「大丈夫だよ、大原雄太くん。君のガールフレンドには手を出さない。用があるのは君だけだ」
横並びになった男のうち一番右のニット帽をかぶった奴が不器用な笑い方で白い歯を見せる。ここはコンビニの狭い通路。逃げ出そうとしてもすぐに回り込まれてしまうだろう。
振り返ると明莉が強張った笑顔を俺に見せてくれる。明莉をこの場に残しておくのは危険すぎる。
俺は男たちに背を向け、明莉に近づく。
「ふっ最後に少しでもかりそめの愛を感じるがいいさ」
背後からクククと嫌な笑い声が聞こえてくる。どうやら彼らは俺たちが心で結ばれたことをまだ知らないようだ。
「先に言っておこうか。君の目の前にいる雪科明莉はお前の彼女ではない」
またクククという笑い声。虫唾が走る。いつの間にかコンビニ内に溢れていた人の気配が減っている。振り向いて真ん中にいる男を睨みつけながると、レジの店員さんがさっきまで一番左にいた男の指示に従って店の外のほうへ向かっている。――ということはどれだけ走っても他の人にぶつかったりする心配はないわけだ。
そしてさっきの男の言葉。このコンビニには盗聴器が仕掛けられていないということだろう。伊達に旧帝大ナゾトキを全巻揃えているわけではない。成績が多少悪くともこれからの時代、役に立つのは頭の回転だ!
「いったん二人で店の一番後ろまで行こう。俺が菓子売り場の通路に入るから明莉はもう一つ先の雑誌とかが置いてある通路を通って家に帰っとけ」
明莉にそう耳打ちして、軽く背中を押す。明莉の後ろから僕も通路のほうに向かう。通路の分かれ目。右手には大量の飲み物がきれいに陳列されている。
明莉が振り返って俺と目を合わす。俺は頷いて通路に入る。通路の真ん中あたりまで来たところで男たちが一度に俺のいる通路を塞ぐようにして集まる。三人ともこの通路に来ている。明莉はすぐに店を出られるはずだ。そう思って明莉が通っていったはずの通路のほうに意識を向ける。そして視線を戻したとき。
俺の左側には明莉がいた。
「な、ここは危ないぞっ」
思わず語気を強める。
「大丈夫」
明莉はいつもと変わらない笑顔を見せて僕の手首をつかむ。
「走るよ」
そう明莉が囁いたのが耳に届いた。躊躇する間もなく明莉は無謀にも前に走り出した。そんな正面突破が通用するような相手じゃないだろう。
しかし。男たちは明莉を避けた。明莉に引っ張られた俺も避けられた。なんで。愛の力?
そのままの勢いで店を出て自転車にまたがる。
「着いてきて!私の家まで!」
彼女の家!なんて浮かれる間もなく俺らは自転車を必死に漕ぎ始めた。