#3 自衛隊法 第九十条 第一節 職務上警護する人、施設又は物件が暴行又は侵害を受け、又は受けようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合。
長門は相変わらずデータパッドで全況を俯瞰していた。
「メーデー!メーデー!こちらヨコスカリーダー、当機は飛行不能、総員脱出する!」「クソ!クソ!クソッタレ!」「エナ・コントロールへ、ヨコスカ1、着水座標を転送する。388757、165385。終わり」
しばらくの後に、データリンクから重圏内機が消失し、軽圏内機も有るだけの弾をばら撒いたら駆け上っていく。健気なUAVが我々からもアクセスできるセンサーをばら撒いていたが、それもすぐ撃墜されたようだ。
長門は足柄と目を合わせる。事態に対してこれからやるべきことは分かり切っていたし、座標のおかげで頭の中でも段取りがついていた。「足柄、各級指揮官を集めてくれ」「了解しました」
すぐさまパッドに入力していく。今や無線封鎖は解除されていた。我々がここに居ることも、積極的な軍事行動を取ろうとしていることも明らかであった。
#
各々、中隊本部の天幕に集まるなり、すぐにタバコを吸い始める。すぐに視界が紫煙で曇っていった。
「さて、事は急を要する。結論から言うぞ。君たちには救出部隊のための中継拠点を築いてもらう。施設小隊と重迫小隊は一小隊、三小隊、重装甲二個分隊と共に前進、35km地点に浮き砲台を設置してもらう。質問は?」
「はい!あの、艀とかの運搬は…」と、夕張。面倒くさそうな結末を予期しているとしか思えない言い方。
「喜べ。重迫撃砲と虎の子の誘導弾頭、対砲迫レーダー、救命キット、衛生班整備班の一部、それから予備の弾薬、バッテリーを満載させた状態で引っ張っていけ。重迫小隊と協力しろ」
「了解しました。ありがとうございます…」すごすごと引き下がる夕張。
「一小隊も、艀を押すにあたって協力するように。救出隊の主力は、三小隊と重装甲二個分隊。残りの二小隊は各陣地に分散して警戒、重装甲一個分隊は予備として残置する。一時間以内に準備しろ。以上、別れ」
「「別れます!!」」言うなり、一目散に駆け出し、走りながらデータパッドで各所轄に命令を下達する一同。一分一秒に"人"の命がかかっている。それだけのことだ。急がない理由なんかどこにもない。
長門は未だに中隊本部で油を売っている赤城に目をやり、一言。「お前も行くんだ。主力と共に」
「は、はひィッ!わかりました!赤城二曹、ただちに準備にかかります!」言うなり、猛ダッシュで駆けだしてゆく赤城。どうやら、ぼんやりしているだけで全く腐りきっている訳ではないようだ。
#
宙自の工作艦「はるとり」では、旗艦たる宙母「えな」からの要請に基づき、水上戦力の投入について研究していた。
曰く、陸上危険生物の潜水艦と違って人が何人か海底に立っているだけでも見つけられなければならない、水面下の攻撃に対して素早く感知でき強靭でなければならない、等々…
前代未聞の要求に対して、がらんどうの格納庫に、作業機械と器材、モジュラー型水上艦プラットフォームの居並ぶ中で、涼風二尉を始めとする技術者陣は困惑し、頭を抱え、あるいは落ち着きなさげに歩き回っていた。
この百年で、対潜能力に進化がなかったわけではない。むしろ、長足の進化を遂げていたと言っても過言ではない。
だがそれは、潜水艦に対してのものであって、水の中を歩いて回る生命体にこの技術系統を適応するには、相当な困難が予想された。当面は、圏内機によるソノブイやSOSUSから得られたデータを適用して処理するしかなさそうだ。
艦首に大きく突き出した部分を作って磁気探知機を装備する線もあるが、そのためには艦体構造に大きく手を加えなければならない。そのまま装備してしまうのでは、自艦の磁気特性に妨害されてしまうからだ。
後々やっていくにしても、今すぐ用意できるものではない。ここで行われている戦いのためには、今ある器材でやらなければならない。ふと、涼風二尉は思いつく。
