一発ネタです。おつまみ程度にご覧ください。
飯テロ要素はないです。
ラーメン?そんなものウチにはないよ・・・
麺をゆで始めてから早三十分。そろそろ頃合いであろう。
麺をあのザルみたいなやつで掬い上げ、特製スープの中にぶち込む。
その瞬間、熱された油が顔面に飛び跳ねるが、そのゴリラのような顔の男は眉一つ動かさない。
ちゅるちゅると顔に似合わず可愛くラーメンを啜った男は、満足そうに言葉を漏らした。
「うん、不味い」
ラーメン屋に似つかわしくない光景、しかしそこはラーメン屋である。
しかも行列のできないことで有名なラーメン屋である。
つまり客なんてほとんどいないのだ。
店主の癖に、このゴリラがラーメンをすすっているのがいい証拠だろう。
夜道に屋台を構え、何も知らない無垢なるトーシロを捕まえるのが今日の彼の仕事なのだ。
ザッザッザと一人のやつれた男がこの屋台に近づき始めた。
ああ、この男は人間が元来持つ生存本能を失ってしまったのだろうか?
蜘蛛の巣、いやゴリラの巣に一匹の哀れな虫が囚われてしまった。
「親父・・・。ラーメン一つ。」
どうやらやつれた男は、ラーメン屋の店主がラーメンを貪っているという異常事態に気づけぬほど
疲労しているようだ。
ここで素直にラーメンを作るような店だったらもう少し客がいただろう!
しかし、ゴリラは閃いたといわんばかりにラーメンを食いながら話し出す。汚い。
「・・・あんた。どうやらすごく疲れているようだが、何かあったのか?話してみんさい。」
ゴリラは諭すように話し始めた。
しかし騙されてはいけない!!
こいつはラーメンを作るのが面倒だから時間を稼ごうとしているだけなのだ!!
その証拠にこいつ一切ラーメンを食うのを止めない!!
しかし、男は気にする余裕がないようで、ぽつりぽつりと話し出す。
「・・・ええ。私の仕事、最近余裕がなくってね。これを食べたらまたすぐに
会社に行かなきゃなんないんですよ。」
男は愚痴を聞いてもらいたかったのか、結構饒舌であった。
ゴリラはこれ幸いと会話を続ける。
「そいつは大変ですね。しかし、そんな大変な仕事とは何をやってるんです?」
「インスタントラーメンに加薬を入れる仕事をしています。」
男は、結構誇りに思っています。と小さくはにかみながら続けた。
ゴリラは加薬を知らないらしく、(・・・火薬?)と勘違いしていた。
目の前の男をテロリストだと思ったゴリラは、急にキレた。
「そんな仕事!!やめてしまえばいいんですよ!!!」
夜の街にゴリラの声が響く。
目の前の男はハッとしたようにゴリラを見た。
そりゃそうだ。いきなりそんなこと言われれば。
「・・・そうか。こんなに疲れるなら辞めてしまうのもいいか!!というかなぜ我々は手作業で入れているんだ!!機械でやればいいじゃないか!!」
しかし、男は疲れ切っていた。疲労が蓄積しすぎていたのだ。
男はゴリラの力強い色黒の手を取り、感激したように話し出す。
「ありがとうございます!!店主さん!!今すぐ会社に戻ってこのことを話し合わなくては!!
申し訳ありませんが、行かせていただきます!!代金いくらですか!?」
「あ、ラーメン一杯7百万円です。」
足音が夜の街に消えると、そこは元通り行列のできないラーメン屋だった。
結局疲れた男は、時そばもびっくりの支払いに気づかなかった。
いや多分、元から頭が弱いのか・・・?
しかしゴリラは急に7百万円もの大金を手に入れて満足だった。
いやはや、これで何をしてやろうか。
やはりまずは・・・女だな!
ゴリラの世界に貨幣制度があるとは思えないが、なぜか満足げに笑っていた。
その後、ゴリラは逃げ出した動物園に捕獲され、人語を解するゴリラとして人気者になっていた。
しかし、ゴリラは今夜も動物園を後にする。
行列のできないラーメン屋。どこにでも現れるラーメン屋。
貴方の町にも、きっとゴリラは現れる。
僕の街には来ないでほしい(小並感)