住宅街を走り抜けること数分。
「ここだよ」
明莉がそう言って自転車のスピードを緩める。ついさっきまで追いすがってきていた男たちもさすがに疲れたのか歩いている。振り向いた俺を睨みつけることは忘れない。
俺も右手に力を入れて自転車を減速させる。カーポートの隣に自転車を止めて鍵をかける。
「お父さんもお母さんも明後日まで帰ってこないから」
そう言いながら明莉が玄関の扉を開ける。この状況、もしこれが何の変哲もないラブコメだったら、もし俺が妙な実験の被験者じゃなければ、誰もが羨むだろう。でもいくらタラレバを言ったところで現実は変わらない。良くも悪くも。そう、良くも悪くも。
お邪魔します、と控えめに言って家に上がらせてもらう。白を基調とした廊下の突き当たりでふと明莉が立ち止まる。左が二階へと続く階段で右がリビングだろうか。
「ちょっとリビングは片づけきれてないから二階に来てもらったほうがいい、かな」
少し躊躇いながら階段を上がる明莉に慌てて俺も着いていく。俺は友人を家に呼んだことは無いが、自分の部屋を見られるのは確かにちょっと恥ずかしい。
十段ちょっとの階段を上がりきって明莉が茶色の扉を開ける。
「ちょっと飲み物取ってくるね」
俺が部屋に入ると彼女はそう言って階段を駆け下りていった。西側の窓から射しこむ夕日によって白い壁と綺麗にたたまれた布団がオレンジ色に染まっている。ふと南の窓から外を覗くと男たちが腕を組んで道路に仁王立ちしている。
ラグの上で正座をしてぼーっと壁を見つめていると明莉が木製のお盆に緑茶の入った透明なグラスを持って戻ってきた。
「そんな堅苦しくなくていいんだよ」
そう言って笑いながらグラスをローテーブルの上に置く。円形のテーブルにおいて俺の向かい側ではなくわざわざ隣に座る明莉が愛おしい。俺はお言葉に甘えて体勢を胡坐に変える。その時に意図せず明莉の艶やかな髪が鼻につきそうなほど近づいて、思わず「こんな実験がなければな……」という言葉が漏れる。こんな実験が無ければ、今家の外にあいつらがいなければ。なにも気にせず明莉のすべてを愛せるのに。
吐息がかかってしまったのだろうか、くすぐったそうに肩を少し上げた明莉が俺との距離をさらに詰めて肩を触れさせる。
「多分、この実験が無かったら私、雄太くんと付き合ってないと思う」
確かにそれはそうだ。
「雄太くんと付き合え、って言われたときは私、雄太くんのこと好きじゃないっていうか苦手だったの」
俺は思わず明莉の澄んだ瞳をじっと見つめる。
「けどいわゆる食わず嫌いだったみたい」
明莉はそう言って背筋を伸ばす。
「今は誰よりも雄太くんのことが好き」
目をそっと閉じた明莉に俺は意図を察したが「絶対にこの騒動を終わらせるから、それからどれだけでもしよう」そう言って代わりに彼女の華奢な体に手を回す。さらさらの髪が手に当たった。