューバ)は、評価に値する。
無論、いい材料ばかりではない。威力と時間からして有り物を急遽改造、用意したのだろうが、敵が部隊レベルで少しでも水上目標に対する攻撃手段を持とうとしているのだ。
「伊勢二曹、君から何か言うことはあるか?」
「はい。敵は我々の想像以上にタフなようです。10mmAPDSでも一発二発では仕留めきれないばかりか、35mmやハイドラの弾片でも至近弾でなければ致命傷を与えることは敵いません」と、伊勢。
「ありがとう、伊勢二曹。生身のように見えて、先進諸国の軍隊と変わらぬタフさを持つという訳だな」と、長門。
「無論、悪い話ばかりではありません。彼女ら自身の小銃の火力は、前世紀初頭と変わらない程度のものでした。無闇やたらと撃ちまくってきた所で、我々はもちろん、小銃小隊にも、装甲服に線を刻んで戦った証を作るのが関の山といったところでしょう。もちろん、彼女らの水上戦陸上戦能力がこれから向上していくことには注意を払う必要があります」
「ありがとう。貴官らが持ち帰った情報や経験は、とても重要なものだ。一番槍を切った名誉を胸に刻んで、これからも職務に精励するように。部隊の仕事に戻ってよろしい。爾後の行動にかかれ」
「別れます」と、伊勢。今頃補給と出撃後の点検整備で、忙しくなっているだろう。分隊一同、中隊本部の慎ましい整備班を手伝わなければならない。
「あのう、最後に一つだけ質問させていただいてよろしいでしょうか?」と、磯波。
「何だ?」「朝潮一士の容態はどうでしょうか?」
「初雪士長の適切な処置のおかげで安定している。衛生班に聞かなければ細かい事は分からないが、現場に復帰するまでざっと一週間というところだろう。優秀な部下を持ったな、磯波」
「ああ、よかった…失礼しました。別れます」言うや否や、磯波は衛生班の方へと駆けていった。
長門は思った。冷たい言い方をするなら、部下の人心掌握も完璧だ。もしかしたら、彼女が中隊で最も優秀な分隊長かもしれない。気に留めておこう。さて、次のお客様ももてなす必要があるな。
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中隊本部は変わらず蒸し暑く、不快で、暗くて、それでも中隊の中枢だった。今は赤城ニ曹はメシ時で、中本には長門中隊長、足柄曹長しかいなかった。
そこへ、夕張が慌ただしく入ってくる。中隊先任曹長の足柄は、特に何も口にせず、顔からも表情を消している。長門は思う。こいつ、面白がっているな。
挨拶もそこそこに、夕張は話し始めた。
「中隊長、装甲服に対戦車ミサイル等を装備するハードポイントがありますが、硬い目標がない現状、各小銃小隊は空荷で持て余していますよね?」と、施設小隊長の夕張三尉。いかにも腹案のありそうな態度だ。
「ああ、間違いない。それで、今度は何を企んでるんだ?」と、長門。訝しげな返答。長門は思い出す。こいつには、無断で装甲服にピーキーな改造を施して、こっそり演習場で遊んでいた過去があったな。
「ええ、対潜用の4連装短魚雷ランチャーや、部隊に先行して航行し索敵する、長距離航走型魚雷の連装ランチャーを装備させたいと思います」真面目に言っているか、少なくともそれを装っている顔。
「いいアイデアだな。だが、そんな物がどこにある?」皮肉げに受け取れなくもないような、微妙な物言い。
「宙自の工作艦に図面を送って制作してもらい、宙母で物を降下させます。LZ(ランディングゾーン、エルズィー)構築は当初の予定より遅れていますが、今日明日にも完成します」
「よろしい。整備班の明石曹長とよく相談して、書面で形にして来てくれ。そうなれば、ただちに許可する」
ニヤリと笑う夕張三尉。「そう言っていただけると思って、既に明石曹長に渡りをつけてあるんですよ」差し出された物は確かに、熟練した下士官にしか成し得ない程よくまとまった書類だった。
こうなっては鬼の中隊長も、折れるしかない。「ああ、わかった。私の判を押しておく。赤城二曹とも調整しておくように」
かすかな敗北感と、組織の造りを理解した上で提案をできる有能な部下を率いる誇らしさがぶつかり合い、長門の胸に形容し難い感情がこみ上げていた。
