「おーい……」
「え?」
この声は……親友の広樹だ!僕──大原 栄太は慌てて読んでいた本を閉じ、声のするほうに顔を向けた。
「すまんすまん、読書中」
小学生からの付き合いで、お互いに支え支えられつつ六年近くの仲になる。
「いやなんら問題ないよ」
だいたい広樹がやって来るときは──僕が広樹のほうに行くときも同じだが、何か話したいことがある時だ。誰よりも先に話したいことが。
「いやさ、俺なりに考えてみたわけよ」
「え、何を?」
普通に心当たりがない。
「君たち兄弟の顔が似なさすぎることについてだよ」
「ああ……」
そう、僕には双子の弟──雄太がいる。
「もしかすると……。いや、やっぱ気にしすぎだと思う。うん、ごめんよ、読書邪魔して」
その広樹の言葉に僕は少し引っかかるものを感じたが、読んでいた本の話の続きが気になりすぎて、すぐに本の世界に戻った。おそらく何か仮説を立てたが、少々現実味が無かったかなにかだろう。広樹は前々から小説を書いており、それだけ想像力も豊かだ。きっと今言いよどんだことは後々広樹の小説のネタになるのだろう。
奇しくも今読んでいる話の主人公もとんでもない想像力の持ち主で、友達と喋る度に周りから引かれていたのだが、ある日とある漫画にハマり、それから漫画家を目指していく、というストーリーになっている。今、僕が読んでいるところは漫画家デビューをして半年でベテラン漫画家と読者投票対決が企画され、その結果が明らかになるというところだ。
「頼む……!!」
本を開いているので、心の中で手を組み主人公の勝利を祈る。──しかしそう簡単に勝っても面白くない。僅差で主人公は負けてしまった。
さて、五限目開始の予鈴も鳴ったことだし、切り替えて日本史を受けるとしよう。
五限目の授業は中々興味深いものだった。大戦が始まるおよそ二十年前──日本が軍備をどんどん増強していた頃から、日本軍が主導して行っていた実験というのが洗脳に関するものなのだそうだ。生まれてから、子守歌を毎日聴かせるのと、代わりに軍歌を毎日聴かせるのとでは軍・戦争に対する意識は変わるのか、というものだったそうだ。後者の子どもは実際、戦争を肯定しそれどころか周囲の人間に対しても戦争が素晴らしいことだと説くようになり、いざ大戦が始まると遠方の戦地へ派遣されたとか。
つくづく戦争というものは恐ろしい。きっと戦争が終わってもしばらくはその呪いにかけられたままだったのだろう。人命を奪い、建造物を壊し、ついには人の心も操るようになってしまったのだ。自由というものの素晴らしさを実感できた。