病も境遇も気から   作:音槌和史

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エピローグ

 赤スーツが白色の床に全体重をかけて動かなくなる。救急車のサイレンが聞こえてきて、赤スーツは屈強そうな男らに運び出されていく。

「兄ちゃんは兄ちゃんじゃねえ、ってことかよ」

「……そうかもしれないね、ふふ」

 僕は静かに仮面を剥ぎ取る。

「まさか、彼が打ち明けるとは思わなかったけどね。全ては大仰な芝居だよ」

「すまない、話についていけていない」

 拓郎がおずおずと手を上げる。

「分かった。順を追って説明するよ」

 

 

 

 僕が国際機密特査官である斉木涜早-さいきとくさ-さんと出会ったのは二年前の冬のことなんだ。そこで僕は“総国民Ifd計画”について聞かされた。簡単に言えば環境要因によってヒトの容貌を変え、より整った顔立ち、より美しい顔立ちのヒトを育てるっていう計画。その前段階として、一卵性双生児を買収してメチル体の変異を抑える物質を投与、そして周囲からの評価を操作することで容貌に変化が生まれるかどうかの最終実験段階であることを聞いた。

 

 

◇◇◇

「──ということなわけだ」

「……」

 いまいち状況をよく飲み込めない。

「その対象の一卵性双生児というのが僕らということですか?」

「そういうことだね。無論、他にも被験者は多くいるけれども」

 雄太の外見は褒められ、僕の外見は褒められることなくここまでやってきた。その結果がこの外見の差……。だから、斉木さんは「そういう意味では成功しているわけだ」なんて言ったのか。

◇◇◇

 

 

 そして斉木さんは最後にこう付け加えたんだよ。

「ここまで話したことはあくまでも水面下の話だ。水底にはもう一つ話が沈んでいてね。被験者のうち半分は、一卵性双生児ではなく四親等程度の親戚なんだ。これは総理大臣とその側近、そして計画のに関わった大学教授数名しか知らないこと。君たちもその中の一組でね。もしこれが成功すれば、少なくとも二人に一人は素晴らしい外見の持ち主になれるといったわけだよ。実にくだらない。……まあ、ここまで話したことを信じるも信じないも、そして他の人に打ち明けるも打ち明けないも自由だ」

 ってね。

 僕は最初黙っておくことにした。別にイケメンでありたいなんて欲はなかったから、この実験によって被る害は特段無いと思っていたから。でも、君はよりによって明莉さんと付き合い始めた。

 

 

 

「だから、この計画をぶち壊したくなったんだ」

 晴れやかな顔で僕はそう締めくくる。いつの間にか僕ら四人だけになった空間に扉の開閉音が響き渡る。

「お疲れ様」

 爽やかに右手を上げてマフィア帽を持ち上げる長身細身の男。

「斉木さん!」

「すべて、見させてもらったよ」

 “すべて”という言葉にアクセントを置いている。

「教授」

 斉木さんがそう言うと再び扉が開いて白衣のお爺さんが現れた。

「まあ、結果から言うとヒトを最も突き動かすのは環境要因ですな」

「ええ、私も同意見です」

 ヒトを突き動かす……?予想していた話と違う。

 不思議に思っている様子が顔に出ていたのか斉木さんが教授と一言二言話してこちらを向き直った。

「これですべての実験は終了した。全てを打ち明けさせてもらおう。まず第一にこの実験の被験者は全員、双生児ではない。大原兄弟だけではないということだ。第二に、この実験の趣旨は環境が及ぼすヒトの容貌への影響を調べることではなく……。ヒトがより主体的に動くのはどのような出来事がどのような要因で発生するか調べることだった。この二つが大きなことだね」

 ……。

「君たち二人ずつの容貌に差があるのは、別に実験によるものではない。雄太くんの顔立ちが整っているのもたまたまだ。実験によって差が生まれた、そんなことはないのだよ。つまり君たちが皆感じてきた違い、そんなものは気のせいだ」

 ここに来て全てを否定するなんて……。

「まあ、僕らはダイバーシティを説こうと思ったわけじゃないんだけどね。結果的にそうなってしまったね。……。君たちの協力には改めて感謝しよう。環境要因の人工化に向けてまた実験が必要になったらまた頼むよ。それまで、せいぜい自分が生まれ持った境遇で生きるんだよ」

 そうしてマフィア帽と白衣は扉を抜けていなくなった。

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