いっそ、センサーとしての役割はソノブイやSOSUSの情報に投げて、艦そのものは火力プラットフォーム、いわゆる機動性のあるアーセナルシップとしてしまった方が良い。
海底にへばりついて待ち伏せしている場合は別だが、作戦行動中で動き回っている敵なら、アクティブ/パッシブソナーでも検知できる。陸から面白い図面が届いているから、それも搭載兵器にしてしまおう。
夕張と明石が設計した個人用短魚雷や索敵用長魚雷は、艦内工廠ですでに生産ラインに乗っていた。あれを艦にも搭載できるようにすれば、近接索敵や近接防御用として役に立つかもしれない。
そして、陸自の水上航行能力は数十キロが限度だ。補給・修繕機能も必要になってくる。武器、弾薬、糧食、バッテリー等はどうにかなるが、技術者は降りている中隊に割かせるしかないだろう。
涼風二尉は、作業の段取りを始めた。皆を集めて、先に思いついたことを話す。誰かが挙手し、質問した。「それでは、センサー圏内でしか活動できないのではありませんか?」
涼風二尉は答える。「あたいらに今必要なのは、遠出する能力よりも、足元を固めて後顧の憂いをぶった切ること。そのために、火力と陸さんのための兵站拠点となる船が必要ってワケさ」
重圏内機がUAVでやる程に効率が良い訳ではないが、今は回避能力のある軽圏内機が連続で出撃し、センサー類を敷設し、海面に上がってくる敵を掃射している。活動できる範囲も多少は広いということだ。
別の技術者から質問。「艦にソノブイやSOSUSの投射装置をつけてはどうですか?宙自の皆さんの負担も軽減できますし、自ら活動範囲を広げることも可能です」
「いけるいける!その案採用だ!」と、涼風。基本の仕様はまとまり、各々が打ち合わせをし、作業に取り掛かり始めた。涼風は思う。あたいも、書類仕事を片付けたら手伝おう。
#
すでに部隊は出発していた。出た時にはもうすぐこの惑星の陽が暮れる頃だったが、時間を選んでいる場合ではなかった。中継ポイントは南南西35km先、目の前には大海原しかない。
救出分遣隊の指揮官は木曾三尉。弾を潜り抜けてきた数では中隊でも1、2を争い、片眼を軍用高性能義眼に置き換えている強者だ。
中継地点の責任者は、当然のことながら夕張二尉に与えられる。重迫をはじめとした装備、弾薬、糧食、医療キット、衛生班や整備班のうち数名、そして救出隊として進出する三小隊と重装甲二個分隊、それに赤城二曹を合わせた状態で、一小隊、施設小隊、重迫分隊が引っ張る。
もちろん、夕張二尉もできるだけのことはした。艀の底面に弾頭を外した対戦車ミサイルを固定し、その推進力で少しでも負担を軽減しようとした。
目下のところ、それは不十分に終わっている。夕張は思う。結局のところ、一番のアテは、牽引する我々の根性ということだ。
「夕張二尉、まだまだかかりそうっスか?」とは、望月三曹。生意気でものぐさなところはあるが、頭の回転は速い方だ。夕張は内心で思っている。わが小隊の後を継ぐのはこいつだ。
「もうすぐよ」と、夕張二尉。短く呟く。それを聞いた一同は考えた。気休めに違いない、と。この艀を引いている者全員が、まだどれぐらいあるとか、どれぐらいかかるとか、そういった事を考えないようにしていた。
しかし、幸か不幸か、それは気休めではなかった。すでに陽が落ちている。責任者として管理せざるを得ない夕張二尉は、どこまで進出したかを正確に把握していた。
それから、煙草を一本吸い終わる程度の時間が経った時。
「停止!艀を前から押せ!」と叫ぶ夕張。そら見ろ、また危なくて疲れる仕事だ…と、一同。固定した荷も解かないといけないし、救出隊の出撃準備もしないといけない。重迫だって展開しなければならない。波による揺れを考慮しなければならないことは、熊野三尉にとっての頭痛の種となることだろう。
そうして作業に入って、荷物が粗方解けたあと、小銃手らしい装甲服を着た奴らとおっかない身長4メートルの重装甲服を着た集団が駆け寄り、配る段取りもつけないうちに装備を半ば奪うように受領していった。
