「さあ、恐らくいろいろな書類を警察宜しく運んでいる真っ只中のはずだ。私たちも行くぞ」
拓郎が扉を右足で抑えたまま、部屋の外に出る。孝郎はこちらを見ると小さく微笑んで頷く。先に出させていただくとしよう。
赤い扉を潜り抜けて真っ黒な部屋から真っ白な部屋に出る。
「お……大原……栄太……きさ、ま……」
右斜め下から必死にひねり出した声が聞こえてきてそちらに視線を移すと、頭から血を流した白スーツが床に這いつくばって、かっぴらいた目を僕に合わせた。
「な、ぜ……。どうして……裏切ったんだね!」
突然、気を荒立ててそう吠える。
後ろを振り返ると雄太がきょとんとした目を僕に向けている。
あれは忘れもしない冬の日のことだった。
僕は長年温めてきた想いを明莉さんに伝え、フラれた。そしてその日の夜、雄太が明莉さんと付き合い始めたことを知った。思わず雄太に平手打ちを喰らわせて、その勢いのまま二階にある兄弟で供用している部屋に飛び込む。それもこれも、あんな計画のせいだ。あんな計画が無ければ、僕がフラれることはあっても、よりによって雄太が付き合うなんてこと起きるはずがなかったんだ。
こうなったら……。
「ほんの出来心です」
僕はこれまでにないほどの冷たい目をしている自信がある。
「おかしいじゃないですか。エゴのせいで人生がめちゃくちゃにされるだなんて。あなたは心から祝えますか?自分と同じ境遇であるはずの弟が、弟だけが幸せになることを」
「兄ちゃん……」
声を荒げてはいけない。あくまでも冷静に。この部屋の包む光のように。
「貴様も、高校生なら、知って、いるだろ……う。公共の福祉、という言葉を……な。……大多数の幸福のためなら数十人の不幸など仕方あるま……い」
ギリギリで顔を起こしていた白スーツから力が抜ける。スーツに赤色が広がっていく。
「権利すらない世の中なんてくそくらえだよ」
僕は静かになった白スーツにそう、吐き捨てる。
そして振り返って、誰にも見えない仮面をかぶる。
「雄太。君は悪くない。悪いのはすべて世の中だよ」
「もっと早く言ってくれよ。苦しかったんなら早く打ち明けてくれよ。なあ、俺ら双子じゃねえか。一卵性双生児じゃねえか」
雄太が泣きそうな目でそう喚く。そんな簡単に打ち明けられるならとっくに打ち明けているさ。
「そう、だ……。とっておきの、こと……を教えてや、る」
白スーツ改め赤スーツが顔を床につけたままうめく。
「お前らは……双子じゃないのだ……」
な……。