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アヴィエイター(圏内機操縦士)は、周りを見渡す。右手には大海原や分隊を組んでいる僚機が見える。そして左には、クソ忌々しい、私の赤城さんが囚われてしまった島。
加賀二曹と僚機の瑞鶴三曹───赤城の後にやってきた、生意気な後輩───は、眼下の重圏内機のために、磁気センサーポッドと対潜ロケット数十発、うち6発の300t級戦術核弾頭をぶら下げた規定通りの対潜装備で、ゆっくりと飛行していた。
乗機は軽圏内機。20世紀から21世紀前半にヨーロッパで流行ったようなカナードデルタの機体の後ろに、4発ものターボファンスクラムエンジンを装備していて、赤外線センサーとレーダーを備えている。
全部核にしないのは、"私の赤城をさらっていった、下の島にかじりついている、ガーデニングが趣味の農夫共"への支援任務に切り替わった時に一緒にウェルダンにしてしまわない為。
誘導弾にしないのは、高性能なFCS(火器管制装置)に機体の制御を譲って"エイムアシスト"をした方が、いちいち知的な弾頭を用意するよりも安上がりだからだ。
第三次世界大戦、系外地球型惑星の大量発見、新植民地時代の幕開けは、大気圏内で運用されるいわゆる航空機にも大きな影響を及ぼした。
高高度核爆発にすら対応できる今までに無いさらなる冗長性、地球型であればいかなる大気でも出力を発揮できる柔軟でパワフルなエンジン、少ないソーティ(出撃回数)で任務を達成する為の莫大なペイロード、それを発揮しきるための優れたセンサーシステム。
逆に要求水準が下がったと言える所があるとすれば、航続距離だった。
航宙母艦から、使い捨ての耐熱シールドを纏い、電磁カタパルトとRATOで大気に投げつけられ、帰りはターボファン/スクラムエンジンのスクラムモードで中間圏まで駆け上がり、無人のスペースシャトルというべき回収機に拾われる。
もしもビンゴ(中間圏まで駆け上がる燃料がない状況)となれば、回収シャトルの方から降りてきてくれる。
そして、無人であり枯れた技術で作られたそれは、敵方が帰還の阻止を企図したとしても容易に代わりを出されてしまうし、そもそも制空権がなければそうした作戦は実行し得ない。
部隊展開や孤立した部隊への補給や災害時の緊急輸送等以外に、着陸という行為の意義は失われていた。航空殲滅戦といえば、飛行場に対するものから航宙母艦へ行われるものを指すようになった。
加賀は思う。これではいけない。私情を仕事に挟むにしても、ポジティブな方向でなければならない。そう、あの島で孤独に戦う赤城さんを支えられるのは、土臭い農夫共だけじゃない。私も同じなのよ。
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重圏内機の最先任士官にして戦術航空士たる翔鶴二尉は、センサー/データリンク統合モニターを見つめていた。脅威を検出した場合に、ただちに対応する為だ。網膜投影によるアラート装置もあるものの、陸の装甲されたフルフェイスの"巨頭症"鉄帽とは違う、タクティカルグラスのようなものだ。
今は、管制下にある2機と地上に展開している陸自の光点しか映っていない。完全に"凪いだ"状態だ。
2機のうちの片方、一機目の斜め後ろを着いていくように飛行している光点に触れる。表示される機体とアヴィエイターの状況。
瑞鶴三曹。今回の派遣で私がこの機の最先任となり、なんとか元からいるクルーと打ち解けようと努力していた頃、名字が似てるねと真っ先に話し掛けた相手。
すっかりウマが合い、任務外では翔鶴姉と呼んでくっついてくるようになった。翔鶴自身満更でもなく、可愛がっていた。
そのような時に、急に赤城二曹がFSCに抜擢され、その穴埋めとして、軽圏内機アヴィエイターとして引き抜かれた。
翔鶴は思う。異動が決まった時は不満有り気だったのに、あの娘はちゃんと任務を遂行できているようね。安心だわ。
それにしても、FSCに経験豊富な幹部を、せめて一曹のアヴィエイターを引き抜かないのは変ね。何か事情でもあるのかしら?