彼女らはやがて整列し、各員の装備を点検する。慌てていたものだから、何人かが走ってきて、各々目当ての物を持って行って、再点検する。
今度はうまく行ったようだ。艀の縁に近い者から順に着水していく。隊形は展開してから整える腹積もりのようだ。
夕張は思う。長門中隊長の原隊から引っ張ってきた重装甲分隊二個に、一部では"陸上救難隊"とまで綽名された精鋭木曾小隊。彼女らの練度なら、きっとうまく行くに違いないわね。
#
艀が止まり、荷解きが終わる頃、我が臨時救出隊の準備は整った。三小隊と重装甲分隊二個。まるで多段式ロケットの先の方のように補給地点から撃ち出され、宙の"水漬くマヌケ"を拾いに行くのだ。
もう日は完全に暮れている。夜の闇の中で、救出隊は重装甲分隊二個を先頭に、赤城二曹含む三個小銃分隊が続く綺麗な楔型隊形を、4層に渡って組んでいた。いわゆるパンツァーカイルという奴だ。
その救出隊の隊長を担う木曾は思う。全く、今度はどこのマヌケか知らんが、宙の連中ときたら、俺たちに尻拭いさせてばかりじゃねえか。
木曾が戦闘救難任務を引き受けたのは、これが初めてではなかった。片眼を失ったのも、こんな夜のことだった。
相変わらず全速で海上を行進しつつ、装甲服のバイザーを上げると、左腕上腕部の防弾盾の裏に装備していた私物のポーチから煙草の一本を抜き出し、それをくわえて、火をつける。
指揮下にある各下士や兵卒も、倣うように煙草を吸う者、ガムを噛む者、水を飲む者、持ってきたおやつを食べる者、中には口笛を吹いている者もいた。
木曾は思う。すごいな、この合成風力でまともに吹けるのか?あとでやり方を聞いておこう。そして赤城の方を見やり、呆れる。それなりのサイズのドーナツを、貪るように食べていた。あんなもの、どうやって持ち込んだんだ?
本来なら、数十キロの長距離行軍ともなれば、小休止や大休止を取りたいものだが、この海上には寄りかかる樹木や岩石もなければ、座り込む地面もない。各々、気慰みが必要だ。
防弾盾は、陸上自衛隊で言うところの中間姿勢、つまり片膝をついてしゃがんで撃つ時に身体のほとんどを覆うために採用された。立射の姿勢で小銃を構えていてさえ、心臓や上半身の左半分を守ることができる。
それは、小銃小隊にだけ配備される、真なる歩兵の証だった。小銃手たる者、誰もがこれを誇りに思い、陣地構築時には疎ましく思い、そしてどこかで買ってきたポーチやら何やらを裏側に付けて、嗜好品を忍ばせている。
一方重装甲分隊らの方はというと、沈黙を守るばかりだった。当然だ。任務中、彼らがあれを脱ぐには非常用の脱出装置しかない。そうしたら、装甲服は全部バラバラになり、それが海上なら浮き輪でプカプカと助けを待つことになる。
木曾が重装甲分隊の方に目をやると、プラスチックの棒の先に斜め下に垂れ下がった金属探知機をくくりつけたようなものが見える。まるで自撮り棒のようだが、これが即席の機雷探知機なのだ。
夕張三尉や明石一曹をはじめとした整備班と施設小隊が、満を持して送り出す自信作!という訳ではないが、対人機雷や魚雷のようなものを見つけようとする中で、今できる限りを尽くしたといった所だろう。
重装甲分隊は通常4人で編成される。二個分隊が分派されたのは、火力の為だけではなく、前衛を担当させるためでもあった。
木曾三尉は思う。そういえば、この惑星にも月があったな。空を見上げると、確かに輝いていた。あの磯臭え野郎どもが殺しに来なけりゃ、風光明媚極まる所だったろうにな。残念で仕方ねぇ。
そうして、各々が気怠く、かつ素早く海面を滑走して、15分はした頃だった。先頭を行く霧島三曹から全隊に警告が入る。金属探知機に反応アリ。
聞くなり、第一、第二分隊は左右を守るべく複縦陣へ転換、第三は後ろ向きに楔型隊形を形成している。
行軍を停止し慌ただしくも正確に陣形を形成した自分の部隊を眺めながら、木曾は思う。そりゃあそうだ。連中、絶対海上封鎖をしているに決まってる。
