僕があの冬の話をすると男──斉木さんは深く頷いた。
「そういう意味では成功しているわけだ」
小さくそう呟いた後「理由を知りたいか?」と鋭い眼光で問いかけてきた。
「え、理由って……」
理由なんてあるのだろうか。たまたま遺伝子に食い違いがあっただけのことではなかろうか。
「君と兄との間に歴然とした差がある理由だよ」
「……。知りたいです」
別に嘘でもなんでもいい。そんな知的好奇心が僕の心を奪った。
「一言で言うと、君たち兄弟は政府が関与する人体実験の被験者なんだ」
ジンタイジッケン……。ヒケンシャ……。
「どういうことですか」
さっぱり分からない。
「まあまあ、ゆっくり話してやろう」
時は遡ること十七年。通常国会が閉会した翌日、若干名の閣僚が首相官邸の地下一階に集められた。
「ようやく例のプロジェクトを動かすときが来た」
最も白髪が多く、いかにも“長”という雰囲気の男がそう切り出す。
「被験者が決まったのですか」
「ああ。昨夜連絡があってね。プロジェクトの内容上、予定より長い時間がかかったが、なんとか始動に漕ぎつけることができた」
「情報漏洩の心配は」
若手なのか、単に若作りなのか分からないが、爽やかな雰囲気の男が手を上げる。
「謝礼とともに口止め料もすでに渡している。心配はいらない」
そう言って白髪の男は口角を上げた。
昨日とは打って変わって誰もスマートフォンを見たり、居眠りをしたりなどということはしない。
なぜならこのプロジェクトが極秘裏に進められている“総国民Ifd計画”というものだからだ。
“総国民Ifd計画”とは、総国民顔面偏差値向上計画という正式名称を持ち、その頭文字を取って“Ifd”となっている。このプロジェクトの前段階として、環境が外見に及ぼす影響を調査することとなった。その方法は至極簡単。一卵性双生児に対し、一人に対しては外見を褒め称えさせ、もう一人の外見にはまったく触れない、もしくは少々蔑む、というものだ。しかし、このことを迂闊に公表した場合、人権保護団体などから批判が殺到することは間違いない。そこで政府はあくまでも計画の主体ではない体裁をとった上で、極秘裏でプロジェクトを進めることとした。
「──ということなわけだ」
「……」
いまいち状況をよく飲み込めない。
「その対象の一卵性双生児というのが僕らということですか?」
「そういうことだね。無論、他にも被験者は多くいるけれども」
雄太の外見は褒められ、僕の外見は褒められることなくここまでやってきた。その結果がこの外見の差……。だから、斉木さんは「そういう意味では成功しているわけだ」なんて言ったのか。
「ちなみに──。被験者はすべてこの町に住んでいる」
え……。
「この町全体がサクラなんだよ」
そんなバカげたこと……。
「もちろんすぐには信じてもらえないと思う。でも──私がこうして君に接触したことも“あちら”には分かっているはずだ。すぐにこれが現実だと分かるはずだ」
僕らのために汗水垂らして働いている母さんも、親友だと思っている広樹も、雄太と付き合っている明莉さんも……。全員が黙ってこの実験に加担していた……、ということ……?
月明かりが作った電柱の影をじっと見つめながら冷たい空気を飲み込んだ。