右側の赤い扉から紺色の制服に身を包んだ屈強そうな男三人が駆け出して、さっき通ってきた方へ向かっていく。
「一体全体何が起こっているんだね!」白スーツが険しい顔で側近と思しき人に詰め寄る。ポケットから通信機を取り出して誰かと連絡をとって、その側近は顔を青くした。
「被験者らが包囲網を突破して──。いや、ちょっと別の場所で」
側近二人と白スーツが部屋を出て行き、僕らは目の前の扉の向こうにある小部屋に入れられた。
「ちょっと待っておけ」
僕らを部屋に入れたくせっ毛の強い男は胸ポケットからICカードのようなものを取り出すと扉の横にあるボックスに押し当てて扉を開け、出て行った。椅子も机も何もない。天井についた古びた蛍光灯がかろうじて部屋の中を照らしている。
さっきの男が出て行った扉を見てみると上に人感センサーがついていない。だからカードを当てていたのだろう。
「兄ちゃん、なんで被験者がこの場所を分かったんだ?」
雄太が小さく呟く。
「車で移動した僕らにおそらくは全員が未成年の被験者が追いつけるとは思えないね……」
「いや、それなら可能だ。原付免許なら取れるからな」
なるほど……。
「でも、さ──」
ピーガタン。いかにもな感じの機械音がして扉が開く。扉の右上が赤く光る。入ってきたのは白スーツでも黒スーツでもない、普通のジーンズに白シャツを着た同い年くらいの男子。
「あっ……」
その人は一瞬固まって、すぐに踵を返してまだ閉まる前の扉から離れていく。扉が閉まり僕は雄太と顔を見合わせる。扉の向こうから何かの割れる音、「やめろ!」と叫ぶ声、「きゃーっ」という金切り声、ドタバタという足音が、音を全て間違えた協奏曲のように聞こえてくる。
また扉が開く。さっきの男子とそれによく似た背格好の男子が一人。顔はあまり似ていない。後者のほうが整った顔立ちにも見える。
「君たち?掲示板に情報出したのは」
そういうことか!
「え、そうだが……」
雄太が眼を鋭くして答える。
「もしかして僕らの書き込みに気づいてくれたの?」
「ああ、そうだとも。君たちの派手な行動のおかげで僕らのほうの監視が外れて動きやすかったよ、感謝する。あっ私は曲谷 拓郎。高校一年だ」
早口かつ高飛車な口調でそう畳み掛ける拓郎と名乗る後者。横にいる前者がおずおずと「曲谷 孝郎です」と右手を上げる。
「僕は大原 栄太で、」
「大原 雄太」
雄太が人見知りを発動している。普段の雰囲気からは考えもよらないほど彼は人見知りなのだ。
「あまりボケっとしていられないから、端的に話させていただく」
拓郎がそう前置いて話し始めた。
私が君たちの書き込みに気づいたのは一週間前。学校でネットサーフィンをしていたらたまたま見かけたんだ。私の運の良さに感謝するんだな。私はIPアドレスから君たちの住所を特定し、調査を始めた。同時に同じく書き込みに気づいた同士のIPアドレスも頂戴して、コンタクトを図った。私の技術力に感謝するんだな。最初の方はそこはかとなく知らない人に妨害されていたが、君たちがロケットを作ろうとしていたおかげでその妨害もめっきり減ってコンタクトをとれるようになった。そこは感謝する。それから何人かの保護者にも協力を得て、張り込みを強化し、今日こうしてついてきたんだ。そしてこの計画の終焉が今日だ。
彼はしれっと扉を右足で抑えながらドヤ顔を見せる。なんか少しイラっとするが、この計画の破壊に最も貢献した人物であろう。心の中でも悪態をつくのはやめておこう。