「さて──帰るか」
僕はリュックに教科書とノートを突っ込み、廊下に出る。隣を歩いていた広樹が突然「あ」と言って立ち止まった。
「ん?どうした?」
「今日、米炊いとけって言われてたんだった」
「そりゃいかん」
「っつうわけで先帰るわ」
広樹はそう言って走り去っていった。廊下は歩け。
靴箱に行って靴を取り出す。広樹が先に帰るのなら僕も家に帰って音楽でも聞こう。
僕は冬の凍えた街灯の下を歩き出す。
「さむっ」
僕は思わず身を震わせる。少しでも早く家に帰りたかった僕は大きなマンションの北側を通っていくことにした。北側だけあって部屋も面しておらず、道路上はほぼ真っ暗と言っても過言ではない。ぼんやりとした月明かりとマンションの廊下についた切れかけの蛍光灯が踏みしめるアスファルトの存在を知らしめる。響くのは自分の息遣いと足音。マンションと古びたビルに挟まれたこの道は足音がよく聞こえる。
「ん?」
僕は違和感を感じて足を早める。今、一瞬足音が聞こえたような──。今度は少しのんびりと歩く。北風はビルに遮られている。今の時期、ここらで東風が吹くことは滅多にない。なのに。風を感じた。
僕は意を決して立ち止まる。せーのーさん、はいっ。
「誰もいない……」
そんなはずはない。足音も風も……。何も聞こえない。僕は忍者のように抜き足差し足でアスファルトを踏みしめていく。やはりワンテンポ遅れて足音が聞こえる。幽霊かもしれない、そう思った途端に僕は気づいてしまった。幽霊って足、無いよな……。つまりあの足音は人間!右手にある廃墟のようなビルの関係者が同じタイミングで出入りしたか、僕のストーカーのどちらかだろう。しかし、ストーカーにしては足音を消すつもりが無さすぎる。ということは、たまたま廃墟のようなボロボロのビルから出てきた人、ということになる。どちらにしろ、こちらに危害を加えるつもりは無いだろう。
そんな結論に達したとき、僕は駅前の少し大きなとおりに出ることができた。このまままっすぐ道路を渡って行った方が早いのだが、いかんせん暗すぎる。
少々神経質になっていた僕は街灯も車通りも多く、明るい大通りを通ることにした。車の走る音で後ろにいた人がこちらに来たかは分からないけど、気にならないから良しとしよう。
翌朝。学校行事の関係で朝早く家を出たら、また後ろから足音が聞こえた。怖くて後ろは振り返らなかったが、学校に着く直前まで足音は聞こえてきた。ついでに言うと──これは神経質になっている僕の気のせいかもしれないが──見られているような感覚にも陥ってしまった。薬はやっていない。