砂漠の冷たい夜、恐ろしい怪物達は知恵比べを始める。
人喰いは、果たして忌むべきことですか?
結構残酷な描写があります。ご注意ください。


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僕の貧相な頭では、良い謎が思いつきません。(半ギレ)




スフィンクスと人喰い兎

とある場所に恐ろしい異形の化け物が住んでおった。

白くて真ん丸で、人も喰う。そいつは『人喰い兎』と呼ばれていた。

ありとあらゆる生き物を喰らいつくしたそいつは、ついには荒涼とした砂漠にまで足を運びこんだ。

 

 

 

 

少々冷える深い夜の砂漠、その入り口に大きな石造りの化け物がいた。

その者の名は『スフィンクス』。

砂漠に入ろうとするものと知恵比べをし、敗北したものを喰ってしまうという怪物だ。

そんな恐ろしい化け物のまえに、小さく白い可愛らしいものが現れた。

ポシュポシュと可愛らしい砂をかき分ける足音を立てながら、通り過ぎようとする。

 

「道行くものよ、この先は王達の眠る地である。立ち去るがよい。」

 

言われた兎は、立ち止まり顔を上げる。その顔は死への恐怖で震えていた。

 

「ああ、石の賢者よ。そういうわけにはいきません。私はこのままでは飢えて死んでしまいます。

食べ物が必要なのです。」

 

スフィンクスは、頑強な口元を歪めて笑いながら話し始めた。

 

「で、あれば智を示すがよい。王の御前に立つ資格を!!」

 

スフィンクスは、砂漠の彼方まで届く大声で謎をかけ始めた。

 

「朝は四本、昼は二本、夜は三本。これはなんであろう?」

 

兎は少し顎に手を当てて考えると、答えた。

 

「それは私の昨日の食事でございます。朝は赤子を食べました。昼は大人を食べました。

夜は、大人が手に入ったので食べ残していた赤子の残りを食べました。」

 

スフィンクスは、顔を嫌そうに歪ませた。

 

「貴様は人を食うのか?それも人間の赤子を?」

 

兎はその質問も謎と受け取ったのか、丁寧に回答しだす。

 

「生き物が肉を喰らう。あるいは草花を喰い、生きながらえる。自然の摂理でございます。

・・・ああ、ご安心を!!私は酷くおなかが減っておりますが、あなたは喰うには少々固すぎます故。」

 

「・・・よかろう。次の謎だ。」

 

スフィンクスはモヤモヤしながらも、納得したようだ。

大地を揺るがす大声を響かせた。

 

「それは等しくない。貧者にあって、貴族にない。昼にあって、夜にない。

貴様にあって、私にない。これはなんだ?」

 

「それは飢えでございます。昼に生き物は飢えて仕方ありません。そして

夜は寝ているか死んでいるかのどちらかであります。」

 

恭しく頭を下げながら兎は即答した。

スフィンクスはうなだれながらゆっくりと口を開いた。

 

「・・・正解だ。なぜ私が飢えないと分かった?」

 

「飢えているならば、私を喰おうという目つきになるはずです。私にはよくわかるのです。」

 

兎は、その可愛らしい顔を信じられないほど凶悪にゆがめて笑った。

スフィンクスは気味の悪い顔をその()()()で受け止めながら考えていた。

 

(・・・即答か。どのみち、この謎は本命ではないがもう少々時間が欲しいな。)

 

スフィンクスはその獅子の顔で大口を開けて、恐ろしい顔つきで話し始めた。

 

「貴様は先ほど、夜に生き物は寝ているか死んでいるかだと申したな!!貴様は起きていて、

死んでもいないではないか!!納得のいく釈明ができぬのならば食い殺してくれようぞ!!」

 

兎はどこ吹く風といった風に答えた。

 

「貴方様も起きているではありませんか。」

 

スフィンクスは内心で舌打ちをした。そんなもの屁理屈である。

兎が勝手に言ったことに、私がなぜ含まれねばならないのか。

しかし、スフィンクスはすでに正解だと言ってしまった。

兎を責めることは、問題の不備を認めることに他ならない。

 

「・・・よかろう。最後の謎だ。」

 

スフィンクスは、いつのまにか差してきていた朝日に向かって吠えた。

 

「人喰い兎!!!貴様が今まで喰った人間の数をこたえよ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

兎は今度は本当に黙ってしまった。私は今までどのくらい喰ってきたのだろう。

一日に三人は食べた気がするが、生きてきた年数も知らない怪物にそんなもの知る由がなかった。

スフィンクスはそんな兎を急かすこともせずに見下ろす。

兎は考えて考えて、朝日が昇り切ったころに答えた。

 

「二万と四千人でちょうどでございます。」

 

兎は額に汗をにじませながら、答えた。

正直こんなもの口から出まかせである。

兎本人にもわからないが、この石の怪物にもわからないだろうと思ったのだ。

しかし、悪い想像は体を硬直させる。

この怪物がもしも心を読めたら?