重圏内機は、米ソ双方で20世紀の下旬に作られた超音速可変翼爆撃機にそっくりだが、デカいのは図体だけではない。
重力波探知機、強力な磁気探知機、系外惑星でも探すかのような赤外線センサー、超出力レーダー、通信にも利用できて最大出力で発射すれば300mそこらの敵を焼きかねない程のレーザーセンサー、強靭な翼構造に寄りかかってインテグラルタンクを搭載した故の、長大な航続距離。
それが果たす仕事ときたら、哨戒、軽圏内機の管制、対潜、対艦、あるいは超長距離ミサイルによる対空ミサイルキャリアー、戦略核攻撃、近接航空支援/阻止攻撃等々、多岐にわたる。生き馬の目を抜くような圏内空中戦と、それ以外の圏内任務は厳密に峻別されなければならない。それが、軽重の2機種運用の最も大きな理由だ。
エンジンは、軽圏内機と全く同じものだ。規定の動作時間を迎えたものや損傷/故障したものが溜まってきたら、束にして航宙工作艦に送る。飛躍的な航空エンジン技術の発達が、そうした専門化を招いた。
重圏内機と編隊は、島の北西から南に向かってまっすぐ進入した。一度目の航過は様子見だ。
やがて島の南西にたどり着き東へ向かう頃、無人機管制官の比叡がソノブイその他センサーを満載した使い捨てUAVの四機発射を入力した。二度目のアプローチからセンサーの設置と本格的な哨戒飛行を行うのだから、今から射出しておくのは自然な判断だ。翔鶴は間を置かずに承認、UAVが切り離された。
重圏内機自身も低空で飛行している。中隊通信班の情報や要請を傍受し、圏外の宙母に送信するためだ。本来なら定期便たる降下艇の仕事だが、情報とは早くて多いに越した事はない。
一人の女が、翔鶴の就いている席に向かう。「翔鶴機長、お疲れ様です。交代の時間ですよ」と、副戦術航空士の瑞鳳三尉。
この機体に限って言えば古参だ。戦術航空士としてはともかく、この機特有の問題については一番詳しいだろう。
UAVが射出されたからには、軽圏内機と共に横隊を組んで磁気センサーで索敵をしなければならない。軽圏内機を編隊の最左翼と最右翼に一機ずつ、中心が重圏内機、UAVが左右の間それぞれに2機ずつ、等間隔だ。
きっと瑞鳳も、面倒な仕事の回ってくるタイミングを知って代わりに来たのだろう。翔鶴は苦笑しつつ思った。いらない気を使わせて、貸しを一つ作ってしまったわね。
「ありがとうございます、瑞鳳三尉。恩に着るわ」翔鶴は口早に言うと、その席を瑞鳳に譲る。当たり前ながら、遠慮し合っている場合ではない。
慢性的に戦時下にある航宙自衛隊においては、階級年次席次といったものよりも、ボカ沈を食らった数、宙や海を泳いだ数が物を言う。その筋で言えば最上級に当たる翔鶴が気を遣う謂れは、全くない。
その謙虚さは、ある種の美徳であり、カリスマであった。こうした態度が、乗員を一致団結せしめ、新しく就任した先任士官の下に強固で士気の高い組織を作り上げてきたのだ。
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瑞鳳がモニターを見やると、編隊は島の南東へと差し掛かりつつあり、主たる侵入予想地点から考えれば、反転して西へ向かい、センサー網の敷設を開始しなければならない時期を迎えていた。
思った通りだ、と瑞鳳は考える。管制下にある機体へすばやく180度の変針を命じると、速やかに形成するべき横隊のデータを送る。
横隊の最右翼は加賀二曹の軽圏内機、間に二機のUAVを挟んで重圏内機、またも間に二機を挟み、最左翼は瑞鶴三曹の軽圏内機。
磁気センサーの感度と敷設される音紋センサーの性能を考慮に入れた最適の間隔を設定し、データリンクで送信する。
機内の一同は思った。経空/対空脅威がほとんど無いというのだから、気楽なものだ。
瑞鳳の後ろには、五月雨三曹が機首方向へ通り過ぎて行き、しばらくの後、響二曹が行くのが見えた。彼女らも交代しているのだろう。
「瑞鳳さん、コーヒーです。起きたばかりでしょう?」と、榛名三曹。「いつもありがとうね。頂くわ」
航法管制士は、任務中においては戦術航空士に権限を委譲しているため、完全に暇であったので、雑務を担当することが多かった。
