翌朝、起きると母さんが帰ってきたところだった。
「あ、おかえり」
「ただいま~。昨日なんかあった?」
やはり僕らの行動は筒抜けなのか?僕は身震いをする。
あくまでも冷静に、そう思っていても動揺は勝手に表面に現れる。
「え……、なんで……?」
「えっとね、いや、玄関の鍵が開いててね。普段ならこんなことないからどうしたんだろう、と思って」
あっ、そういえば公園から戻ってきて気持ちが逸って玄関の鍵を閉め忘れた気がする。
「いや、ちょっと疲れてたから閉め忘れたかも」
僕は何とかそんな言い訳をして洗面所に向かう。
この反応じゃ母さんが僕らの行動を知っているかどうか分からない……。やはり“あれ”を進めなければいけないようだ。
僕は今日の放課後にコンビニで文書をコピーすることを決め、学校に向かった。
「広樹、ちょっと今日も忙しいから先帰るわ」
数日続けて一人でマンションの裏の寒い道を通る。まだ時間が早いから真っ暗ではないものの、不気味な雰囲気は感じる。ただ斉木さんがいるだけマシだ。──本当に斉木さんが信じられる人かどうかは分からないが。数日前から斉木さんはこれまで以上に足音を隠さなくなった。もう僕の前に一度現れた以上、こそこそしていると逆にほかの人に怪しまれると踏んだのだろう。
僕はあえて後ろを気にすることなく、家へと歩いて行った。
家に着くと雄太はまだ帰ってきていなかった。僕は、「先にコンビニ行っとく」とメモを残して、A4サイズの紙を片手に家を出た。
家を出てコンビニまで行くにはおおよそ五分かかる。きっとこんな些細な時間でも斉木さんは僕の後ろをついているのだろう。それにしても彼は暇なのだろうか。学校に行っている間のことは知らないが、朝学校に行くときも、学校から帰る時も、こうしてどこかに出かけるときも彼は後ろで足音を鳴らしている。
と、思っていたのだが、そういえば足音が聞こえない。さすがに四六時中僕に張り付くのも無理があるのだろう。
その矢先。
「君、君。ちょっといいかい?」
突然、路地から出てきたいかにも強そうな筋肉をたくさん付けた男たちに行く手を塞がれた。
男は三人で、全員が真っ黒なスーツに黒マスク、サングラス。堅苦しい格好と言うべきか怪しい格好と言うべきか分からない。
「な、なんでしょう……」
自然と文書を持った右手を背中側に回す。
「実は最近ここら一帯で身長百六十センチから百七十センチメートル程度の男性が不審物を持って歩き回っているという情報があってね、別に君を疑っているわけではないんだが念のため身体検査をさせてもらえるかい?」
僕は“身体検査”という言葉を聞いて足を少しばかり後ろにずらす。
「はあ……」
右手を前に出すと見せかけ、猛ダッシュ。
「あっ、待て!!」
いかにも某逃走系の番組に出ていそうな男たちはじりじりと距離をつめていることが気配で分かる。
僕は家と家の隙間に飛び込む。東西に伸びた道路に沿って古めの家が建っているため、家の左右にはあまり隙間が無い。僕がギリギリ通れるレベルなので当然、男たちは入って来ることはできない。男たちが躊躇している間に僕は家の隙間を北上し自宅へと向かった。