威厳たっぷりに知恵比べをしてくるものだ。そのぐらいできてもおかしくはない。

しかし、そんな想像とは裏腹にスフィンクスは穏やかであった。

 

「・・・そうか。羨ましいな。」

 

「・・・・・・?」

 

羨ましいとは何であろうか?

さっき人を喰うことを、嫌悪していたではないか。

スフィンクスはもう終わったとばかりに目を閉じた。

 

「貴様は砂漠に入る資格を得た。もう用はない。どこへなりとも行くがよい。」

 

兎は小首をかしげた。自分が獲物以外に関心を持つなどずいぶん久しぶりである。

空腹の腹をさすって、まだ生きられるなと思ってから口を開いた。

 

「最後に私からも質問がよろしいでしょうか?」

 

スフィンクスは面倒そうに眼を開いた。

 

「・・・よかろう。たしかに貴様にばかり謎を解かせるのはフェアではない。申すがよい。」

 

兎は、何かを言いかけ、一度口を閉じてからまた話し始めた。

 

「貴方様はどうして砂漠に腰かけて、謎などかけるのです?王に恩義でもあるのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

スフィンクスは黙った。

そしてため息をついた。

そのため息は二人を包み、遥かな情景を映し出した。

兎が物珍しそうにきょろきょろとあたりを見渡す。

スフィンクスは今度は小さく、しゃがれた声で話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

ある王国に獅子がいた。

獅子は生まれたときから王宮で人間とともに育ち、家族として暮らしてきた。

そいつは獣であるが、人間と本気で友達だと思っていたのだ。

しかし、ある時その国は干ばつに襲われた。

植物は育たなくなり、それを食べる動物も、さらにそれを食べる動物も死に絶えた。

王国の賢王は尽力したが、自然に逆らうことはできなかった。

ある時、獅子の殺処分が命じられた。

ただでさえ食料もない中、獣を置いておくことはできなかったのだ。

しかし、獅子は絶望した。

食糧難の中、私は食べられるために生まれてきたのだと思った。

獅子は、せめて最後の情けと直々に剣を持った賢王を食い殺した。

飢えていたし、怒ってもいた。

こうなるのは当然だと思った。

しかし、王の亡骸に王女がすがりつき涙ながらに言ったのだ。

 

「貴様のような恩知らず!なぜ生かしておいたのか!!父の愛を!!こんな形で!!」

 

獅子はその剣幕と言葉に怯えた。

 

「貴様を家族だと思っていた!!だが、貴様はただの獣畜生だ!!人喰いの怪物が!!!」

 

獅子はその言葉を聞き終える前に、走って逃げ去った。

衛兵が駆けつけてきたからではない。

現実を直視できなかったのだ。

王女の言葉がいつまでも頭から離れなかった。

人喰いの怪物。それと一体何が違うのか、獅子はわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

霧があたりから晴れた。

そこは王宮から、元の砂漠に戻っていた。

人喰い兎はぼんやりと疑問をただただ投げかけた。

 

「貴方様は・・・その獅子の行いを罪だと考えるのですか?」

 

「そうだ。」

 

怪物はにべもなく答えた。

 

「しかし・・・人であろうが、何であろうが生きるために喰らわねばならないのです!

それが罪など・・・ならば生まれたことが罪ではないですか!!」

 

怪物は悠久の時をへて、すっかり固まった尻尾を動かしながら答えた。

 

「そうであるかもしれないし、そうではないかもしれない。しかし、その者は罪であると考えたのだ。家族を喰らってしまったことをかもしれないし。人間を喰らったことに対してかもしれない。あるいは両方か。」

 

兎はそれ以上何も言えなかった。自分が人喰いだからではない。

あまりにも救いがなかった。

獅子の行いは当然のことだと思ったのだ。

返答の礼を言い、小さく歩き始めた。

その歩みの先にあるのは、果たして獲物か。それとも死か。

それはきっと彼にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

スフィンクスは、兎が去った後も目をつぶり考えていた。

彼ならどうしただろうか。これからどうするのだろうか。

・・・人喰いを止めるだろうか?

そんな考えにまで至り、思わず笑みがこぼれる。

いやきっと、彼はそんなことしないだろう。

私と違い、強い意志を持っていた。

大口を開けて笑いはじめ、そしてそれは大きなあくびへと変わった。

さて、寝るとするか。私は砂漠の番人。

入ろうとするものを見定めるのみ。

 

 

獅子は砂漠で今日も眠る。





夜行性の動物もいるよね。(先手必勝)




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