「ただいま……」
手を離した玄関の引き戸がゆっくりと閉まって音を立てる。
「おかえり~。夕飯温めといたよ」
雄太がリビングから顔を出して親指を突き出す。だがすぐに僕の様子に気づいて手を下げて首を傾げる。
「なんかあった?」
これは僕ら兄弟二人の問題だ。
「ちょっと夕飯食べ終わったら話がある。近くの公園に行こう」
もし斉木さんの話が本当だとしたら、この家が監視されている可能性もある。さっきあそこで斉木さんが姿を現したということはあの周辺は比較的、安全なのかもしれない。
「え?告白なら受け付けないよ?」
「そりゃ知ってるさ」
「返しが淡白~」
雄太が妙なことを言って狭いキッチンに向かう。
今はこんなテンションだが、きっと話を聞いたら困惑するのだと思う。楽しめるうちに楽しんどけ、そう思いながら僕は食卓についた。
「いただきまーす」
そう言って、大皿に盛られたコロッケに箸を伸ばす。箸が触れただけで衣は儚く散っていく。
「お、めっちゃさくさく」
あっという間に大皿は衣のかけらだけになってしまった。
「ごちそうさま」
腰を上げ、台所へと食器を持っていく。食器を水に浸け、雄太が食べ終わるのを待つ。テレビではクイズに正解した今話題の俳優が超高級メロンを食べていた。
「じゃあ、そろそろ行くか」
僕は夕飯を食べ終わった雄太にそう声をかけて玄関へと向かう。
「うん」
玄関の扉を開くと、寒風が室内に吹き込んできて思わず目を閉じる。
「寒っ」
無意識のうちにそんな言葉が漏れて雄太も「ほんと、寒すぎる」と後ろで呟くのが聞こえた。
寒空に星が瞬く夜を歩いて公園へと向かう。
「で、話って何?」
公園の中央にある小高い丘のベンチに座る。
「実は」
僕が冷たい空気を肺に入れて、頭を冷やしてさっき斉木さんに言われたことを雄太に説明した。
「やっぱり……」
話し終わると、雄太は予想外の反応を見せた。
「え?分かってたの?」
「いやさ、休みの日とか市外に出ようとすると、頑なに友達に止められるし、小学生のころとか、栄太とそんなに顔の違いは無かったのに、俺だけ『かっこいい、かっこいい』って言われてたし」
休日に市外に出ようという発想が無かった僕からするとかなり縁遠い経験だ。
「あとさ、なんかボーっとしてるとたまに──」
まさか……。
「──誰の声か分からないんだけどなんか聞き覚えのある声が『このようにすることで二人の間で同じメチル化が起きるようになります』的なことを言っててさ」
それから雄太が話したことはあらかた僕の記憶と一致していた。すなわちあの記憶の断片は確かなものだと言うことだ。
「──まあそんなわけだ」
僕がそう言うと雄太は
「あのさ、一つ提案があるんだけど」
と切り出した。