我々にしたところで、必要だから出向いただけで、互いに分からない同士探りを入れ合いつつ、武力を誇示して余計な手を出させない。そういうつもりでいたのだ。
軍事的合理性に従うなら、向うだって同じ筈だ。この間の磯波三曹の圧勝。慎重な態度になって、警戒ラインが遠巻きになるのも当然だ。
だが、その戦いが示した、待ち伏せ攻撃の合図にできるような機雷。波に揺られようとも同じ深度、同じ場所を保持できる機雷も、我々に衝撃を与えた。我々の敵は、想像以上に技術的な発展を遂げている。
そして、今度の重圏内機に対する迎撃。向うにも我々位には技術を応用する能力を持っていることは明らかだった。決め手となった、奴らのラボで作られたものを直送したような"カミカゼタコヤキ"。
おそらくは、地上や電波に対する基礎研究があったのだろう。現状、我々よりも奴らの方が"知っている"。そう認めざるを得ない。
そこまで考えた所で、前方、重装甲隊奇数番機の左肩にマウントされた60mm自動擲弾銃が前方を薙ぎ払う。木曾も話には聞いていた、対水中用の遅延信管擲弾だ。不幸中の幸いというべきか、水中の方が地中よりも衝撃が伝わりやすく、対人障害の処理が容易い。
重装甲服は、全ての機体にどちらかが搭載されている右手の25mmガスト式機関砲や35mmセミオートライフルのように、左側にもまた様々な兵器を搭載することが可能だ。
そうして機雷源を排除した先で、引っ掛かったとでも勘違いしたのか、発砲炎が上がる。時たま、少し大きい発砲炎が見えた。たちまち網膜投影―――HUDのようなものだ―――で、レーダーや赤外線により発見された敵が四角くポップアップされる。木曾は相変わらず落ち着き払っていた。なあに、"中"はともかく、"上"ではこっちか勝ってる。
重装甲隊偶数番機の搭載した対水上/対空レーダーが、水面から頭とライフルらしいものを突き出した敵や、カミカゼが向かってくることを示している。20世紀前半の対潜水艦戦のようだ。
木曾の分隊も、仕掛けられるや否や、交互躍進に移行する。各分隊長の指揮下で、5人がその場で射撃し、残り5人が前進する。これを交互に繰り返し、重装甲隊が切り開き先に通っていった機雷源を突っ切っていく。
およそ50mの間隔で、救出隊の各分隊は前進していった。射撃には問題ない。重装甲兵のレーダーが、敵を照らし出しているのだ。当たり前だが、機雷源を通り抜けているのだから、機動する方は全力で駆けている。
こんなことで足止めを食っては、時間がいくらあっても足りない。やがて突破した部隊が横隊に展開し射撃を開始すると、今まで射撃に専念していた班が素早く縦列を取って前進する。これを小隊全員が終わるまで繰り返す。
つっかえたのは、最後の小隊、最後の班だった。「こちら霞一士、足に被弾!嫌!こんなところで、私は!」こんな整った口をオープンチャンネルに利けるのだから、大した傷ではないに違いない。
木曾は小隊全員に横隊での射撃を命じると、"気合いと根性"を注入するため、霞士長のもとへと向かっていった。
#
霞一士は分隊に置き去りにされ、絶望感を味わっていた。ああ、まさか…そう思っていたら、センサーに反応。小隊長だ。よかった、助けに来てくれた。
だが、やってきた小隊長は、目の前に来るなりバイザーを殴りつけ、こう言い捨てた。
「馬鹿野郎!心配かけさせやがって!網膜投影をしっかり確かめたか?出血もクソもない、ただのかすり傷じゃねえか!大方、衝撃にビビってチビってんだろ。ひよっ子が」
続けざまに、木曾は言う。「自分のケツにミソつけても、分隊の面子にミソつけんな!両手両足が、首から上がぶっ飛んでも、仲間を信じろ!お前らの分隊員がそのまま前進していった時、絶望したか?」
「はい。救いようのない絶望感に覆われて、仲間を疑いました」
「奴らは、お前の傷が装甲服が修復してくれるような大したことない物であることをを理解して、前進したんだ。この間、磯波分隊の遭遇戦の通信を聞かせたよな。覚えてるか?」
「はい、しっかりと」