きっと、ほかの勤務に就いている者にも、差し入れを行っていることだろう。
モニターに表示される、中程度の警告。重力波センサーの反応。脅威かもしれないし、例の海竜や海棲大型哺乳類かもしれない。
いずれにせよ、気をつけるに越したことはない。UAVのうち2機を先行させ、編隊を縮める。当初予定したよりもセンサー網の効率は低くなってしまうが、どうせこの1ソーティで全てをこなす事なんか、できやしないのだ。
UAVがいくらか前進したところで、その周囲に正体不明のフリップが新たに5機現れる。"当たり"だ。やっぱり、敵は航空機の存在を予期していた。あの島の中隊だって、降下艇で降りてきたのだから。
だが、どうもUAVを狙っているようではなかった。接近してくる、光学モニターに映る敵影。例のタコヤキに、ロケットブースターを両側面にそれぞれ二本。上には指向性散弾のようなものとラッパ状のものがついている。
予想進路は、この機を指し示していた。
しまった、対レーダー誘導か!瑞鳳は唖然とした。おそらくラッパ状のものは逆探だろう。即席のSEADミサイルというわけだ。
瑞鳳は、数機にレーダーを切るよう警報を出す。当機についても、ただちにシャットダウン。各担当官にも、データリンクでその旨が届く。翔鶴も配置につかなければならない。予備の戦術モニター席で空域を管制していた。
一瞬モニター上の全てのフリップが消え、また現れる。音紋および重力波センサー、磁気センサーや赤外線センサーの情報を統合したものだ。敵対的な"熱源"は、それでもまだこちらへ向かっていた。
瑞鳳はブリーフィングを思い出す。"タコヤキ"は、狩りの勢子として現住生物と共生関係を結んでいること。おそらく、誘導方式に三段階あるということだ。
まず、敵の予測される進路に向けて、ロケットに点火する。そして逆探が我々を見つけ、舵を切る。終端誘導は、タコヤキ共の目かエコーロケーションか知らないが、そうした生物由来のものだろう。
編隊は今や大きく乱れ、各自が迎撃コースや回避コースを取る為散開しているが、熱源の向かう先は変わらない。
おそらく、一番大きな目標を狙っているのだろう。最も機動性が高く回避の余地がある軽圏内機には、激しくレーダーを発振させているにも関わらず、まったく見向きもしない。
この機体は、完全に"わからん殺し"をされていた。だいたいからして、敵のテクノロジーレベルすら知れていないのだ。火器管制士たる叢雲三曹に、ウェポンズオールグリーンを通知する。
間もなくレーザーが発振され、短距離AAMが発射され、30mm機関砲がブチ撒かれた。
だが、敵は突然すぎ、速すぎた。もはや、どの防衛手段の間合いでもない。
迎撃をすり抜けた二機が、機体のそばで散弾を炸裂させる。瑞鳳は予期される衝撃に、身体を固めることしかできなかった。
機首側へと響二曹が走り抜けていく。軽圏内機は、タコヤキの発射地点に向かって、降下しては核ロケットを発射することを繰り返していた。「代わって!」言うまでもなく、五月雨三曹は副操縦席へと移動していた。
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響が操縦席へ座ると、すでに自己診断プログラムが悲鳴を上げたかのように赤い表示を点滅させ、警告音をかき鳴らしていた。
第一、第二エンジンと左主翼に被害を受けたようだ。機体が南側へ、島から離れていく方向へ傾いていく。響は思った。これは本格的に不味いぞ。隠して持ち込んでいたウォッカの酔いは、完全に抜けていた。
強固と謳われたインテグラルタンクにはいくらか穴が開いていて、燃料が漏れ出していた。響は考える。このまま放っておいては、無人回収機による回収もおぼつかないだろう。席に就いた航法管制士の榛名も、同様に理解しているに違いない。
全身から汗が吹き出し、握った操縦桿がぬめる。この有様では、不時着水もやむを得ないか。響は考える。五月雨となんとか機体の水平を維持しようと努力しているが、焼け石に水だった。
