とある艦娘がほしい男の建造ドックを廻る物語。

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周り一面様々な機械や艦娘の艤装で埋め尽くされた建物、その中を1人の男が奥へと進んでいた。オイルや煤、鉄の錆び付いた匂いと、風に乗って運ばれる潮の匂いが入り混じった独特な雰囲気が辺りには広がっており、それは3m近い天井や薄暗い照明も相まって不気味さが感じられるが、男は小慣れた動きで機械の合間を歩き、時には越え……そして時には若干躓きそうになって進んでいた。

 

 

(……そろそろ片付けしねぇとな)

 

 

最初こそ提督や艦娘の持ち回りで十分片付けできていたが、規模も大きくなり艦娘も増えた現在、時間が空いている者のみでこの機械屋敷を整理するのは無謀と言えるほどだった。工作艦である明石が無性に欲しくなる。

 

 

(明石か……2-5で掘りでもしてみるか)

 

 

戦力が揃ってきた今なら2-5でも安定して周回可能だろう。ゲームでは何回目に連れ帰った(ドロップした)のかは覚えてないのが懸念であるが。

 

 

(この世界の明石はどういった役割を持つのか未だ分からないけど、コレを整理することはできるだろ)

 

 

と、考え事をしている内に、さして広くもないこの建物の最奥にして男の目的地である『建造ドック』にたどり着いた。

 

 

(……確かに、この世界に来てから鎮守府を立ち上げ、規模を広げてきた。だが……だがまだ()()()は居ない。俺の元嫁艦は……未だに建造もドロップもしていないんだ!)

 

 

男がドックに来たのは今日だけでは無かった。男は鎮守府を立ち上げてからほぼ毎日、ここに足を運んでいた。ここは男の始まりの場所だ。深海棲艦に攻め込まれ、捨てられた名も無き鎮守府……この鎮守府に転生してから早3ヶ月。男は原作(ゲーム)知識というチートを存分に利用して鎮守府と近海の制海権を取り戻したのみならず、今や逆に深海棲艦を片っ端から殲滅していた。それらの軌跡と切っても離せないのがこの建造ドックであり、男を支え続けた生命線だった。そして、今もなお資源に余裕ができれば頻繁に通い、ある艦娘の建造を祈り続けていた。

 

 

(今度こそ……今回こそ……)

 

 

男は今日も既に何度もドックに来ており、今もおよそ1時間前に始めた建造の結果を見に来たのである。その間、男は敢えてバーナーを使わずに提督室に篭り絵を描いていた。ゲームのジンクス「描いたらドロップする」に縋るほど男は切望していた。そのおかげで絵の上手さがこの1ヶ月ほどで急上昇していたが、それは関係のない話である。

 

 

(今日……4回目……コレで最後か)

 

 

戦艦や空母レシピよりは消費が少ないレア駆逐レシピとはいえ、艦娘らが掻き集めた資材を建造で無意味に溶かし続けるような真似は男にはできなかった。そのため、男は1日に建造できる回数をゲーム時代のデイリーに合わせて4回までに制限していた。ゲームでないためクエストなんて存在しないが、それが無いと永遠に……資材が底を突くまで建造しそうなため、当然の自制であった。

 

 

(今日は、確か木曾、北上、阿武隈……)

 

 

3人とも既に鎮守府に着任しており、この世界の仕様で同じ艦娘の2体目以降は艤装のみがドロップされるために建造されたのは艤装のみであったが、男はこの流れに手応えを感じていた。

 

 

(だがしかし、ノーマル、(シルバー)(ゴールド)……流れは悪くない。今度こそ……頼む!)

 

 

意を決して、男はドックの前方の縁に付いている『GET』のボタンに触れる…………すると、部屋中に虹色の光が満ち溢れた。

 

 

(この……光は……)

 

 

男はこの光を知っている。過去に一度、戦艦レシピを回した時に見た光だ。そして建造されたのは『陸奥』……そう、虹色(Sレア)だ。

 

 

(これは…………これは…………)

 

 

思考が上手く回らない。祈ることも忘れ、男はただ呆然と虹色に輝くドックを見つめていた。そして、目を開けられないほどの白い輝きに視界が覆われ……光が治ると、そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風ですっ!

 しれぇ、よろしくお願いしますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………チェンジで」

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物から出ると、機械まみれの風景から解放されて潮の新鮮な匂いとざぱーん、という緩い波音を感じ、男はどこか冒険から帰ってきたような気分に陥った。

 

 

「しれぇ!チェンジってどーゆーことですかっ!」

 

 

……となると、先程から隣で喧しく騒ぐ少女は、ボス部屋の奥の宝箱から手に入ったアイテムになるのだろうか。感覚としては剣士なのに超激レアの杖を手に入れた気分である。

 

 

「うっせ。ハズレアイテム」

 

 

「ひどいです!?あんまりですっ!訂正を求めますっっ!!」

 

 

その後も煩く騒ぐ雪風を頭を押さえたりして適当にあしらっていると、男は提督の執務兼生活兼艦娘の生活の場1である外見はアパート風建物に辿り着いた。艦娘については現状この建物では収まらず隣に新築した通称『艦娘寮』が生活の場2になっているが。ちなみにその1の通称は『提督寮』であり、設備の質は劣るが何故か倍率が高かったりするのだが、今は関係ない話である。

 

 

「もう……しれぇのバカ」

 

 