「本当にしっかりと聞いていたか?朝潮はこう言った。私なんか放って退がって!私一人のために、分隊が危険に晒されるなんて、ってな。あいつは死と向き合って、未来を仲間に託そうとしていたんだ」
「自分は、その意義を理解する努めをしていませんでした」
「ああ、そうだ。そして朝潮は、初雪の冷静かつ的確な手当によって、一命を取りとめた。俺の小隊にいるなら、お前も誰かを救う女になるんだ。深呼吸して、仲間を助けるイメージをしろ。訓練を思い出せ」
「ありがとうございます。霞一士、分隊に復帰します!」
「その調子だ。お前は立派な歩兵になれるぞ。頑張れよ」
そう言って、小隊長は霞に軽くハグをしたあと、前進し、小隊全体の再掌握へ向かった。
小隊長直々に、精神の揺らぎを除去してもらった。私も、人を助ける。皆も、私を助けてくれる。その事実を噛みしめ、霞も前進を再開した。まずは、後れを取り戻さないとね。
#
真っ暗な、なんの光源もない闇。微光暗視装置すら、宛にならない。レーダーとFLIRシステムだけが、網膜投影で四角くポップアップさせ、敵を見せてくれる。きっと、部隊の皆がそうなっている。
たまに動画サイトに上がっている昔の米軍の無人機やヘリコプターのガンナーの世界、霧島の目の前に、白黒の世界が広がっていた。
霧島三曹は、機雷原を突破して横陣を組んでからというもの、夜闇の中でUボートの潜望鏡のように顔を出して撃ってくる敵を相手に、部隊ぐるみで射撃をしていた。
霧島は思う。何人殺したか分からないが、こっちに鉄砲を向けてくる相手に容赦は要りません。
もぐら叩きを楽しんでいた霧島三曹の網膜投影に赤く危険表示がなされたのは、高速で接近してくる物体が感知されたからだ。レーダー搭載機からのデータリンクだ。
霧島は叫ぶ。「重装甲分遣隊、対空目標へ向けて射撃!偶数番機は翔鶴データに従って、逆探から光学/音紋誘導に切り替わる前にレーダーを切る事!」
そして、右腕のガスト式機関砲をカミカゼの進路上にばら撒きつつ、奇数番機の自動擲弾銃を指揮官権限でオーバーライド。レーザーによって得られる接近速度と測距に合わせて空中炸裂するよう、弾幕を張る。
カミカゼの大半は撃破したと思ったのも束の間、霧島は呆然としていた。潜り抜けてきた機が、自分の部下に向かって、突っ込んでゆく。
それは、ひどくゆっくりに見えた。自分の腕の動きすらも。ああ。部下のうちの2人に、散弾が浴びせかけられる。…散弾?それなら、
「分遣隊長に報告!二人が被弾!うち一人については、身体に損傷なきものの、機体の戦闘継続は不能!私が後送します!送レ」
「分遣隊長了解。直ちに実行せよ。終ワリ」助かった。部下の命は。それでも、二機がミッションキル(戦闘に参加できない状態に追い込まれる事)されてしまった。
「霧島三曹、こちら木曾三尉。第一分隊を班ごとに配置転換する。指揮権は分隊長からそちらへ委譲する。掌握されたし。送レ」「了解。ただちに隊形へと組みこむ。感謝する。終ワリ」
言うなり、一分隊が合流した。正面を重装甲二個分隊と一分隊で固めて敵を圧迫し、二分隊と三分隊は木曾少尉自ら率いて右翼に展開し、敵に対して戦闘正面の拡大、あるいは片翼包囲を狙っているようだ。
もし片翼包囲が成ったならばそのまま十字砲火が成立するし、木曾少尉隊に押し込む隙がないようなら、重装甲分遣隊基幹の我々が火力と装甲を活かして撃ち合いを制し、前方の敵を殲滅、あるいは撤退に追い込む。
中心の敵を食い破ったなら、相手の真ん中に重装甲分遣隊だけで割って入り、左右を各個に撃破すればいい。
霧島はすでに一分隊は隊形の左に展開していた。続けざまに霧島は考え込む。
敵の数は少ない。先程から殺している数を考えれば、今相手にしているのが敵の中隊の予備とされた小隊に違いない。
網膜投影を俯瞰モードにすると、新しく部隊を抽出したのか、それとも連隊や師団級の予備か、あるいは他部隊から抽出した戦力を束ねて先行させているのだろうが、そういう部隊が翔鶴らの着水地点の間に急いで陣を整えているのが観測された。