後ろから瑞鳳の叫び声。「続いて7発接近!方位125から2発、176から2発…」「Сука!」響は叫んだ。南側からの攻撃が相次ぐのは、当然だった。先日の水上戦闘で、島に近づいたら水漬く屍となる程度のことは、敵もよく理解していることだろう。
おそらくこれは、次の降下艇を阻止するために仕掛けられた罠に違いない。我々は我が兵站を攻撃する筈だった敵のレンジのド真ん中に飛び込んでいったわけだ。
言い切る前に、無人機がレーダーを全開にして敵の予想進路上に躍り出た。どうやら比叡が機転を利かせたようだ。一番遠い群れの対レーダーモードであろう三機が吸収されていく。機体が振動し始めた。自衛火器が火を噴いているに違いない。
それでもまだ4機が残っていた。瑞鶴と入れ替わりにやってきた新参の五月雨三曹は、おそらくこの機の消火器等非常用器材の配置をまだ覚えていないだろう。私がやるしかない。コントロールを副操縦席に委譲し、席を立つ。
「任せるぞ。私は被弾に備えてくる」と、響。「任せてください!避けてみせますよ!」と、五月雨。自分の腕が鳴るとばかりだ。響は、パラシュートや消火器の配置された区画へと駆けだしている。"まさか"に備えるためだ。
響は必要なものを抱えると、前へと戻りながら、各員の足元に救命ジャケット、サバイバルキット、パラを配っていく。そうこうするうちに、迎撃しきれなかった二発が散弾を放った。最後の分を抱えたまま、響は尻もちをついた。
機首の上半分が吹き飛び、真っ赤な操縦席に五月雨だったものが飛び散っていた。頭が真っ白になるが、すぐにしなければならないことを思い出し、救命ジャケットを着込み、サバイバルキットを装着し、パラを背負った。
皆も同様にしていた所に、二発目が弾着する。航法席の下が吹き飛び、榛名の頭がかろうじて機体に転がる。
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響が五月雨の片足を拾ったように、翔鶴も駆け出しその頭の髪をつかみ、片手でぶら下げていた。誰も置いて行かない。死体でも持ち帰る。翔鶴は手近なヘッドセットを掴むと、叫んだ。「メーデー!メーデー!こちらヨコスカリーダー、当機は飛行維持不能、総員脱出する!」
「聞こえたわね!皆、この機体は捨てるわよ!急いで!」やがて横のハッチを手動で開くと、滞りなく落下と開傘が行われた。私に続いて3人分、花が咲く。どうやら皆無事のようね。榛名の頭を抱きしめ、ふわりと地面に向かいながら、翔鶴は思った。
今回も絶対に生きて還る。誰一人置き去りにはしない。死体であっても。
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「クソ!クソ!クソッタレ!」瑞鶴三曹は精神的に不安定になっていた。この場の編隊長となってしまった加賀二曹は、瑞鶴三曹の乗機からアヴィエイターへの鎮静剤の注射と新たな目標の位置を指示する。ミサイルの発射地点に向かって、逃げられる前に対潜ロケットによる制圧を行なわければならない。瑞鶴三曹を放って置いたら、キチガイじみた低空飛行をして乗員を探し出すだろう。だが、それは農夫どもの仕事だ。
加賀二曹は、戦術モニターと目視で被弾地点や墜落地点、乗員の着水した位置を記録すると、生きている1機のUAVへ引き続きセンサーの敷設を指示すると共に、発射地点への報復攻撃へ移っていった。全部使ったら、さっさと中間層へと駆けあがって、おとなしく回収されるつもりだ。地上の中隊が通信を傍受し、作戦を立案し出撃するにしても、まだまだ時間があるかもしれない。私たちにできるのは、見える限りの脅威の排除、索敵、そして次に備えて機と身体を休めておくことだ。
加賀はヘッドセットに向かって呟く。「エナ・コントロールへ、ヨコスカ1、着水座標を転送する。388757、165385。終わり」
畑違いの所の作文をやってしまったので、考証面に非常に不安があります。空の本職の方で、こういう時はこうじゃないかとか、こういう言い方はしないんじゃないかとか、そういったご指摘があったら教えていただけますでしょうか。