地面に近いからか紙飛行機は風に乗らなかったが、それでも確実に前進していく。日没まであと二十分程度。
「よし、傷は無いね」
僕がアスファルトから紙飛行機を拾うと雄太が横からそれをかっさらった。
「さっきのでコツつかんだから」
そう言って右手を上にあげる。手を水平にスッと動かし紙飛行機を前に押し出す。
「っし」
雄太がそのまま右手を引き寄せガッツポーズする。ちょうど北風が吹いて紙飛行機は地面すれすれを滑っていき、さらに地面に接してもコロコロと転がっていった。
「いいね」
二人で車に気をつけつつ紙飛行機のもとに駆け寄る。少し端の辺りがよれっとしてきたがまだまだ問題は無い。
ふと前を見ると行く手を阻むように一台の黒いセダンタイプの車が止まっている。嫌な予感がしつつも僕は雄太に「車が止まっているから」と促し、道路を渡った。
このあたりから隣町に向けて少しずつ標高が下がっていく。隣町は梅雨末期になると毎年のように洪水が起きる低地なのだ。
「よし、じゃあ投げて」
「余裕、余裕」
雄太がそう左手の親指を立て、にかっと笑う。かなり暗くなってきて雄太の白い歯がより一層目立つようになってきた。
「じゃあ投げるぜ」
そう言って雄太はさっき掴んだコツを応用して紙飛行機を斜め上に飛ばす。飛距離が伸びたそれは下り坂も相まって、先のほうに着陸した。
「お、かなり進んだね」
下り坂は残り半分。この坂を下りきってしまえば、もうそこは隣町だ。つまり、この早ければ一回で隣町に入ることができる。
「よし、じゃあここで決めきるぜ」
雄太が意気込み十分に紙飛行機を拾う。すっと突き出した右手から紙飛行機が飛び立ち、濃紺の世界に一本の白線を引く。寒空は切り裂かれ、世界から音は無くなる。──はずだった。
ブオン。
背後からそんな音がしたかと思うと、さっき僕らが避けた黒いセダンが坂を下っていく。坂を下りきる手前で減速したかと思うと、セダンは静かに僕らが飛ばした紙飛行機を──轢いた。
「ああああああ」
僕は慌てて坂を駆け下ろうとする雄太を引き留める。
「あの車。恐らく僕らを監視している人たちだと思う」
そうじゃなきゃあの場所で紙飛行機を狙って減速する理由が分からない。きっと、今から紙飛行機を拾いに行ったとて、車の中から男が出てきて僕らを家に帰らせようとするのだ。
「もしかして、この町から出られないように、囲まれてるってことか?」
雄太が勘づいてそう呟く。
「おそらくは、ね」
仕方がない、あれは放置して今日のところは戻ろう。
「ほら、戻ろう」
僕は雄太の肩を叩いて、坂の上のほうを向く。
「でも」
「今日はチャンスがなかったってことさ。大丈夫。もう一つ方法を思い付いたんだ」
僕は天頂を見上げ目を細めた。