常に対潜装備で警戒飛行している軽圏内機からのデータを、赤城ニ曹経由で手に入れている。霧島は思った。阻止攻撃(集結した部隊や移動中の部隊を叩く事)の可否は、救出隊長の木曾三尉に権限があるから、私がどうこう口を挟むことでもないわね。
だが、このデータが、大胆な包囲機動につながっているのは間違いない。目の前の敵部隊は、増援が次の防衛ラインの構築に割り当てられている。要するに見捨てられ、次の部隊に未来を託して戦っているのだ。
霧島は、虎の子のカミカゼも撃ち尽くして、絶滅の秒読み段階に入った敵部隊を見ながら思った。親子や恋人の関係と、死にゆく彼女らの、軍や民族への愛。一体どちらが強いのでしょうね。
#
木曾はなんの制圧射撃もなくあっさりと側面を取る事に成功し、軍から見捨てられた敵らを見つめ。自分の匙加減ひとつで死ぬ定めにあることを感じていた。
経験と習った物事の数々が、一斉に囁く。攻めるなら今だ。
木曾はその衝動に従った。複縦陣で側面を晒している形になる今の隊形を、そのまま見る角度を変えて横隊二列となす。
木曾は叫ぶ。「分隊単位で交互躍進!接敵あればこれを近接戦闘にて殲滅!総員かかれ!」
「「了解!」」叫ぶなり、交互躍進が行われる。分隊単位なので、十人が片膝をついて敵を撃ち、もう片方の十人が一定距離まで前進し、射撃姿勢をとる。その繰り返しだ。
統率の取れた部隊の動きに満足していると、歌が流れてきた。オープンチャンネルどころではない。忘れもしない、あの霞の声、外部スピーカーの全力だ。
「万朶の桜か襟の色 花は吉野に嵐吹く 大和女子と生まれては 散兵線の花と散れ」片方が前進を終え、もう片方の分隊が前進し出す。
「「尺余の銃は武器ならず 寸余の剣何かせん 知らずや宇宙に二千年 鍛え鍛えし大和魂」」敵の反撃が、ちらちらと見える。
「「「軍紀を守る武士は 全てその数二百万 八百余箇所に屯ろして 武装は解かじ夢にだも」」」指揮官が戦死しているのか、後退する様子もない。
「「「光年天文宇宙越えて 我に仇成す国あらば 港を出でん輸送艦 しばし守れや宙の人」」」こうなったら、相手も捨てがまりだ。
「「「敵地に一歩我踏めば 軍の主兵はここに在り 最後の決は我が任務 戦車砲兵力せよ」」」血みどろの近接戦闘が始まろうとしている。
「「「アルプス山を突破せし 歴史は古く雪白し 奉天戦の働きは 日本歩兵の粋と知れ」」」木曾は思う。私も加わらなければならない。なぜなら、普通科だから。
「「「携帯口糧あるならば 遠く離れて三日四日 荒野千里に渡るとも 散兵線に秩序あり」」」すでに皆、着剣している。私も続かねばならない。
「「「退く戦術我知らず 見よや歩兵の操典を 前進前進又前進 肉弾届く所まで」」」先頭の部隊はすでに突き殺し、あるいは刺して発砲し、
「「「我が一軍の勝敗は 突撃最後の数分時 歩兵の威力はここなるぞ 花散れ勇め 時は今」」」木曾自身も銃剣を横に突き刺し、薙いで、はらわたを引きずり出していた。
「「「ああ勇ましの我が兵科 会心の友よ来たれいざ 共に語らん百日祭 酒杯に襟の色映し」」」すでに何人殺しただろうか。また一人、目玉をえぐる。私自身にもわからない。
戦闘が終わってみると、やはり我々の圧勝だった。犠牲者は確認できない。戦った証は身体にではなく、装甲服に刻まれていた。
敵の刃の跡、返り血、腸を知らないうちに担ぐように肩に下げている者もいる。
ここまでは快勝だ。だが、きっと次はもっと大軍で来るだろう。航空偵察情報がそれを示している。阻止攻撃を依頼したから、少しはマシになるだろうが、それでも油断ならない量。
興奮しすぎている者には装甲服から鎮静剤を注射させ、全隊を集合させなければならない。
規律と士気を迅速に復旧するのだ。
木曾は思う。これは前哨戦、ここからが本番、メインディッシュだ。
データパッドに映る、航空阻止攻撃や重迫撃砲に削られながらも増え続ける大群を見つめ、木曾は自らの血が沸き上がり、武者震いを感じた。
元自衛官、物を書いた経験のある方のアドバイスを心待ちにしております。