中に入る頃は騒ぎ疲れたのか雪風も大人しくなっており、そっぽを向いて悪態を付つくだけとなっていた。怒りで熱が上がったのか若干顔が赤い雪風を横目に、他の艦娘に迷惑かける心配がなくなったことに男は内心でほっと息を吐きながらドアを開けて中に入る。

 

 

(ん?あぁ、熊野か)

 

 

建物の中はそこそこ広いスペースがあり、ドアの付近には待ち合わせなどに使える机や椅子が置かれている。その一つにこちらに背を向けて座る栗色のポニーテールを発見する。おそらく鈴谷と待ち合わせでもしているのだろう、背後からでも分かる気品漂う姿勢に感心しつつ、この後特に急用もないことを脳内で確認した後、男は彼女に話しかけることにした。とはいえ急に話かけるのもどうかと思い、椅子に近づき彼女の肩を軽く叩いた。

 

 

「鈴谷、もう終わったんですの……あら、提督?」

 

 

「よ、読書中にすまんな」

 

 

「構いませんわ。提督は、ああ建造に行ってましたわね。結果は……なんとなく察しましたわ」

 

 

「うん……でもまぁ、成果0ではなかったのが救いかな」

 

 

「しれぇ?」

 

 

背後から雪風が話に割り込み、そこで男は扉辺りで雪風を放置していたことを思い出した。

 

 

(あ、そういや中入ってから無言だったわ。わりぃ雪風、忘れてた)

 

 

男が雪風に対し酷いことを考えていると、熊野が口に手を当て、驚いた表情を上品にしていた。雪風もそれに気づき、「あっ」と声を上げる。

 

 

「まぁ、雪風じゃないですの」

 

 

「熊野さんっ!お久しぶりです」

 

 

「ラバウル以来、ですわね」

 

 

「はい!ここでもまたよろしくお願いしますっ」

 

 

「こちらこそお願いしますわ」

 

 

「へぇ。2人って知り合いだったんだな」

 

 

「えぇ。艦の頃にちょっとした縁があったんですの」

 

 

(ふーん、ゲーム内で2人の会話ってあったっけ?あ、そうだ)

 

 

「ならさ、雪風をこの鎮守府に案内するの、熊野に任せて良い?」

 

 

建造されたばかりの艦娘は、なにかと精神が不安定な娘が多い。だから男は、建造した艦娘は鎮守府を案内した後、縁や繋がりがある艦娘か姉妹艦に面倒を見させることにしていた。雪風は表面上は普通だが、内面は分からない。史実でゆかりのある熊野なら安心できるだろう、と思っての判断だった。

 

 

「案内くらいは俺がやろうかと思ってたけど、熊野ができるならやってくれない?雪風も熊野の方が良いだろうし」

 

 

「あら。鎮守府の案内は提督の役目ではないんですの」

 

 

「え、いや別に?なんかいつの間にかそんな風になってるけど」

 

 

新規に建造やドロップされた艦娘は男が鎮守府を案内する……というのは艦娘の数が少なく余裕が無かった頃にできた不文律であり、余裕がある今は特に守る必要はないと男は考えていた。しかし、男がそう提案するたびになぜか周りの艦娘に否定されるのだが。

 

 

「それでも、案内は提督がやるべきですわね。淑女のエスコート、紳士としてしっかり果たしてくださいまし」

 

 

予想通り、今回も断られたが……しかし男はそこで諦めず、案内される本人を説得してみることにした。

 

 

「えー。でも雪風は熊野の方がいいよな?」

 

 

そう問いかけながら振り向くと……雪風が満面の笑みを浮かべており、男は嫌な予感しかしなかった。そして、展開は男が危惧した通りになる。

 

 

「しれぇ!お願いしますっ!」

 

 

「えぇ?(困惑)」

 

 

「提督はもっと積極的に(わたくし)たちと関わることを推奨しますわ」

 

 

「はいはい」

 

 

(まぁ俺は基本暇だし、働けってことなんかな)

 

 

「では、私はこれで失礼しますわ」

 

 

「ん?あれ、鈴谷はいいの?」

 

 

「その鈴谷を迎えに行くんですの。……おそらく、提督を見て部屋に逃げ戻ったんですわ」

 

 

「えー、そんな俺嫌われてんの」

 

 

「…………マジですの?」

 

 

世にも珍しいジト目お嬢様JK風美少女が男の目の前にいた。

 

 

「え、違うの?」

 

 

「鈴谷も大変ですわね……」

 

 

「しれぇ……」

 

 

「え?なんなの?」

 

 

ジト目の熊野に対し、男は原因がさっぱり分からないといった体で、それを見た熊野(ついでに雪風)は更に呆れるという負の無限ループに陥っていた。やがて、熊野が諦めのため息をついて「自分で考えて下さいまし」と言って椅子から立ち上がる。

 

 

「それでは提督と雪風、またですわ」

 

 

「ん、じゃーなー」

 

 

「熊野さん!ありがとうございました!」

 

 

「んじゃ案内始めますか。まぁそんな広くないしすぐ終わるけど……とその前に、雪風」

 

 

「はい?なんでしょうか」

 

 

「熊野がなんで呆れたか、お前原因分かる?」

 

 

「しれぇ……」

 

 

その後10分間ほど、広間には「しれぇは乙女心が分かっていません!」「俺は男だ!女心なんてしるかっ!」と雪風と提督の言い争う声が響いていた。

 

 







鳳翔「静かにしなさいっ」
男・雪風「はいっ。すみませんお鑑!」
鳳翔「お鑑じゃありませんっ!」


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